35話 トレントの群れ
ミルト村で1泊した俺達は、再度野ウサギの討伐へと赴いた。
昨日見付けた群れも3割程は逃げられ、追った先で討伐したのを含めても大体2割程の数を取り逃がしていると思われる。
その野ウサギを今日は探したいと思う。
「さて、今日も野ウサギ討伐と行くか。逃がした野ウサギや新たに群れを成した野ウサギが見つかればいいんだが……」
「あれだけの数、恐らくは大きめの巣穴を何処かに作っているはずよ。その巣穴を探し出して潰してしまえば、暫くは異常繁殖もしなくなるんじゃないかしら?」
「なるほど巣穴か、ありだな。早速鳥達をテイムして探してもらおうか」
「そだね!」
今日も空を飛び回っている鳥達をテイムし、野ウサギの巣穴を探すように指示を出す。
数は昨日と同じく、カエデが2羽で俺が6羽だ。
「お前達、野ウサギの巣穴探し頼んだぞ」
「お願いね!」
鳥達は綺麗に6方向に分かれて巣穴を探しに行ってくれた。
「さて、俺達も巣穴を探そうか。野ウサギはどの辺に巣を作るんだ?」
「そうねぇ、基本的には地面に穴を掘って巣にするタイプだったと思うけれど、たまに木の根だったり、洞窟の中や岩陰にも巣を作る場合があるみたいよ?」
「へぇ、物知りだな」
「私の故郷の山脈にも野ウサギが居るから知っていただけよ」
「なるほど」
そう言えば、メイランの故郷の話や何故奴隷になったのかっていう話を全く聞いた事ないな。
話題が出ないから話さないだけだとは思うが、自分から話さないって事は話したくないって事の可能性も否定出来ない。
「ご主人様、向こうに森林地帯があるよ! 地面に巣食うとしても良い隠れ家になるんじゃないかな?」
「確かに、行ってみるか」
森林地帯へ足を進めた俺達。
平原に現れる魔物とは生態が異なるので、周囲に注意しながら移動していく。
俺は現在狼人族の姿だ、森林内だとこちらの方が動きやすいからな。
「この先に魔物の気配がする、気を付けて」
「「了解」」
カエデが魔物の気配を察知し、正体を確認すべく慎重に進んでいく。
しかし、進めど進めど魔物の姿が見受けられない。
「姿が全く見えないぞ」
「地面に潜っているか、上手く隠れてるのかもしれないわね」
「この辺に居るはずなんだけど……シェミィも何か気付いたら教えて」
カエデが話している最中、ゴゴゴゴゴゴッと地響きが起きた。
「な、何!?」
メイランが何が起きたと驚く中、俺の持っている危険察知スキルが急に発動した。
同時に背中がゾクリと震える感覚があり、即座に動かなければ危ないと悟った。
「危ない! 避けろ!」
「みんな避けて!」
カエデも危険察知のスキルが発動したのだろう、俺と同じタイミングで避けるよう声を上げた。
俺とカエデ、シェミィはすぐさま後方へバックステップ。メイランは1呼吸遅れて反応し、急いで空へと飛び上がろうとしたのだが、その瞬間に地面から木の根が突き出てきた。
「きゃぁぁ!」
いきなりの視覚外からの攻撃にメイランは避ける事が出来ず、根っこにより突き上げられる。
更に木の根に捕まり、ギュッと締め上げられる。
「ぐあぁっ……」
「メイラン!? アクセルブースト!」
俺はすぐさまアクセルブーストで加速し、メイランに巻き付いてる木の根をナイフで切る。
風の魔力を纏わせた甲斐あってか、木の根をスパッと一刀両断出来た。
メイランが木の根から解放されて落下するが、地面に落下する前にシェミィが背中で受け止めてくれた。
「ありがとう、シェミィ!」
「ご主人様! 敵が何か分かったよ! 木に化けた魔物が周りにいっぱいいる!」
よく見ると、木の根っこがウネウネと動いており胴体に赤い目が2つ付いているのが確認出来た。
よく見ないと分からない程に木へと化けている。
「なんだコイツらは……」
「多分、トレントね……」
シェミィの背中に乗せられたままのメイランは、痛みからか腕を押さえながらも俺の問いに答えてくれた。
トレントといえば、ゲームや異世界物によく出てくる木の魔物だった記憶がある。なるほど、コイツがそうなんだな。
「メイラン、大丈夫か?」
「締め付けられた時に少し腕をやられちゃっただけよ、ポーションで治るわ」
「良かった……取り敢えずポーションを渡しておく、回復するまでは離れておいてくれ」
「ありがとう、すぐ戻るわ」
シェミィはメイランを乗せて一時的に退避、攻撃が当たらないように回避に徹してくれるようだ。
「カエデ、トレントを見失うなよ」
「大丈夫、しっかり見えてるよ。違いが分かった今は間違わない」
「OK、カエデは右側の方を頼む。俺は左側を」
「分かった。気をつけてね、ご主人様」
「あぁ、カエデもな」
俺達は顔を見合わせて1度頷く、そして同時に駆け出した。
「「アクセルブースト!」」
俺は左手側に駆け出し、1体目のトレントに切りかかる。
風の魔力を纏わせているので切れ味は良いが、1度だけだと刃の長さが足りなくて胴体を切り離すことができなかった。
なので、切った部分の反対側を続けて切ることで胴体を切り離すことに成功し、1体目のトレントはバタンと倒れた。
「一撃じゃ無理だったか……ならば!」
俺はナイフに纏わせて風の魔力を刃と変え、2体目のトレントに向けて斬撃を飛ばす。
「風刃!」
この斬撃は上手く真ん中から当たればトレントを両断出来る程の大きさがある。
予測通りトレントの身体を横から真っ2つに切り離し、倒す事が出来た。
「よし、この調子で……っとっと!」
俺に向かって伸びてくる木の根を避けるのだが、1つ避ければ更に追い討ちするかのように次々と攻撃が飛んでくる。
姿をくらます上に木の根による長距離攻撃をしてくるのはなかなかに厄介だが、カエデの力を取り込んで素早さが上がっているお陰で回避出来ているのが幸いだな。
狼人族への変身に俺自身も馴染んできたのか、思うように身体が動いてくれる。
この調子なら、トレント討伐に時間は掛からないだろう。カエデの方も順調に殴り飛ばしてるみたいだし、油断せずいけば大丈夫だと確信。
ただ、少しだけ違和感もあった。
このトレント……妙に統率が取れているように感じるのは、俺の気のせいなんだろうか?
