夏祭り
祭囃子が聞こえてくる。
その音は前世と同じで自然と心が沸き立つ。
カランカランと音を立てながら僕はなれない下駄を履いて待ち合わせ場所へと向かう。
神社へと続く道の入口には浴衣を着た舞桜ちゃんが待っていた。
「ごめん、お待たせ」
「ううん、そんなに待ってないよ。」
決まり文句と言える挨拶を交わしたあと、僕達は神社へと続く道にはいっていく。
「蒼空くん、浴衣可愛いね」
「そうかな?初めて着たからなんだか変な感じだよ。舞桜ちゃんの方こそ、浴衣似合ってるよ。凄く綺麗」
「ありがと、蒼空くん。」
舞桜ちゃんの浴衣は黒い織物にピンクの桜が散りばめられたデザインだった。
夜桜を彷彿とさせるその浴衣はとても上品で綺麗だった。
そして浴衣を着ている舞桜ちゃんもいつもとは違い髪を纏めあげていて、髪には簪が添えられている。
その姿に見蕩れていると舞桜ちゃんと目が合う。
「そんなに気に入ってくれたの?浴衣」
「え?!あっえっと……うん、とっても綺麗だなって……」
見蕩れていたのがバレて恥ずかしい。
しかし、確かに綺麗だったのだ。それはまるで何年、何十年、何百年も時を過ごし大いに咲き乱れる桜のようで。
そんな僕の言葉を聞いて舞桜ちゃんはくすりと笑う。
「そんなに気に入ってくれたのなら良かったかな。蒼空くんの為に着て来たかいがあったよ。」
そう微笑みながらいい前を向く舞桜ちゃん。その横顔に僕は懐かしさを感じた。
僕はこの横顔を知っている気がした。
何年も、何年も見てきた気がする。
「ほら、蒼空くん早く行こ?お祭り始まってるよ?」
「あ、ごめん。そうだね、早く行こう」
舞桜ちゃんは僕の手を掴み歩いていく。僕もそれに続いて足を動かす。
神社に近づくにつれ祭囃子は大きくなっていく。
人通りも増えてきて周りは賑やかな雰囲気に包まれる。
神社に着く。
神社の中は屋台が並び様々な食べ物やゲームがある。
どの屋台も赤い提灯を灯していて、薄暗くなってきた神社の中を明るくしていた。
「蒼空くん、何か食べたい物ある?」
「僕?そうだなぁ……」
屋台を見渡す。目に入ってきたのはかき氷の文字
「それじゃかき氷、なんてどうかな?」
「うん、いいね。かき氷食べよっか」
僕と舞桜ちゃんはかき氷の屋台へ並ぶ。
屋台には様々なシロップが並べられていて、その色合いは虹のように綺麗なものだ。
「いらっしゃい!」
「かき氷2つ下さい」
「あいよっ!可愛い僕におまけして沢山氷入れとくからねッ!」
「あ、ありがとうございます」
屋台を仕切っていたのはお姉さん。額に鉢巻を巻きシャツは肩まで巻くられていた。
日焼けだろうか、肌は小麦色で腕には汗が滲んでいた。
かき氷の機械に大きな塊の氷を入れシャカシャカと削っていく。
薄く削られた氷は器に盛られていき綺麗な山となっていく。
「はい!かき氷2つおまちっ!」
お金を渡しかき氷を受け取る。
受け取ったあと、好みのシロップをかけていく。
「蒼空くんは何味にする?」
「僕はブルーハワイかな。舞桜ちゃんは?」
「私は桃かな。そうだ、後で一口交換しよ?」
「うん、そうしよう。」
シロップをかけ終え屋台から離れる。
ふっと神社の屋台を見渡してみるとどの屋台も切り盛りしているのはお姉さんだった。
おばさんくらいの年齢の人もいるがみな女性なのは変わらない。
お祭り1つでも前世とは異なっているところがあった。
「冷たくて美味しいね、かき氷」
そんな舞桜ちゃんの言葉に意識を戻される。
「うん、やっぱりお祭りといったらかき氷なんだね」
僕もそれに続いてかき氷を口にする。食べなれた味。
甘く爽やかで何度も口にした事のあるその味はとても美味しく感じた。
近くのベンチに腰掛けかき氷を食べながら人混みへと視線を向ける。
やはり女の人の割合がほとんど。男の人は1割程度しかいなかった。
ふと気がつく。男の人は皆浴衣を着ていた。
数が少ないお陰でどの男の人もすぐ目に付くが皆浴衣を着ている。
前世では男も浴衣を着ていたが、全員が着ているというわけではなかった。
そして女性はというと浴衣と私服が半々ほど。
前世との比率でいえば浴衣の割合が少なかった。男女の違いは浴衣にも影響しているようだった。
