表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の混紡者  作者: Ridge
2/67

東部編1

 翌日,レオンが窓際に椅子を置き,そに座って外を眺めていた.灰色の空の下,坂とそこに点々と家らしきものがある.レオンの目には焦点が合わずに虚空を眺めていた.

「暇そうだな」

「…ナレルか.違うな,必要な処理だ」

 レオンは外を眺めたまま,部屋へ入ってきた者にそう答える.

「何か用か?」

「ドアが開いて,暇そうなのが見えたから….忙しいなら後で」

「開いていた…?ああ,あいつか.今でも大丈夫だ」

 レオンは体を捻って伸びをしてから後ろを向く.

「当主の部屋へ来てくれ.話がある」

「話とは?」

 2人は歩きながら話し始める.

「これからのことだ.ところで,レオンの姓はなんだ?」

「あったが,今の俺には不要だ」

「どうして?」

「俺も聞きたいことがある.なぜ,血がつながっているわけでもないのにダウンの姓を持つ?」

「それが大切な者を守る方法だから」

「しかし家に振り回されるのは不幸だ.機会も能力も奪われてしまう」

「ダウン家は違う,そんなことしない.俺たちが家の名誉を守り,名誉が俺たちを守る.1人ではできないことだ」

「自分が死ぬことがあっても?」

「自分の命よりも大切なもの,あるだろう?」

「…….効率の悪いことだ.まあいい,俺は文化侵略者になる気はない」

 当主の部屋に着き,レオンは当主たちとこれからのことや魔族の説明をする.

 そして当主の部屋でレオンは協力を要請する.

「これから旅に出る.力を貸して欲しい」

「そのつもりだ.旅の用意が要るな,ここから古都ザークに徒歩で30分ほどで着く.ナレルが案内しよう」

「古都?」

「およそ40年前に統一戦争が終結し,王都がここから西のトカ・イザークに変わった.行政首都はそこにある.昔の都なので古都と言われる」

「ザークは現在は東部の首都.残念ながら王国の首都の座を捨ててしまったぁ」

「金を持っていないんだろう?私たちが払うよ」

「いや,貸して欲しい.後で必ず返す」

「いいのか?」

「買ってもらうというのは気分が良くない」

「そうか,それなら仕方ない」

「必ず返す.だから証文は大切に保管しておいてくれ」

「…分かった.ナレル,帳簿を付けてきてくれ」

「了解」

「さ,行こう」

 2人は買い出しに出かけた.

「いいんですか?貸すよりも奢った方が…」

「いいんだ.それよりも,彼に死なれて返せないなんてことが無いようにサポートせねばな」

「ああ,なるほど…」


 レオンとナレルは買い物をしている.

「食料品や毛布は分かる.が,茶は要らないだろ!しかもそんなに沢山!」

「いいや要るね.レオンは分かっていない.川の上流にある東部の水の旨さ及び下流の不味さ.下流のは誤魔化さないと飲めたもんじゃない.東部の多様な地形,生態系の織り成す多種多様な茶葉と味と効能の違い.南部に行ってみろ.畑畑畑工場畑畑ばかりで,しかも高く売れる取れる茶葉しか作ってない.あのスカスカで薄味な茶では体が駄目になる」

「何お前,ついてくるの?」

「当然.誰が借金の帳簿を付けると思っている」

「あーあ,かわいい女の子についてきて欲しかった」

「ま,道中で会えるさ.目移りを恐れて邪魔されるよりいいだろ?」

「ふむ,それもそうだな…」

「それに,僕はこの国を以前旅していた.古い情報ではあるが,無いより役立つさ」

「情報料は取るのか?」

「売れるものなのか?」

「勿体ない奴….まあいい.…おい,財布はどうした?」

「え…?あれ?」

 ナレルの腰に付けた財布に切り傷があり,中身が取られている.

「探そう」


 路地裏に少年が走り込み,子供がギリギリ入れる隠し扉を開ける.

「ちょっと待ちな小僧」

「うっ,うわあー」

 何者かが少年の背後から腹の前に腕を出して抱え上げる.