そんなこんな考えてながらも次々とトレントを討伐していき、特に何事もなく全て討伐した。
カエデの方も周囲の警戒を解いているのを見るに、俺と似たようなタイミングで討伐を終えたようだ。
「ご主人様! 大丈夫だった?」
「あぁ、特に怪我もない。カエデも見た感じ大丈夫そうだな」
「うん、反射神経は結構自信あるからね! メイランちゃん大丈夫かな?」
「さっき渡したポーションで治ると思うが……っと、シェミィとメイランが帰ってきたみたいだ」
丁度いいタイミングでシェミィが戻って来たので、メイランの怪我の具合を確かめる。
「大丈夫か? ポーションだけじゃ足りないようならヒールも出来るが」
「大丈夫よ、ポーションだけで十分に回復出来たわ」
先程まで痛みで押えていた腕をグルグルと回して治ったアピールをしている。
痛がるような素振りがないので、恐らくは大丈夫なのだろう。
メイランの防御力はDあるので、俺とカエデ2人より耐久値が高いのが幸をそうしたのかもしれない。
「良かった。俺は防御力が低いから気を付けないとな……」
「そうね。でも、狼人族であるカエデの運動能力を取り込んだコウガ様なら大丈夫よ。さっきの戦いも凄い回避力だったわよ」
「あんなに動きやすいと感じたのは初めてだ。カエデに感謝だな」
「えへへ、狼人族に生まれて良かったかも!」
カエデは嬉しそうに笑いながら俺に抱きついてくる。
頭を撫でてやると凄い勢いで尻尾をブンブン振り回す。
「あーでも、ちょっと気になる事があってな」
「気になる事?」
「あぁ。さっきのトレント、妙に統率が取れているような気がしたんだが……」
「あー……確かに、攻撃を避けた先にもタイミングよく攻撃が飛んできたりして、ちょっとやりにくく感じたかも」
カエデも俺と似たような感覚を覚えていたようだ。
「おかしいわね、トレントは統率取る魔物じゃないはずだけど……まさかね」
「思い当たる事があるのか?」
「ええ。もしかしたら、トレントの上位種が居る可能性があるわ。下種族を従える能力を持つ上位種個体が稀に生まれる事があるそうよ」
「なるほど、ちょっと調べる必要がありそうだな……ん?」
話している最中、野ウサギを捜索させていた鳥が帰ってきてピーピーと鳴いていた。
しかし、昨日のような鳴き方ではなく何か怯えているような鳴き方だった。
「何だ? 鳴き方が昨日と違うぞ」
「なんだろう……なんか、怖がってる風に見えるけど」
「確かにな……一応、確認に行こう。万が一ヤバそうな事が起きていればギルドに報告する方向で」
「「了解」」
鳥達の案内で森の中を突き進む中、カエデが急に足を止めた。
「どうした?」
「かなりの数の生き物の気配がする……背中がゾクッとするよ」
カエデの顔が少し青くなっている所を見て、俺とメイランにも緊張が走る。
カエデのこの感覚が間違いだった事はない。となれば、向かった先にはきっと何かが沢山居るのだろう。
「これ以上近付くと危ないか……?」
「かもしれないけど、せめて何が集まっているのかくらいは確認しておきたいわね」
「今の所、気配的に動きはないかな。私達には気付いてないと思う」
「なら、姿を隠したまま近付いて、正体を確認次第すぐさま引き返す。危険そうなら無理せず逃げる。これでいこう」
「「了解」」
木々や草木に隠れつつ、気配のする方向へと歩を進めていくのだが……その先で見た光景に、俺達は目を奪われた。
トレントの生態を知っているメイランすら、その光景をみて信じられないと目を見開いている。
「な……なんだ、あれは……」
目の前には、巨大で身体が真っ赤になったトレントの上位種的な魔物が、野ウサギの身体に根っこをぶっ刺して血を吸い上げている光景が広がっていた。
周りに居たトレント達も同じく、野ウサギの血を吸っている。
そして巨大なトレントの木の根の下に、野ウサギの巣らしき大穴が空いている。
トレントが野ウサギを守り、守ってもらう代わりに大量発生した野ウサギの一部をトレントに明け渡しているような、そんな感じに見えた。
「なに、これ……こんなの、ありえない……わよ」
「一体どうなってるんだ……?」
トレントって普通、土の養分とかを吸って生きてるもんじゃないのか? 生き血を吸うトレントなんて聞いた事ないぞ。
俺達は信じられない物をみて、身体が動かなくなってしまっていた。
周りをどんどんトレント達に囲まれているとも気付かずに……。
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