学校へ行きたい
家に帰ってきて数日後、家族でピクニックへ行くこととなった。
父さんが前日から仕込みをして作ったお弁当を持って県内にある自然公園へ向かう。
車を止め、公園の中へ入っていくと綺麗な小川が流れている。その脇には芝生が広がっていて、レジャーシートを引き荷物を置く。
「綺麗な水…公園の中にこんな川が流れてるなんてすごいね。」
「そうでしょ蒼空くん!ここはママのおすすめの公園なんだから!昔なんどもパパをここに誘っては断られ…」
「渚ーそんな事話さなくていいから早く弁当広げようよ。食べないの?」
「食べるに決まってるじゃない!」
「ママーわたしお腹すいたー。早くお弁当食べようよー」
「もぅ…せっかくママとパパの思い出を蒼空くんに聞かせてたのに……よーし!それじゃあご開帳!!」
パカッと弁当箱の蓋を取る。
色とりどりのおかずはどれも美味しそうで、いい匂いをさせている。
見ているだけで涎が出てくるほど完成されたお弁当だった。
「わぁあ!!パパのお弁当すごーい!!とっても美味しそう!!」
蒼海ちゃんは目を輝かせてお弁当を見つめてそう言った。
「うん。なんてったって家族四人で初めてのピクニックだからね。気合い入れちゃいました!」
どうだと言った顔の父さん。
いや、ホントにすごい。プロの料理人ってぐらい料理がうまいんだ父さん。
いただきますと言って弁当を食べ始める。
心地よい風に優しい日差し。鳥の鳴き声も聞こえている。
「今日は晴れてよかったー。絶好のピクニック日和だよ。」
「そうね。蒼空くんと初めてのピクニックだもの。きっと神様が太陽にお願いして顔を出させたのよね」
母さんは冗談交じりにそう言ったが、
「ほんと?!さすがお兄ちゃん!!すごいすごい!!」
この通り、蒼海ちゃんは真剣に捉えてしまった。
一方僕はお弁当を食べながら周りを見渡す。
公園には他にも数人でピクニックしにきている家族がいた。
しかし、よく見てみると子供と母親は見かけるが父親が見当たらない家族が多かった。なんでだろうか…たまたまなのかもしれない。
「そうだ蒼空くん。お弁当食べ終わったら向こう側にある池に行ってボートに乗ろうか?」
「え?池なんてあるの?」
「ええあるわよーおっきな池!ボートに乗って池の上を渡れるの。」
「わたしも乗りたい!」
「よし!それじゃあお弁当食べたら池に行こう!」
そうして、池に行ってボートに乗ったり川で魚を見たり。
設置されていたアスレチックで母さんの運動神経を目の当たりにしたりと楽しい時間が過ぎていった。
夕方になり、家へ帰るため車に乗る。
走り出して直ぐに蒼海ちゃんは遊び疲れたのか寝てしまった。
運転席に母さん
そのとなりの助手席に父さん。
そして後部座席に僕と蒼海ちゃん。蒼海ちゃんは僕に頭を傾けながらすやすやと寝息を立てていた。
「蒼海ちゃん寝ちゃったんだね。蒼空くんは?眠くないかい?」
父さんが振り向きながらそう聞く。
「うーん……少しだけ、眠いかも。」
僕も蒼海ちゃんに引っ張られながら色々動き回ったせいか眠気が来ていた。
「それじゃあ寝ててもいいよ?家に着いたら起こしてあげるから。」
「うん。ありがとう父さん。それじゃあ、おやすみなさい。」
そう言って僕は目を閉じる。すーっと眠りに落ちていく中、カメラのシャッター音。
そのあとに、夢が叶ったと声が聞こえたところで完全に眠りに落ちていった。
退院してから1ヶ月が経っていた。
僕の身の回りの物も概ね揃い、僕はいよいよ学校が始まると思っていた。
しかし、中々父さん達から学校と言う単語を聞かない。
蒼海ちゃんはもちろん毎日学校に行っているのに。
はやく学校へ行きたかった僕は父さん達に自分から聞いてみることにした。
「ねぇ?父さん?僕はいつから学校に行けるの?」
「「えっ…」」
リビングで晩御飯を食べたあと、テレビを見ながらゆっくりしていた父さんと母さんが声を揃えてそう言った。
「いや、学校だよ。僕も行かなくちゃでしょ?ほら、歩けるようにはなったし…」
そう言い僕は父さん達に聞くが、帰ってきたのは意外な答えだった。
「?何を言ってるだ蒼空くん?蒼空くんは学校には行かなくてもいいんだよ?」
「蒼空くんは男の子なんだから、だけどよ?」
そう答える二人
え?学校に行かなくてもいいってどういう事だ?男の子だからって理由にはならないだろ…
