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掴まれた手に痛みを感じた。
この世界の女という性別の力。
「い、痛いよ蒼海ちゃん……」
僕は真っ暗な目で僕を見つめ続けている蒼海ちゃんにそう呟く。
男の僕では振り払おうにも力の差でできなかった。
「……先輩もそう私を呼ぶんだ。」
「え?」
「先輩?私は蒼海じゃないですよ?私は」
何かを言いかけていたところで病室の扉が開く。
仕事を終えた母さんと先生だった。
「……蒼海ちゃん?!起きてるの?!」
母さんが僕の手を掴む蒼海ちゃんを見て駆け寄ってくる。
母さんも僕と同じで起きている蒼海ちゃんとはかぶらないと思っていたのだろう、かなり驚いた様子だ。
パッと手の痛みが引いていく。蒼海ちゃんの手が離れたのだ。
「……ねぇ、あなたが私のお母さん?」
蒼海ちゃんは駆け寄ってきた母さんにそう告げた。
「えっ?う、蒼海ちゃん?ママがわからないの……?」
「はい、ごめんなさい。」
きっぱりと答える蒼海ちゃんの声は落ち着いていて、僕の知っている蒼海ちゃんとは違う雰囲気を感じさせていた。
「そ、そんな……先生っ!これは?!」
「おそらく一時的な記憶の混乱でしょう……詳しい事はこれから調べて見ないとわかりませんが完全に記憶がなくなるということは考えにくいので……」
「そう……ですか……」
先生の言葉を聞いて肩を落とす母さん。
当然だろう。せっかく目が覚めてくれたのに、自分のことを忘れているなんて誰でもショックを受ける。
「……そ、それじゃあ!それじゃあ蒼空くんのことは?!蒼海ちゃんが大好きだったお兄ちゃんよっ?!」
母さんはそう言って僕を抱き寄せる。
一瞬、蒼海ちゃんの目元が細くなる。
「蒼空……お兄ちゃん?」
「そうよ!覚えてる?!」
「……ほんとに、お兄ちゃん?私の?家族?」
「当たり前じゃない!ママも蒼空くんも蒼海ちゃんの家族よ!」
「……蒼空お兄ちゃん?」
そう呟きながら蒼海ちゃんは僕を見つめてきた。
確認するように、しっかりとした声で。
「うん。僕は蒼海ちゃんの兄だよ。覚えてるかな?」
「……うん。覚えてる。私の、大事なお兄ちゃん……大切な人。」
そう言って今度は優しく僕の手を掴む。
先ほどの力に任せたような掴み方ではなく、僕の手を包むように優しく。
「お兄ちゃん」
「なに?蒼海ちゃん」
「お兄ちゃん……ふふ、お兄ちゃんっ」
「うん?」
「お兄ちゃんっ!」
蒼海ちゃんは何度か僕のことを呼ぶ。
確かめるように声を出しながら何度も何度も僕のことを呼んでいた。
そうしているうちに蒼海ちゃんは眠ってしまった。
やはり起きていられる時間はまだ短いようで、疲れてしまったのだろうと先生は言っていた。
そして、蒼海ちゃんが言っていた記憶喪失のこと。
まだ詳しく調べていないから断言こそできないが、いずれ必ず戻るだろうと母さんに伝えていた。
家に帰り、父さんに病室でのことを伝えると複雑な顔をしてはいたものの喜んでいた。
父さんも完璧なわけじゃない。蒼海ちゃんが目覚めてくれてのは嬉しいのだろうが、記憶喪失と聞いて笑顔になれるほどではなかった。
お兄ちゃん……お兄ちゃん、か。
先輩じゃなくてお兄ちゃん。
血が繋がってる、家族。
あれは絶対に先輩だった。
ってことは、私は先輩の妹になれた。
こんなに嬉しいことがあるのだろうか?
神様はなんて優しいんだろう。
あんなことしておいて、それでも先輩のそばにいさせてくれるなんて。
もう、離さないようにしないと。
天使が私の元から翼で飛び立っていかないように。
その為なら、その綺麗な翼もちぎってしまおう。
飛べなくなれば、離れることも……
短くてごめんね




