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6月1日。春の暖かな陽気はどこへ行ったのか、梅雨のジメジメとした空気に変わり学生にとっては憂鬱な季節。僕は昨日まで着ていた制服ではなく、夏仕様の制服に着替えていた。
「夏服かぁ……学ラン着られないってことは、やっぱり着けないとかなぁ……」
梅雨の肌に張り付くような空気を浴びて普通の学生だったら夏服には賛成だろう。しかし、僕は違っていた。
夏服。この世界においても夏服はさほど変わりなくワイシャツにスラックスというのが基本だった。ワイシャツ一枚。つまり……
「ブラジャー着けなきゃ……だよなぁ……」
そう、下着。もしワイシャツに下着を何も着ないで着た場合は胸部が透けてしまう。
以前の世界であれば、男性においては割と気にしないでも平気ではあった。しかし、この世界ではそうはいかない。
「父さんにはちゃんと着て行きなさいって言われてたけど、学ランの時はある程度誤魔化しちゃってたからなぁ……」
僕は正直まだブラジャーに慣れていない。小学生の頃つけていたのはいわゆるスポーツブラというものでシャツの延長線と言えなくもなく、なんとか自分を誤魔化せていた。
しかし、中学にあがってから父さんが買ってくる下着の趣向が変わってしまった。父さん曰く、「中学生になったらちゃんとしたもの着けないとね?マナーみたいなものだから」とのことだった。
「マナーかぁ……こんなの男がつけてて何がいいんだろ?」
そう言って鏡の前で確認する。薄い青色の生地にレースでふんわりと飾られたその下着はTVのCMで【男を飾るエレガントブラ】と謳われているものだった。
なんとか自分を納得させ、身支度を終えたあとリビングへ向かった。
「おはよう父さん。夏服、これで着方あってる?」
「おはよう蒼空くん。うん!とっても可愛いよ!」
「そ、そっか……あれ?母さんは?」
「渚なら今日は午後から仕事って言ってたからまだ来てないよ。多分もう少ししたら起きてくるんじゃないかな?」
「あ、そうだったんだ。病院は午前中に行くのかな?」
「うん、そう言ってたよ。パパもそうするつもり。蒼空くんは?部活終わってから行く?」
「そのつもり。今日は舞桜ちゃんも一緒に行きたいって言っててさ。2人で部活終わったら行くよ」
「……そうか、彼女も一緒にか……蒼空くん、気をつけて行ってくるんだよ?」
「?うん。それじゃいただきます」
会話を終え並べられた朝食を食べていると寝室から寝間着姿のまま母さんが降りてきた。
「ふぁ~……。おはよー」
「おはよう渚」
「おはよう母さん」
「うん、二人ともおはよ……っ!」
母さんが寝ぼけ眼で僕をちらっとみた瞬間目を見開いた。
カッ!という効果音が聞こえてきそうなほど目を見開き僕を凝視する母さん。
「……え、蒼空くんその服……え、なにその可愛さ……」
「なにって、夏服だけど……」
「蒼空くん」
「うん?」
「写真一枚いいですか?」
「えっ」
「息子に何言ってんの渚?ふざけてないで早く朝ごはん食べちゃいなよ」
「は?!響こそなんでそんなリアクションなの?!こんな可愛い姿を見て写真撮らずに何するの?!握手?!」
「いや握手って……可愛いのは蒼空くんなんだから当たり前だし、それに着付けの時俺見てるから」
「ずるい!ママも着付け手伝いたかった!手取り足取り着せ替えてあげたかった!」
「息子相手でもセクハラってあるからね?気をつけなよ?」
「うぅ……そ、蒼空くん?蒼空くんは写真撮らせてくれるわよね?!」
「えっと……あ!待ち合わせに遅れるから僕もう行くね!ごめんね母さん!行ってきます!」
そう言って逃げるように家を出た僕。
母さんには悪いけど、あまり写真には写りたくなかった。なんていうか、可愛い男の子っていうのに抵抗が消えてくれない。
待ち合わせ場所にはすでに舞桜ちゃんがいた。
「おはよう舞桜ちゃん。ごめんね、待った?」
「おはよう。ううん、今来たところ。」
テンプレートな挨拶を交わして歩き始める。
「夏服似合ってるね蒼空くん」
「そう?自分じゃよくわかんないや」
「似合ってるけど、その分気をつけてね?その、透けたりだとか」
