お見舞いのためなら
翌日から響達はスケジュール通りにお見舞いに行っていた。
響は朝早くに起き、家族の朝食に渚の弁当を作り他の二人を起こす。
起こしたあとは三人で朝食を食べ、蒼海の準備を手伝い渚へ弁当を渡してから二人を見送る。
その後も食器の片付け、掃除洗濯を終わらせてようやく自身の出かける準備へと入る。
着替えを済ませて戸締まりを確認して家を出るのは大体10時頃となっていた。
慣れてくればもっと早く終わらせられるなと響は意気込んでいた。
響は病院へ着くと受付へ向かい挨拶する。
そして蒼空のいる病室へと向かうのだ。蒼空が眠っている間にこれは日常となっていた。
響が病院へ入ると蒼空は微かに目を開けていた。しかし殆ど閉じかけていて扉を締めた時にはもう完全に閉じてしまっていた。
「さっきまで起きてたのかな?…もうすこし早く来れてれば…」
そう響は少し悔しそうにつぶやくと同時に家事の効率アップを心の中で決めていた。
お見舞いと言っても蒼空が睡っている以上響にできることといえば病室の掃除や花瓶の手入れなどだけだった。
むしろ蒼空が目覚めた為あまり大きい音は出せない。今までは眠り続けていて起きないと思い多少大きな音を立てても平気だったがこれからは違うのだ。
あくまで蒼空は普通に眠っているだけ。音を立てれば睡眠を邪魔してしまう。
響は今まで以上に気を使いながら掃除をして蒼空との時間をすごした。
「……蒼空くん、起きてくれないかなぁ……」
以前までとは違く軽い気持ちでそう呟いていた。
響がそんなことを呟いている頃、渚は鬼の形相で仕事に打ち込んでいた。
「の、野上先輩……なんか今日凄い迫力ですね……」
そう渚に言ってきたのは職場の後輩。普段から渚が教育担当をしている部下で渚の仕事姿は嫌と言うほど見てきたがこんなにも迫力があるのは初めてだった。
「……え?今なんか言った?」
当の渚は自身がそんな迫力を出しているとも知らずに仕事に打ち込んでいた。部下に話しかけられた言葉も頭には入っていない。
「い、いえ!先輩頑張ってください!」
「いや、あんたも頑張りなさいよ。ほらこれ、ここミスってるから。」
渚は部下が言った言葉に喜びもせず淡々とミスを指摘し、次の瞬間には己の仕事に戻っていた。
「…ず、ずいまぜんっ…っ!」
渚の部下は涙目になりながら修正していくのであった。
お昼になり渚は響のお弁当を食べ始める。
弁当を食べている間だけは鬼の形相だった渚もまるでシスターのような優しい顔をする。
それを影から見ている部下。
「せ、先輩は天使と悪魔に身体を乗っ取られているかもしれない…っ」
そう訳のわからない誤解をしているのであった。
夕方、定時になり渚は一言「お疲れ様です!」と言うと足早に職場を去っていく。
向かう先は我が家。そこには蒼海が今か今かと待ちわびていた。
「あー!ママ遅いー!お兄ちゃん起きちゃうよぉ!」
「ごめんごめんっ!すぐに病院行くわよ!」
「うんっ!レッツゴー!」
渚は蒼海と家で合流するとスーツのまま病院へ向かった。
病院へ着くと二人は受付へ向かい蒼空の病室へ行こうとするが止められる。
「野上蒼空くんの病室は本日から個室へと変更されました。案内しますね。」
「あ、はい…」
「はい…」
すぐさま向かおうとしていた渚と蒼海は出鼻をくじかれた気分だった。
案内された病室へ着くと中には響と眠っている蒼空がいた。
「響。お疲れ様。……蒼空くんの病室変わったのね。どう?起きたりした?」
「仕事お疲れ様渚。うん。今日のお昼頃に個室へ移ったんだ。そっちのほうがこれから色々とやりやすいだろうって先生が。…蒼空くんは俺が来るちょっと前まで起きてたみたいなんだけど、それっきり寝たままさ。」
「そっかぁ……まぁ昨日の今日でいきなり起きてる時間にかぶるなんて事はないわよねぇ…」
