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油断


「「ただいまー」」


「おかえりー2人とも。」


僕と蒼海ちゃんが家に帰ってきた。

結局あの後舞桜ちゃんに断ることもできず、放課後を迎えたのであった。


「ねーお兄ちゃん?なんか元気ないけど大丈夫?」


「ん?あ、うん…ちょっと考え事してただけだよ。大丈夫」


「ほんとー?」


蒼海ちゃんは心配そうに顔を覗き込んでくる。

舞桜ちゃん程ではないが蒼海ちゃんも僕に関して鋭い所がある。

舞桜ちゃんのことで悩んでいた事を蒼海ちゃんは感じ取ったのだろう。


「2人とも手洗っておいでー?おやつのケーキ出来てるよー。」


父さんがテーブルに紅茶とケーキを並べている。

甘くフルーティな香りの紅茶にフルーツいっぱいのタルト。

タルトは父さんの手作りのものだ。とても手作りとは思えないほどのクオリティが見るだけで伝わってくる。


「ほ、ほら蒼海ちゃん!手を洗ってこよう!」


「あ!待ってよお兄ちゃんー!」


僕は話をそらすように洗面所へと向かうのだった。



おやつを食べ終わり僕は自室に戻っていた。

退院した頃とは違い生活感のある部屋になった。

机に向かい宿題をやりながら週末のことを考える。


舞桜ちゃん…僕のことが好きだと言った。

理由を聞いても思い出すまではと…一体なんだ?

たしか、舞桜ちゃんと初めて会ったのは生まれてすぐだった。まだお互い乳幼児で、親に抱っこされながらの対面だった。

指を舐められたのにはビックリしたけど…まさか、その事を思い出してと言っているのだろうか?

…………いや、それはない。たしか舐めたことを舞桜ちゃんは反省するようなことを言っていた。


いつだっけ…そうだ、僕が目覚めてからすぐだ。

そういえば、あの時なんで僕は舞桜ちゃんの名前を言えたんだろう?

たしかに舞桜ちゃんという赤ちゃんは知っていたけど、あの時あった舞桜ちゃんは赤ちゃんの時から大分変わっていたしひと目であの赤ちゃんだとは気づかない。

でもあの時すっと舞桜ちゃんと呼べたのだからどこかで舞桜ちゃんの面影を感じたのか?それとも指のインパクトが強すぎて脳が勝手に思い出したとか…


だめだ、自分でもさっぱり。


とにかく舞桜ちゃんの思いにしっかりと向き合うためにも早く思い出さないと…。

好きと言ってくれたことは嬉しかったし、何故だかそれを受け入れている僕がいる。

僕も知らぬ間に舞桜ちゃんのことを好きになっていたのだろうか?

