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運命の混紡者  作者: Ridge
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下船

 レオンたちを乗せた船は王都トカ・イザーク郊外に着く.船内から船出を待っている2人の耳にアナウンスが入る.

『皆様,ただ今入った情報によりますと,ンドープル以西は大規模火災により当分の間の航行が不可能となりました.トカ・イザークならびにミセオドアより先の都市で降りられるお客様には該当区間分の払い戻しを致します.御迷惑をお掛け致しますがご理解とご協力をよろしくお願いします』

「何?つまりどういうことだ?」

「もうこの船は乗っていても西部へは入らない.次に動きだすまで,ここか隣町のどちらかで過ごすしかない」

「滞在費はどうするんだ?」

「こういう場合の保険に僕は入っている.2人分の滞在費は保険でなんとかなる.証明書がいるから取りに行こう.それに払い戻しもある」

「次の都市でもいいんじゃないか?」

「どっちで降りてもいいけどどうする?距離は離れているけど陸路が発達しているから比較的早く移動できる」

「2つの都市の特徴を教えてくれ,簡単に」

「トカ・イザークは行政首都とも呼ばれていて様々な機関が存在する.王室,政治家,官僚,軍が目玉か.それと,魔術師の数は国内最大で,魔術師の卵を教育するための中央魔術学院もある.彼らは強いから魔族が町に潜入することはあっても表立って動けないはずだ.大雑把に言うとこんなところかな」

「もう片方は?」

「ミセオドアは情報首都とも言われる.世界中から収集した情報が集積されている.調査や報道など情報で商売しているから,金さえあれば手に入るかもしれない.ただし,どれが本当でどれが嘘かを見抜けないと混乱する.あと,少しだけ西部に近い」

「うーむ…王都に行こう.俺たちの後押しで完全に排除する.異界への門を封じたら中枢から順に行くつもりだった.順番が変わるだけだ」

「じゃあ降りよう」

 その後,2人は船の上でルードと再会する.

「そうか,俺は次で降りる.達者でな」

「お前こそ.気を付けてな」

「そうだそうだ,気をつけろよ」

「ああ.誰も欠けることなくまた会おう」

 2人は荷物を持って船を下りた.証明書と払い戻しを受け取って町へ向かう.城砦の周囲には農地が広がっている.人の背丈ほどの草が青々と茂っている.

「この町は2つの川の間にあって,元々50年くらいに1度か2度の洪水に見舞われていたんだ.その代わりといってはなんだけど交通は便利で,土がいいから作物の質も収量もいい.何せ洪水のたびに上流からいい土が流れてくるから.人間の一生じゃ到底足りないような年月をかけて作られた土だ.使わない手はない」

「その場所に都市があったら邪魔じゃないか?その分の土地が耕作に使えないじゃないか?」

「そうでもないんだ.ほら,城塞が見えるだろう?」

「ああ.黒や緑の苔が所々についた白い壁が見える」

「下流側は円形だけど上流側はとがっていて,上手く受け流して広範囲に土を撒くんだ.何もしないよりも広範囲が農地に使えるよ.まあ,全部は使わないけどね.欲張ってもいいことない.農地ばかりにして例えば蜂や鳥の住処を奪うのはよくない.天敵がいなくなれば害虫や害鳥に食いつくされるし,全部を手動で受粉させてたら百姓は過労で死ぬ」

「衝撃に耐えられるのか?地盤が緩くて押されてしまいそうだが….仮にできても高額な維持費がかかるのでは?」

「そこを何とかするのが技術というもの.それらの問題点はある程度は解決している」

「へえ.しかしあの城塞はそういう意味もあるのか…」

「もちろん外敵から守る意味もあるよ.この国で最も安全な都市だからあらゆる富が集まって来る.沿岸部は交易が盛んだけど,外敵の脅威もあるから富裕層は富をこっちに持ってくる.そんなわけで銀行の動かせる金が多いので投資が盛んで発展している.そうそう,この町も武器は持ち込めないよ.門のところで預けないといけない」

「またか…ん?」

 レオンは何かを見つけてスッと尾行する.ナレルはレオンについていく.

 壮年の男性が物思いに耽りながら畦道を散策している.向かってくる投石が光線を浴びて消滅した.レオンは壮年の男性を引いて岩場の陰へ走る.

「誰ですかあなたは?」

「俺はレオン.あなたは狙われている.相手は人間…,どこかへ行ったか….何か身に覚えがないか?」

「私はヨウ・バランケット.端的に言うと広い農地を持つ地主です.従業員を雇って農園を経営しています.身に覚えというと…最近ある問題が起きました」

「レオン,場所を変えよう.ここは危険だ」

「そうなのか?じゃあ場所を…」

「私の遺影に行きましょう.そこで話します」

 2人はヨウについて家に行く.客間で話を聞く.

