プールサイドから
「とりあえず野上は俺と一輝の後ろに隠れてろ」
「う、うん…」
僕は2人の後ろに隠れながらプールサイドへやってきた。
既に女子は皆揃っていて、後は七海先生だけだった。
2人の後ろにいるためあまり視線は感じない。
しかし、僕達が来たあたりからざわざわとした声は聞こえる。
「うぅ…やっぱり見てくるよ…」
「耐えろ一輝。俺らがどいたらもっと酷いことになっちゃうぞ…」
2人はぴったりと肩をくっつけながら歩き僕をガードしてくれてる。
なんだか申し訳ない…。
「あー…みんな揃ってるわねー…?それじゃあ掃除はじめるわよー」
七海先生がダルそうにしながらやってきて号令をかける。
七海先生ももちろん水着に着替えていて前世でいう競泳水着にパーカーを着ている状態だ。
ジャージかスーツしか見たことがなかったので気づかなかったが七海先生はスタイルがいい。
グラマラスではなくスレンダー。引き締まった美しさ。
「みんなデッキブラシ使って磨いていくのよー。」
まずい。
みんなはデッキブラシを持って掃除を始めようとしているが僕達三人は動く事ができない。
さすがに僕を隠した状態のまま掃除するのは不可能だった。
「ほら男子もちゃんと掃除するのよー?」
七海先生が僕達に声をかける。隠れていられるのもここまでのようだった。
「2人ともありがと。さすがに掃除しない訳にはいかないから、何とかしてみるよ」
「お、おう……気をつけろよ」
「野上くん、絶対に濡れちゃダメだからね?もう、ほんとダメだからね?」
「あはは…な、なんとかなるって!ありがと!」
そう言って僕達はそれぞれ掃除を開始した。
デッキブラシでプールサイドからプール内を磨いていく。
黙々と掃除をしているとふと視線を感じた。
振り返って見るがそこには女子が数人掃除しているだけ。
気のせいかなと掃除を続けると今度は声が聞こえてきた。
「……野上くんの水着やばくない?」
「……尻くっきり浮き出てる…」
「……肌白いしきめ細かい…」
……僕の事を話していた。
そう意識し始めると途端に視線を感じ始めた。
確に女子はチラチラと見てくる。こっちが振り返るとよそを向き何でもありませんよーと言わんばかり。
これが杉田くんや石川くんが言っていた視線か…
何と言うか、前世の中学生みたいだ。
チラチラと女子を意識してチラ見してはバレないように目に焼き付ける。思春期男子のそれをこの世界の女子はしていた。
正直僕も前世ではそれなりに思春期を迎えていてチラ見することもあったがチラ見されるのは初めて。
あまりいい気はしないもんだな見られる方も。
なんというか、焦れったい。
まぁ面白くもある。軽くフェイントをかけるように振り返ると目があってしまい焦る女子の姿は中々新鮮だった。
僕も前世ではこんな感じだったのかと不安にもなるけど。
そんなことをしながら掃除をしていると、ふと舞桜ちゃんと視線があった。
他の女子が遊びながら掃除をしているのにたいして舞桜ちゃんは真面目に掃除をしていた。
「舞桜ちゃん、掃除好きなの?」
「ううん。普通だよ?どうして?」
「いや、ほかの子と比べて真面目に掃除してたから。好きなのかなって。」
「うーん。掃除が好きってより、ほかの子の話についていけなくなっちゃった。」
「え?何か変な事話してたの?」
「うん。蒼空くんのお尻の形だとか、石川くんの足だとか、あとあいつの胸だとか。」
舞桜ちゃんは未だに杉田くんの事をアイツ呼ばわりしていた。
なんとか仲良くしてもらいたいんだけど…
ていうか、女子はやっぱりそんな話ばっかだったのか。
「あー…それはなんていうか、うん。」
「ね?それに、私べつに男の子の身体とか興味ないんだ。」
「……えっと…うん?」
舞桜ちゃんは何か含みのある言い方でそう答えた。
流し目というか、そんな目で僕を見る。
「私は男の子の身体ってより、蒼空くんの身体じゃないと」
「そ、そうなんだ…あ、あはは…」
含みのある言い方ではなくストレートだった。ど真ん中。
どう答えていいかわからず笑ってごまかしてしまった。
好意は嬉しいけど舞桜ちゃんは毎回ストレート過ぎるんだ…小学生とは思えない。
そしてそれに毎回ドキドキさせられてしまう僕も僕だった。何を考えているんだよ相手は小学生だぞと言い聞かせる。
「…そういえば蒼空くん、なんだかさっきから胸隠してるけどどうかしたの?」
「うぇえ?!そ、そんなことないよっ?!」
濡れないようにと隠しながらやっていたのを言い当てられる。
さっきの会話の流れからか驚いてしまった。
「……蒼空くん?」
「ほ、ほんと!なんでもないから!掃除しよ掃除!ほら水をまい…うわぁっ!」
慌てて水を撒こうとして水道を捻ったため、ホースが暴れてしまった。
僕も舞桜ちゃんもホースから出た水をかぶってしまった。
「っご、ごめん舞桜ちゃん!大丈夫?!」
「うん、大丈夫。ちょっと水がかかっちゃっただけだか………」
「うん?」
何かを言いかけて止まる舞桜ちゃん。
黙ったままじーっと僕を見つめ…いや、凝視していた。
何かと思い自分の身体を見る。
「…うわぁっ!」
水に濡れた僕は上着がぴったりとしていた。
肌に張り付いた上着の胸元からはくっきりと二つの突起が浮き出ていた。
「……蒼空くん、それ……」
「ご、ごめんね!なんでもないんだ!うん!ほんと!気にしないで!」
慌てて手で隠す僕。
それでもなお舞桜ちゃんは凝視している。
「………ねぇ、たしか男の子ってパッドつけてるはずだよね…?」
「えっと……わ、忘れちゃって…」
沈黙が流れる。
「……蒼空くん。」
「な、なに?」
「……………今すぐ保健室に行って、早く。」
「え、ええ?ど、どうして保健室に…」
「はやく。じゃないと、私でも我慢できないから…」
「が、我慢?」
何を我慢するのか?
それを聞こうと一歩近づこうとしたが
「待って!動かないで!」
「は、はいっ!?」
「ほんとに早くして!今の私には我慢できないから!!」
「は、はいっ!」
僕はそう言われ急いで保健室へ向かった。
プールサイドから出ていく間際、チラッと舞桜ちゃんの方を振り返る。
そこには肩をぷるぷると揺らし、下唇を強く噛み締めながら僕をじっと見つめる姿があった。
今度からちゃんとパッドつけてこようと心に誓って僕は保健室へと向かうのだった。
いくら舞桜ちゃんでも見せつけられりゃ我慢もできなくなるってことさ




