船出
ザークの町の外れ,レオンとナレルは船着き場に着く.
すでに船は来ており,駅員が切符を切っている.
「レオン,船に乗る前に武器をこの箱に入れるんだ」
ナレルはタグのついた箱を持ってくる.
「海賊に襲われたらどうするんだ?」
「川に海賊はいないよー.襲ってくる奴はそうそういない.それに護衛がついている」
「俺の武装も差し出さないとだめか?知らん人が見れば武器に見えないだろう」
「まあ武器を取り上げる理由の半分はそうだけど…,もう半分もレオンなら問題なさそうだ.それに魔術師たちは武器無しでも圧倒的だから」
「魔術師…いるのか本当に?存在は聞いたがあったことはない」
「ほとんどが中部にいて東部には僅かしかいない.中央政府が手放したくないんだ」
「奴らは魔族の仲間か敵か?」
ナレルは剣や弓を箱に入れて船員に渡す.箱の中身を確認して船に積み込まれる.
「両方ありうる.魔界由来の力を使う者は味方になるだろうし,そうでないものは敵だろう.魔術師の戦闘力はピンキリだけど,中部では彼らが魔族からの侵略の手を防いでいるとは思う」
「はっきりとは分からないのか?」
「僕はこの国中を旅したことはあるけどそれは4年以上前の話.それより後のことは東部に入ってくる情報くらいしか分からない」
「情報…随分と重視されている印象を受ける」
「そりゃそうさ.必勝戦略は存在しない,ゆえに戦略は相性が重要,情報があれば相性のいい戦略をぶつけられる,というのがよく言われる.中央政府の教育で広く浸透しているのだから」
「ふーん,そうだったのか」
レオンは癪全としない様子で一応は納得する.
船員がレオンとナレルの体に触れて武器を隠し持っていないかチェックする.
「ん?」
「これはナイフではないのか?」
「刃がついてません.ただのお守りですよ」
レオンは刃のない柄を見せる.
「まぎらわしいな.箱に入れてもらおう」
「嫌です.これはこの世界に2つとない大切なもので,肌身離さずに持ってなきゃいけない」
「しかし…」
「……」
「運命糸を司る使者」
レオンたちの後ろで女性が消えそうな,しかし脳裏に残る声を出す.レオンたちは振り向く
.
「黒衣を纏う光泉が灯火を守る
闇は捉えられぬ光,捉える力はあなたにない
強い闇が閂を壊す,あなたに止める力はない
暁,開かない棺から生者を確かめる術を持たない
暁,裂けない剣すら明夜と離れうる夢を持たない
重ねる雷がより強い光の泉と化す」
女性は我に返って目をパチパチさせ,顔を真っ赤にして下を向く.髪が顔を隠しつつも赤い耳が外を覗く.
「何を言い出すんだ?」
「とにかく,良しとしよう.武器にならないから問題ない」
レオンとナレルは船に乗り込んだ.
「さっきの人,知り合いか?」
「…さあ,分からない.…ん?あれはルードじゃないか?」
「あっ本当だ,ルードだ」
「よう,元気か?」
2人はルードに近づいて話しかける.
「おいおい,仲間に見られたら俺が手引きしてたってバレる」
「あっああ…ごめん」
「なんて冗談だ.今更どうこう言われやしないさ.また会えて嬉しいよ」
「俺もだ.もう任期が終わったのか?」
「中央に帰ってプロポーズかあ」
「いや,まだ終わってない.兄が病気になったので急いで帰る」
「大変だな.ま,船に乗っている間は急ごうにもこれ以上急げないからあんまり気を張り詰めないようにな」
「それもそうだな.もしもの時は俺が家を引き継ぐから,ここで参ってしまう訳にはいかない.ましてや死ぬわけにもいかない」
船は汽笛を鳴らし,船員が出航を宣言する.ほどなくして船は船着き場から離れて下流へと進んでいく.
「さてと,俺はそろそろ船の中に行く.レオンとナレルはどうする?」
「俺はもう少し観光したい」
「僕は冷えて来たから室内に入りたいんだけど」
「じゃ,俺たちは当分ロビーにいるから.また後でな」
レオンは船上から景色を引き続き眺め,ナレルとルードは船の中へ入っていった.
森や火山岩の隙間に点々と町や村が見える.大きな山の横を通ると山の影で周囲が薄暗くなる.川の中には黒い魚の影がいくつも見える.
「キャーッ!」
うとうととしていたレオンは叫び声によって目を覚ます.声のした方へ走る.個室前の開いたドアで覆面をつけた人が初老の男性の首を絞めている.レオンは覆面に背後から近づいて腕を引っ張る.覆面は左手で相手の首を掴んだまま,右手を離してレオンに殴りかかる.レオンは上体を牛をに反らして裏拳をかわして関節ど逆方向へ押す.覆面は左手を離してレオンから離れて逃げ出した.去り際に初老の男性目がけて吹き矢を飛ばす.レオンは吹き矢を掴む.先端に針がついており,何かの液体が入っている.覆面は船から飛び降りてどこかへ消えた.
