中部編6-4
クララはレオンを案内している.
「私は分からない」
「どうした?」
「助けたいのか,苦しんでいる様子を見たいのか分からない.助けたいと思ったけど,でもそれは苦しんでいるのを見たいからそう思ったんじゃないかって.…私,性格悪いよね?」
「いいじゃないか両方あっても.苦しむのを見るのが好きなら戦略を立てるのに役立つ.悪いことばかりじゃない.ただ…堂々と言えるようなことじゃない」
「そう…,少し整理ができたかもしれない」
地下道を抜けて扉を開く.巨大な装置の前に椅子が6つあり,その1つに誰かが座っている.横からは口元と腕が見える.レオンとクララは小走りで椅子に近づく.
「アカリ…?」
「クララ…,さっきの人も…どうしてここに?」
正面に行く.
「勝手に入っては困るな」
作業机から離れて男が近づいて来る.
「何をしている?」
「まるで悪いことをしているみたいに…,彼女の了承は得ているよ」
「生命力を吸い取っていおいてか?」
「大げさな.魔力は取っているが時間が経てば回復する」
「本当にそうなのか?閾値を超えると戻らないのではないか?」
「何勝手なこと言っているんですか?私は私の意志でやっているんです.それに先輩はそんな人じゃない.クララ,この人に騙されているよ.恋は盲目というけどさ〜」
「君がそれを言うか」
「違う,この人のことは何とも思ってない」
「とにかく出て行ってくれ」
「断る.彼女を連れ戻す」
「クララは私の何なの?親でも伴侶でもないでしょ?私が何をしてようが勝手じゃない!」
「…友達だから」
「邪魔するなら友達なんてやめてやるわ.親子と違ってやめようと思えば辞められるんだから,親子愛みたいな押し付ける愛なんてないのだから」
「私は…アカリを救い出したい」
「私は囚われてなんてない.これは私の意志なのだから」
「この男はあなたの好意を利用しているだけ」
「そんなことない.私たちの間には愛があるもの.クララとの間にはない」
「そ,それは….(嫌だ,無かったなんて思いたくない….でも,男女じゃないのだから愛は…,だめだ思い出が無味乾燥のものになるなんて嫌だ….そうだ恋愛感情はあったんだ,そうに違いない!)
「友愛,友情….あっただろう?恋愛や性愛ばかりじゃない.それだと主張する者には注意しなければならない」
「そう…そうだよ.私たちの間にだってある.でもその男との間にはない」
「知らないくせに…」
「勘違いしているんだ」
「……」
男は指先から電気を出して椅子を起動させる.
「おい!」
レオンが男の肩を掴むと衝撃波によって後ろへ吹き飛ばされた.空中で回転して壁を蹴って前へ戻る.
「そうか,お前たちはそういうのが使えるんだったか」
「なぜ動ける…?意識が飛ぶ威力だったはずだ…」
「ああっ」
「アカリ!」
苦しみ始めるアカリの声を聞き,クララは椅子に掴みかかる.
「離せ」
男はクララの腕を引っ張って椅子から離して体を投げる.
「キャッ」
クララは尻餅をつく.
「邪魔はさせグワアアア」
レオンは麻痺光線で男を痺れさせて倒し,駆動部を熱線で焼いて止め,椅子を見つめたままクララの前に腕を出して起き上がらせる.
「大丈夫?」
「ごめんクララ….私どうにかしていたみたい.あんなの信じるなんて馬鹿みたい…」
「アカリ…?目を開けてよ!」
「まずい,内部で気化して圧力なべ状態だ…危険だから離れろ」
クララにアカリを背負わせて離れさせた.机を倒して足を斜めに切って鋭くし,椅子をそこに向けて投げて穴をあけた.破裂音がして突風は向こう側へと吹いていった.
「くそっ,何者だ!」
魔族たちが騒ぎを聞きつけて駆けつける.
「欠片に戻す者,狩人レオンだ」
レオンは刀身のない柄を持った腕を前へと突き出して光線を放つ.
