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運命の混紡者  作者: Ridge
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停船

レオンが船倉から外に出るとナレルが外で2人の船員を引き留めていた.

「終わったのかレオン?」

「まだ,でもルードに任せた.そもそも終わるものなのだろうか」

「おいアンタ,さっき何をした?船が揺れたぞ」

「魔族と戦った.揺れは仕方が無かった.武器の携行も仕方がない」

「どこにいるんだ?」

「跡形もなく消してしまったから分からない」

「怪しいぞ」

「困ったな…」

「ん?どうしたんだ?」

 2人の船員の後ろで女性が立ち止まる.

「君は確か乗船時に後ろにいた…」

 船員たちは後ろを振り向く.

「地に血が満ちる

 風は鉄の香り

 火に命の燃料がくべられ

 水は赤黒く染まる

 止めるべきではない,あなたにはまだ選ぶ余地がある

 読める暦は近い,あなたに見えないところに答えがある」

 女性は目が覚めて周囲をキョロキョロとする.

「ちょっと,また勝手に…」

「ん?」

「い,いえ,何でもありません」

 女性は小走りで遠くへ行ってしまった.

「…信じよう.東部の魔族が一掃されたという噂は聞いた.君がその仕掛け人だと信じたい」

「あなたは正しい判断をした.俺が保証する」

 レオンとナレルは船倉を除くがルードもエリアもいなくなっていた.

「どこかへと抜けたか.俺たちは部屋へ行こう.やることないし」

「次に止まる場所はフネアン.船員交代のために1時間くらい止まるから,それまで部屋で大人しくしていよう」


 レオンとナレルは宿泊する部屋に入る.窓がついており,外が見える.両端にベッドが1つずつあり,その横に片方は机があり,もう片方はクローゼットがある.

 2人は外套を脱いでベッドに腰かける.

「さっきの女の人はなんだったんだろう?」

「分からない.声から催眠術でも出てるんじゃないか?俺たちを助けてくれる理由は分からないけど」

「レオンは目がいい分,耳が悪いということはあるのか?」

「君らと大差ないよ.訓練すれば差が開くだろうけど,普通の人とは変わらない」

 駄弁っている間に船はフネアンに着いた.

「もう一度船が出るまでの間に売り子や整備班が入って来るよ.僕らも外に出られるけど,またチェック通すのが面倒だから僕は船の外に出る気はないな」

「整備か…見てみたい」

「えっ,そっち?売り子の方に行くのかと」

「壊した扉を直しに来るだろうから見に行く」

「じゃあ僕は上に行こうかな.何か買うかもしれないし,ルード見つけられるかもしれないし」

 2人は上下に分かれていった.


 整備員の1人である少年は一度扉を見て必要な道具を取りに降りてまた戻ってきた.廊下の壁の蓋が開いているのを見つける.誰かが開けたのかと思い中をのぞき込む.

 整備員用の通路上に大男が2人いる.

「よし,この爆弾の時間を2時間半後にすれば人里離れた山奥あたりで爆発する.1つで十分な高性能爆薬だ」

「川の上である以上,いつかは下流に流れて気づかれる」

「それこそが狙いだ.船を恐れて使わなくなれば,都市間移動は減る.そうすれば東部支部の壊滅の噂は流れるのが減る.噂の洪水でその噂は押し流せる」

「何ィ!」

「しまった!聞かれたか!」

 少年は声を出してしまい,2人は振り向いて少年を見つけ追いかける.

 少年は船倉に入って箱の中に隠れる.

「そっちから探せ,俺はこっちから探す」

「オーケー」

 魔族は2手に分かれて船倉を探し始める.少年は息を殺してじっと過ごす.全身から脂汗が滲み出す.

 蓋を開け閉めする音が近づく.

 ついに蓋を開ける.

「見つけたぞ小僧!」

 魔族は手を少年に伸ばす.少年は目を瞑る.閉じた目越しでも一瞬明るくなるのが分かり,何ともないことを感じ取って目をゆっくりあける.目の前には黒い霧が浮いているだけだった.

「お前は狩人レオン!」

 遠くから声が聞こえる.

「俺を知っているのか,光栄だな」

「お前の命は俺がもらう!」

 周囲が一瞬明るく照らされ再び静かになる.少年の箱に足音が近づいて来る.

「隠れなくてもいい,俺は君の味方だ.第一…」

 レオンは布の上から少年の頭の上に手を置く

「俺には見える.隠れる意味は無い」

「…本当に味方?」

「そうだ.もう隠れる必要はない.敵は倒した」

 少年は被っていた布をとって姿を現す.レオンを見上げた後,周囲を見渡す.

「ありがとうございます.爆弾が仕掛けられていて…」

「何?どこだ?」

「こっちへ」

 レオンは少年について行って爆弾を見つける.

「これか」

「一体どうすれば…」

「安心しろ.俺の目は変わっていてな,中身が見えるんだ.うん,構造は分かった.解除する」

 レオンは溶接された蓋を切断して開け,二又の管に2種類の液体の入った容器をゆっくりと取り出す.

「時間がたつと傾いて混ざる仕組みのようだ.船の揺れでは混ざらないようにしているのか,かなり長い管だな」

 レオンは片方の管を切り,もう片方もこぼれないように持つ.

「ここからどうしよう?見ずに反応するなら川に捨てるのもまずいし…」

「何をしているんだレオン?」

「ナレル,上に行ったんじゃ?」

「用が無いのでこっちに来たよ.それは?」

「爆薬らしい.混ぜると爆発する仕組みだ.どう処理すればいいか分かる?」

 ナレルは片方を受け取って匂いを嗅ぐ.

「これか.川に捨てても大丈夫だろうけど….ああ,何だ箱に書いてあるじゃないか.うん,問題ない.本当は環境に良くないけど仕方ない」

「水に反応して爆発しないか?」

「発熱するが爆発はしないから大丈夫.そっちは?」

 ナレルは交換して匂いを嗅いで名前と一致する薬品か確認する.

「こっちも問題ない.反応させるには溶媒が必須だが,水なら遅すぎて爆発はしない.まあ念のために時間を置いて捨てよう」

「助かったナレル.ありがとう」

「君も教えてくれてありがとうな.後は俺たちが処理してくるから」

 レオンは少年に礼を言う.

「礼を言うべきは僕の方です.ありがとうございます.何かお返しを…」

「いいよ,俺たちはすぐにここを出るし,君もそこの修理をしないといけないから時間がない.気持ちだけ受け取っておく」

「え,でも…」

「じゃあこうしよう.誰か困っている人を助けてあげるんだ.助けられた人が困った人を助けて,また助けられた人が困った人を助けて…と繰り返していけば,いつかは俺が困った時に助けてくれるかもしれない,それでいいよ」

「ということだ少年.この人が壊した扉を直してくれ」

「おいバラすなよ」

「ははっ」

「…分かりました.ありがとうございました」

 レオンとナレルは薬品を上に運んで行った.少年は扉の修理を始めた.


 薬品を処理し終え,ほどなくして船が再び陸を離れ始めた.2人は船着き場にいる少年を見つけて手を振って別れの挨拶とした.

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