人々が集まって来る.レオンは追うのを止めて話を聞くことにした.ナレルとルードもやってくる.
「どうしたんだ?」
「覆面をした何者かにこの人が首を絞められていた.去り際に吹き矢でこれを飛ばして逃げられた」
「君から逃げられたのか」
「光線は使ってない.人が出てきて危なかったから」
「被害者はこの人か」
ルードは座り込んでいる初老の男性を見る.部屋の中から初老の女性が出てきて介抱している.
「そして叫び声はこの人のものか」
「どうして君はそう冷静なんだい?」
「…少し調べたいことがある.1人にしてくれ」
「おいルード,下手に動くと危ないぞ」
「ここにいた方が危ないぜ.…なあに話す時が来たら話す.だから行かせてくれ」
「…分かった」
ルードはレオンとナレルから離れて人込みを抜けて船の向こう側へ行く.
レオンはその後に来た警備員に説明する.
暗い船倉,何者かが抜け道から中へ入る.
「誰!?」
「やはり君か.そんな気はしていたよエリア」
エリアは覆面を取り,結った髪を解く.右手の親指をうなじに当てつつ髪を掴み,左手でかき上げて横へと流して軽く梳く.
「ルード,邪魔をする気?」
「君が道を外そうというのなら止める.昔から俺は君の暴走を止めてきた.今も同じ」
「もう幼馴染ぶらないでくれる?ずっと遠くに行ってしまったくせに….ただの他人じゃない?」
「他人なんかじゃない」
「…….あいつが誰か知っている?」
「端的に言うと悪徳政治家.強力な副作用のある薬の使用禁止を阻止している奴だ.製薬組織との癒着がある」
「そう.そして,依存症に陥った人たちの存在を隠匿している.使用禁止を訴える団体に工作員を送り込み,品位を落としている」
「本当なのか?その工作員というのは思い込みやそう言わせたのではないのか?」
「確かめる方法はまだないわ.あいつが死ねば守られていた奴らが明るみに出てはっきりする」
「はっきり分かった.俺はお前を止めなくてはならない」
ルードはエリアに歩み寄る.
「ごめんねルード」
「?」
「私の心はもうあなたとの間にはない」
箱から何かが飛び出し,ルードは後ろへ避ける.
「あまりに長すぎたね.もう終わりにしよう.あなたが生きていないと分かれば決心はつく.頼んだわテーミ」
「結局,俺が出ることになったな.あの爺も俺に任せれば楽だったというに」
箱から出てきた魔族はルードに近づく.ルードは後退する.
「あいつは私の手で殺したかった.この人は…あなたに任せる」
テーミは大きく振りかぶって殴りつける.船に衝撃が走った.
船倉の扉の鍵を光る剣で破壊しされ,ドアが蹴られて開く.ルードは転がり込んでドアから外に出る.テーミの拳をかわして,拳が壁に激突する.
「船を壊すなよ,俺たちは西の門まで行かなきゃならないんだ」
視線でルードを追うと黒衣の男が扉の前に立ち塞がる.
「誰だお前は!?」
「天昇る日輪,狩人レオンだ」
「知らない名だなあ,ただの雑魚か」
「手柄を立てる前は誰もが無名さ」
レオンは強く踏み込んでテーミに斬りかかる.テーミは切りつけられつつ後退する.かゆい程度の切り傷に手を当て,避けたことを後悔して回し蹴りをする.剣で受けつつ後ろに跳ぶ.
「なんだ,びっくりさせといて大したことないじゃない!テーミに勝てるわけないじゃない!」
テーミはステップをしつつレオンに近づく.どちらに避けてもすぐに反応できるようにするためだ.レオンは刀身を消す.
レオンは腕を伸ばして刀身のない柄を相手に向ける.テーミは左右に動けるように近づく.
「行けーテーミ!ぶっ潰せー!」
柄から光線が放たれテーミの胸に照射される.
「そうか,お前が…」
テーミは霧となって消滅した.
「そ,そんな…」
エリアは体がふらふらとして足が開きつつ,膝から地面に崩れ落ちた.
レオンはエリアに手を差し伸べて引っ張りあげる.
「なぜ1度ならず2度までも私の邪魔をする!」
「君が,俺の友人を傷つけようとするから」
「じゃああの爺は?」
「たとえ悪人が相手でもやり方はまだあるはずだ.人殺しをしてほしくない」
「そうだ.君に人殺しをして欲しくない」
ルードが室内に戻って来る.
「邪魔な奴…心に入り込む.私だけが苦しい思いをするなんておかしいじゃない!」
「人との付き合いは千差万別.同じである必要はない.君には君の付き合い方の形がある.これ以上な口出しはやめておこう」
「何!?」
ルードはレオンに殴りかかろうとするエリアを遮る.レオンはエリアから目を離さない.
「感謝するレオン.後は任せてくれ」
レオンはエリアから目を離して出口の方を向いた.
「死ぬなよ」
「誰だと思ってる?」
レオンは船倉を後にした.口論が僅かに聞こえるが,離れると船の音に上書きされていった.




