中部編6-2
王都トカ・イザーク郊外,山の北側に墓の洞窟がある.3人の人影がそこにある.
「言伝ではなく幹部がわざわざ集まるとは…敵にまとめて葬れと言っているようなもの…」
「俺たち以外にも幹部はまだいる.それに俺は負けないから」
「リオグミカは弱気だな.僕も負ける気はないね」
「勝負所以外は慎重に行くものよ.おかしいことはない」
「そう?」
「そう」
「しかしシオラク,直接会って話さないといけないことか?」
「そうだ.魔王様からの命令で,聞けるのは幹部クラスのみ.この意味が分かるな?」
「…もちろん」
「…分かっている」
「ならばいい」
シオラクは翼を広げた巨鳥の壁画にもたれかかって2人の顔を見る.
「ここへ運んだ分裂砲は組み立て終わったか?」
「それを尋ねることは魔王様の命令?」
「そうだ」
「……」
「俺が,状況把握とそれに応じた策を伝える」
「…組み立ては済んでいる.けれど動かせない.魔力が少なすぎる」
「組み立ての定義を明確にしたい.動力はどうした?蓋を閉めたのか?」
「回路を外に伸ばして動力を補えるようにした.それ以外に変更はない.制御システムは一部を書き換えた」
「書き換えても動くのだろうな?」
「理論的には間違っていない.しかし試してみないことには何とも」
「バグるかもしれない」
「…なるほど,我々の意図しないことが起きてしまうかも,と」
「間違えればここにいても危ない.町は消し飛ぶ」
「フン,俺に言ってどうする.それで完成の目途は?」
「まもなく.あと2週間あればできる」
「そうか,……」
「……」
「……」
「それなら攻撃目標を伝えよう」
「僕も聞きたいんだけど,その策というのは魔王様の考えか,それともシオラクの考えか」
「魔王様の考えだ」
「ならなぜNo.2の君がここへ来る必要がある.連絡係を寄越せばいい」
「疑っているのか,俺を?」
「そう考えたのなら何か後ろめたいことでも?」
「いいや,ただそう感じ取ったまでだ.まあいい,俺がここに来たのは別の仕事があるから」
「ここでの作戦は中部方面指令の私の許可がいる.私の打った布石を台無しにされては困る」
「何を見当違いなことを…許可など必要ない.俺にはその裁量が認められている」
「それは本拠地での話」
「ああ,言ってなかったな,すまない.そこの特務イリトットと同様に俺は特命を受けたからその地域の指令に従う必要はない」
「魔王様が僕以外に特命を…?にわかには信じがたい」
「君が任務中で人がいないから,特務は他にも必要となる.俺がそうだ」
「証拠を見せてもらえば納得する」
「証拠…バッジのことか?何度でも見るがいい」
シオラクは右手で左胸の前の上着を開いてバッジを見せる.赤地に黒い蛇の紋章が書かれている.爪で叩くと特徴的な音がし,傾けるとうっすらと波状の光沢が浮かぶ.
「本物か.これならリオグミカの許可は必要ない」
「……」
「もういいか?これ以上時間を無駄にする気はない.とっとと攻撃目標を伝える.もう一度言う.これは幹部にしか伝えられない.つまり,そういうことだ.絶対に幹部以外に口外してはならない.いいか?攻撃目標は…」
シオラクは2人に伝えた.
魔術学院,敷地内の墓.
「ああ!もう!いない…どこよ理事長は!?」
女がイラついて地団駄を踏んでいる.側にいる男2人は強い感情に押されて冷めて周囲を見渡している.
「ここに人影は見えない.入れ違いになったのかもしれない」
「レオンがそう言うんだ.ここにはいない」
「くぅ…」
ジェーンは右手で前髪をグッと掴み拳をプルプルさせた後,力を抜いて指で髪を流す.
「いざという時に疲れていたり,イラつきが残っていたりすると良くない,一休みしよう」
「墓の近くで?」
「静かでいいじゃないか.それに俺の目にも幽霊は映っていない」
「周囲の木々に音が吸い込まれて消える.遠くから微かに聞こえる音は遠く離れたノスタルジックな気分にさせる」
「別にそんな気分にならなくてもいいけど,クールダウンは必要ね」
レオンは墓への石造りの階段に腰かける.ナレルは木にもたれて目を閉じる.ジェーンは考えながら周囲をウロウロとしている.
「あ…さっきの人たち」
クララはそう言った友人の目を見てその先を追って人の姿を見る.
「また会ったね」
「お姉さん,墓の場所分かった?」
「ええ.教えてくれた子,ありがと…いない?」
「アカリはいないよ,お手伝いに行ってる」
「そう.それじゃあ感謝してたって伝えておいて」
「…ジェーン,理事長は後回しだ.確かめたいことがある」
「え?」
レオンは少女たちに近づく.
