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運命の混紡者  作者: Ridge
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東部編4

 レオンとナレルは旧市街を抜けて繁華街にやってきた.そこは紫色の夕日に照らされた町があった.サイズや色の異なる木造の建物が所狭しと並び,煙突から煙が立っている.

「この辺りは料理店なんだ.何か食べていく?」

「そうだな….上品じゃない,気楽なところがいいな」

「酒は飲む?飲まない?」

「うーん,折角だから少しだけ.あくまで食事がメイン」

「了解.じゃあ,あそこにしよう」

 2人は扉を開けて店に入る.

「こんばんは,ユートじいさん」

「おおナレルか.いい日に来たな」

「というと?」

 店内はカウンターを挟んで向こう側に厨房があり,手前側には木造の机と椅子がいくつかある.ナレルはカウンターを挟んで老人と話す.壁には干したハーブがかけられている.

「今日は新鮮なモツがある.食べるか?」

「いいね.レオンはどうする?」

「俺も欲しい」

「味付けは?」

「俺はよく分からない.ナレルに任せる」

「じゃあハーブ蒸しを2人分で.油はこいつがいい」

 ナレルは油のビンを指さす.レオンには並んでいる油の違いが分からない.

「分かった」

 2人は椅子に腰かける.机の中央には台座に乗った球体がある,球の中で炎が燃え続けている.

「蒸しなのに油がいるのか?」

「仕上げにスパイスと一緒にかけるんだ.他に欲しいものは?」

 ナレルは紙のメニュー表を机に置く.メニュー表は何か透明なもので覆われている.

「食前酒と前菜,あとは餅かパンみたいなもの」

「うーん,これなんてどう?癖のない野菜中心でほんのりと酸味がある」

「よさそうだな.ところでこれは?」

「これは練り物で…」

 レオンはナレルに聞いて何にしようか考えた.正確には,何か琴線に触れるものが無いか,聞き続けた.客は店主と話したりしつつ気ままに過ごしていた.

「なあユート.最近,水の味が変わってないか?」

「お前も思うか?俺もだ.大雨が続くと泥っぽい味が僅かに出るけど,そんなことないしなあ」

「あんたらはどうだ?」

「ん,俺か?すまない,俺はこっちに来たばかりで分からないんだ」

「僕は全国を旅したけど,東部のものは相変わらず旨い水だなとしか」

「そうか….歳のせいかな?」

「人は衰えるもんだ.俺たちはもう爺さんなんだよ」

「ところで…あの子はどうしたんだろう?」

「ナレルの知り合いがいるのか?」

「カリファちゃんが今日はいないな.元気な子なんだが」

「今日は休みなんじゃないか?」

「……」

「……」

「来た来た.お通しと酒だ.さ,注ごうか」

「ああ,ありがとう.こうしていると一息ついた感じだな」


「うん,旨かった.いい気分だ.帰る前にここに寄ろう」

「帰る前…?ああ!そうだね」

 食事後,2人は外に出る.すっかり日が暮れていた.2人はダウンの屋敷へ向かう.

「なあレオン,次に来るときだけど,あれ?レオン?」

 ナレルが後ろを向くとレオンの姿が無かった.

「あれ?」


 レオンは高台からにぎわう街を見ていた.音が遠く聞こえる.横の石造りの階段を人々が行き来する.

「お兄さん,一人?」

 横から美しい女性が話しかける.

「あれ,いつのまにか連れと別れてしまったか….空いているよ.君は?」

「私も一人」

「へえ,世の男たちは目が見えないのかな」

「あなたは見えていると?」

「そう言っているんだ,お嬢さん」

「ふふ….カレンでいいわ.私,行きたいところがあるのだけれど,ご一緒してくださる?」

「喜んで.それと俺の名はレオン.よろしく」

 2人は腕を組んで建物へ入っていった.

「あなたの手,大きいのね.私それ好き」

「これが?気にしたことなかった」

 レオンは右手の平を見て開いたり閉じたりする.

「ええ,とてもいい….その手を腰に回されて,もう片方の手で頭の後ろを撫でられたらきっと素敵な気分になれる…」

「お安い御用です.お嬢様」

「ああ,待って.もっとドキドキするような,もったいない…」

「困ったお方だ.でも,それに付き合えるのは君だからさ」

「ふふ…」

 レオンはカレンの手を引いて肩を引き寄せた.カレンは不意打ち気味にレオンの唇にキスをする.

