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「会長〜待ってくださいよ会長ってば〜」
「……なに?」
7月に入り、期末テストのため部活動が休止中になっているためいつもより静かになっている放課後、会長と呼ばれた女子生徒は振り返る。
「どうかした?」
「どうかしたじゃないですよー!さっきの会議のこと本気何ですか?!」
「本気じゃなければ会議なんてしないし、そもそも私は状態が好きじゃないのよ」
「はぁ〜……。でも、会長……あんなの先生達が許すんですか?」
「許すとかじゃないの。やらなくちゃいけないのよ」
そうきっぱりと答えるのは掴魅蒼結。蒼空達の通う中学校にある生徒会の会長だった。
「でもでも、やっぱり夏休みに強制的に補習なんて生徒だけで決めていい問題じゃ……」
「なら教師たちを納得させるだけよ。」
「うぅ……ほんとに納得させちゃうから問題なんですよぉ……」
夏休み期間中の補習義務。これが先程まで生徒会の会議で行われていた議題であり、蒼結が押し通そうとしている内容だった。
蒼空達の通う中学校は地域で唯一の共学公立校であった。学術政令都市内にある共学公立校として全国的にも有名でこの学校に入学させたいという理由で地域に引っ越してくる家族もいる程だ。
そんな学校で最近問題となっているのは学力の低下だった。
学術政令都市として子育ての面から移住者が増えた事による生徒数の増加。さらに、この世界において共学という数少ない学舎である事で男子と一緒に学校生活を送りたい、送らせたいという事で女子生徒の増加。それに加えて公立校ということから金銭的にも魅力的だともいえる。
この学校が開校してから10年経つが生徒数はどんどん膨れ上がり校舎の増設は常に行われていた。都市議会にも分校を建てるべきではないのかと毎年取り上げられてはいるのだがあくまで増設に収まっていた。
学術政令都市として編入または入学してくる生徒達だけをみたら学力の低下など考える必要のない事なのだが、共学というもう一つのアドバンテージが目的の生徒達と交わるとそうは言っていられなくなったのだ。
いくら上が良くてもあくまで少数。その他大勢の大多数によって平均値はすぐに下がってしまう。それがこの学校の学力低下という結果をだしたのだ。
「期末テストで正解率8割に満たない者に対して補習を義務化させる」
生徒会での会議で蒼結は開口一番にそう唱えた。
「義務化……?補習をですか?」
「そうだ」
「補習って、いつやるやつ?」
「夏休みの期間中新たに機会を設ける。そうだな……3週間ほどあれば十分か」
「3週間って!それってやるのに先生必要ですよね?!」
「そうなるだろうな」
「そもそも義務化って、それほかの生徒絶対納得しないですよ……」
「納得させる必要なんかない。どんな文句があろうとも参加させる。それ故の義務化だ」
「それって生徒会でやるんじゃなくて先生達が決める事じゃ……」
「教師たちに任せていては何も進まない。と、いうより教師たちはあまりやる必要なんかないと思ってるだろうな」
「それじゃあ絶対義務化なんて無理じゃないですか……そもそも普通の補習すらわたし達だけじゃ決められないのに……」
「教師たちがやろうとしないからこうやって生徒会で決め、教師たちに強要していくんだ」
「えぇ……」
そもそも何故教師たち大人が学力低下に手を打っていないのか。
それは大人達の目的にあった。
学術政令都市とはその名の通り学術において先進的な都市である。では、どうやってそれを他の都市へアピールしていくか?都市全体の学力向上をすれば勿論のことアピールになるが、もっと効率がよく楽な方法がある。それは最高学府への入学者数であった。
学術を学ばせ育ませたいと思う子の親はまず誰もが憧れるであろう最高学府。それに対する入学者数が多ければ多いほど期待値は高まる。もちろん平均的な学力の高さも親にとっては期待できるものだがやはり先の方がインパクトも魅力もあるのだ。
親は知らずに子に期待する。それは平均的学力が低くとも高い合格者数の1部に我が子なら入れるだろうという幻想を生ませる。
学力平均が高いですよ!と宣伝するのと、最高学府への入学者数が多いですよ!というのでは後者の方が学術を志している者にとって魅力。
そしてそれは教師たちにも利点であった。多数の生徒を指導するには労力が当然多くかかる。全員が全員学術を志していれば皆積極的に授業に取り組み平均値も易々と上がるだろうが公立校であるこの学校には当然学術が嫌いな生徒もいる。
そんな生徒達の学力を向上させるのは多くの労力と技術が必要になるのだ。
しかし、それが学術を志している生徒だけに絞ったらどうか?成績が良い生徒のみに絞ったら?当然、労力も技術も少なく済む。
例え教師が教える技術が未熟だったとしても上を目指している生徒は必死になって読み取ろうとする。理解しようとする。それは結果へとすぐに反映されていく。
勉強が嫌いな生徒に10の事を教えても返ってくるのは2か3、良くて5だろう。
それに対して勉強が好き、得意な生徒に10の事を教えたら10で返ってくる事が殆ど。場合によっては10以上のことを理解してくれる場合まであるのだ。
教師たちはわざわざ大変な思いをしてまでとはいかない。楽できるのであればと、学力低下には蓋をかぶせるようにして見ないふりをしているのが現状であった。
生徒会の会議は反対意見ばかりだったが蒼結が「決定事項」との意見を曲げないまま終了。
教室を出た蒼結を慌てて副会長が追いかけてきたのだった。
「も〜会長ってば!そもそもどうやって先生達納得させるんですか?」
「大丈夫、私なら出来るんだ」
「その根拠は?」
「だって私は完璧にならなくちゃいけないからね。」
そう副会長の顔を見る蒼結の瞳には酷く醜い靄がかかっていた。
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