連鎖
僕は保健室で休むことにした。
先程までの頭痛のことと、杉田くんについて一旦整理したかった。
舞桜ちゃんはクラスのみんなに聞かせちゃったと言っていた。
恐らく本当だろう。嘘をついているような感じではなかったし、そもそも嘘をつく理由がない。
問題はどこから録音されていて、クラスのみんなにどのようにして伝わったかだ。
場合によってはまだ誤魔化せるかもしれない。
まずはクラスに戻り現状を確認しないと。
僕は次の時間から教室に戻ることにした。
1時間経ち、授業の合間の休み時間に僕は教室へと戻った。
中に入るとクラスメイトが大丈夫?と声をかけてくれる。
正直距離を置かれたり腫れ物のように扱われると思っていたがそうでもなかった。
大丈夫だよと声をかけながら自分の席に着く。
「蒼空くん、頭痛はもう大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ、ありがとう。」
舞桜ちゃんが心配そうに聞いてくる。
今舞桜ちゃんにどうやってクラスのみんなに聞かせたのかを聞ければ楽なのだが、そんなことできるはずもなく。
ふと僕は杉田くんが居ないのに気がついた。
「ねぇ?舞桜ちゃん。杉田くんはどうしたの?」
「え?…あぁ、なんか早退するって帰ったよ?」
早退…確かに、あんな事があったら僕と顔合わせづらいよな…
弁解しようと考えていたが、明日以降になりそうだった。
僕はその後周りに心配の声をかけられながら放課後まで過ごした。
放課後、蒼海ちゃんが迎に来て帰る。
帰り際にふと杉田くんの席の周りに女の子達が集まっていたのだが蒼海ちゃんに手を引っ張られている僕はそのまま帰るしかなかった。
翌日、蒼海ちゃんと学校へ向かう途中に舞桜ちゃんと一緒になった。
蒼海ちゃんは僕の後ろに隠れてしまう。
「おはよう蒼空くん。大丈夫?」
「おはよう。大丈夫って、昨日のこと?」
「うん。蒼空くん、気にしてたみたいだし…」
「僕は大丈夫だよ。それより、杉田くんの方が…」
「…………ねぇ?蒼空くん?言っておきたいことがあるんだけど…」
「なに?」
「……蒼空くんは、黙ってみててね?」
「…え?どういうこと?」
「教室についたらわかるよ。…蒼空くんは、何もしちゃダメ。じゃないと。また蒼空くんが傷つく。」
「…ごめん、なんのことだか…」
「ううん。いいのそれで。とにかく、何もしないで。それだけだから」
そう言い残して舞桜ちゃんは先に行ってしまった。
後ろに隠れていた蒼海ちゃんがほっと息を吐いて安心している。
僕はなんだか胸騒ぎがして、いつもより急ぎ足で教室へ向かった。
僕の胸騒ぎは的中した。
教室に入って真っ先に目についたのは、杉田くんを囲むようにして立っているクラスメイトの女の子達。
何事かと思い近づいてみると、会話が聞こえてくる。
「杉田っていじめとかしてたんだ?さいてー」
「女みたいな男だと思ってたら、やることはひきょーなことだっんだね!」
「やめなってーこいつ女男なんだから、すぐ殴りかかってくるよっ」
「うわーこわーい。男なのにそんな乱暴なことするんだ!ありえない!」
耳に入ってくるのは、杉田くんを罵倒する声。
罵倒の仕方が小学生のそれで僕には遊んでいるのかと思ってしまうが、違う。
中心にいる杉田くんは目に涙をためてひたすら耐えているようだった。
最悪の結果だった。
これは間違いなくいじめだ。それも、人数が多い。
恐らくクラスのほとんどの女の子達が加担しているのだろう。
杉田くんの周りには居ないものの、席からその様子をみてケラケラと笑っている女子もいればたった今教室に入ってきて何があったのと興味津々に聞いては笑っている。
僕はこうなることが想像できていた。だからこそ、大きな問題にしたくなかった。
僕へのいじめはクラスの総意ではなく杉田くん個人の嫉妬によるもの。
しかしこれは違う。杉田くんといういじめをしていた者に対するクラス総意のいじめだった。
厄介なことにイジメられている杉田くんにはいじめていたという悪事がある。
それに対する制裁という後ろ盾と大義名分がいじめている側には存在してしまっている。
いじめている側に罪悪感が生まれにくい環境。いじめを正義だと勘違いしてしまっている。
もう少し精神が大人になればこの事態に介入しないという選択を取れるが、クラスメイトは皆小学生。
悪があればそれを滅する。そんな幼い正義感がクラス全体に広まっていた。
このままでは確実に杉田くんは不登校になるだろう。
きっとそれまでいじめは止まらない。杉田くんという悪を無くすまでその歪んだ正義感は無くならない。
ならどうするか…杉田くんを悪じゃなくすればいい。
僕が誤解だと言えば。
