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ハプニング


「「「ええぇぇぇ?!?!?!」」」


クラス中がどよめいた。


転校生の男の子が来たと思ったら、クラスメイトの女の子がいきなりキスをした。

客観的に見るとこんな感じ。うん、驚くよね。


僕自身も驚いて口をパクパクさせていた。

2度目のキスも同じ人に同じように奪われ、同じようなリアクションしかできなかった。



「さ、席へ行こ?蒼空くん」


「いやいやいや!待って岡部さん!」


平然と僕を席へ案内しようとした舞桜ちゃんに先生が止めに入る。


「岡部さんあなた何してるの?!ち、ちち、チューするなんてっ!!」


クラスメイトもそうだそうだと騒ぎ立てる。


「?何かおかしかったですか?」


「っ?!お、おかしかったって!当然でしょう?!いきなりち、チューなんかして!蒼空くんが嫌がってるじゃ……」


キョトンとした表情で聞き返してきた舞桜ちゃんに対し、七海先生が僕を見ながら言葉を言おうとしてやめた。


「………そ、蒼空くん?大丈夫?」


「…………っえ?!」


僕は七海先生に声をかけられるまで呆然と立ち尽くしているだけだった。顔を真っ赤にして。


「蒼空くん?……もしかして、嫌じゃなかった……とか……?」


七海先生が恐る恐る聞いてくる。


「いやっ!ええっと……ビックリはしたけど……い、嫌ではなかったかなぁと……」


「ほら、七海先生?蒼空くん嫌がってませんよ?」


「……!!そ、そうよ!たとえ嫌がってなくても!ふ、不謹慎でしょう?!学校内でちち、チューするなんて!好き合ってるわけでもないのに!!」


七海先生のその言葉に、舞桜ちゃんはまたも臆することなく呟いた。


「?私蒼空くんのこと好きですよ?大好きです。…大好きな人にキスしちゃいけないんですか?」


何か間違ってますか?と言わんばかりに言葉を続ける舞桜ちゃん。


「だ、大好きだからってチューはしちゃダメなんですっ!それに先生は好き合ってるって言いました!蒼空くんはどうなんですか!蒼空くんは!!」


「えっ?!ぼ、僕ですか?!」


七海先生の矛先が僕に向いた。

クラス中に注目されてる中で好きかどうかなんて聞かれても…


「い、いや……嫌いではないですけど……好きかって言われるとまだ…」


正直に答えた。僕、今、そんなこと考えられません。


「ほら!蒼空くんは違うって!わかりましたか岡部さん?!」


「そっかぁ…まだ、足りないかぁ…」


「聞いてるの?!岡部さん?!」


舞桜ちゃんは七海先生の言葉を聞いているのか聞いていないのかわからない様子で呟いていた。

そして、僕の手を取り


「それじゃあ、これからどんどん好きになってもらえるように頑張るからよろしくね?」


「……う、うん……」


思わず頷いてしまう僕。


七海先生はわなわなと震えながらもういいから席に着きなさいと一喝した。


どよめいていたクラスメイト達も七海先生の声に反応して静かになる。


僕の手を取り席へ行こうとした舞桜ちゃんは先生の方へ向いて言葉を放つ。


「あ、それと七海先生?蒼空くんのこと蒼空くんって呼ぶのやめた方がいいですよ?他のクラスのみんなは苗字で呼んでるのに蒼空くんだけ名前だなんて事が教育委員会の人に伝わったりしたら……七海先生、セクハラでクビになっちゃいますからね?」