「蒼空くんはまだ知らなかったかな?男の子は義務教育じゃなくて、自由なんだよ。学校へ行って学んでもいいし、家で学習してるだけでもいいんだ。」
「えぇ?!」
僕は驚き声に出してしまった。
なんだそれは。どうなってるんだこの世界の日本は…性差別じゃないか…
「も、もしかして蒼空くん学校へ行きたいの…?女の子沢山いるわよ…?」
母さんが恐る恐る聞いてきた。
「え?うん。行きたいよ?女の子が沢山いても別に気にしな――」
「ダメよっ!!」
「ええ?!」
またもや声に出してしまった。真正面から否定されるとは思ってなかった。
「いい蒼空くん?女っていうのはね、獣なの。野獣よ野獣。蒼空くんみたいな可愛いうさぎちゃんが群れに入ってみなさい?1日と持たないわ。」
「獣って…僕まだ10歳だよ?そんな事するわけ…」
「いや、蒼空くん。渚の言ってることは大体合ってる。」
父さんがそう口にした。
「野獣っていうのは言い過ぎかもしれないけど、危ないのは同じだよ。蒼空くんにはまだ言ってもわからないかもだけど、女の子の10歳と言えば男の子の15歳と変わらないんだ。もう、ほんとに…」
そう言う父さんの目はチラッチラッと母さんを捉えていた。
「で、でも父さんだって学校に行ってたんでしょ?それなら僕だって…」
「父さんは特別。今より男の子が多かったし、なによりママがね…」
母さん?母さんがどうしたというのだろうか?
「ママがパパの両親にお願いしたのよ。わたしが響くんをまもりますからーって小学校一年生のときに。」
ちょっと待って。女の子が危ないって理由で行かせたくないのに、その女の子に守らせるってダメじゃないのか?
「あの時のママはすごかったんだよ…あの歳で土下座までして。」
7歳にして土下座?!母さんはどれほど幼い頃から父さんと一緒に居たかったんだ…
「そんなママをみてパパの両親は認めてくれたのよ。だからパパは特別なの。」
「えっと…つまり…」
「蒼空くんは一人でしょ?それに、まだ歩けると言っても走れないじゃない。襲われたとき走って逃げられ無いなんて絶望よ、絶望。」
まずい…父さん達は本当に僕を学校へ行かせる気がないのかもしれない…
それに、守ってもらうなんて、それは男の子としてほ…
「わたしが守るっ!!」
リビングにひとつの声が響いた。蒼海ちゃんだ。
「わたしが学校でお兄ちゃんを守る!まかせて!」
「う、蒼海ちゃん?」
僕はどうしたのかと蒼海ちゃんに声をかけるが、
「大丈夫だよお兄ちゃんっ!わたしにまかせて!」
そう言って僕の声を聞いてくれない。
「いい?蒼海ちゃん?ママね、蒼海ちゃんがそうやってお兄ちゃんを守ろうって頑張ってるのはスゴク嬉しい。でも、無理ってものがあるでしょ?」
「そうだよ蒼海ちゃん。蒼空くんは4年生なんだよ?3年生の蒼海ちゃんじゃ限界が…」
「守るもんッ!!」
母さん達の言葉に対し、蒼海ちゃんは叫んだ。
「お兄ちゃんはわたしが守らないといけないんだもんっ!ぜったいに守ってみせるもん!だって…だって!お兄ちゃんはわたしの天使さんなんだもん!!」
蒼海ちゃんは叫び続ける。
僕が天使とは一体…何かの勘違いしているのか?
「……う、蒼海ちゃん……ママ嬉しいっ!まるであの時の自分を見てるようだわっ!!」
「!?ママっ?!」
母さんはそう言うと蒼海ちゃんを抱きしめていた。
「蒼海ちゃんがそこまで言うならママ反対しない!そうよ!私もそうやってパパを守ってきたんだもの!娘の蒼海ちゃんにだって出来ないはずないわっ!!」
「いやいやいや待ってよ渚っ!」
たまらず父さんが止めに入った。
「渚とは環境も置かれた立場も違うだろ?よく考えなって…」
「あら?響は自分の娘を信じられないの?」
「いや、そういうことじゃないけど…」
「なら大丈夫ってことじゃない。…安心して響。私の娘よ?しっかりと蒼空くんを守ってくれるわ。」
「いやだからっ!ったく…俺はせめて蒼空くんが走れるようになるまでは認めないからな。」
「それはもちろんよー。」
話が僕のいないところで進んでいく。
僕が走れるようになったら蒼海ちゃんの警護付きで学校の許可がでた。
結果、僕が学校へ行き始めたのは1年後。
僕が11歳、小学五年生になってからのことだった。
脳内あべこべ設定フル稼働させねば…
そして夏コミのカタログチェックが進まない…