僕はそう思い杉田くんの席へ行こうとする。しかし
「ねぇ?蒼空くん?朝言ったこと覚えてる?」
「ま、舞桜ちゃん…」
舞桜ちゃんに止められた。
手を握られ、杉田くんの方へ向かおうとする身体を引っ張られる。
「っ!離して舞桜ちゃん!杉田くんがっ」
「蒼空くんが今更何を言ったところで、止まらないと思うよ?」
「っ?!」
「蒼空くんが今、あの子達に『あれはいじめじゃない』なんて言ったらあいつを庇って言ってるって思われておしまい。」
「そ、そんなことっ」
「あるんだよ。…むしろ、そう言えってあいつに脅されたんでしょって誤解されて今よりもっと悪くなる。」
「そ、それは…」
実際問題、その可能性は高かった。
クラスメイトにあれは間違いだったと言ったとして、既にいじめは始まってしまっている。
もし間違いだと女の子達が認めてしまえば、自分達が杉田くんに行った行為が間違い…悪だったということになってしまう。
正義のためと大義名分をもっていじめていた彼女達がそんなこと認められる筈がない。
認められないなら、杉田くんが悪だという事実をまた作らないといけない。
そして、脅されていっているという解釈に行き着きまた正義のもとにいじめを繰り返す。
彼女達の行為を間違いだったと言って止めることはもう不可能に近いのだ。
でも僕はそれを認めたくなかった。
誰にだってある嫉妬というささいな感情のせいで一人の男の子がダメになりかけている。
そんなことを黙って見過ごすなんて…
それに、これは僕のせいでもある。
僕がこのクラスに来たからこそ杉田くんの居場所は壊され歪んでしまった。
僕が更衣室なんかであんな話をしなければ、舞桜ちゃんにも知られることはなかったのに…
「ねぇ?蒼空くん?自分のせいでとか思ってない?」
「?!」
まただ。舞桜ちゃんは僕の思っていることを手に取るようにわかっている。
「これはね、蒼空くんのせいじゃなくて必然だったんだよ。……たとえ蒼空くんがこのクラスに来なくたって、いずれ違う転入生が来たかもしれない。そうなればその子が今の蒼空くんのようになるし、あいつもそうする」
「そ、そんなの…」
「もしそうなった時、蒼空くんはその子のこと責められる?お前が転入してきたからだって言える?」
「…言える訳ない…そんなの…」
「ほらね。そう言う事なんだよ。蒼空くんのせいでもないし、蒼空くんが責任に思うことじゃない。全部あいつの自己責任なの。」
たしかにそうだが…彼はまだあんな歳で、そんなことまで考えられなくて…
「歳とか関係ないよ。自分がした事の責任は自分で取るしかないの。……あいつは蒼空くんに嫉妬なんかして、そのツケが回ってきただけ。」
「で、でもっ!」
「あとね、蒼空くん。これはあんまり言いたくないんだけどね…」
「…な、なに…?」
「いじめを見つけて助けた私の立場はどうなるのかな?………もし間違いだってなった時、その間違いを教えた私はどうなっちゃうのかな……?」
ハッとした。
そうだ。いじめだと見抜き、助けてくれた舞桜ちゃんの気持ちはどうなる。
さっきから僕が言っていたことは舞桜ちゃんに助ける必要なかったと、余計な事をしたなと言っているようなものじゃないか。
そして、舞桜ちゃんの言う通り間違いだったとなったらその標的は伝え広めた舞桜ちゃんに向くだろう。
いじめていた杉田くんと、純粋に助けてくれた舞桜ちゃん。
どちらがイジメられてはいけないかなんて考えるまでもない。
「……ごめん、舞桜ちゃん…」
「ううん。いいの。蒼空くんがわかってくれればそれで。私こそごめんね?こんな…脅すようなこと言って。」
僕はなんで助けようとしてくれた人に謝らせているんだ…そんな事で、男の子と言えるのか…
「安心して蒼空くん。……私が守ってあげるからね。」
そんな舞桜ちゃんの言葉に僕は情けなさを実感していた。
そんな時、教室のドアが開く。
また一人生徒が登校してきた。すると、その生徒は杉田くんの席へと向かっていった。
「おーーみんな集まって何してるのーー?」
「あっ!美奈ちゃん!聞いてよ杉田がイジめしててさー」
「へぇーー」
その生徒……星野美奈さんは友達に事情を聞いていた。
あぁ…また一人、イジめに加わると僕は思った。
「ね!酷いでしょこいつ!」
「うーーんと……まぁ正人だしっ」
「…え?」
同意を得られると思ってた友達は思っていた返事とは違う言葉に困惑する。
「正人はーーんーまぁこんなんだよ?」
「は?いや、こんなんって――」
「それよりみんなーー席につこーもうすぐ七海先生が来るよー。ほらほらー学級委員の星野さんだぞぉーいうこと聞けー」
僕はそんな事をいっている星野さんを呆然と見てるしかなかった。
重い話ばっかですいません(´・ω・`)




