仲良く
「今の会話、録音したから」
更衣室の扉の前
無表情で舞桜ちゃんはそう言い放った。
「わかる?これ、クラスのみんなに聞かせるから。それじゃ」
「……っ?!ちょっ!待ってっ!」
杉田くんが止めようとしたが反応が遅れたため、出ていった舞桜ちゃんを止めることができなかった。
締められた扉の前で杉田くんは座り込んで項垂れていた。
「なんだよ…なんなんだよあいつ!なんで聞いてるんだよ!なんでわかった!?………そうか、お前か!野上がそうしろって言ったんだな?!」
僕と舞桜ちゃんが仕組んだと思ったのか杉田くんは僕に向かって掴みかかってきた。
小学生とはいえもう五年生にもなる。人一人押す力は備えていて、そして僕はひ弱な部類。
掴みかかってきた杉田くんになす術なく押し倒された。
「お前がっ!お前が来なければ!」
そう言って殴ろうと手を振りかざした時、再び更衣室の扉が開く。
「何してるの!やめなさい!!」
七海先生だ。おそらく舞桜ちゃんが呼んできたのだろう。
七海先生は駆け寄り僕から杉田くんを離す。
杉田くんは暴れていたが大人に敵うわけもなくすぐに引き離された。
引き離された後の杉田くんは敵わないと悟ったのか抵抗をやめて黙ったまま座り込んでいる。
杉田くんが落ち着いたのを確認した七海先生は僕へ駆け寄り声をかけてきた。
「野上くん?!大丈夫だった?!」
「は、はい…七海先生が来てくれたので大丈夫でした。」
「そう…岡部さんに言われて飛んできて正解だったわ。……野上くん?杉田くんにイジメられていたというのは本当なの?」
「…それは、舞桜ちゃんが言ってたんですか?」
「ええ。岡部さんが、野上くんがいじめられてるから直ぐにきてくれって。」
そうか。舞桜ちゃんは七海先生に録音したのを聞かせたわけじゃないんだな。
そうなると大事にはしないで済むかもしれない。
「…七海先生、ちょっと誤解が―――」
僕は七海先生に嘘をついた。
今回の事は僕と杉田くんの単なる喧嘩で、いじめとは関係ないと。
男の子同士でなぜ喧嘩なんてしたのと七海先生に不思議がられたが理由をつけて誤魔化した。
たしかに男女の関係性が逆転している以上、男の子同士で取っ組み合いなんか普通はしないだろう。気を付けなければと思いつつ必死に理由を考えた。
僕が七海先生を誤魔化している間、杉田くんは不思議そうに僕を見ていたが特に口を開けることがなくて助かった。
僕は、このことを僕と杉田くん以外に知らせるつもりはなかった。
もっというと、イジメとして問題にしようだとか杉田くんに仕返しをしようだなんて考えていない。
杉田くんの幼さと気持ちを僕は理解できるからだった。
当たり前だった事が突然誰かに壊されて、ぐちゃぐちゃになって。
必死に自分の居場所を守ろうとして、でもその方法がわからなくて。
そして、いじめに走ってしまう。
年齢が同じであればこんな事考えないだろうけど僕は違うから…。
「まったく…ちゃんと仲直りするのよ?いいわね?」
七海先生は僕の話を信じてくれて、そう言って出ていった。
取り残された僕と杉田くん。
「……お前……なんのつもりだよ。」
「僕?…僕はただ、杉田くんと仲良くしたいだけだよ」
「は?なんだよそれ。気持ちわりぃ」
「はは…そうだよね。でも僕は杉田くんと仲良くしたいんだ。…僕ね、男の子の友達がいないんだ。」
「それがなんだよ?だからって俺と仲良くする必要なんてないじゃんか」
「うん…なんていうか、杉田くんって男の子って感じがするんだよね。」
そう、杉田くんは僕から見てこの世界で初めて男の子と言える存在だった。
声は大きいし、休み時間には駆けっこして遊んでるし、擦り傷だって沢山ついてる。
前世では当たり前にいた小学生の男子。それが杉田くんだった。
「…それ、嫌味か?」
「え?」
「お前、俺が女みたいな性格してるの知っててそう言ってんのかよ?!」
「い、いや!そんなつもりじゃ…」
