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運命の混紡者  作者: Ridge
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中部編6-3

 吹き抜けになっている棟の中央に巨大な装置が置かれている.空気中の埃がはっきりと見えるほどの強力な照明に照らされている.それを2階から見ている老人と魔族がいた.

「私の一族が再び王となる.それが親の代から引き継いだ長年の夢だった.間もなく…間もなく夢が叶う」

「我々は喜んであなた方へ協力しよう.あなたは正しい,拒んだ奴らが悪いのだ」


 ナレルとジェーンは聞き込みから理事長のいる可能性の高い施設に行った.施設は生命エネジーー棟,4階建てで地下にも1階ある.扉を開けて人の集まっている研究室へ入る.机の上は比較的整頓され,本棚には本が整列している.床は汚れがこびりつき,まだら模様になっている.

「おや?どうしました?」

「私たちは健康庁の者です.こちらに理事長は来られませんでしたか?」

「健康庁…?」

「(何を言い出すんだ.僕は健康や医療は専門外だぞ)」

「ほら,この前ついて行っただろう.あの合同庁舎の奥にある」

「ああ,あれか」

「すみませんね,世間知らずが多いもので」

「いえ,気になさらず.それで理事長は?」

「奥の大実験室にいます.でも関係者以外入れませんから待っていてください」

「(また待つのか.医療関係で何か聞かれても僕は雇われたばかりで知らないと言い通そう)」

「案内してもらえます?急ぎなもので」

「まあ,それでしたら…,配線があるので足元に気を付けてくださいね」

 ジェーンとナレルは案内されてついていく.

「(あれは情報庁のジェーン…!そんな馬鹿な!ばれていたというのか,私の受け継いだ夢が叶う寸前に,そんな馬鹿な…)」 

「(理事長とはいつになったら会えるのだろう?それにしても変わった装置ね.見慣れない雰囲気だけど外国産なのかしら?)」

 ジェーンは人差し指と親指で髪の先をくるくるとする.

「隠れるようにしてどうしました?あの者らですか?」

「奴らを捕まえろ.(いや,まだ全てばれているとは限らない.上手くいけば引き込めるかもしれない)」

「…いいのですか?」

「待った,やっぱり説得しよう」

「どっちも同じ…承知しました」」

 ナレルは向かってくる気配に気づいて横を向く.

「あなたが情報庁のジェーン?」

「誰です?」

「私はメドン,ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ」

「理事長を見つけたらすぐに出ていきます」

「すみません,自分が案内しました」

「後は私が引き継ぎます.戻っていてください」

 案内役はメドンの言葉に従って戻る.

「出ましょうか.理事長でしたら外にいますので」

「もうやめましょう,こんな茶番.理事長はどうやら私に会いたくないようです」

「(ここまで来るということは探し回ったということか?)いえ,めぐりあわせが悪かっただけですよ」

「私は彼とその仲間,そして理事長以外には名乗っていない.情報庁なんて言ってないし」

「う…」

「いるんでしょう?通してください」

「駄目です」

「何?」

「あなた方には分かってもらわなければならない」

「無駄話をしている暇はない」

「理事長のやろうとしていることを理解してもらわなければならない」

「無駄話だったら突き落とすわ」

 メドンは後ずさりする.

「これまで正しかったからといってこれからもずっとそうとは限らない.陸地が繋がっていた氷河期に航海術は大きな価値を持たないが,現在は大きな価値を持つ.この社会はたとえ国境が変わらず地形が変わらずとも確実に変化している.これから必要なもの,変えなければならないものがあるのだ.しかしそれを分かっていない連中が権力を持っている.是正せねばならない,あるべき姿へと」

 メドンは身を前に乗り出す.

「今の王がいけないのだ.反乱や暴動が起きると王が声をかけて鎮める.それを繰り返しているうちに,人々はこう思うようになる,『問題に自分から取り組む必要はない,王がなんとかしてくれる』と.異変を感じた時点で診療に掛かれば病気に気づき,治療して治せたものを,もはや治すことのできないものへと変えてしまう.これは王への信仰によるものだ.破壊しなければならない!無力だと証明しなければならない!」

「一理あるが私とは相容れない思想だ.その信仰無しにはこの国は統一されず,各地でルール無用の殺し合いが続いていたに違いない.破壊などさせない」

「彼女に大方同意だ.破壊とはどうするつもりだ?僕にはそれが穏健な響きには聞こえない」

「…殺すこと,あっけなく」

「ふざけた真似を…」

「なぜそれができると考えた?」

「あるんだ秘密兵器が.膨大なエネルギーでこの町ごと消滅させられるほどの…」

「そんなものこの世の中にあるものか.神話の中だけだ」

「いいや,この世界じゃない,魔界からの兵器….もう動く」

「そんなものにすがるとは…不相応の力を手にして問題を雑に片付けようとしている.上手くいくものか」

「そもそも手にできているかどうか怪しい.利用されてるだけじゃないの?」

「利用してるのは私たちだ.それに…上の世代の負債を,なぜ今の世代が払わなければならない?奴らのやらかした外交の失敗,国の借金,歪なシステム…それらを正すために若者は戦死や過労死,労災死をする.おかしいんだ.死ぬべきは私たちではない.死ぬほどではなくともそれで苦しむこと自体が変だ.おかしいのだよこれは!」

 メドンは拳に力を入れて腕を振り下ろす.

「犠牲になるのは下っ端の若者で,問題を起こした奴らは安全な部屋で指示を出し,責任を負わずに庇いあう.天寿を全うして勝ち逃げもする.押し付けあった責任の先に,誰が悪いかというのは後ろ盾のない下っ端に向けられる.庇いあう奴らもいる.この歪を正すのは正当防衛だ!」

「端的に言うと君は極端なんだ.そういう面があるにしろ,何か1つの原因を壊せば他のものも正しい方向へ向くと考えている.そうかもしれないが,そうとは限らないのだ.その分の悪い賭けに乗るのは悪手,いいや…間違いだ.考え直す気はないか?」

「別の手を選ぶ余裕があると?」

「君は別の手を知っているのか?本当に?見落としなく?」

「…時間は有限だ.全てを知ることはできない」

「それもそうだな.じゃあもっと簡単に言うと…」

「私たちはこんなひどい手で博打は打たない」

 ジェーンはメドンを押しのけて先へ進む.ナレルはメドンの横を通り抜ける時に横目でメドンを見,肩を叩いて手を振って奥へ進んだ.

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