水着
片付けを終えてリビングへ向かうと既に母さんは舞桜ちゃんを送って戻ってきていた。
「あ、お帰り母さん。送ってくれてありがとね」
「ううん。いいのよそんなこと。それより…」
「ん?なに?」
「……随分あの子…舞桜ちゃんと仲良かったみたいだけど、どういう関係なの?」
「えぇ?ど、どういうって……ただの友達だよ?」
好きだと言われ、キスも何回かしているのにただの友達というのはいささか抵抗があった。
「ほんとに?何か隠してない?」
「ほ…本当…だよ?」
「そう…ならイイんだけど」
もしかしたらバレてるのかとヒヤヒヤしたが大丈夫なようだった。
流石に母さんといえどキスされたんだよとは言えない。
いや、母さんだからこそ言えない…言ったら暴走しそうだし。
「蒼空くんは舞桜ちゃんのことどう思ってるの?」
「どうって?」
「友達としてってことよ」
「うーん…仲はいいと思うよ。初めての友達だし。僕のことも気に入ってくれてるみたい」
「気に入ってる……ね…。」
「うん?」
「ううん。なんでもない。さ、ご飯にしましょ?パパが美味しいの作ってくれてるわ」
母さんは何か考えている様だったが教えてはくれなかった。
月曜日、いつものように学校へ向かう道の途中に星野さんと一緒になった。
「おーおはよー野上くーん。」
「おはよう星野さん。珍しいね一緒になるなんて」
「うん。今日はぷーるそーじだから早くきちゃったんだー」
「あ、そう言えば七海先生そう言ってたね」
先週の金曜日、帰りのホームルームで七海先生が言っていたのを思い出す。週明けにプール掃除をするから水着を持ってくるように言われていたのだ。
「お兄ちゃん、その人だれ?」
横にいた蒼海ちゃんが聞いてくる。
どことなく不機嫌な様子。
「あぁ蒼海ちゃんは初めてだったね。同じクラスの星野美奈さん。学級委員なんだ。」
「よろーしくー」
「星野さん、この子は僕の妹で蒼海っていうんだ。一つ下の四年生だよ。」
「……よろしくお願いします…」
挨拶もどことなく敵意が含まれていた。
「へぇーーこの子がうわさの妹さんなんだねー。野上くんみたいに美人さんだぁー」
「あの…お兄ちゃんと一緒にしないでもらえますか?」
「えーー?いやだったー?」
「いえ、わたし何かと同じレベルにお兄ちゃんがいるわけないです。お兄ちゃんはわたしよりはるかに美人です。というか比べるのもおこがましいです」
「おーなんだかむつかしいこと言うねー?えーと、野上くんがすごいってことでいーのー?」
「はい、すごいです。」
「あの……僕そんな凄くないから。蒼海ちゃんのが綺麗だし可愛いよ」
「お、お兄ちゃんっ!私なんかに気を使って…さすがお兄ちゃん!!」
「仲がいいんだねーふたりともー」
「そうです、仲いいです私達。なので、星野さんが入る隙間なんてありませんから」
「う、蒼海ちゃん…」
結局、学校につくまで三人で話をしていたが蒼海ちゃんの敵意が消えることはなかった。
教室に入ると僕と星野さんはまず杉田くんの席へ向かう。
「おはよう杉田くん」
「おはよー正人ー」
「……おはよう」
いじめが収まった以降も星野さんだけではなく僕も挨拶する様にしている。
いじめが再発しないようにという保険もあるが、なにより僕が杉田くんと仲良くしたいのは変わっていなかったからだ。
あれから毎日挨拶するようになって、初めは無視されていた僕も今では挨拶を返してもらえるようになっていた。
徐々にでも杉田くんに心を開いてもらえるといいなと思う。
挨拶を済ませると自分の席へ向かう。
隣の席には既に舞桜ちゃんが座っていた。
「おはよう舞桜ちゃん」
「おはよう蒼空くん。この前はありがとね。ごちそうさま」
ごちそうさまとは父さんのご飯のことだろうか?それともキスのことだろうか?
……前者に決まってる。
「ううん。父さんも料理美味しく食べてもらえて喜んでたよ。」
「うん。料理も、美味しかったよ。」
「……うん、そうだね。」
まさかの後者だったらしい。
五年生だというのに舞桜ちゃんは考えから行動まで大人のそれみたいだ。
僕なんかより中身が大人なのかと疑ってしまう時もある。
キーンコーンカーンコーン
予鈴がなりみんな席についていく。
七海先生が扉を開けて教室に入ってきた。何やら額を抑えている。
……二日酔いだろうか?