渚はそう言っているが内心は少し違っていた。昼間起きていなかったのならこれから起きるかもしれないと心の中で考えていたのだ。
「響はこれから帰るのよね?晩御飯、楽しみにしてるからっ!」
そう軽く嫌味を込めた台詞に響は苦笑い。
「わかってるよ全く…美味しいご飯作って待ってるから、なるべく早く帰ってきなね。」
そう言って響は渚と蒼海の頬に軽くキスをすると自宅へと帰っていった。
「………ま、全く。響ったらいつの間にかあんな事まで出来るようになって…」
「パパ、なんだかすっごく綺麗だった!」
二人は顔を赤くしていた。特に渚は湯気が出るんじゃないかというほど。
これまで渚は響と色々な方法でイチャイチャしてきたがどれも渚から響へする事ばかりだった。その為、先程のキスが渚の心拍数を急上昇させていた。
蒼海はというと、少し照れくさそうな感じで頬を染めていた。父にドキドキしたというよりもキスという行為そのものに恥ずかしさを感じていたのだった。
そうして二人が扉の前で立ったまま顔を染めているとコンコンっとノックの音がする。
「ひ、ひゃいっ!」
渚は思わず噛みながら返事する。
「失礼します………あら?野上さんどうかなされましたか?」
入ってきた先生は顔を染めている渚を見て不思議そうに聞いてきた。
「い、いえ!なんでもありませんのよおほほほほっ!」
渚は動揺からか普段使わないような喋り方をして返す。
「そ、そうですか………それより、野上さんにお願いしたいことがあってきたのですが。」
先生は少し引き気味に話を始める。
「お願い…ですか?それは一体?」
先生が真面目に話し始めたのを見て渚は落ち着きを取り戻す。
「あぁいえ、そんな身構えるような事じゃないんです。蒼空くんのお風呂のことで相談がありまして。」
「お風呂ですか?今まで確か看護師さんが入れてくれてたと聞いてますけど…」
そう。蒼空は眠っている間看護師によって入浴させてもらっていた。点滴が刺さっている以上素人だとどうしても無理が生じる。
初めは響がやると言っていたのだがどうしても無理ということで看護師さんがしていた。
「はい。今までそうだったんですが、蒼空くんが目覚めた以上これまでのように入浴はできないと思いまして。蒼空くんはあくまで一般の人と変わらないように眠っているだけなんです。眠っている時にいきなりお風呂に入れられたらビックリしてしまいますよね?」
「あっ…たしかにそうですね。でも、それじゃあ…」
「お風呂に入れないと言っても身体を清潔にしてはいけないということではないですから、タオルで吹いてあげるのがいいかと。それでしたら御家族でもできますし、優しく行えば蒼空くんも安眠したままできます。」
それでですねと先生は続ける。
「ナースステーションの隣に給湯室があります。そこでお湯を汲んで頂ければ大丈夫ですので。」
そんな先生の申し出に渚は喜んだ。
「いいんですか?!ありがとうございます!是非わたし達にやらせてくださいっ!」
「やらせてくださいっ!」
渚に続いて蒼海も先生にそう放つ。
「は、はい。そうしてあげてください。」
息の合った二人に先生は押されつつもそう答える。
「それでは、私はこれで。」
そう言って先生は病室を出ていった。
「よし!それじゃあ蒼海ちゃん!早速お湯を組んできましょうか!」
「ラジャー!」
二人はウキウキしながらお湯を取りに行く。
タオルとお湯をもって病室へ戻ってきた二人はよーしと言いながら蒼空の布団をまくろうとしたができなかった。
蒼空と目が合ったからだ。
二人は騒ぎすぎたかもしれないと思いつつも、蒼空が起きた事に内心感動していた。
これまで書いてきてこんなに明るい文を書いたのは初めてかもしれないというくらい登場人物全員嬉しそう