「俺の名はレオン,怪しいものじゃない.君たちに聞きたいことがある」
「?」
「そのアカリという子は魔術の腕はどうだ?」
「細かいのは苦手だけど,大雑把なものは得意だよ」
「うん,操作するのは苦手だけど放出するのは得意って感じ」
「すぐに力尽きないのか?」
「そんなことないよ.あ,でも最近は減ってるような…」
「さっきの電気の授業でも弱かったね.でも練習して調整したのかも」
「(レオンはなぜこんな質問を?目が違うから何か見えているのか?)」
「そうか.ならどこか悪いのかもな.何か知らないか?」
「知らない」
「訊いてみよう」
「……」
「…えっと,私たちはもう行ってもいい?」
「ああ,ごめん.いいよ」
少女たちは歩いてその場から去った.
「何が疑問だったんだ?」
「ん?」
レオンは虚空を眺めて止まる.両腕を上げて伸びをする.
「聞いてる?」
「悪いな.ナンパされたんで行ってくる.追うなんて野暮なことするなよ」
「えっ,ちょっと…」
レオンは小走りで空き教室に入った後で透明になって消えた.
「こうなっては追えない」
「何が見えてたって言うの?」
「分からない.でも僕らには言いにくいことだったんだろう.それがレオンの判断か相手の要求か分からないけど」
「ここに突っ立っていてもしょうがない.事務室に行きましょう」
「まだ戻ってこなかったらどうしようか」
「日が暮れてしまうから一旦外に出て,また明日からね」
ナレルとジェーンは歩き出した.
「やっぱりあなたにはこれが見えるのですね」
「賢いな.よく判断できたものだ」
「皆には内緒ですよ」
「分かっている.裏切るような真似はしない」
レオンとクララはベランダの隅でボソボソと話している.
「…私は見たんです,木の葉の間から一瞬だけ.それでも強く印象に残っている.男の人と話していた」
「…?そんなに特別なことなのか?」
「表情が違う…」
「表情…」
「何かの見間違いかと思った.だってそうでしょう?アカリがあんな女の顔をするなんて思いもしなかったから,いや人に見せるなんて思いもしなかったのだから」
「そいつが悪いことをしてるのか?」
「先輩の手伝いを最近しているとアカリは言っていた.最近の不調と関係あるかもしれない」
「なるほど.調べてみよう.それじゃそいつの特徴を教えてくれ」
「…胸が締め付けられた」
「ん?」
「もしかしたら私はずっと変わらないと信じていたのかもしれない.その根拠のない信仰が崩れた.そうしたら何か焦りのようなものが…彼氏を作らないといけないんじゃないかという焦り…?アカリはもう私たちと遊ぶより面白いことを見つけて,遠くへ行ってしまうかもという焦り…?何に焦っているのかすらよくわからないよ….とにかく落ち着かない」
「変化に戸惑っているのかもしれない.しかしそれはいつかは決着がつくもの」
「あなたは大人だからそう言っていられるんだ…そんな子供じみたことで苦しんだり笑ったりできるなんてと馬鹿にしてるんでしょ?」
「何…?誰かにそう言われたのか?」
「親はそうやって馬鹿にする.大人なら同じ.家族以外には外聞を気にして口にしないだけ」
「そう思うか?でも俺は違う」
「確かめられない」
「そうだな.でも俺はそんな子供の心が大事だと思う」
「どうして…?」
「大人は感情が希薄になる.辛いことや苦しいことを乗り越えるために感情が希薄になり,楽しいことや面白いことも感じ取れなくなる.だから強い刺激無しに生きられない」
「……」
「深みにはまれば面白いとよく聞くだろう?それまでが面白くない.しかし子供は楽しい遊びとして変えられる力がある,あくまでその機会があるかは別としてだ.俺がつまらないと感じてやめたことも,もしかしたら深層まで届いていれば楽しくて今続けていたのかもしれない.とはいえ,今の立場に後悔などしていない」
「どうすればそうやって迷わない?苦しまない?…あくどいことを考えない?」
「答えられない.とにかくその男の特徴を離して案内してくれないか?」
「…分かりました」
クララは特徴を話す.乱れた髪,丸く吊り上がった黒い目,色白の肌,伸びた顎….
「(どうして答えてくれない….それが全てだと思ってほしくないから?見て考えてほしいから?私の長話にうんざりしたから?…答えを知るまで私がついていくように?…やめよう,なんでこう悪いこと考えてしまうんだろう.嫌いだな,私)」
「行こう.色々と考えてすぎていると見落とすぞ」
レオンはクララの頭に手をポンと置く.
「…!」
手を離したあと,クララは首を縦に振り先導した.始まる,複雑に絡みあう縄を解く戦い….
忙しいので1~2週間ほど止まります.