「お前,俺たちを何度も見ていただろう」

「レオン,そんなこと分かるのか?」

「背中でも自分に向いた視線は分かる.ナレル,この扉を調べてくれ」

「盗った金を返せ」

「知らない,僕は何も知らない!」

「何?」

「本当だって,ほら!」

「…….本当だ」

「レオン,その子は冤罪らしい.離しなよ.こいつは隠し通路になっている」

「その前に,なぜ俺たちをじろじろ見ていた?」

「……」

「当ててみようか.お前は共犯者が上手くいくか監視していた.うまくいくか心配で凝視してしまった.誰に指示された?」

「聞いてどうする?」

「ぶっ飛ばしてきてやる」


 壁に穴の空いたボロ家で少女は袋から貨幣を出して,机に並べていた.鳥が壁の穴から室内に入ってきた.

「小鳥さん,あなたは飛べるからズルいね」

 少女は木の実を台で押しつぶして,それを鳥の前に撒いた.

「そっか…私は飛べないけど,小鳥よりも力があるよね…」

 大男が扉を開けて部屋に入る.鳥は飛んで外へ逃げ出した.

「ほう,今回は中々の額だな.よくやったぞシュリ」

「アールゴさん.私はもう盗みをしたくない.もちろん弟にもさせたくない」

 アールゴは額に手を当て,目を閉じる.目をゆっくりと開けて少女を見る.

「…どこでそんなことを覚えた?」

「こんなの普通じゃない.見ていたら分かる」

「分からないか?お前たちのようなガキは保護なしには生きていけない.お前たちを守れるのは俺だけだ.親に売られた子供は,本来ならすでに死んでいてもおかしくない.いやあ同情するぜ,働き手の兄や姉が突如失踪してしまうなんて」

「あんたを倒して出ていく!」

「どうやらもう一度教育が必要なようだな」

「ヒッ」

 ア−ルゴはシュリに右手を伸ばす.シュリは手を見上げて硬直した.

 上からの光線がアールゴの腕に当たり,麻痺させ,足を後退させる.

「ぐっ,誰だ?」

 アールゴは左手で壁の穴に向かって壺を投げ,壁に大きな穴を空ける.眩しい光にシュリは目を細めると人影が見えた.

「姉弟愛を護る鳥,狩人レオン!」

 レオンは刃の無い柄から光線を放ち,アールゴを痺れさせると,下に飛び降りて左腕を使ってシュリを抱え上げる.

「あなたはあの時の…」

「何のことかな?友人の鳥から聞いて助けに来たのさ.悪事に加担させられている本当は優しい姉弟をね」

「不思議な技を使う…だがもう効かない.我々の皮膚は固化できるのだ,この程度の技はもう受けん!」

「フフ…」

「何がおかしい?」

「さっきのは,万が一この子に当たっても大丈夫なように威力を落としたものだ.もはや緩める必要はない」

「戯言を…,死ね!」

 アールゴは前かがみで両腕を前に出して体の重心を前へ倒し,地面を蹴って突進した.

「おじさん!」

「動くな!」

 レオンは右腕を突き出し,視線の先を右腕と並行させ,柄から光線を放つ.光線はアールゴを貫き,霧となって消滅させた.


「お姉ちゃん!」

「シュズ!良かった…無事だったのね」

 レオンが片膝をついてシュリを下ろすと,シュリはわき目も降らずに弟の下へと走っていった.

「しかしねえ,おじさんは無いんじゃないの?」

「子供から見たら僕らはおじさんだ」

「シュズを助けてくれてありがとう,お兄さん!」

「えっ…」

「礼には及ばないよ.当然のことをしたまでさ」

「おじさんも,ありがとう!」

「あ,ああ….…….君はまだ戦うという意味が理解できていない,駄々をこねることの延長線上にあるだけだ.その心構えは戦いでは通用しない.難しかったかな?とりあえず,無茶しちゃだめだよ,分かった?」

「はい」

 レオンは立ち上げり,柄を鞘に刺してベルトで留める.

「腑に落ちないようだね,おじさん」

「ナレル,お前もじきにおじさんの仲間入りだ」

「この子らを保護しよう.一先ずダウンの屋敷へ」

「余裕はあるのか?」

「心配いらない.僕らのような一等地に住んでいない小金持ちは,泥棒に盗られるより泥棒を減らすように投資した方が得なのさ」

「かっこつけちゃって.後はお前に任せる.ほら,財布の中身だ」

 レオンはナレルに袋を投げる.

「君は?」

「友人を待つ.先に行ってな」

 レオンは皿を持ち上げて埃を払った.

「」

 ナレルは横からその様子を見る,足元には姉弟が喜びで踊っていた.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