「蒼空くん、あーん」
「……え?」
舞桜ちゃんがかき氷をスプーンにのせ差し出してきた。
「ほら、あーん?」
「え、えっと……あ、あーんっ」
差し出されたかき氷を口にする。
甘い桃の味が口に広がった。
「美味しい?」
「う、うん。美味しい……」
顔が赤くなる。あーんなんてはじめてかもしれない。
舞桜ちゃんは恥ずかしくないのだろうか?そう思い舞桜ちゃんへと視線を移す。
移した先には先程僕がくわえたスプーンをじっと見つめる舞桜ちゃんがいた。
「……えいっ」
舞桜ちゃんは小さく声を出すとそのスプーンを頬張った。
僕はそれを見てさらに顔を赤くする。
「な、何やってんの舞桜ちゃん?!」
「ふぇ?せっかくらからなめふぇるの」
くわえながら話す舞桜ちゃん。
「…ぷはっ。うん、美味しいよ蒼空くん」
「あ、あはは……」
言葉が出なかった。
「ね、蒼空くんのかき氷も一口頂戴?」
「え?!あっ、うん、どうぞっ」
このタイミングで言われたのに驚きつつも一口スプーンに載せて差し出す。
パクッと舞桜ちゃんは口に含むとニコッと笑っていた。
「うん、美味しい。蒼空くんって感じの味」
「僕みたいな味?」
「うん。だって蒼空くんといったらこの味だもんね?」
確に、僕はかき氷といったらブルーハワイだった。
でも、なぜそれを舞桜ちゃんが?
「ねぇ?蒼空くんは食べないの?かき氷」
舞桜ちゃんは僕の差し出したスプーンを見てそう言った。
先程舞桜ちゃんがくわえたスプーン。
僕は変に意識してしまった。さっきの舞桜ちゃんの行動が脳裏によぎる。
恥ずかしいが、ここでスプーンを拭いたり拒んだりするのは流石に失礼だった。
僕は意を決してかき氷をすくい口に含む。
慣れているはずのブルーハワイの味は恥ずかしさからか感じられなかった。
スプーンをくわえた僕を舞桜ちゃんは満足そうに見つめていた。
かき氷を食べ終えた後、僕達は色々な屋台を回った。焼きそば、金魚すくい、射的に型抜き。
どの屋台も舞桜ちゃんは楽しそうに遊んでいた。
その笑顔を見て僕は蒼海ちゃんのことを思い浮かべる。
「……どうしたの?蒼空くん。なんだか元気ないよ?」
「あっ……ごめん、なんか蒼海ちゃんのことが気になって。」
「……やっぱり心配?蒼海ちゃんのこと。」
「うん、蒼海ちゃんがあんななのに僕はこんな楽しんでいいのかなって。」
すると舞桜ちゃんは僕に近づく。
耳元に口を寄せると舞桜ちゃんは呟いた
「大丈夫だよ……あと2年待てば必ず目が覚めるから」
「……え?」
その言葉を聞き返そうとしたとき、遠くから破裂音がした。
打ち上げ花火だ。
「あ!ほら花火だよ蒼空くん!見に行こう!」
「あっちょっと舞桜ちゃんっ」
舞桜ちゃんは僕の手をつかみ足早に歩き出す。
僕は必死にその足についていく。
歩きなれない下駄で追いつくのは一苦労だった。息もたえだえになりながら着いていくとピタッと舞桜ちゃん止まる。
僕は膝にてをつきながら息を整える。
「っはぁ、はぁ……ま、舞桜ちゃんっ……さっきのことっ……!」
先程のことを聞こうと視線を上げると、そこには夜空一面にさく花々が広がっていた。
「ここね、私しか知らない穴場の花火スポットなんだ。人もいないし、花火も間近で見れるんだよ?」
そう言って舞桜ちゃんは夜空に視線を移す。
幾度となく打ち上げられる花火は夜空に満開の花を咲かせる。
一瞬しか咲かない夜空の花はその儚さと美しさで僕達を魅了していった。
「……ねぇ、蒼空くん?……蒼海ちゃんは大丈夫だよ。蒼空くんの妹だもん。必ず目を覚ますよ。」
花火のさなか僕に向け舞桜ちゃんがそうつぶやく。
「……うん、そうだね。」
その言葉を僕はすっと受け入れていた。
先程まで心の隅で感じていた蒼海ちゃんへの不安が晴れていくような、そんな感じがした。
フィナーレに向けて花火はその豪華さを増していく。
「ね、蒼空くん。……いい?」
「……うん。」
最後の花火が打ち上げられる。
特大の花が夜空に満開となって咲く。
その煌びやかな光に当てられながら、僕達は口づけをする。
舞桜ちゃんからの強引なキスではない。
僕と舞桜ちゃん2人がしたいと思った、そんなキスだった。




