声を聞いて
蒼空と目が合って数秒。蒼海が最初に反応した。
「あっ!お兄ちゃん起きた!おはよ!お兄ちゃん!」
蒼海は待ってましたと言わんばかりにそう言った。声も自ずと大きくなる。
その声を聞いて目を丸くしている蒼空をみて渚が蒼海を静止する。
「こらっ。そんな声出したらお兄ちゃんビックリするでしょ?」
「はぁーい…」
蒼海は注意され項垂れつつも目線は蒼空に釘付けだった。
「よし!それじゃあ蒼空くんも起きたし身体を拭いちゃいますか!」
「おー!」
先程注意した本人である渚も声が大きくなっていた。渚自身は自覚していないがやはり蒼空が起きたことによって浮かれているようだった。
蒼空にかかっている布団を捲り丁寧に優しく拭いていく渚。
蒼海はまだ見学していた。まだ力の加減が上手く出来ない蒼海に渚は手本を見せるようにしていた。
身体を拭いている時、蒼空はどうやら自身の身体に視線を向けていた。
それを見た渚は先生に言われた言葉を思い出す。
―――何かしらの拒否反応がなければ―――
(障害がある可能性が高い……か)
渚は脳裏に浮かぶ障害という文字を消すように言葉を発しながら身体を拭いていく。
「蒼空くんタオル気持ちいいねー?早くお風呂に入れるように頑張ろうねっ!」
頑張ろう。蒼空に向けられた言葉であり、同時に渚自身にもそう言い聞かせていた。
身体を拭き終わる頃、蒼海が待ちきれないと言ってきた。
「ママ!次私がやるっ!」
「はいはい。蒼海ちゃんは明日やろうねー?」
手馴れたように蒼海をいなしながら蒼空に布団をかぶせようとする。
タオルで綺麗に拭かれた蒼空の体を見て渚は口にする。
「蒼空くんの身体どんどん大きくなってるわね。この調子で行けば動ける様になるのもすぐかもっ」
そう渚は言う。確かにここ数ヶ月で蒼空の体はまた成長していた。
目が覚める以前からも成長が早まっていたのを渚は知っている。それが蒼空が目覚める原因だったのかはわからないが、とにかく成長してくれているのは嬉しかった。
身体を拭き終わり、蒼空に布団をかけたあと渚と蒼海は病室の整理を始めていた。
蒼空が寝ている間だと物音を立ててしまい効率よく整理が進まないので起きている今やってしまおうという事だった。
当初、せっかく蒼空が起きているのにそれを無視して整理などと二人は考えていたのだが当の蒼空がしばらく周りに視線を移したあと天井を見上げたままになってしまい二人はどうすればいいかわからなくなってしまったのだ。
整理と言っても蒼空用に買っておいた服や消耗品を新しい病室にしまっていくだけ。渚も蒼海もてきぱきとこなしていた。
ベッドの向かい側にある収納棚にタオルやパジャマなどを入れていく。
「ねぇ?蒼海?今度一緒に蒼空くんの洋服買いに行きましょうか。」
「うん!いく!…でも、お兄ちゃんのパジャマいっぱいあるよ?」
「違うわよ。パジャマじゃなくて、お出かけする時に着る洋服。蒼空くんが動ける様になったら必要でしょ?」
「!うん!わたし可愛いの選んであげる!」
二人はそんな先の早いことを言いながら作業していると不意に音がする。
………は…ぁ………
その音を聞いて渚と蒼海は顔を見合わせる。
「………ねぇ?いま蒼海ちゃん何か言った?」
「…ううん。なにもいってないよ。……ねぇ?まま?」
「…うん。………うんっ!いまの!蒼空くんよっ!」
二人は蒼空の元へ駆け寄る。
すると蒼空は渚を見ながら口を微かに動かした。
「………か…………あ……」
微かな音だった。しかし、確かにそれは蒼空が発していた。
「っ?!いまっ!蒼空くんが喋った!喋ったわ!」
「うん!お兄ちゃんが喋った!」
渚は長らく聞いていなかった息子の声に涙を浮かばせていた。
声と呼べるかわからないその音も渚にとっては福音となる。
今この場に響がいたのなら抱きしめ合いながら涙を流して喜んでいただろう。
だが今一緒に居るのは蒼海。娘を前に母の威厳を守るため泣き崩れるのだけは耐えていた。
蒼海はその声を聞いて幸福に浸る。
初めて聞いた兄の声。今まで天使のようだと崇拝してきた者の声は想像していたよりも儚く、綺麗だった。
たったふた文字にもならない声…音であったが蒼海には充分であった。
本来弱々しいと思えるはずの蒼空の声も蒼海は違う。幸せを教える音のようだった。
兄を天使と崇拝してきた蒼海はより一層その気持ちを強める。何故自分がここまで兄を崇拝するのか蒼海自身もわかってはいないのに。
蒼海は蒼空を見る。
蒼空は先程声を出した事で疲れてしまったのか瞼を閉じてまた眠りに入っていた。
兄の寝顔はやはり天使のようだと蒼海は思う。
声を聞いたことにより今まで以上にその考えは正しかったと認証する。
根本的な理由をまだ本人は知らない。
母や父、そして蒼空自身も知ってはいない。
この世界でそれを知っているのは桜の匂いの少女ただ一人だった。
やばいまた短くなってきてる…書き溜めしなくては