「(攻撃を受けたか?もはや一刻の猶予もない!)予定は変更だ.今すぐ攻撃開始だ.攻撃目標は湖畔都市スギディングス.今週は王室はそこで祭典を行っている.やれ,オーム!」
1階,吹き抜けから地下の巨大な装置見下ろす場所から指示を出す.正面にガラスがあり,落ちないように見渡せるようになっており,すぐそばの机の上には下へと向かう拡声器が設置されている.
「そこまでです理事長!」
「ジェーンか,遅かったな.動き出した」
「動き出す…何を?いいえ,どうせ碌なものじゃない,止めなさい!」
「聞きはしない.私の命令が上だから」
「ならばそう命令したくなるように苦しめて…」
「ハハハ,もう遅い.止めるのは不可能だから….それよりも今後の話をしよう」
レオンの攻撃をかいくぐって2手に分かれた魔族たちは地下の装置を動かし始める.
「天井が開いた.装填も完了,あとは放物線の軌道を手動で調節すれば…」
「なぜだ?なぜ起動しない?」
「まさかリオグミカ班の奴に見てもらったときに…」
「馬鹿言え!こっち用に書き換えた際になぜか消したら動かないコードを消したんだろう.このヘルメットで今から書き直し…」
話している最中に黒い霧となって消滅した.振り返ると所々に黒い霧が立っていて魔族の姿がない.直後に皆,黒い霧となって消滅した.
レオンは物陰から飛び出すオームを後ろに下がって避ける.
「逃げないのか.もはや起動できないのだからいても仕方ないだろう」
「何なら自爆させるまで.それよりも狩人レオン,お前の首を取り空いた幹部の席は俺が貰う」
レオンが腕を前に構えるとオームは地面を蹴って跳ねレオンの左へと回る.着地直後に光線で体の中心を狙うも前傾し側転したため外れる.レオンは逆回転してしゃがみつつ振り向きざまに刀身を出して斬りつけて前転する.貫手のオームが上を通り過ぎ,装置にへこみつつ突き刺さる.腕を装置から抜いてレオンに向いたところを胸に貫通する光線を受ける.霧となって消滅した.
「私の…私たちの夢が…新王の道が…」
理事長はナイフを取り出して左手を刀身に添えて首に当てる.
「やめて!」
「来るな!」
目を瞑り手に力を入れた瞬間,光線を受けて刀身が溶け肩にかかる.
「熱っ熱っ」
理事長は暑さに悶えて気を失った.
「レオン,間に合ってよかった」
レオンが階段のそばから歩いて来る.アカリはクララに肩を借りて2人で歩いている.
「痺れたときに痙攣して切ったらまずいと思ったが,大丈夫なのか?」
「熱さで気絶してる.冷まさないと」
ジェーンは服を引っ張って熱源を引き離す.肌が一緒に剥がれた.
「私がやる」
「私も」
クララとアカリは両手を前に出して水と冷気を発生させる.
「レオン,あれは何だったんだ?」
「魔族の持ち込んだ兵器だ.もう破壊したから動かない」
兵器はパーツが粉々に割れてくしゃっと崩れた.
「それじゃ私は人を呼んでくる.病院へ運ばないと」
「任せた」
「レオンさん」
アカリは目を離さないまま名を呼ぶ.
「ありがとう,助けてくれて.クララにも助けられた.ありがとう」
「無事に戻ってこれて何よりだ」
「……」
「しかし」
レオンはアカリの腕を掴んで引く.冷気が止まる.
「自棄になって台無しにしてはいけない.君の力は酷使しなければ回復する」
「バレてましたか….でも回復するってどうしてわかるんですか?私には蝋燭が消える前の最後の輝きに見える」
「分かるさ.見えるから,狩人としての俺の目はあらゆるものを見通す.だから待つんだ,捨ててしまわなければまだまだ先は長いんだ」
「…はい」
レオンは腕を離す.アカリは下を向き後ろを向いて手を顔の方に持っていく.クララは手を伸ばしてアカリの肩を引き寄せた.
レオンたちは少し離れて開いた天井を見る.
「…本当に見えているのかい?」
「どうだろうね.俺にはあれはきっといい兆しに見えたよ」
青空にうっすらと欠けた月が浮かんでいた.




