可能性
パパ目線
俺は次に病院へと電話した。
先生にも何かしら言っているのかもしれないし、なにより蒼空ちゃんのことを光さんに任せるのだ。
病院に電話し、先生へ繋いでもらう。
「もしもし、野上です。急なお電話申し訳ありません」
「おぉ野上さん!今こちらからも連絡しようと思っていたところです、お気になさらず。」
「そうだったんですか?……蒼空ちゃんに何か?!」
「いえ、この前お伝えできなかったことを伝えようと思いまして。」
そう言えばあの時俺は話を最後まで聞けなかったんだ。
「蒼空ちゃんなのですが、脳死というのは先日お伝えしましたよね?」
「はい。」
やはり何度聞いても重くのしかかる脳死という単語。嫌でも意識させられる。
「脳死…つまり、脳だけが死んでいる状態なんです。それにともない、今は生きているほかの臓器も時間が経つにつれて機能を停止していきます。」
「それは…つまり、待っているのは死だと?」
「はい。脳死と判断された患者は通常1ヶ月前後から機能を停止し始めます。1ヶ月以上持てば長期脳死と呼ばれてしまうほど死への可能性は高まるんです」
「1ヶ月…そんな…」
1ヶ月で死ぬ。そんな、話か違うじゃないか。体だけは生き続けられると、生き続けている限り可能性はあるって!
「しかし、これは成人の話です。まだ幼い子供…特に新生児に限っては話は違います。」
「そ、それはどういうことですか?」
「新生児は大人と違い成長ホルモンが体の至る所で生成されています。それは脳死したあとでも変わりません。……成長する可能性があるんですよ、蒼空ちゃんは。」
「…え?」
成長する。そう先生は言った。脳死して眠ったままの蒼空ちゃんが成長するかもしれないと。死ななくて…生き続けてくれるのか?
「寝たきりでも栄養さえ摂取できれば成長していくんです。現に4歳児の子供が脳死判定から21歳になるまで成長し、成人の体にまでなったという事例もあります。」
蒼空ちゃんが大人にまでなれる。
俺はまだ諦めなくていいのか?息子の成長を見守れるのか?
「ですから蒼空ちゃんも可能性は十分にあります。意識が回復しなくても、成長できたり。もしかしたら成長するにつれ意識が戻ってくるかもしれません。」
「先生」
「…はい、なんでしょうか?」
俺は先生に言う
「どうか、どうか息子をよろしくお願いいたします。息子を…蒼空ちゃんをこのまま終わらせないように、どうか…」
精一杯の願いを込めて。
「はい。全力を尽くします。」
「ありがとうございますっ。」
また俺は泣いていた。
蒼空ちゃんが生まれてから泣いてばかりだな俺は。もう、一生分涙を流したんじゃないだろうか?
しばらくして落ち着いた俺は先生に渚とのことを話す。
なぜ電話で連絡してきたのというところから、もう病院に行けないということ。明日からは蒼空ちゃんの叔母である光さんに任せるということを。
「…そうですか、さぞお辛かったでしょう…」
「いえ、俺が決めてやってきたことですから。……蒼空ちゃんには会いに行けませんが、どうか、よろしくお願いします。」
「はい。もし何かありましたら私の方から野上さんの携帯へ連絡を入れますので。」
「助かります。」
「では、これで。」
そうして電話は切れた。
蒼空ちゃんが成長していく。
それだけで希望がまた輝き出した。今は渚には耐えられないかもしれないが、何年後かに落ち着いたら全て話そう
そして二人で成長した息子に会いに行こう。
そんな夢を俺は持ち始めた。
息子が成長をしていく中。
新しい命もまた、成長を始めている事に気づくのはもう一ヶ月後のことだった。
21歳まで成長したという実例は実話です




