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運命の混紡者  作者: Ridge
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東部編8

「一旦ダウンの屋敷に戻ろう」

「なぜ?」

「さっさとこの辺りの敵拠点を潰してダウン門の安全を確保しようと思ったが,思ったよりも手間取る.船が来る前には無理かもしれない.本当は話すつもりはなかったが,念のために封印について話しておきたい」

「話したら不味いんじゃない?僕たちが知ってしまえば,相手からは聞き出せるということだから」

「いや,仕組みを話す気はない.解除法も話す気はない.こちら側から開けられないようにすることと,向こう側から門を見つけることを難しくすることだ」

「レオンはそれで帰れるのか?」

「向こう側にも戦っている仲間がいる.向こうから別ルートで開けてくれればいけるさ.西の門の状態次第ではそっちから帰れるかもしれないし.でも,こっちへ来たルートは辿られないようにもう使えなくしてるから門を使うしかないんだよな….まあ,もし間に合わなければ止むを得ない.なあに心配は要らない.戦ってる奴らは俺と同じくらい強いから」

「そうか….奥の手は使わずに済むといいな」


 レオンとナレルはダウンの屋敷に戻って来た.シャンタルが手紙をナレルの下へ届ける.

「ナレル,手紙が来てたよ」

「差出人はアイロコ?苗字か名前か?」

「そいつはおそらく魔王軍の東部担当」

 ナレルは封筒を撫でて,おかしなところが無いかチェックした後,ゆっくりと開く.

「何だこれは?白紙じゃないか」

「見せてくれ」

 レオンは手紙を受け取って眺める.口元が緩む.

「何か書いてあったのか?」

「果たし状みたいなことが書いてあった.俺に読める文字で.これを渡すということは,これに従って所定の場所へ行けば奴らは2つのことを同時に行える算段だろう」

「それは?」

「1つは俺がダウン一族のそばにいることの確認,いないことが分かれば心置きなく襲える」

「もう1つは?」

「俺を罠に嵌めて始末すること.ただし手紙にはタイムラグが存在するため,罠の仕組みは長持ちするものでなければならない」

「行くのか?」

「敵が固まっているのなら,まとめて倒すチャンス」

「焦ってはいけない」

「そうだな….でもこれは焦ってなくても選択するだろう.封印については帰ってから話す.君らは風呂でも沸かして待っていてくれ」

 レオンは鞄をナレルに投げて姿を消してどこかへ行ってしまった.

「追わないと…」

「いや,僕たちが行っても邪魔になる.迎撃の準備をしよう」

「それってレオンが帰ってこないということ?」

「違う,そんなんじゃない.敵はレオンを嵌めて殺したと思い,ここへやってくるだろう.だから迎撃の準備をするんだ.レオンが戻る場所を守れるように」

「そうよね.じゃあ私,イマニュエル様に伝えてくる」

 ナレルとシャンタルは準備に取り掛かった.


 山の中で何度も発光する.森を抜け,レオンは峡谷にかかる吊り橋の上に辿り着く.橋の反対側に魔族が立っている.

「お前が狩人レオンか?」

「そうだ.お前が相手か?」

「そう,私の名はケーミ.人間どもに倣ってこれでやろう」

 ケーミはレオンに剣を投げる.レオンは剣を受け取る.

「何の真似だ?」

「明確に他と違うというものでなければ儀式としての意味がない.これで戦って生き残った方が勝者という意味の重みがある」

「お望みならば相手となってやる.だがその前に剣の小細工がないか確認させてもらう」

「どうぞご勝手に」

 レオンは剣を抜いて振り回す.

「お互いに吊り橋の中央から板6枚分離れ,剣を鞘に納めた状態から始める」

「7枚でどうだ?」

「臆したのか?」

「俺は勝負を受けないという選択肢をとれる」

「冗談だ.7枚でも構わない」

「ところでこの剣,お前の体を斬れるのか?」

「骨で止まらなければ斬れる.私だってお前のような身軽さもなければ目の良さ,手の器用さはない.アンフェアとは言わせないぞ」

「まあいいさ.合図は?」

「この独楽が倒れた時だ」

「ズルしないか?」

「したら普段の武器使っていいぞ」

「…受けよう」

 ケーミは中指と親指で独楽を弾いて橋の中央に飛ばす.