僕が今まで聞いたことがない声でそう言った。

僕に向けられる言葉とは違う、温度を感じさせない言葉だった。


七海先生はというと、わ…わかりました…と一言呟いて教卓についていた。

よく見ると、手が震えているようにも見えたが僕にはどうすることもできなかった。



僕は案内された席に着く。

真ん中の列の一番後ろに舞桜ちゃんと机をくっつけた状態の席。


席に着くと舞桜ちゃんが小さい声で話しかけてきた。


「さっきはごめんね?びっくりさせちゃって。2年ぶりだったから、我慢できなくて…」


そう言う舞桜ちゃんの声は先ほどとは違い優しく温かみのある声であった。


「う、うん…どうしてあんなことしたの?」


「さっき言ったとおり、大好きだからだよ?」


微笑みながらそう言う舞桜ちゃん。

この笑顔を僕は懐かしいと感じた。この世界で出会った子のはずなのに…


「それよりほら、授業始まるよ?教科書見せてあげるから、一緒に見よ?」


舞桜ちゃんは話を変え、授業に集中し始める。

僕は先ほどからまだ顔の赤みが取れず、いまいち授業に集中できなかった。

授業をしている七海先生もなんだか怯えているように授業を進めていった。



チャイムが鳴り、休み時間になる。

七海先生が教室から出ていくとクラスメイト達がいっせいに僕の元に寄ってきた。


「ねぇねぇ!どこから来たの?!」


「入院してたってどうして?!」


「岡部さんとはどういう関係なの?!」


「チューしたことあるの?!」


皆好き放題に質問してくる。


僕はその勢いに押され、黙り込んでしまった。

質問してくるのは皆女の子。その女の子達の目がなんだか怖かった。


僕が俯いていると、舞桜ちゃんが大丈夫?と声をかけてきた。


「ねぇ?みんな?蒼空くんが怖がってるからやめてあげて?」


そうクラスメイト達に言う舞桜ちゃん。しかし、クラスメイト達はその舞桜ちゃんにも質問がしたかった。


「そんなことより岡部さんも!蒼空くんとどういう関係なの?!」


「なんでチューしたのー?!」


「好きってほんと?!」


と、舞桜ちゃんにも質問攻めが始まった。

舞桜ちゃんは臆する事無く「さっき言ったとおりよ」と質問に答えていく。


しかし、答えているうちに舞桜ちゃんもクラスメイトに囲まれて僕と離れてしまう。


舞桜ちゃんが離れたことでまた僕の周りにもクラスメイト達が集まる。

さっきと同じように質問攻めが始まると、廊下の方からバタバタと走る音が聞こえた。

その音は僕たちの教室の前で止まると、今度は扉の開く音がバンッと響く。


「お兄ちゃん!!どこっ!!!」


その声の主はお兄ちゃんと言いながら教室に入ってきた。

そして、僕が囲まれている所に突き進む。


「お兄ちゃんから離れてっ!!」


一喝。

クラスメイト達もその声に驚き、さっと僕から距離を取る。


「大丈夫だった?!お兄ちゃん?!」


「う、蒼海ちゃん?」


その声の主は蒼海ちゃんだった。

額に汗を浮かばせながら僕に近づき声をかける。


「ごめんねお兄ちゃん…怖い思いさせて…私が来たから、もう大丈夫だからねっ?!」


そう言って蒼海ちゃんは僕の手を握り、今度はクラスメイト達を睨みつける。


「私のお兄ちゃんに指一本でも触れたら許さないんだからっ!わかった?!」


そう叫ぶ蒼海ちゃん。

指一本でもと言う単語にクラスメイト達は「あっ…」と言った表情で僕でも蒼海ちゃんでもない、もう一人の人物へ視線を向けた。


指一本どころじゃない、キスまでやってのけた舞桜ちゃんへクラスメイト達は視線を向ける。

それに気づいた蒼海ちゃんが視線を追い、舞桜ちゃんを見る。


「あなた!お兄ちゃんになにかして…………えっ………」


舞桜ちゃんへ言い寄ろうと近づいていった蒼海ちゃんが止まる。


「な……なんで……ここに……」


「お久しぶりだね、蒼海ちゃん?お兄ちゃん、元気になってよかったね?」


ニコリと笑いながら蒼海ちゃんに話しかける舞桜ちゃん。

その言葉にはまた温度が感じられなかった。


蒼海ちゃんはその言葉に答えず、俯く。


「……お兄ちゃん……ごめんなさい……」


蒼海ちゃんはそう言って教室を出ていった。

教室を出る間際、チラッと見えた蒼海ちゃんの目には涙が浮かんでいた。



突然の事態にクラスは静まり返っていた。

すると、授業開始のチャイムが鳴り七海先生が戻ってきた。

渋々席に着くクラスメイト達。

舞桜ちゃんも同様に席に着く。

僕もまだ状況が読み込めていなかったが、しょうがなく席に着き授業を受ける。


クラス中が僕のことで動揺している中、一人の男の子が僕に対して舌打ちをしていたことに僕は気付いてはいなかった。



まだ蒼海ちゃんは幼いんや…勝てるわけないんや…

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