いや、だめだろ。相手は小学生。

一方僕は体こそ舞桜ちゃんと同い年だが中身は倍近い。

そんな僕が今の舞桜ちゃんに恋するなんて…なんだか恥ずかしい。

舞桜ちゃんは他の子と比べて考えが大人というか、なんでもわかっているような雰囲気ではあるがそれでもやはり5年生なんだ。

あの強引なアピールもそんな幼さ故のものかもしれない。


舞桜ちゃんのことを考えていてふと気になっていたことを思い出した。

蒼海ちゃんだ。


何故だか舞桜ちゃんと蒼海ちゃんは面識があるようだった。

そして、蒼海ちゃんは確実に舞桜ちゃんのことを怖がっている。

特に何かされたとは言っていなかったけどあの怯え方は相当だ。


何回か蒼海ちゃんに舞桜ちゃんに何かされたのか聞いたのだが、帰ってくる答えはいつも一緒で「何もされてない」だった。

舞桜ちゃんが脅したりいじめをするような人ではないとわかってはいるが、少し心配になってしまう。

蒼海ちゃんが怯えているところを見ると守らないとという気持ちが異常に出てくる。

兄として、人として怯えているのを守らないとと考えるのは普通ではあるのだが、それが自分が思ってるより強い。

守らないとというより、蒼海ちゃんにあの顔を…怯えている表情をさせてはいけないと思ってしまうんだ。

だから出来れば舞桜ちゃんとの間に何があるのか知りたいし、どうにかしてあげたい。


今週末に、その問題が解決できるといいけど…。



「たっだいまぁー!ママが帰ってきたわよー!」


玄関から母さんの声が聞こえてきた。

僕は宿題を中断し玄関へ向かう。


「おかえりなさい、母さん。」


「ただいまぁー!蒼空くん!」


ぎゅーっと僕を抱きしめる母さん。

抱きしめられるとつけているブラジャーが食い込んで痛い…。

「んー蒼空くん分を補給できてママ幸せ!あとは〜」


「ママー!おかえりー!」


「んー!蒼海ちゃんただいまぁー!」


今度は蒼海ちゃんを抱きしめる母さん。

このハグはもう日常になっていた。

蒼空くん分、蒼海ちゃん分の補給と言いながら母さんは代わる代わる僕達を抱きしめ帰って来たことを報告。

しばらく抱きしめた後…


「おかえり、渚」


「ただいま響っ!」


父さんがエプロンをつけたまま玄関にやってくると、母さんは僕達を離して父さんに抱きつく。


「響ぃーつかれたぁー!」


「はいはい、お仕事お疲れ様。」


「ね、ちゅーは?お疲れ様のちゅーは?!」


「し、な、い。早く手洗って着替えてきなさい。ご飯、あったかいうちに食べよう。な?」


「ちぇっ……」


毎回の事キスをねだるのだが、ほとんど断られている。

たまに、ほんとたまにキスしてもらえる時もあるのだがその日は一日中母さんは上機嫌になる。

そしてその日は僕と蒼海ちゃんは早く寝かされる。

僕や蒼海ちゃんがまだ幼くわからないと思ってそうしているんだろうが、残念なことに僕には理解できてしまった。

なんともいたたまれないような気持になるが夫婦円満なのは素晴らしいことだ。

今、僕達家族は幸せというのを実感していると思う。

こんな日常が送れるのも母さんや父さんのおかげだ。感謝は忘れない。


夕食を四人で囲んだ後、僕はお風呂に入ることにした。

色々考えていたが結局まとまらず、一旦さっぱりしようと思った。


脱衣所で服を脱ぎ、浴室の扉を開けようとした。

その時だった。開けようとした扉が触れる前に勝手に開かれる。

扉の向こうにはさっぱりとした表情の蒼海ちゃん。

その前には全裸の僕。


「ご、ごめん!蒼海ちゃん!入ってるの知らなかった!」


バッと後ろを振り向く。

しまった…蒼海ちゃんが先に入っていたのか…。

いくら兄妹と言っても蒼海ちゃんはもう四年生。

男の僕に裸を見られたくないはず。

僕はそう思いとっさに後ろに振り返り目線をそらした。裸のまま。


形としては蒼海ちゃんにお尻を丸出しな状況。

いくら男の僕でも恥ずかしいとは思うが、蒼海ちゃんのを直視するよりはましだ。


「ご、ごめん蒼海ちゃん!た、タオルかなんかで身体隠してくれないかな?!」


僕は蒼海ちゃんにそう言ったが肝心の蒼海ちゃんから返事がない。

そもそも扉が開き僕と裸で向き合った時点で僕は叫ばれるっ!と思ったのだがそれもなかった。


「う、蒼海ちゃん?聞こえてる…?」


返事がない。


「う、蒼海ちゃ〜ん…?」


僕は不自然に思い恐る恐る後ろを振り返る。

するとそこには…


「う、蒼海ちゃん?!大丈夫?!」


鼻血を流しながら棒立ちになっている蒼海ちゃんがいた。


「蒼海ちゃん?!蒼海ちゃんっ?!」


僕は不安になり蒼海ちゃんの肩をつかみゆする。

もしかして…のぼせていたのか蒼海ちゃん?!


「蒼海ちゃん?!蒼海ちゃっうわぁっ!」


大丈夫かと蒼海ちゃんを揺すっていると、鼻血が勢いを増して吹き出した。

プシャッと音がするくらい。


「蒼海ちゃん?!っ!母さん!母さぁーんっ!!」


どたどたと走ってくる音。

脱衣所の扉が勢いよく開かれる。


「ど、どうしたの蒼空くんっ?!」


「あっ母さん!大変なんだ蒼海ちゃんが…」



その時のことを後で母さんはこう語った。「裸の天使と愛する娘が裸の血まみれで倒れていた」と。



「か、母さん?!」


扉を開けるなりふっと倒れる母さん。一体何が…


「蒼空くんー?一体どうし…」


先ほどの声を聞いたのか父さんが来た。


扉を開いた父さんの目に写ったのは、裸のまま血まみれな僕と裸で鼻血を出している蒼海ちゃん。

そして扉の前で倒れている妻。



結局

父さんが警察を呼ぼうとしたのを止めるのに5分

状況を説明し終わるのに10分

蒼海ちゃんの鼻血が止まるのに20分

母さんが復活するのに30分かかったのだった。



ラッキースケベ属性は蒼海ちゃんのものになりました

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