「やっぱりお前俺のこと馬鹿にしてたんだな!七海先生に黙ってたのも俺の弱みを握るためなんだろ!」
「そんなんじゃないよ!僕はほんとに…」
「うるさい!お前となんかもう二度と話すもんか!」
そう叫ぶと杉田くんは勢いよく更衣室から出ていった。
一人取り残される僕。
女みたいな性格…そんな言葉が頭に響く。
よく考えればわかることじゃないか。
僕の考える男の子って、この世界じゃ女の子なんだ。
そんなことも考えずあんなこと言って杉田くんの逆上を買ってしまった。
なんてフォローするべきか考えながら更衣室を出るとそこには舞桜ちゃんが立っていた。
「あれ、どうしたの舞桜ちゃん?」
「七海先生が蒼空くん遅いから呼んでこいって。」
「あ、そっか。ごめんね、すぐ行くから。」
「ううん。それより、さっきは大丈夫だった?」
舞桜ちゃんは不安そうな目をしながら見つめてくる。
「うん。大丈夫だよ。それより、さっきはたすけてくれてありがとう。……いつから。僕が杉田くんにいじめられてるって気づいてたの?」
たまたまあの場に居合わせたという訳じゃないはず。
録音の準備までしてきて、用意周到というか計画的というか…
「学級の…掃除決めの時かな。おかしいなって思って、つけてみたら蒼空くん上履きとかに嫌がらせされてて。」
「それで録音を?」
「うん。二人っきりになったらきっとあいつ蒼空くんに何かすると思ってたから。ごめんね、すぐに入らなくて。」
「ううん大丈夫だよ。……それより、お願いがあるんだけど…」
「なに?」
「あの録音さ…消してくれないかな?」
「………?どうして?」
「うんと…僕ね、杉田くんと仲良くしたいんだ。だから、あの録音は誤解されちゃったりするから…」
「誤解じゃないでしょ?」
「…うん。そうなんだけど、それでも僕は――」
「ごめん、蒼空くん。あれ、さっきクラスのみんなに聞かせちゃった。」
「……え?」
「七海先生が蒼空くんを助けに行ってる間にみんなに聞いてもらったの。あいつが蒼空くんに何をしたか。なんてことをしたのかって」
「そんな……それじゃあ杉田くんはっ!」
「さぁ?私にはよくわからないけど、きっと大変なんじゃないかな?」
「なんで…そこまでしなくたってっ!」
「なんで?そんなの決まってるでしょ?蒼空くんを守るためだよ。」
「……え?」
「あいつは蒼空くんを傷つけたでしょ?だから、それを理解して懺悔してもらおうと思ってみんなに教えたの。そうすればあいつもわかるでしょ?」
「ぼ…僕のためって…そんな…」
「蒼空くんも、どうしていじめが始まってすぐ助けを求めなかったの?どうして一人で抱え込もうとしたの?」
「そ、それは…杉田くんと…」
舞桜ちゃんはだんだん僕に近づいてくる。
「違うでしょ?あいつがやったってわかったのはいじめが始まってから少し経った後だもん。…どうして一人で抱え込んだの?」
「…だって…助けてなんて…僕は――」
男の子だから…
「……男の子だから、でしょ?」
舞桜ちゃんが僕の思ったことをそっくりそのまま口にした。
「っ?!」
「驚いてる。やっぱり、図星なんだ?」
「べ、べつにそんなつもりはっ!」
「あのね、蒼空くん?蒼空くんは、"男の子"なんだよ?…………一人で抱え込むなんて、そんな女の子みたいな強い事、しなくていいの。」
「い、いや…僕は男の子で…男の子だから…」
僕は舞桜ちゃんに言い当てられてテンパっていた。
考えがまとまらない。
舞桜ちゃんの言葉が頭の中で響く。
ずんずんと頭が痛む。
「男の子は、女の子に守られていればいいの………お姫様みたいにね。」
ギュッと桜の匂いに包まれる。
頭の痛みが無くなり、こんどは心地よい感覚に包まれていた。
「……ね?蒼空くん?蒼空くんは、女の子……私に守られていればいいんだよ…」
そう耳元でつぶやく舞桜ちゃんを僕は抱き返すことができなかった………。
蒼空くんは平和主義………という訳ではありません。
今回がただ理解できたというだけです(´・ω・`)
今後認められないことも…