「う…,何をした…?」

 レオンはカレンを突き放す.

「あら動くの?すごいのね.それは痺れ薬.ま,私には効かないんだけどね」

 カレンはレオンに近づき,片目を開けてもう一度念入りにキスをし,レオンの腕が下に垂れたのを見てスッと立ちあがる.

「ここに塗ってあるの.舌に触れただけで痺れだす.感覚を狂わせて全身が痺れる」

 カレンはレオンを見下ろしながら人差し指で自分の唇を指さす.

「なぜ,こんなことを…」

「よく耐えてるから教えてあげる.でも最後まで聞けたらだけどね.私にとって騙された男の恨みは鎮魂歌.純真無垢だった頃の私を弔うためのね.私を騙した奴が何か報いを受けている?受けてないわ,私が人を騙すことで何か報いを受ける?ない.報いを受けるのは喧嘩を売る相手を間違えた奴.私は間違えていなかったようね」

 部屋の奥から大男が出てくる.倒れているレオンを見てからカレンを見る.

「また1人連れて来たわ.私の手にかかればこんなもんね」

「そうか,ご苦労だった」

「つれないわね,エルロク.もっと労いの言葉をかけてくれたっていいじゃない?」

「…よくやった」

「それだけ?魔族じゃ人の心が分からないか.(物足りないなあ.もっと刺激が欲しい)」

「……」

「ねえいつまで続けるの?」

「…何を?」

「誘拐のこと.あんたたちはたくさん仲間がいるんだから,もっと楽に掻っ攫えばいいのに」

「お前には我らの指令に口出しする権利はない」

「そんなこと言って〜.ほんとは魔術師たちが怖いんでしょ?」

「言葉には気を付けることだ.これは警告だ」

「なあに,図星?」

 エルロクは机を蹴り飛ばす.その衝撃でカレンはガクガクと震えて壁にもたれかかり崩れ落ちる.

「図に乗るな人間.お前の生殺与奪の権利は私にある」

 エルロクはカレンに左膝蹴りを仕掛ける.

「そいつは可笑しな話だ」

 エルロクの右足に光線が当たり,バランスを崩して倒れる.

「お前にその権利はない」

「レオン…どうして?」

 レオンは構えながらゆっくりと立ち上がる.

「俺は人間に似ていても人間じゃないから.寝たふりくらいできる」

「その割には無理をしているように見えるが?」

「そこまで冷静に見られるなら,俺が何者か考える頭はあるだろう?」

「フン,考えるだけ無駄だ」

「そうかい」

「貴様…権利が無いと言ったな?権利はあるとも.私はそいつの上司だ」

「だから何だ?話にならんな」

「レオン…なんで…」

 レオンはカレンに右手を伸ばす.カレンは眉間に力を入れて目を瞑る.大きい手が頭に乗せられたのを指先と手の平の重みから感じ取り,ゆっくり目を開ける.手の主の男の表情は穏やかなものだった.

「私はあなたを騙して…」

 レオンは屈んで右手を滑らせ,人差し指でカレンの唇を軽く抑え,静かに手放して立ち上がり,エルロクの方を向く.

「レオンと言ったか.黙って捕まっていれば生きていられたものを….お前に,明けない夜をくれてやろう」

「そいつは無理だね.俺は夜明けを告げる風,狩人レオンだ」

 エルロクは煙幕を投げつけ,部屋に煙が舞う.

「伏せていろ!」

 エルロクは木片を掴んで投げつつ移動し,レオンは飛んできた木片を腕を使って払いのける.そのまま目を閉じ,摩擦音を探り,上に向けて光線を放つ.光線は飛び掛かるエルロクを貫いて消滅させた.レオンは光る剣を出して窓の鍵を破壊する.煙が外へ抜け,視界が晴れる.

「あいつをどうしたの?」

 カレンは起き上がってレオンを見上げる.

「この世界から消滅させた.あの光線を浴びたものは魔界に転生する」

「なぜ私を助けたの?」

「良く喋る奴だ.…お前の渇きを満たすのはこんなことじゃない.お前の瞳にあった揺らぎが将来,どちらに揺れるか気になった.そういうことだ」

 レオンは扉を開け,夜の闇の向こうへ消えていった.

「そうか…私は….…….また会ってお返ししないと」

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