父親
今回はパパ目線です
蒼空ちゃんが病院に運ばれた。
俺の最愛の息子蒼空ちゃん。
俺と渚の間に生まれた愛の結晶。
どうして…何がいけなかった?ついさっきまで食い入るようにテレビを見てたじゃないか。
それが急に苦しそうになって…
頭が真っ白になった。蒼空ちゃんのあんな表情を見るのは初めてだったから。
蒼空ちゃんはあまり泣かない子だった。蒼空ちゃんが産まれてくるまでにたくさん赤ちゃんについて勉強した。
講習も欠かさず参加した。
赤ちゃんは泣くことが仕事だと学んで心構えもしっかりした。だけど蒼空ちゃんはあんまり泣かなくて…ほとんど笑顔でニコニコしていて……
健康にだって気を使った。風邪をひかないように部屋の温度調節をしっかりして、湿度も管理しながら空気も綺麗に保っていた。
しっかりとしたミルクを出せるように俺自身の食事だって専門の栄養士に教えてもらったとおりの生活をした。
なんで、なんで、なんで。
どうして蒼空ちゃんがあんな苦しそうな顔をしなくちゃならない?
俺の……俺達夫婦の幸せの象徴がどうして……
蒼空ちゃんを乗せた救急車が病院につき、治療室に運ばれていった。
救急車の中で俺達は必死に呼びかけた。
蒼空ちゃん。蒼空ちゃん。蒼空ちゃん。
だけどずっと苦しそうな顔で…
あんな小さい身体なのにすごく震えていて…
いつだって見せてくれていたニコニコとした表情なんて欠片もなくて……
治療室に運ばれていった後、俺達は治療室の外で待っているように言われた。
治療室の扉が閉まる前、先生に必死にお願いした。
助けてあげてください。どうか。どうか。
廊下の椅子に腰掛けた俺は震えが止まらなかった。
考えたくないのに最悪の事がどんどん思い浮かんでくる。
このまま目を覚まさなかったら…もう二度とあの笑顔を見ることが出来なくなったら…
考え出したら止まらなくなって、どうしようもなくて。
涙を流しながら震えているとそっと腕に包まれた
「大丈夫。大丈夫だから。蒼空ちゃんは大丈夫。だって、わたし達の自慢の息子だもん。大丈夫。だから響、悪い事は考えないで。」
「渚…でも…」
「大丈夫だから。大丈夫なのよ。そうじゃなきゃダメなのよ。こんなことあっちゃいけないの。蒼空ちゃんは幸せでなきゃいけないの。だから大丈夫。絶対に大丈夫なんだから…」
渚の声も震え始めていた。
その最愛の人の声を聞いて俺の震えは少し収まる。
俺も渚を支えなくちゃ…大好きな人を。
「……あぁ、そうに決まってる。だって俺と渚の子供だもんな。きっとすぐ目を覚ます。それで、またニコニコ笑ってくれるさ。」
「うん……うん……。」
「渚まで泣くなよ。美人さんが台無しだぞ?そんな顔で蒼空ちゃんに会ったら、ママの威厳なんか無くなっちゃうからな」
今の俺にできる精一杯の励まし。
俺も渚も、お互いが崩れそうになるのをなんとか支え合って耐えている。
大丈夫。そう自分達に言い聞かせて。
ニコニコと顔をくしゃくしゃにしながら笑ってくれる息子の顔を思い出しながら。
「………顔、洗ってくるわね。化粧落ちちゃって、こんな顔じゃ蒼空ちゃんに会えないもの」
「うん。いってらっしゃい。俺は飲み物買って待ってるよ。」
「ありがと。ちょっと行ってくる」
俺達は少し落ち着きを取り戻していた。
そう、俺達が沈んでちゃいけない。
だって俺達はあの子のパパとママなんだから。
治療室に蒼空ちゃんが運ばれてから3時間。
治療室の扉が開き先生は俺達にこう言った。
「できる限りのことはしましたが、すいません。お子さん……蒼空くんの意識はおそらくもう……」
その言葉を理解した俺達は、ただその場に泣き崩れるしかなかった。