「それで問題というのは?」

「その前に私の所有地の説明が必要ですね.この辺りの農地は洪水の影響を受け,同時にそれに頼っているものです.広範囲の土地であれば形が多少変わったところで問題ありません.しかし,細々と所有すると洪水前後で形が変わった時に所有面積が変わって争いの元となる.問題というのは,最近従業員が私の土地を自分が得るべきものだと言い出したことです.流通や交渉などの経営は私がやっていますが,農作業をしているのは従業員です.実際に土地に立っているのは私なのだから私のものだと.それは変な話です.いや,どうなんでしょう,自身がなくなってきましたよ」

「それを解決する機関があれば大丈夫そうだけど」

「確かにそうです.しかしその出現を待つのに何年必要でしょうか?それ以外の背景としても無理を通して今すべきこととは思えない」

「だとしたら何に影響を受けたのだろう…?」

「大体分かりました.少し調べてからまた来ます」

 レオンとナレルは外に出た.

「魔族の関わるものじゃない.僕らの出る幕じゃないよ」

「いや,さっき石を投げようとしたのは魔族だった.この地方にいるのは,潜入に適して人間とサイズが変わらないのかもしれない.見た目は似ていても中身が違う」

「あれ?逃がすような真似をせずとも倒せたんじゃ?」

「魔族である自信が無かった.この町には似た波長を放つ人間が多くいる.魔族にしては背も低いから本当か怪しくて躊躇してしまった.が,慣れてきたからもう見分けられる」


 農園の休憩所.従業員たちは木陰で軽食を食べつつ休憩している.遠方から来たインストラクターの若い男が立ち上がって演説をしていた.

「君たちはこのままでは恋愛をすることができない」

「それは子供の頃にするものだ.大人になった俺たちは甥や姪を育てるための存在」

「それでいいのか?」

「あえて反抗する理由は見当たらない.家が残れば俺が生まれた理由は完了する」

「ならば君らも子供を作ればいい」

「簡単に言ってくれるなあ.人は多めに生まれてくるんだ.この社会では養いきれない.相続する資産だって細々としてしまう」

「だったら新たに資産を得ればいいじゃないか.この農地を手に入れてしまえばいい.それに,全員が養えないのなら強い奴が勝ち残ればいい.そして僕の目には,君たちは弱者に見えない」

「穏やかじゃない…」

「何を日和っている?.俺はやるぞ!古今東西,恋愛の良さは称えられている.それを得るんじゃない,奪われていた権利を取り戻す.正当な戦いだ」

「そうだ!俺はまだ足りない,恋愛は子供の頃にするものと言われてきた.しかし俺はその十分な時間を過ごしていない.今この時から取り戻す!」

「……」


 ヨウの屋敷.扉を破壊して何者かが侵入する.

「誰だ!」

「俺だよ地主サマ」

 何人かの男が部屋へと入って来る.

「何の真似だ?土地はやらんぞ」

「それもいいかもな.奪い取れば済む話だ.しかし,譲渡の手順に従ってくれれば後が楽」

「その近道は,正しい道ではない.間違った道だ」

「誰にも見えない.恐れているからその道へ進まないだけ.オーツさん,お願いします」

「何?そうか,インストラクターは仮の姿…うぐっ」

 右手に火傷跡のある青年はヨウの頭を掴んで机に押し付ける.ヨウは頭を上げようとするがピクリとも動かない.

「無駄ですよ.僕は力が強いんだ.さて,名前を書いてもらおうか」

 オーツは頭から手を離して両肩に手を置く.ヨウの前に証書が渡される.

「生きてても死んでても取れる.だったら,生きてる方が得じゃないか?」

 ヨウはペンを手に取り,名前を書こうとする.

「その必要はない!」

 オーツの手に光線が当たり麻痺して後ろへのけぞる.

「お前は!?」

「正道を照らすもの,狩人レオンだ.どいてろ,巻き添えを食らいたくなければ!」

「狩人レオン,そうかお前が….このっ…」

 オーツはヨウの首に手を伸ばして人質にとろうとするが,再び麻痺光線を受けて後ろへよろける.本が棚からいくつか落ちる.レオンは一歩も動かずに標的の動きに注視していた.

「するいぞ…そんな力を使えるなんて…」

「これは試合ではない.必ずしも同格の相手と対戦カードは組まれない.狩る側が強いのは当然の理.人間や俺たちよりも強い体を持つお前がずるいというのもおかしな話だ」

「黙れ!僕たちより弱いのが悪い,僕たちより強いのはズルい!」

 オーツは地面に落ちた本をレオンめがけて蹴る.レオンは左腕を振って掴みとり,右手の柄から光線を放つ.光線はオーツの胸を貫き,黒い霧を残して消滅した.

「ああ…終わりだ」

「ヨウ様,お許しください!」

「馬鹿め,簡単に許すと思うか!罰として農具を全て磨け.今回は特別にそれで許してやる」

「はい,ただいま!」

 従業員たちが急いで外に出て,ナレルはぶつかりそうなところを避けて部屋の前に立つ.

「…….レオン,ありがとう.私はもう少し彼らを理解しなくてはいけないようだ」

「いや,お互いにだ」

「そうか…そうだな」

「もう俺の出番はない.お元気で」

 レオンはヨウと握手をしてナレルのいる方へ進み外に出た.

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