「……はーい、おはようございます。」
元気のない声。おそらく大きい声を出すと頭に響くのだろう。
「「「「おはようございまーす!!!」」」」
「っ!ぃっつぅ…」
七海先生が小さく挨拶したとしてもクラスのみんなは元気に挨拶を返す。
その声に七海先生は頭を揺らされ痛みに耐えているようだった。ご愁傷様です七海先生
「…はい、それじゃあ今日はプール掃除をしますから、みんな水着に着替えてプールまで来るように。」
「「「「はーいっ!!」」」」
「っっっ!!」
先生は眉間に大きなしわを寄せて今日から出ていった。
クラスのみんなは掃除とはいえプールにいけると元気にはしゃいでいた。
「よーし、それじゃ着替えよ」
「はやくはやくっ」
「へへー私着てきたもんねー」
各々話しながら着替えを開始した。
「っ!!」
その光景に僕は驚いてしまう。
女の子たちはためらうことなく上着を脱ぎ捨て、下着まで脱いだのだ。タオルで隠そうともせずに。
これまで体育着に着替えていたときは中にシャツを着たままでそこまで意識する事はなかったが水着はそうはいかなかった。
まだクラスに僕や杉田くん、石川くんもいるというのにお構いなし。
なんとも豪快に着替えていく女子たち。
いくら小学生の裸といっても直視するのは恥ずかしい。
どうしようかと顔を赤らめてしたを向いているとポンと背中を叩かれた。
「……なにしてんだよ、ほらいくぞ」
「え、あっうん……」
杉田くんが僕の手を引き教室から出ていく。もちろん石川くんも一緒に
「ったくあいつら、俺らが居るのにあんなもん見せびらかし気持ち悪いんだよっ」
「しょうがないよ…女の子だもん…」
杉田くんと石川くんは女子への不満を漏らしていた。
「…えっと、ありがと杉田くん。連れ出してくれて。」
「……べ、別に助けたわけじゃないからな…」
杉田くんはそう言うと照れくさそうに顔を背けてしまった。
……やっぱり、根はいい子なんだ。
この調子ならすぐに仲良くなれるかもしれない。
「ふ、ふたりとも…早く更衣室いって着替えようよ…」
「あっごめんね石川くん。急ごう」
僕達は急ぎ足で更衣室へ向かった。
更衣室に入り着替え始める僕達。
男子の水着は前世のようなVパンツのような物ではなく、下はトランクス。そして上に水着のシャツというものだった。
この世界では男の胸はおいそれと出すものじゃない。もちろん水泳でもだった。
「はぁ…プールって嫌だよなぁ…」
「うん…女子たちが居なければいいんだけどね……」
「え?ふたりともプール嫌いなの?」
2人がプールについて不満を漏らしていたので聞いてみた。
僕の記憶では前世の女子も男子もプールを好きだったはず。
「嫌っていうか…女子の視線がな…」
「野上くんは初めてなんだよね?……すごいんだ、女の子たち。じーっと見てきて」
2人はそういうとため息をつく。
あの楽しいプールを嫌にさせるほどの視線……。
「とりあえず、気をつけてね野上くん」
「うん、ありがと石川くん…」
「………あれっ?!お前パッドは?!」
「え?」
杉田くんが驚いた様子で僕を見てくる。
パッド……あっ。
「あーっ…忘れちゃった…」
「おまっ!ばっかじゃねーの?!それじゃできないじゃんか!」
「え、そんなに重要なの…?シャツ着てるし目立たないって。」
僕はあっけらかんと答える。
確に父さんが買ってきた水着セットのなかにパッドみたいなのはあった。
が、付け方を考えてるうちに寝てしまいそのまま袋に入れずに来てしまったのだ。
「えぇ?!野上くん、さすがにそれは…」
「だ、大丈夫だよ!たぶん!」
2人とも大げさに心配しすぎだ…
今日はあくまで掃除だし、たとえ濡れても透けたりなんかしない。
ニップレスは……まぁ気にすることでもないだろう。
「し、知らないからな!俺達はっ!」
「ほ、ほんとに大丈夫かな野上くん…」
心配する2人をよそに僕は着替えを終わらせる。
「大丈夫だって!さ、プールに行こう!」
更衣室を出てプールへ向かう僕達。
このあと僕は、この世界についてまたひとつ学ばされるのであった。
今の小学生はVパンツなんか履かないらしいね…
しっかりとトランクスらしいね…
俺の時はしっかりVパンツだったのに(´・ω・`)




