東部編10
レオンとナレルは人々を引き連れて地下道を通って脱出した.幸い残党はおらず,全員逃げ出していた.
入口だった廃村に戻る.ナレルは穴から周りを見渡し,危険のないことを確認して外に出る.レオンも続いて外に出る.外には見知った顔がいた.
「レオン!ナレル!無事でよかった!」
カレンはイマニュエルやシャンタルが呼ぶよりも前に2人の名を呼んで駆け寄って来る.
「イマニュエル様,シャンタルも….どうしたのです?それに何ですかこの牛は?」
「元気そうで何よりだナレル.この牛は荷物を引いてもらうために連れてきた.食事や茶がある.長丁場になって疲労困憊して帰ってきた時に備えてな」
「この人たちは私が連れて来た.レオンの約束通りここから先へは行っていない」
カレンは基地へ続く穴を指さした.
「ここには君が騙した人たちもいるはずだ.隠れなくていいのか?」
「分かってる.でも謝らないといけない」
「…そうか.いざとなったら助ける」
カレンは捕まえられた人々の方へ走っていく.
「ねえ,レオン,ナレル,喉乾いててない?お茶飲む?」
「ありがとシャンタル,頂くよ」
「僕も.あの人たちにも訊いてきて」
レオンとナレルは石の上に腰かけて茶を飲む.
「飲食というのは,一段落したとはっきりさせるね」
「そうだな.五感を使うからかな,まあ何にせよ一息つかせてもらう」
「シュリ,シュズ!」
「お兄ちゃん!お姉ちゃんも!」
シュリとシュズは兄と姉に走り寄って抱きつき再会を喜ぶ.
「ナレル,捕らえられた人たちは内部で対立していた.権力を握っていた者たちは後ろ盾を無くして恨みを晴らされるだろう.どうやって止めた?」
「分かりきったことじゃないか」
「……」
「後回しにしてもらった.そろそろ始めよう.止める気か?」
「ここで清算すべきだ.しかし暴徒になって欲しくはない」
「分かってる.それは僕だって御免だ」
「俺に任せてくれないか?」
「君がそういうのなら」
2人は飲み終えたカップを置いて,捕まっていた人々に近づいていく.
「おい,そこの制服着た奴ら,来い」
ジェリドたちはレオンの前に呼び出される.
「お前たちは魔族の後ろ盾を得て身勝手をやっていた.そうだな?」
「はい…」
「君らが手を下す必要はない.俺がこの手でやる」
レオンはジェリドたちを殴る.吹っ飛んで地面を転がる.
「どうした?助けを求めてみろ」
「や,やめてくれ…」
「俺に言ってどうする?」
レオンはジェリドの胸元を掴んで引きずり上げ,顔を殴って吹っ飛ばす.
「た,助けてくれ」
「……」
周囲の目は冷ややかなものだった.
「足りないようだな.俺がやる.邪魔をするな」
レオンは引き続き殴る.周囲がざわつき始める.
「助け…助けて…」
ジェリドたちは制服が泥で汚れ,鼻や唇からは血がでていた.
「もうやめて!」
「ん?」
レオンは腕で押して地面に叩きつける.
「やめろ!」
力強い声が響く.
「フン,そこまで言うなら止めてやるが,本当にいいのか?」
レオンは周囲を見渡す.続けようとすると,止めに入ろうとする声がかかる.
「分かった.これで終わりにしよう.が,次のが残っている」
「え…?」
「ジンジャの弟たちの受けた苦痛,その清算がまだだ.身に覚えのある奴は来い.罰を与えてやる」
「レオンさん,もういいです!僕らはそんなこと望んでません」
「本当に?」
「ええ,だって空しいじゃないですか.そんな暴力を見るよりも帰郷の喜びを噛みしめたい」
「そうか,でも虫が良すぎない?」
「気にするだけ時間の無駄です.それに汚れたレオンさんを見たくない」
「ごめんなさい,ごめんなさい」
「蹴ったりなんかして悪かった.申し訳ない…」
弟たちは周囲の人々に謝られる.
「謝ったならもう終わりです.悪夢だったんですから」
「…分かった.それじゃあ最後に.選ばれた者が違えば立場が違っただろう.誰にだって悪事を行う可能性はあった.悪夢はここで終わりだ.夢から覚めて生活を取り戻すんだ」
レオンは手を拭いてその場から離れていった.ナレル,シャンタルと合流する.
「レオン,なぜあんなことを?」
「彼らは相当な恨みを買っていた.このまま報復が無ければ不公平なんだ」
「何か因果応報だと分かるイベントが無ければ,許すことが難しい.このままでは誰も満足に復帰できない.たとえ愚かな行動が異常な環境によって狂わされたのだとしても」
「罪悪感と恐怖感で混乱し,一度暴力を振るえば止まれなくなるというのも危険だ.それは全員で同じ時間に暴力をふるうことによって生じる.誰かが代表してやるしかないんだよ」
「何もあなたがやらなくても…」
「そうかもしれない.でも,その役目は異邦人が向いていた.だからやったんだ.気を遣ってくれてありがとうシャンタル,孤独感は消えた」
「…うん」
その後,レオンは牛車に乗ってダウンの屋敷へと運ばれた.
「眠ってる?」
「寝てるね.心身共に疲れただろうから」
「これから旅立つまでに時間がない.休みを邪魔するわけにはいかない.…ゆっくりとお話ができそうにないね」
「帰って来てから話せばいいじゃん.レオンは負けないから」
「…それもそうね」
次の日,ダウンの屋敷を東部政府の役人が訪れる.
「助かりました.東部政府も手を焼いていて.あまり目立つことをすると危険ですから大したお礼はできませんが…お受け取りください」
鞄の中には約束手形が詰まっていた.
「これはこれは,心遣い感謝いたします.これで借金返済ができる.食事や道具で金がかかる物で.地面で擦ったりして動くと服は摩耗するし…」
「これで足りますか?」
「ええ,十分です.後は戻ってきた人たちの回復に割いてください.加害者も被害者も異常な環境に狂わされたので社会復帰に時間がかかるでしょう」
「しかしこれからも旅をするのであれば足りますか?」
「心配は要りません,あてはありますから」
役人は帰っていった.レオンは鞄の中身を確認する.そのうちいくらかを手持ちにして,残りはイマニュエルに渡した.
レオンはナレルの部屋を訪ねる.
「さあ西へ行こう.案内が必要だ,銀行口座もな.一緒に来てくれナレル」
「まだ借りる気かい?いつか焦げ付かないといいが…」
「で,付いて来るのか来ないのか?」
「付いて行くよ.まだ君から利息分返してもらってない,死なれちゃ困るんでね」
「フフ…これからも頼むぜ相棒」
レオンとナレルは荷物を持って船へと向かった.




