母親
今回はママ目線
化粧を直すため私はトイレに向かった。
「絶対に大丈夫なんだから。」
そう自分に言い聞かせて。
数時間前まで私は幸せな休日を過ごしていた。
ひとつ屋根の下に愛する一人息子と旦那さんがいる。これだけでとても幸せな気分でいられた。
仕事も産休中で余計な事を考えずに幸せな休日を満喫していたのだ。
響と蒼空ちゃんがテレビ見ている時、私は自室でパソコンと向き合っていた。
調べているのは蒼空ちゃんの洋服。
男児用の服は需要が少ないので色々なところから見つけてこないといけないのだ。
「うーーん。この青いのなんかいいかもしれない。なんてったって蒼空ちゃんだし!」
なんてことを口ずさみながら洋服を探していると何やら大きな声がした。
…………?!………!!…………!!
私は響が蒼空ちゃんを可愛がり過ぎてテンションがあがっているのかな?なんて考えていた。
「もう夜になるし……はぁ、しょうがない。注意しに行きますか。蒼空ちゃんとも遊びたいし!」
そう言うと私は階段を下りてリビングへ
広がっていたのは想像していたのと違う光景だった。
蒼空ちゃんに必死になって呼びかけている響。
見たことのない苦しそうな顔をしている蒼空ちゃん。
響に問いかけるも何故こうなったのかわからないという。
とにかく救急車だ。
私は響に救急車を呼ぶように言うと蒼空ちゃんの手を握り声をかける。
「大丈夫だからね。ママとパパがついてるから」
一瞬、蒼空ちゃんは目を開けたように見えたがすぐさま目を閉じて苦しそうな顔に戻る。
救急車を呼び終えた響が戻ってくる。
「渚!蒼空ちゃんは?!蒼空ちゃんは大丈夫なのか?!」
「落ち着きなさい響!…救急車が来る前に保険証用意!母子手帳も!」
「わ、わかった!」
だめだ。響は完全にパニックになっている。
私が落ち着かなきゃ。落ち着いて、しっかりしないと。私はママで、奥さんなんだから…。
自分に何度も言い聞かせながらなんとか落ち着かせようとする。
「そ、蒼空ちゃんに暖かいもの羽織らせないと!」
私は声に出しながらやらなければならない事を確認し、実行していく。
落ち着いて、しっかり、何度も想定してたじゃない。急な発熱や嘔吐の時にしなくちゃいけないマニュアル通りにしないと…
蒼空ちゃんに毛布を羽織らせ、抱き抱えながら声をかけていると救急車が到着した。
私はすぐさま状況をはなす
「む、息子がいきなり苦しみはじめて!それまで特に異常はなかったはずなのに急に!目も開けられてないし震えも出てるんです!」
「わかりました。すぐ病院に運びますので同乗お願いします。」
「はい、わかりました、どうか、よろしくお願いします…ッ」
私はお願いするしかなかった。
大丈夫、マニュアル通りにできたはず。あとはお医者さんが蒼空ちゃんを見てくれる。だから落ち着いていい。落ち着きなさい私!
化粧を直したあと治療室の前に戻ってきた。椅子には響が座っている。
「お、おかえり渚。ほらこれ、コーヒー」
「ありがとう響。響は大丈夫なの?」
「うん。なんとかね…渚こそ大丈夫?」
「そう、それなら良かった。私も大丈夫よ。ほら、化粧もバッチリで美人さんでしょ?」
「ははっ。こんな涙跡がある美人さんは渚だけだね」
「ひ、響だって涙跡酷いじゃない!」
「「………ふふっ。」」
わたし達はお互い軽く笑いあった。
そうしないと元気になれないから。
しばらく黙っていたあと響に声をかける
「………………ねぇ?蒼空ちゃんが元気になったらどうしよっか?すぐには無理だけど、ピクニック行ってみない?」
「…………うん。いいかもねそれ。蒼空ちゃんの公園デビューだ。きっと蒼空ちゃんよろこぶぞ」
「そうね。顔くしゃくしゃにしながらニコニコしてくれるわよね」
「うんうん。俺、腕によりをかけてお弁当作るよ。久々だろ?俺のお弁当。」
「ほんと?お弁当楽しみね。たしか最後に食べたのは高校生の時だったわよね?」
「そうそう、あの頃の渚は食べる量凄くてなー。俺の倍の弁当箱でも足らないって言うんだもん、参ったよ。」
「し、しょうがないじゃない…美味しかったんだから。あんな美味しいお弁当を食べる量抑えろってのが無理な話なのよ」
「なんだよそれ。渚は変わらないなぁ…」
「響も変わってないわよ、その照れてる時鼻まで赤くなるクセ。隠せてないんだから。」
「いいんだよこれは。もう夫婦なんだから隠す必要ないしね」
「それもそうね。フフッ」
わたし達は幸せな話をしていた。
わたし達が出会って、恋をして、結婚して、妊娠して……
そんな幸せな話をしてわたし達は心を落ち着かせていた。
「………ねぇ?渚?…渚は今幸せ?」
響は私に聞いてくる
「幸せよ。当たり前じゃない。でも、まだ足りない。だってこの場に蒼空ちゃんがいないもの。」
「うん。俺も渚とおんなじ。蒼空ちゃんがいないと俺達もう幸せじゃいられないもんな」
「ほんと、そのとおりだわ。でも大丈夫よ。私言ったわよね?プロポーズの時」
「覚えてるよ『響は私と結婚すれば未来永劫幸せから逃げられなくなるのよ!だから私と一緒になって幸せに捕まりなさい!』だったよね」
「ええ、そのとおり。幸せなになるのは確定されているのよわたし達。だから、わたし達の幸せに必要不可欠な蒼空ちゃんは絶対に大丈夫なの。わかった?」
「うん。わかった。ほんと、渚の理論には頭が上がらないよ俺」
うん。もう大丈夫。
わたし達はもう大丈夫。
あとは蒼空ちゃんの治療が終わるのを待つだけなのよ。……あぁ、早く蒼空ちゃんを抱きしめたい。
治療室のドアが開く。
響が先生に駆け寄り話を聞いている。
先生の言葉を聞いた瞬間、私は幸せが崩れ去るのを感じながらその場に泣き崩れた。




