いもうと?
扉の前にたっているのは恐らく両親だ。覚えている姿とは少し老けていたが、恐らくそうだと思う。
二人ともスーツを着ているが、何かやっていたのだろうか?
両親は僕の顔を見ると立ったまま涙を流し始めた。
母さんは口元を抑えて泣いていたが耐えられなくなったのか、座り込んでいる。
父さんはただただ涙を流していた。立ったまま、僕の方を見つめて。
僕は少女の方へ視線を向ける。
あの子は一体……記憶にない。ランドセルを背負っているから小学生なのは確かだが。
少女と視線が合うと、その子は僕のベッドに駆け寄ってきた。
「お兄……ちゃん…お兄ちゃんっ……お兄ちゃんっ!!」
そう言って僕に抱きついてくる。
お兄ちゃん?そう僕は呼ばれたのか?だとしたら、この子は妹?
どれだけ眠っていたかまだわからないが、その間に生まれたのだろうか……
「お兄ちゃんっ!わかる?!わたし!うみだよっ!」
そう名乗った少女はさらに強く僕を抱きしめる。
すると両親も僕のベッドに駆け寄ってきて、抱きついてきた。
「蒼空くん…本当にっ!本当によかったっ!」
そう父さんは言う。
母さんはもう顔がぐちゃぐちゃになっている。声を出しながら泣いているので何を言っているのか聞き取れないが、かろうじでありがとうと言うのは聞き取れた。
しかし、三人に抱きしめられると流石に重い……そして、三人ともかなり力がはいってる。
僕は思わず痛みで目を強く閉じる。
すると三人はそれに気づいたのかバッと僕から離れた。
「だ、大丈夫蒼空くん?!」
「どこか痛いの?!」
「お兄ちゃんっ?!」
三人はそれぞれ心配しながら僕を呼びかける。ほんのちょっと眉間にシワを寄せた程度なのにこんなにも反応されてしまうと申し訳ない…。
「野上さん、落ちついてください。三人ともが抱きついたら蒼空くんがビックリしてしまいますから……」
そう先生は三人に言い聞かせる。恐らく両親が泣いているのを見て先生は邪魔しないようにと黙っていたのだろうが、流石に口を挟むしかなかったようだ。
「「す、すいません」」
「ごめんなさい…」
三人はしまったという表情で先生に謝っている。
「蒼空くんの事でお話があるのですが、よろしいですか?」と、先生は聞いてきた。
「えっと……ここでも大丈夫ですか?今は、蒼空くんから離れたくありません。」
そう父さんは言う。
「そうね……私も、今は蒼空くんと一緒にいたいです。」
母さんも父さんに続いてそう言っている。
妹……うみちゃんといった少女は、両親が先生に話している隙にこっそりと僕に近づいてきて手を握っていた。申し訳なさそうに近づいてきて、布団の中に入っている僕の手を優しく包み込んでいた。
手を握ってからは近づいてきた時のような申し訳なさそうな表情ではなく、癒されているような……幸せそうな顔をしていた。
「はい。この場で大丈夫ですよ。……それで、蒼空くんが目覚めた事なんですが…」
先生は話始めた。
話を聞きたかったが、声が小さくてよく聞き取れない。
病室の奥にある席に座りながら先生と両親が話をし始めた為聞き取れなくなった。
先生の話を聞いている両親の表情だけがなんとか見てとれた。
両親は時折険しい表情をさせながら先生の話を聞いている。チラッチラッと何度も僕の顔に目線をずらしながら。
その一方でうみちゃんは僕の手を握り続けながら僕に話しかけていた。
先生の話をまだ理解できない年頃なのだろう。
「お兄ちゃんっ!わたしね!お兄ちゃんがおきるのまってたの!なんかいもあいにきたんだよ!」
そう言いながら僕の顔を見つめてうみちゃんは話し続ける。
「お兄ちゃんがはやくおきますようにーっておねがいもしたよ!なんかいも!」
「あとねあとね!お兄ちゃんのにがおえもかいたよ!こんどみせてあげるね!」
「はやくげんきになってうみといっぱいあそぼうね!お兄ちゃん!」
彼女は今まで貯めてきただろう思いを僕にぶつけてくる。こんな幼い少女を僕はどれほど待たせていたんだろう…
そう思っていると彼女は話すのをやめて今度は僕の顔をじーっと見つめてきた。
(な、なにか変なものでもついてるのかな…)
「お兄ちゃんのめ………すっごくきれい……ほうせきみたい……」
彼女は小さな声でそうつぶやく
「やっぱりお兄ちゃん……てんしさんだったんだ……てんしさん……わたしだけの…」
なにやら呟いているのはわかるが、聞き取れない。それほど小さい声だった。
(うっ……)
僕は急な眠気に襲われた。
眠い……すごく眠い。
恐らく何年も眠っていた筈なのに。
……駄目だ。目を開けていられない。眠ってしまう。
僕は耐えきれなくなり、目を閉じて眠り始める。左手に少女の温もりを感じながら。
次は両親目線
あと主人公また長期に渡って眠るわけじゃないのでご安心を!