「あー……うん。なるべく気をつけるよ。あんまり見られるの好きじゃないから」
そんな会話をしながら学校へ着くとなにやら教室の前に人だかりができていた。
不思議に思いながら近づくと、教室内からムワっとした空気が流れてきた。
「あ!蒼空!ちょっと聞いてくれよ!」
僕を見つけると正人が駆け寄ってくる。
「なんか知らないけど教室のヒーターが壊れたらしくて勝手に動いて止まらないんだってさ!」
「え、それ大丈夫なの?」
「大丈夫じゃねーよ!すげぇ暑いんだ教室が!先生が修理しようとしたんだけど全然だめで、業者の人呼んだみたいなんだけど来てくれるのが午後みたいで……」
「え、ってことは……」
「そうなんだよ。この暑さの中午前中授業受けなきゃいけないんだよ……」
教室の外にいても流れてくる空気の暑さと不快感は中々のものだった。
実際に教室に入ったらどれほどなのか……
「そういえば一騎はどうしたの?」
「午前中でもこの暑さは無理!って言って保健室。先生が男子は耐えられなかったら保健室でもいいって言ってさ。蒼空はどーする?」
「うーん……あんまりにも耐えられなさそうだったら僕も保健室に行くよ。……ていうか、女子はダメなの?」
「ダメっていうか、女子は大丈夫だろ。丈夫だし」
「そ、そっか……」
「おう。それじゃ俺は一騎と一緒に保健室で待つことにするから、蒼空も耐えられなくなったらすぐこいよなー」
「うん。それじゃまた後でね」
挨拶を交わして教室へ入っていく。
中に入ると淀んだ空気が全身を覆い不快指数をあげていく。額からは汗が滲み制服が肌に張り付く。
「うわ、ほんとにあっつい……舞桜ちゃんは平気なの?」
「うん。このくらいならなんとか」
ころっとした顔でそう言う舞桜ちゃんを見て先ほどの女子は丈夫というのに納得する。
耐えられないこともなさそうなのでそのまま席につき授業を受けていく。
なにやらいつもより視線を感じるがイマイチ誰に見られているのかわからない。
「蒼空くん、これ」
「うん?どうしたの舞桜ちゃん?」
そう言って授業中に隣の舞桜ちゃんが何か手渡してきた。
カーディガンだ。これをどうしろと?
「とりあえず、それ着て隠して」
「えっと、何を?」
「下着、すっごい透けてる」
「……あっ」
そう言われてはっとする。汗をかきそれをワイシャツが吸うことで中に着ていた下着がくっきりと現れていた。
感じていた視線はこれのせいか……僕は手渡されたカーディガンを慌てて着る。
見られていたことによる不快感ではなく、こんな下着をつけているというのが周りに伝わるのが恥ずかしかったからだ。
「あ、ありがとう舞桜ちゃん……助かったよ」
「ううん。それより、保健室に行った方がいいんじゃない?それ着ながらだとさすがに辛いんじゃない?」
「うん、そうさせてもらう」
先生に声をかけて保健室へと向かう。
教室を出る際、いくらかのため息と舌打ちが聞こえたが原因のわからかい僕はそのまま保健室へ向かうのだった。
休み時間。
教室の隅で女子たちがこそこそと会話をしていた
女子A「……どう?!うまくいったでしょ?!」
女子B「うんうん!もう、すごかった!」
女子C「あんなに透けるまで気がつかないなんてやっぱ天然ビッチなのかも!」
女子D「いや、あれも実は計算されてるのかもしれんよ……」
女子A「てかこのさい計算とか天然とかどっちでもいいから!」
女子E「そうだよ!どっちにしろエロかったからおkだよ!」
女子B「てかこんなに上手くいくとはねー。暖房弄るの頑張ってよかった!」
女子C「それそれ!機械化の高校行った先輩に教えてもらったかいあった!」
女子D「うまく行ったのはいいけどさ、ほんとにこれ大丈夫だったん?」
女子A「大丈夫だって!先輩もバレないって言ってたし!」
女子B「それにあんなにエロいの見れたんだもん!今度もう一回……」
舞桜「もう一回、なに?」
女子ABCDE「「「「「あっ」」」」」
舞桜「とりあえず、先生に報告してくるから」
後日、数名の生徒が保護者同伴のもと学校へ訪れ丸一日説教をくらい、ある機械化の高校の女子生徒が停学処分を受けたことを蒼空は知る由もなかった。
仕事滅びろ




