中部編1-1
2人は町の入り口に戻ってきて船の時と同様に預けた.門をくぐると緑陰に覆われた長い大通りが見え,その先に白と黒を基調とした城が構えている,磨き上げられてた白い壁に力強い黒色の縁取り,青みを帯びた浅黒い屋根がある.通りの左右に人の身長の7倍はある街路樹が植えてあり,枝葉でトンネルを作っている.両端には石造りの高層の建物が並んでいる.上の方は枝葉が遮って見えないが,色調は青灰色を基調として統一されており,看板や窓縁が僅かに色づいている.
「これを全て人の手で…すごい」
「伊達にここへ遷都された訳じゃない.ここから見えるのは一部だけ.これらを支えている裏側はもっとすごい」
2人は通りを奥に進んでいく.所々に店の書かれた看板がある.
「この町はブロックごとに分かれている.隣のブロックへ行くには橋を渡ったり地下道を通らないといけないこともあるんだ」
「橋?水路でもあるのか?」
「後で分かるよ.このブロックから出るときにね」
「もったいぶるな….ま,楽しみにしておこう」
2人は銀行に行って貨幣を取り出し,宿へ行って余計な荷物を置いた.
「さて,雰囲気を掴むために適当にぶらつくか」
「隣のブロックへ行こう.この町の移動手段を紹介したい.知っていれば便利だ」
レオンはナレルの案内に従って町中を歩く.
軍服らしい統一感のある白い服装をした人があちこちにいる.表情を変えずに姿勢よく歩く人もいれば,窓ガラスに映る姿を見つつ帽子を直す人,壁にもたれて同僚と話している人もいる.
レオンたちは橋の前に来た.橋は石でできており,聖獣らしきものが彫られている.2人は端の上へと歩を進める.
「ん?」
レオンは橋の下を見て,行き来する円盤を見る.
「見るのは初めてかな?」
「嬉しそうに訊くなあ.そうだよ」
「これは車.通常は車というとこれのこと.馬車や牛車と区別するために円盤車とも呼ばれる.人間の英知の結晶だというのが分かるだろう?」
「もう少し近くで見たいな」
「停車場がこの先にあるから行こう」
2人は停車場に着いた.腰の高さほどはある2本のレールの上に円盤車が並んでいる.
「気づいたかもしれないけど,この町はブロックの内側は歩行者専用,外側は車両が走っている.ブロックからブロックへ移る時は橋や地下道を通ることで歩車で完全に分離している.こうすれば接触事故は減らせるんだ.まあ,車が見えないからと橋を登らずに走る人がいるけどね.真似しちゃだめだよ」
「わざわざ気を遣う方の道を通ることもない」
レオンは車道から円盤車が駐車場に入って来る様子を見る.浮いた円盤が空中を平行移動し,レールに向かって乗って止まる.扉が上に開いて人が降りる.
「浮いているのか.どういう仕組みだ?」
「別次元に引っ張られる重力がどうとか….…まあ,とにかく引っ張られる力をこっち側に持ってくることで浮いていられるわけだ.高い技術と素材が要るから何にでも使えるわけじゃない」
「ここ尖っていて危なくないか?」
レオンは円盤の端を指さす.
「車同士がぶつかった時に乗り上げるために要る,あまり鋭くならないように潰れているけど,これが限度.それに,あの速さで衝突したら平面だろうが尖っていようがどっちにしても危ない」
「それもそうだな.乗り上げたら吹っ飛んで行かないのか?」
「正面から衝突しても吹っ飛ばないようになっている.先ほど重力の説明をしたけど,それはこの道路と車と2つ合わせて意味を持つ.だからこの車を専用道路が無いところで使っても浮かない.話を戻すけど,ある高さになると重力が0になるようになっている.高いところにあれば下向きに,低いところにあれば上向きに力が働く」
「そうか,この道路にも仕掛けがあったのか」
レオンは瞳孔を調整して道路を見る.首をかしげる.
「道路が壊れたらどうするんだ?」
「道路を封鎖してその区間の修理をする.そういう時は迂回することになる」
「管理者は誰なんだ?」
「道路局が管理している.常にモニタリングされていて異常があると分かる仕組みだ.ただしその信号は間違って送信されることや送信されないことも稀にある.昔の話だからもうその問題は解決したかもしれないけど」
「運転資格は要るのか?」
「両手が使えたら必要ない,そう難しいものじゃない.でも料金は要るよ」
「道路局というところに行ってみたい.運転してくれないか?」
「いいよ,僕も久しぶりに乗りたいと思っていたところだ」
2人は車に乗る.運転席と助手席は正面についている.後ろは半円状の椅子になっていた.ハンドルが1つとレバーが2つついている.
「このハンドルを手前に引くと後ろ,左に回せば左折で,右に回せば右折だ.人差し指あたりにリングが見えるだろう?これを前に回すと加速,後ろに回すと減速だ.左右についているけど,連動しているから片方だけ回せばいい.慣れない人はハンドルを回し過ぎてこのリングから手を離してしまう,円盤車はそんなに回さなくていい.そしてこのレバーを起こすと浮かびあがる.もう1つのレバーは緊急停止だ,引いたら止まる.こいつは起こしておかないとハンドルのロックが解けない」
「覚えた.いつか使う時まで忘れないでおこう」
ナレルは2つのレバーを起こして車を動かす.車道に入り,車線を走っていく.
「おお…,全然揺れない.船とは大違いだ.ぐっ…」
信号で停止して体が前に押し出される.
「止めるの下手?」
「違う.揺れない分ダイレクトに来るんだ.慣れたら止まる前に身構えられるよ.酒に慣れると飲む前から手が震えるみたいに」
「嫌な例えだな…」
レオンは窓から外の景色を眺める.家は裏口側として主張はしない慎ましいものだが,店は駐車場含めてここに店があると強く主張している.
時折,他の車の上に乗ったり乗られたりで上下する.
「ん?何かおかしい」
「どうした?」
ナレルの声に反応して前を向くと,2人の目の前で乗り上げた車が吹っ飛び,歩道橋へと乗り上げて止まった.
「事故だ!」
「ちょうど橋の上に人はいなかった.問題は乗っている人たちだが…」
ナレルは近くの停車場に車を止めて2人は橋の上へ登った.周囲に人が集まる.車の中から4人が出てくる.
「大丈夫か?怪我はないか?」
「天井に頭を打った….だがなんとか…」
「早く病院に行くんだ!僕たちが使ってた車使っていいから!」
ナレルは下に止めた車を指す.4人は礼を言って車に乗って去っていった.
「ナレル,何かおかしいとはどういうことだ?よそ見してたから教えてくれ」
「おかしな高さまで飛んで行った」
「故障か?」
「ありえる.しかし万一のことがないように,車道側は谷になっていて飛ぶにしても上ではなく横に飛ぶようにしてある.それに浮かせている力が故障すると下に落ちる.まあもちろん,本当に故障で出力が狂って上に行くこともあり得なくはないんだが…」
周囲の人々が連絡や観察をしている.
「道路に細工されているのかもしれない.道路局に行って確かめたい」
「幸いここからは近い.歩いていこう.事故の話は…これだけ人がいれば僕らの出る幕はないだろう」
2人は歩いて道路局へ向かう.




