第十四話 荷車が動く日
部屋へ入ると、責任者は書記官を二人呼んだ。
従来の通行規則と、直近の指示書が机へ並べられる。
セラの書記官も袋を開き、持参した取り決めと照らし合わせた。
新王の継承について、本国が確認を求めていること。
荷の内容と取引先を、現地で調べること。
それぞれは記されていた。
だが、商会の保証を受けていない荷を、全て止めるよう命じた文書はなかった。
書記「この保証制度は、まだ両国の合意が成立しておりません。従来の通行手続きを廃止する文書も、こちらにはございません」
セラ「そちらには、ありますか」
責任者が隣の書記官へ確かめる。
男は書類をめくり直したが、新たな文書は出てこなかった。
関長「現場では、確認を慎重に行うよう指示を受けておりまして」
セラ「確認を終えた荷も、まだ待たせているのですか?どんな理由で?」
責任者は待機する荷の一覧を見た。
セラは答えを待った。
関長「……従来の手続きに必要な書類を備えたものから、確認を進めます」
セラ「では、今日通せるんですね?」
関長「既に内容を確認済みのものは、可能でございます」
セラ「では、今からすぐに始めてください」
責任者は部下を呼び、指示を出した。
役人が一覧を持って部屋を出ていく。
関長「本国へは、陛下のご来訪と継承の記録を確認した旨を報告いたします。ただし、王位の承認については、私の権限では」
セラ「承知しました。その返答は改めて貴国より頂きます。関税や保証制度の変更も、今日ここで認めたことにはしないでください」
セラの書記官が、合意した内容を書き留めた。
相手側も記録し、双方で確かめる。
アシュヴァルは窓際に座っていた。
話に口を挟むことも、責任者へ何かを命じることもなかった。
*
最初の荷車が動いたのは、日が傾き始めた頃だった。
役人が目録と積み荷の封を確かめ、商人の名を呼ぶ。
役人「通ってよい」
御者は聞き間違いではないかという顔をした。
もう一度告げられて、ようやく手綱を取る。
車輪が深い轍を抜け、荷車が門をくぐった。
誰かが声を上げた。
手を叩く者、帽子を振る者、仲間の肩を掴む者。
列の後ろにも、最初の一台が通ったことが伝わっていく。
セラは団長と共に、道の端へ立っていた。
二台目の御者が彼女を見つけ、帽子を取る。
御者「陛下!」
荷車は止めなかった。
今は先へ進むことの方が大事なのだと分かる礼だった。
男はもう一度帽子を上げ、門へ向かった。
その後ろから、若い御者の声が響く。
御者「やったぞ!」
商人「王様が門を開けた!」
セラは動く荷車を見送った。
書記官が取り決めを確かめ、役人が荷を調べた。
団長と近衛が、ここまで連れてきてくれた。
自分一人でできたことではない。
それでも、来た意味はあったと思えた。
皇帝「ふははは! 冠より、馬の方が役に立ったではないか」
アシュヴァルが、宙へ浮いたままこちらを見ていた。
セラ「……あんた、本当に笑っていただけね」
皇帝「では、我が来たゆえ門が開いたとでも申してやろうか?」
セラ「言わないで!」
皇帝が笑う。
セラは荷車へ顔を戻した。
セラ「……皆で、通せるようにしたのよ」
皇帝「そうか」
短い返事だった。
次の御者もセラを見つけ、帽子を取った。
今度はセラも、迷わず顔を上げた。
*
その夜、関所の責任者は本国への報告を書き直していた。
最初の紙には新王が突然訪れ、現場を混乱させたと記した。
だが、荷が止まっていたのはその前からだ。
通れた荷と通れなかった荷があり、理由を問われた自分は明確に答えられなかった。
書記官も役人も、その場にいた。
自分に都合の悪い部分だけを消すわけにはいかなかった。
責任者は新しい紙へ来訪と会談の経緯を書いた。
従来の規則に従い、確認を終えた荷から通行を再開したことも記す。
脇には、アルディア王国の有力家門から届いた知らせがあった。
近衛出身の女。
統治の経験なし。
国内の支持も、まだ定まらない。
間違ってはいないのだろう。
だが、その情報だけで判断し、対応を誤った。
責任者は報告の最後へ書き加えた。
女王は、臣民のために現地まで来る。
――書きつけてから、しばらくその一文を見ていた。




