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舞桜ちゃんが病室から出ていったあと、蒼海ちゃんは酷く怯えていた。
「先輩っ!絶対あの人と会わないで!二人っきりになったりしないで!!」
「ど、どういうこと蒼海ちゃんっ?落ち着こう?ね?」
声を荒らげる蒼海ちゃんを抱きしめながら落ち着かせようと言葉をかけるがあまり意味をなさなかった。僕の腕を掴む手には力が込められているのがわかる。そして、震えも。
なにより、目が覚めた時と同じようにまた僕のことを先輩と呼ぶ。
蒼海ちゃんが目覚めてすぐの頃、僕のことをしきりに先輩と呼んでいた蒼海ちゃん。「先輩、私です!美羽です!」「覚えてないんですか?!先輩っ!」「先輩っ!また先輩と一緒に過ごせるんですね!!」というふうに。
僕のことを先輩と呼ぶだけじゃない。自分のこともみうと呼んでいた。
蒼海ではなく、みう。病院の先生に聞くと記憶の混濁であろうと言うが、腑に落ちなかった。
そもそも僕はこの世界で先輩と呼ばれたことがなかった。ましてや蒼海ちゃんの前で呼ばれるなんてことはない。そして、みうという名前。蒼海ちゃんの友達にもそのような名前の子はおらず、ドラマやアニメでもみうという名前のキャラクターが出ていたことはなかった。
そう、混ざってしまう様な記憶を蒼海ちゃんが持つ可能性がなかったんだ。
それがどうしても僕の心に引っかかっていた。
変わったのは呼び方だけではなかった。両親に対する態度が激変した。
まるで敵のように二人に接するようになったのだ。病室に入られることすら拒否することから始まり、完全に二人の言葉を無視し、近づかれようものなら手元の物を投げつける程の拒絶。
怯えた様子ではなく明確な敵意、そして嫌悪感。
僕に対しての態度は以前よりもすこし依存気味になった程度の変化だったのが余計に両親を混乱させた。
蒼海ちゃんに拒絶された二人の落ち込みようは相当のものだったろう。毎日辛そうな顔をしながら病院へと向かっているのを僕は見ていた。
一週間ほどたった頃、蒼海ちゃんの態度がまた変わった。
僕の事をお兄ちゃんと呼ぶようになり、自らのことも蒼海だと理解していた。そして両親に対しても物を投げて拒絶していたのが無くなった。返事こそ必要最低限だがかなり緩和された。
「落ち着いた?蒼海ちゃん?」
「……ダメだよ先輩……」
「蒼海ちゃん……」
「また……居なくなっちゃうなんて嫌だよ……っ」
掴む力は中々収まらない。舞桜ちゃんが去ってから時間が経ったからか震えこそおさまりつつあったが今だ先輩呼びのまま。
「……大丈夫だよ蒼海ちゃん。僕はここにいるから。」
「……」
「不安にさせちゃったね?ごめんね?……今日は僕も病院に止まるから、安心して、ゆっくりしようね?」
「……はい。」
これまでにも数回ほど僕は蒼海ちゃんの付き添いで病室に泊まった事があった。そして今回もそうしたほうがいいと判断したのだ。
今の状態の蒼海ちゃんをほって置いてはいけない。
「……また、先輩呼びに戻っちゃったね。」
「……」
「蒼海ちゃんはその……僕のことをお兄ちゃんじゃなくて、先輩だって思ってるの?」
「……」
「ごめんね、答えにくかったね。……でも、安心してね?僕はお兄ちゃんでも先輩でもどっちだったとしても、蒼海ちゃんから離れたりしないから」
「……うん」
「今日は久しぶりに一緒に寝るね?どうやって寝ようか?」
「おんなじ……ベッドじゃないとヤダ」
「うん、じゃあそうしよっか?くっついて寝ないとだね。我慢できる?」
「我慢なんてしないよ……くっついてないと、いやだよ……」
「そっか。蒼海ちゃんは甘えん坊さんだね」
「嫌……?」
「ううん。嫌じゃないよ?可愛い妹だもん」
「妹……」
今日はずっと一緒にいるというのが効いてきたのか、だんだんと話せるようになってきた。
「そう、大事な妹だよ蒼海ちゃんは。」
「私……妹?……お兄ちゃん?」
「うん、僕は蒼海ちゃんのお兄ちゃんだよ。家族だ。」
「お兄ちゃん……家族……そっか……そっか……。」
蒼海ちゃんはぼそぼそとお兄ちゃん、家族と呟いている。自分に言い聞かせているかのように。
「……ごめんね、お兄ちゃん。私また、わかんなくなっちゃってたみたい。」
「ううん。大丈夫だよ、気にしてないし、蒼海ちゃんが落ち着いてくれたのなら良かった。」
「うん。えへへ、ありがとう、お兄ちゃん」
「……わかんなくなっちゃう前のこと、覚えてる?」
「……あの人、お兄ちゃんの知り合い?」
「うん。舞桜ちゃんって言うんだ。覚えてない?」
「舞桜ちゃん……」
「うん。僕が赤ちゃんの頃から知り合いなんだよ。蒼海ちゃんも会ったことあるし、何回も一緒に遊んだりしてたんだ」
「そう……だったんだ。覚えてないや」
「そっか……うん。忘れちゃったのなら仕方ないね。無理に思い出さなくても、ゆっくりまた思い出していこう?」
「うん。……ねぇ、お兄ちゃん?」
「うん?どうしたの?」
「あの人に何かされたりしてない?」
「舞桜ちゃんに?ううん。よくはしてもらってるけど……」
「そっか……」
そういうと蒼海ちゃんはしばらく黙ってしまう。
抱き合いながら少したった頃、また口を開いた。
「ねぇ、お兄ちゃん……あの人とあんまり一緒に……いないでね?」
「……どうして、かな?」
「……ごめんなさい、信じてもらえないかも。」
「そんなに、おかしな理由ってこと?」
「……あの人は、お兄ちゃんを、遠くにしちゃうから……」
「遠く?」
「うん。ずっとずっと遠く。もう、会えないんじゃないかってくらい遠くに。私じゃ届かないくらい、遠く……」
「……そっか。でも、僕は遠くにはいかないよ?ほら、今だって一緒にいる」
「ううん。そうじゃないの……そうじゃ、ないんだよ……」
そう言って蒼海ちゃんはギュッと僕に腕を回し強く抱きしめる。
「近くにいても、届かないことだってあるんだよ………」
感想返さなきゃなって思うけどしばらく放置してしまったからおっくうに
とりあえず否定も肯定も有難い。意欲向上になりますありがとうやで




