突然の電話
少し時間遡ります
家族視点
入学式は順調に終わり、今は三人で記念撮影をしていた。
娘のランドセルを背負っている姿はとても愛らしく、つい何枚も写真をとってしまう。
「ほら、響!蒼海ちゃん!また撮るわよー!」
パシャリとシャッターの切られる音。
桜舞う小学校の校門で既に15回目となる音だった。
「なぁ渚?いくらなんでも撮り過ぎじゃ……」
「何言ってるのよ響!蒼海ちゃんの晴れ姿なのよ?!ランドセルなのよ?!SDいっぱいになるまで撮るんだから!」
「それ、何千枚撮るつもりなんだよ……」
「ねぇーママーわたしお腹すいたー」
響が呆れていると蒼海がそうつぶやく。朝から着替えやスピーチの練習、式典とごたごたしていてまだ昼食を取れていなかったのだ。お腹も空くだろう。
「えー……せっかくのランドセルなのに…」
「明日から毎日ランドセルだろ?ほら、蒼海ちゃんお腹空いてるんだからご飯食べに行くぞ」
「………はぁーい。」
渚は残念そうにしながら渋々了承した。
「パパー?携帯なってるよー?」
蒼海が言う。確かに響の携帯から着信のメロディーが聞こえていた。
先程まで夫婦で話していたので気づかなかったのだろう。
「あれ、ほんとだ。どこからだろう………病院?」
携帯の画面には病院からと表示されていた。なにか予定あったっけ?と響は思いながら電話に出る。
「はい、お待たせいたしました。野上ですが…」
「あぁっ!やっと繋がった!野上さん!お、落ち着いて聞いてくださいっ!」
電話の向こう側からは蒼空くんがお世話になっている医師の慌ただしい声が聞こえてきた。
落ち着いてと思うのはこちらの方なんだけどな…と思いながらも響は聞き返す。
「は、はい。一体どうしたんです?」
「そ、蒼空くんの意識が!意識が戻ったんです!蒼空くんが目を覚ましたんですよ!」
先生は慌てながらそう伝えてきた。
響は瞬間、理解する事が出来なかった。頭の中で聞こえてきたフレーズがこだまする。
蒼空くん……意識……目を覚ました………………?!
頭がようやく理解する。蒼空くんが起きた。目が覚めないと言われていた蒼空くんが。
響は自分の体温が上がっていくのを感じる。頭の中もグルグルと回転し始めパニックを起こしそうになる。
「今!すぐ行きますっ!」
そう言って響は電話を切る。
そんな響を渚と蒼海は不安そうに見つめていた。
「ど、どうしたのよ響……大きな声出して……」
「パパ、だいじょうぶ?……どこかいくの?」
二人は不安そうに声をかける。
「…………きたんだ…」
「え?」
渚は聞き返す。響が言ったことが聞き取れなかったのだ。
「………起きたんだ。起きたんだよっ!蒼空くんがっ!!」
今度ははっきりと響が言う。
蒼空くんが起きた。渚も蒼海も先程の響同様、すぐには理解できていない。
そんな妻の肩を響は掴み、言い聞かせる様に強く伝える。
「蒼空くんが目を覚ましたんだっ!早くっ!早くっ病院に行こうっ!!」
渚はそこで理解する。ついに息子が目覚めたのだと。
「……っ!ええ!早く行きましょう!」
二人は未だに理解の追いついてない蒼海を抱き抱え車に向かう。
運転するのは渚だ。後部座席に響と蒼海が着いたのを確認すると渚はすぐに車を出した。
病院に着くと二人は蒼海を連れて病室へと急ぐ。はやく、はやくと思い蒼海のランドセルを下ろすのさえ煩わしいと急ぎながら。
病室の扉を開けると三人はその場に立ち止まった。
病室の中にはベッドの向かいでなにやらファイルを見ている先生と、ベッドの上に寝ている蒼空がいた。
それは今まで何度も見てきた光景のようだったが1つ様子が違っていた。
ベッドの上で眠っているはずの蒼空が、目を開けてこちらを見ていた。その目にしっかりと生気を宿し、まっすぐとこちらを見ていたのだ。
響はその目を見て涙を流す。なんど夢に見たことか。息子が眠ってしまってからもう7年は経っていた。その生気を宿した瞳を見た瞬間、響の目からは自然と涙が溢れ始めていた。
渚は響よりも激しく涙を流す。その場に座り込み口元を抑えて涙する。一度は耐えきれず記憶から消してしまった息子。もうダメだと心の底で諦めた息子がしっかりとこちらを見ていたのだ。
そして蒼海はその視線でようやく兄が目覚めたのだと理解した。1度もその目が開いた所を見たことがなかった兄。そんな兄が少し不思議そうな目をして自分を見ていた。
兄の存在を知ってからどれだけ兄のことを想像していたか。起きたら何を話そうか。どんな声をしているのか。自分のことを、好きになってくれるだろうか……
そんな今まで想像してきたことよりも早く、その体は兄の元へと駆け出していた。
兄を抱きしめる蒼海。
その存在を、実感するように。
サブタイトルに悩み始めた…