「……」

「……」

 独楽は倒れ,レオンは剣を抜く.ケーミは後ろに跳ねる.橋の上から巨大な岩が落下し,橋は崩れて岩と共に川底へ落ちていく.

「ハハハハハ!立ち合い人もいないのに真面目に受けるもんか!神人なんてもう怖かねえや!アハハハハハ!」


 ダウンの屋敷.大男が訪ねてくる.

「こんにちは.…誰もいないのか?」

 大男は扉を破壊して屋内に入る.四方から飛ぶ矢が刺さる.

「ぬっ!惜しいな,人間なら殺すには十分だっただろうが…」

 大男は刺さった矢を抜いて地面に捨てる.

「自動発射装置か.どこに隠れた?お前たち入ってこい,分かれて探すぞ」

 魔族たちは散らばって探索を始めた.

「ぐっ」

 トラバサミに足がかかり,壁に打ちつけて破壊する.

「てっ」

 踏んだ瞬間にてこで胸に突き刺さる斧.

「うおっ」

 こけた先に粘着質の物体が絡みつく床.

「待ってろ,今引きはがしてやる.うわあ」

 引っ張ろうとしたが,足が滑って倒れる.

「ええい情けない!待ってろ」

 剣で接触面を切って引き離す.

「あーあ,折角の剣がベタベタだ.もう1本はあいつを葬るために渡してしまったし…」

「見つけたぞ!」

 隠し部屋に隠れたナレルたちが見つかる.イマニュエルとナレルは槍を構える.シャンタルは子供たちを庇っている.

「そんな武器は我々には通用しない.降伏しな,今なら全員助けてやる.本当は全員生かす必要はないんだぜ?」

「あの罠を抜けて来たのか…」

「殺傷力が足りないな.全く無駄な努力だ.この槍も何の役にも立たない」

「無駄なんかじゃない.レオンが戻って来ればお前たちなんて瞬殺だ」

「レオンだと?あいつは死んだよ」

「馬鹿な….あり得ない」

「岩に押しつぶされて川底に落ちていったよ,あの高さは助からない」

「助からない?」

「ん?」

「見たわけじゃないんだな.死ぬところを」

「見なくたって分かるさ,死ぬにきまってる.自由落下の講義をしてやろうか?」

 ケーミは槍を掴んでへし折る.魔族たちは部屋に集まって来る.

「死ぬわけない.レオンがそう簡単に死ぬわけないんだ」

「そうか,じゃあそう思っていろ」

 背後から光が降り注いで魔族たちが消滅する.

「遅くなってすまないナレル.風呂の用意はしてくれたか?川に浸かってたら体が冷えた」

 ケーミは声のする方へゆっくりと振り返る.

「良く見ろ,一族の盾,狩人レオンだ.お前との決着をつける」

「お前!死んだのでは無かったのか──ッ」

「取るに足らないトリックだ.剣を取れ,鍔迫り合いを楽しみにしていたんだぜ俺は」

「……」

「どうした?」

「ハッ,ハハッ….いいだろう,でもなあ武器ってのは…こう使うんだ!」

 ケーミは剣を抜いてナレルに振りかかる.光線が背後から貫いて霧となって消滅した.

「……」

 レオンは無言で抜かれていない剣を壁にかける.

「無事だったか皆?」

「ああ.また助けられたな」

「ごめん,お風呂が沸けてないの」

「後でいいよ.危ない罠を片づけてから.片づけが終わるまでは終わりじゃない」

「よし,片づけるからそこで休んでいてくれ」

「俺も手伝おう」

「危ないから下がっててくれ.お前たち,レオンが部屋から出ないように見張ってなさい」

「はい.イマニュエル様」

「分かりましたよ.これじゃあ身動き取れない」

「あれは川に浸けとくよりも効果的な拘束だ」

「全くね」

 レオンは小さい子たちに囲まれ,そのテンションに疲れてぐったりと椅子にもたれていた.

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