東部編7-2
「芸がないが,もう一度正面から炙りだすか」
「レオン,人間の相手はどうするんだ?まさか…」
「安心しろ.ちょっと寝てもらうだけさ.サングラスをつけておけよ」
「何でレオンは平気なんだ?」
「俺の体は意識して明るさに対して調節できるからだ.この世界においては不要な能力だがな.俺の故郷では無意識に調整しようとすれば殺しに来る生物が幾つかいる.自動で調節する機能を狂わせて僅かな光で失明させたり,頭脳を壊したり,血液を固めたり,まあ恐ろしい奴らがいるからな」
「じゃあ何で意識してなら平気なんだ?どっちも関係なく駄目にしそうだけど」
「奴らが持つのは自動調整に対してのみの能力だから原始的な意識して調整するようなものには効かないわけだ.舐められているのか?まあいいや.それに,細かい波長の違いで見分けられる目は便利だからな.擬態の優れた生物もそうでない生物も俺たちの目で見ればその差は無に等しい」
「何にせよ,そんな恐ろしいところに行きたくないね」
「なあに,遭遇しなきゃ平気平気.…見えてきた」
レオンとナレルは小屋の前に戻って来る.
「今度こそ出てきてもらう」
「お前はさっきの…」
「人間の相手をするつもりはない」
レオンは光球を上空に飛ばす.光を浴びた人間たちは眩暈がして地面に崩れ落ちる.
「…….奥へ進もう,出てこない」
レオンは剣の柄を上に向けて光球を吸引して消す.
「気絶から覚める前に行こう」
「それ浴びせ続ければいいんじゃないか?」
「長時間は有害だ.俺の獲物はあくまで魔族,この世界に来た奴らのな.人間に手を出す気はない」
2人は小屋に入って地図を持ち出してから坑道に入る.風がヒュウヒュウと抜け,所々に照明がついている.
「休憩所が所々にあるようだ」
「出入り口も複数ある.これなら閉じ込められるリスクは低くなる」
「何だろうこれは?」
レオンは地図の冊の字が書かれた場所を指さす.
「牢屋か営倉じゃないか?」
「なるほど柵か…ありうる.行ってみよう」
2人は地図を頼りに坑道を歩き始めた.
エーヴェは坑道の中で目を覚ます.右肩に抱えられ,正面には地面が見える.
「ここは!?」
「おや?目が覚めたようだ.随分寝ていたな」
「だっ,誰だお前は?」
「言うだけ無駄だな」
エーヴェは休憩所に運ばれ,地面に下ろされた直後に両腕を抑えられる.男女合わせて6人ほどいる.
「どうしたのそいつ?」
「森の中で見つけた」
「たまには森に出るのもいいかもな」
「離して!」
「お前は命令できる立場じゃない.俺たちの機嫌を損ねれば痛い目を見る立場だ」
「お,おい…,攫ってきたのか?」
「何を恐れている?あの腰抜け共が怖いか?」
「いや,そうじゃないが…」
「……」
「お兄ちゃん,助けて…」
「あ,何だお前の妹か.ちょうどいい」
「俺は家から除籍された身,妹など知ったことじゃない」
「フフフ…,そうだな…妹はどうでもいいと?」
「そうだ.所詮は他人だからな」
「そんな…」
「それじゃあこいつの口にキスしてみろ.兄妹じゃないんだろう?」
「何?」
「口答えは許してない.楽しいショーの幕開けだ」
「俺にはできない…」
「何だとテメー?あーあ,気分が乗ってたのになー,冷めるわー…」
兄は殴られて壁に打ち付けられて膝から崩れる.
「お兄ちゃん!…痛っ」
男はエーヴェの髪を引っ張り,自分の方へ顔を向かせる.
「あーあ,かわいそうに.お前がここに近づかなきゃ,こいつは痛い思いをせずに済んだのになァ.悪い奴だなお前」
「あ,ああ….そんなつもりじゃ…」
「楽しみは後にしておこう.牢に入れておけ,仕事に戻るぞ.エムイチさんの前からは逃げられない」
エーヴェは牢屋に連れていかれて閉じ込められた.
薄暗い牢屋に看守がいない.隣の牢には誰かがいる.
「あなたも閉じ込められたの?力を合わせて脱出を…」
「閉じ込められた…?」
「えっ?」
「違う.俺は自らの意志でここにいる」
「なぜ?」
「人間が弱すぎるから」
「何を言っているの…?」
「俺が奴らに害を与えないという象徴がこの檻だ.これで恐れずに仕事ができるというのならそれでいい.奴らには過ぎた力だった」
「あなたは…誰?」
「俺の名はエムイチ,お前はここから逃げられない」
エムイチはいつの間にかエーヴェの牢の前に出ていた.エーヴェの握っていた木の枝を引っぱって取り上げ,片手で破壊する.
「奴らが何の目的でお前を連れて来たのかは知らないが,俺がいる限りお前はここからは出られない」
エーヴェは足の力が抜けてペタンと地面に崩れる.
「駄目だ…逃げられない」
ドアが蹴破られ,光線が鉄格子に照射される.鉄格子は真っ赤になってドロリと溶けた.
「誰だ,お前は?」
「地を照らす灯火,狩人レオンだ!」
「お前が司令官の言っていたハンターか.俺が片づける」
「片づけられるのはどちらかな?」
レオンは柄を正面に向ける.エムイチは姿勢を低くして突進する.レオンは刀身を出して跳ね,天井の柱に突き刺して反対側へ飛び移る.エムイチは壁に激突して,部屋が崩れる.揺れてレオンは移動が封じられる.エムイチは壁,天井を順に蹴って体重を乗せてレオンへと飛び掛かる.レオンは刀身を地面に突き刺して,右足を浮かべて側転する.エムイチが地面に衝突し,体をひねって起こし,レオンに殴りかかる.レオンは柄を前に突き出して光線を放つ.光線はエムイチの体を貫き,霧となって消した.
「ふう,立てるか?」
レオンはエーヴェの左手を引き,体を引き寄せる.
「だ,大丈夫だから…ありがとう」
エーヴェはレオンの胸を右手で押してはねのける.
「そう?ここは危ない.こっちへ」
レオンはエーヴェの手を引いて部屋の外へと導いた.
「レオン,こっちから行くと近い」
ナレルの案内に沿ってレオンとエーヴェは坑道から外に出た.外に出てレオンは手を離す.
「これで奴らは大きな後ろ盾を失った.後の始末は東部政府に任せる」
「……」
「俺たちはここまでだ.さて,基地の探索に戻ろう」
「いいのか送っていかなくて」
「その必要は無さそうだ」
レオンは村への帰路に就いた.ナレルも後から着いていく.レオンは一瞬,物陰に隠れる男と目が合い,エーヴェへと視線を送ってそのまま歩いて行った.
レオンもナレルが離れた後に,エーヴェの前に兄が現れる.何か謝っている様子だが,レオンとナレルにははっきりと見えも聞こえもしなかった.
「…….待ってたよ,帰ろうお兄ちゃん」




