入院してから
蒼海ちゃんが眠ってしまってから数日がたった。
僕の時と同じように、毎日お見舞いに通っていた。点滴等の管に繋がれた蒼海ちゃんは数日のうちにやせ細っていった。
ピクリとも動かないその寝顔からは生気を感じられず、まるで西洋人形のような無機質感を持っていた。
自ら生きているのではなく、生かされている。
自分の時と同じだと聞いてゾッとしてしまった。
父さん達はこんな状況を8年も見続け、諦めなかった。
初めて自分以外の、蒼海ちゃんの状況を目の当たりにしてその果てし無さを痛感した。
「それじゃ、行ってきます」
朝、家を出る。
今日は1学期最後の登校日となっていた。
家の門を出るとそこには当たり前となった舞桜ちゃん。
「おはよう、蒼空くん」
「おはよう、舞桜ちゃん」
挨拶を済まし、歩き出す。
二人の手はしっかりと握られている。恥ずかしいと僕は言ったのだが舞桜ちゃんがよしとしなかった。
「蒼海ちゃんの容態はどう?」
「うん、変わらずかな。僕の時と全く同じみたいなんだ。」
「そっか……早く起きてくれるといいね。」
登校中毎日繰り返されるこの会話。
舞桜ちゃんは蒼海ちゃんのことを心配してくれていた。蒼海ちゃんが眠ってしまった日にあんな事があったせいもあるだろうが。
「私ね、ちゃんと蒼海ちゃんにも認めてもらいたいの。私と、蒼空くんのこと。」
「……うん。蒼海ちゃんが目を覚ましたら、しっかりとまた三人で話そう。」
僕も舞桜ちゃんと同じ気持ちだった。
僕のことを慕ってくれていた蒼海ちゃんにも二人のことを認めてほしい。そして出来れば三人で仲良く過ごしたいと思っていた。
学校につき、一日を過ごす。
終業式は相変わらず退屈で、校長先生の話はこの世界でも頭に入ってはこなかった。
式が終わり教室へ戻るとクラスは夏休みムードに包まれる。
七海先生がホームルームをしている間もクラスはざわざわと落ち着かない様子だった。
プリントと宿題を配り終え、夏休みは遊び過ぎないようにとお決まりの注意。
それが終わると今度は夏休みのプールで会いましょうと声をかけたあと、号令をしホームルームが終わる。
号令の直後、クラスからは歓喜の声。
「やった!夏休みだぁ!」
「ねぇねぇ!帰ったら早速遊ぼーよ!」
「虫採りいこ!この前デッカいカブトムシ見つけたの!」
女の子達は各々に遊びの計画を立てていた。
「あーあ、ほんと女子って何考えてんのかわかんねぇ。虫なんか捕まえて気持ち悪くないのかよ……」
「ほ、ホントだよね……怖くないのかな」
杉田くんと石川くんはそんな女子を見て不満を漏らしていた。
「あ、そうだ野上は夏休みどうする?俺の家で宿題一緒にやるか?一騎もいるぞ?あと、美奈も」
「あー……うん、僕は遠慮しておくよ。蒼海ちゃんのお見舞いがあるから。」
「……そっか、わかった。それじゃまた今度な!」
「ま、またね、野上くん…」
「うん、また今度。」
軽く挨拶をした後二人は帰っていった。
「蒼空くん、私達も帰ろっか?」
「あっ、うん。帰ろう。」
僕は舞桜ちゃんと手をつないで帰る。
「ねぇ、明日近くの神社でお祭りがあるんだけど蒼空くん一緒にいかない?」
帰り道の途中、舞桜ちゃんがそう提案してきた。
「お祭りかぁ……」
「どう?」
「……僕は、やめておくよ。明日もお見舞いがあるから。」
「そっか。うん、わかった。」
「ごめんね。」
蒼海ちゃんが眠ってしまった日から僕は遊んでいなかった。
元々そんなに遊んだりしていなかったが、それもめっきりなくなった。
蒼海ちゃんがあんな状況なのに、遊ぼうなんて思えなかった。
父さん達に言われた訳じゃなく、自分でそう考えていた。
「それじゃあ蒼空くん、また今度」
「うん、また今度」
家の前につき別れる僕達。
別れ際の舞桜ちゃんはいつも通りの表情だった。
「ただいまー」
ただいまと言うが、返事は帰ってこない。
この時間父さんはお見舞いに行っており家には誰もいない。
キッチンの冷蔵庫を開くと中にはラップに包まれた料理がしまってある。
冷蔵庫の扉には父さんの書き置き。お昼温めて食べなと
料理を温めなおし一人で食事を始める。
いつ以来だろうか?一人での食事は。この世界に生まれ変わってから初めてかもしれない。
なんだか懐かしく思える。
前世では、一人での食事が多かった。父さんが亡くなってからはいつ帰っても1人だった。
一人で料理を作って、家事をして。
でもたまに、2人分作る時もあったような気がする。
たしか、誰かが一緒に……
「ただいまー!」
突然の声にびっくりする。
声は母さんのものだった。僕は時間を確認すると時計はもう17時を指していた。
窓を見るとうっすらと黄色みかかった空。いつの間にかそんなに時間がたっていたのか。
「あら?蒼空くん今ご飯食べ終わったの?」
「おかえり母さん。ううん、ちょっとぼーっとしちゃってて片付けるの忘れてたんだ」
「そう、大丈夫?考え事?」
「ううん、大丈夫だよ。それより、僕すぐ片付けちゃうからお見舞いに行こう?」
てきぱきと片付けを終え病院へ向かう。
父さんと入れ替わりで病室に入り蒼海ちゃんへ話しかける。
返事は返ってこないけど、話しかけるのは効果があると言われていた。
2時間ほどしてから僕と母さんも家に帰る。
リビングには出来立ての料理が並んでいてお腹を刺激する匂い。
「おかえり2人とも。さ、ご飯食べちゃおう。」
手洗いを済ませ食卓につく。一人欠けた3人での食卓はどこか足りない気がした。
「……そう言えば明日は夏祭りがあるけど、蒼空くんは行かないの?」
父さんが話しかける。
「うん、お見舞いがあるから。」
「……ねぇ、蒼空くん?……蒼海ちゃんの事を気にしてくれているのはわかるけど、蒼空くんもしっかり遊んでいいのよ?」
「そうだよ、蒼空くん。蒼海ちゃんだって、お兄ちゃんが遊んで楽しんでくれるのを思ってくれてると思うぞ?」
父さん達はそういうが、僕としては気が進まなかった。
「お見舞いなら昼間いけばいい。だから、夜はお祭りに行っておいで?そうじゃなきゃ蒼海ちゃんが起きた時に気を悪くしちゃうだろ?」
「……うん、わかったよ」
僕は渋々了承する。多分、こうなった父さん達は僕が行くまで止めない。
食事を終え、僕は舞桜ちゃんへと電話をかける。
内容は、明日一緒にお祭りに行こうと。
電話でそう伝えた時の舞桜ちゃんの声は、どこかわかりきっていたような振る舞いを感じた。




