33話 初フライト
朝市の買い物から宿に帰ってくると、ほぼ同時にカエデも帰ってきた。
脇には1冊の本が抱えられており、恐らくテイムに関する本を見付けてきたのだろう。
「ただいま! ねぇ聞いて聞いて!」
カエデが満面の笑みを浮かべている。
何を言いたいのか大体想像出来るが、一応聞いてみるか。
「おかえり、どうしたんだ?」
「シェミィが人助けしたって聞いたの! 私達の知らない所で!」
「あぁ、ちょうど俺達も朝市で会った人からその話を聞いたぞ。風で飛んだ帽子を取ってあげたって話だよな?」
「そうそれ! さすがシェミィだよねー!」
シェミィの頭をわしゃわしゃと撫でて喜ぶカエデ。
我が子を褒めちぎる親バカみたいな感じになっているが……まぁでも、気持ちは分かる。
「今日の晩御飯、シェミィの肉増やしてやるからな! ご褒美だ」
「にゃ〜う!」
尻尾がブンブンと振られ、見るからに嬉しそうにしている。
「あぁそうだ、カエデとシェミィの為に尻尾手入れ用のオイルを手に入れたんだ! これで尻尾がサラサラツヤツヤになるぞ」
「おお! ねぇねぇご主人様、今日早速お願いしてもいい?」
「勿論だ、シェミィにもしてやるからな」
「にゃーう」
シェミィの尻尾が振られているって事はして欲しいでいいんだよな? シェミィもそういう美意識とかあるんだろうか?
まぁ、して欲しそうにしてるからキレイキレイしてやんよ!
「それも大事かもしれないけど、テイム練習や変身の慣らしはしなくていいのかしら?」
「おっと、そうだった。カエデ、その本がテイムに関する本でいいんだな?」
「うん! これが詳しく書いてるって書物庫の管理人さんから聞いたから、間違いないと思う!」
「よしよし。それじゃ予定通り、討伐系クエスト受注してから特訓に行こうか!」
「おー!」
「ふふ、コウガ様の変身楽しみだわ」
こうして俺達はギルドへ向かい、依頼が貼られている板に目を通していく。
まだ午前中とはいえ、朝市に行っていたのもあってか既に依頼の数が少なくなっていた。
トライデント王国のような大きい所ではないので仕方ない。
数少ない依頼の中に野ウサギ大量発生という討伐依頼があり、ふと目に留まった。
野ウサギは攻撃も特にしてこない大人しい動物らしいのだが、たまに大量発生して馬車の通行を妨げたりするらしい。
場所は、テラー大森林から出てきた際に見えた平原の南方面辺りで発生してるという。あの平原はダイ平原と言うらしい。
攻撃もしてこない野ウサギであればテイム練習にもってこいだし、大量発生だから討伐の際は範囲攻撃の練習にもなる。俺達がやりたい事にピッタリな依頼だ。
「決めた、このクエストにするか」
「野ウサギね。ウサギって群れる上にお肉も安いから、割に合わなくて依頼があっても残りがちになるらしいわね」
「でもでも、討伐前に野ウサギでテイム練習出来そうだよね! 温厚で何もしてこないし!」
「そう、それも考えてこれにしたんだ。俺達のやりたい事に丁度いい依頼は多分他に無いと思う」
「そうね、これにしましょうか」
「早く受注して行こ!」
「あぁ、行こうか」
野ウサギ大量発生の依頼を受けて、ギルドで周辺のマップを貰ってから門を出た。
平原の南の方で移動に時間掛かるのと、大量発生っていう事により討伐に時間が掛かった場合は暗くなる前にサンビークに帰れるか分からない。
大量発生の位置から近い村にお世話になる事も考えておかなくちゃいけないな。
「ねぇコウガ様、こうして歩いている間にでもドラゴン族の形態を慣らしても良いと思うのだけれど、どうかしら?」
「歩きながら出来るのか?」
「多分、1番難しいのが翼の操り方だと思うのよ。翼の動かし方なら歩きながらでもコツを掴めるかもしれないわ。そうなれば私とコウガ様で飛んで、カエデはシェミィに乗って移動時間短縮も出来そうだし、現実的だと思うの」
確かに、それが可能ならその方がいいだろうな。
シェミィに2人乗ることも無理ではないだろうが……結構な負担がかかるだろうからな、俺は自分の翼で飛べた方が良いだろう。
「分かった、なら俺は翼の操り方をマスターして飛ぶ練習だな」
「頑張ってご主人様! 今の内に私もシェミィに乗りながらテイム本読んどくよ。もし魔物が来たら私達で討伐するからね!」
「助かる、疲れたら俺達が交代するから頼んだ」
「了解!」
ドラゴン族に変身すると翼と尻尾が生えてくるが、服が破れない親切設計だった。
いちいち破れたりしたら服代がやばくなる所だったし、本当に助かる。
「まずは翼を動かしてみましょうか、畳んだ状態からこうして広げるの」
メイランが手本を見せてくれて、畳まれた翼がバサッと広がった。
俺もやってみようと思ったものの、どうやっても翼を広げることが出来なかった。
羽ばたく動作であれば背中の筋肉を意識して試行錯誤した結果、何とかコツを掴むことが出来たのだが……翼を広げていないと空を飛ぶことは出来ない。
「翼がどうしても広げられないな……」
「うーん、やっぱり難しいわよね。翼を広げる感覚なんて感じたこと無い筈だし、どう説明したらいいのかしら……?」
むむむと悩むメイランだったが、いい案が思い付かなかったようだ。
「実際に動かして、翼を広げる感覚を感じ取ってもらうしかないわね……私がコウガ様の翼を動かすから、何とかその背中の感覚を感じてちょうだい」
「了解した」
メイランは俺の翼を広げたり閉じたりといった動きを繰り返し、俺は背中の感覚に集中する。
しかし、背中には感じた事のない筋肉が動いているような感覚があり、自分の意志で動かす事が出来なかった。
「ダメだ、人にはない感覚過ぎて動かせない……」
「そこは頑張って感覚を掴んでもらうしかないわね……動作を繰り返してみるわね」
色々試している内に30分経過していた。
その間にも少数ながら魔物が現れているが、カエデとシェミィが討伐してくれている。
現れる魔物はボアやウルフに鷹のような姿のウォーグルだが、カエデは地上の魔物を、シェミィは風スキルでウォーグルを撃破している。
数は少ない為に基本的には直ぐ討伐されるので、魔物の姿がなくなれば再び本の続きを読み始める。
「なるほど……テイムしたい対象に魔力を飛ばして、命中させると通常テイムが出来ると。魔力抵抗が高いと失敗しやすくて、飛ばして命中させた魔力を依代にスキルによってテイム完了する。魔力を飛ばすんだね……私、魔力少ないから魔法とかも使えないんだけど大丈夫かなぁ」
そう言いながらも本をしっかり読み進めていくカエデだったが、途中でふと気になるページがあったようでページを捲る指が止まった。
「忠順テイムは相手側の承認によりテイムされる為に魔力は少量で済む。通常テイムの場合は、飛ばす魔力が必要の為に忠順テイム以上の魔力は必須っと。やっぱりそうだよね……ん? 忠順テイムによるテイム紋により魔力パスが繋がっているので、主と従魔同士で魔力の共有が可能!?」
魔力の共有が可能って……それってつまり、カエデの実質魔力量はカエデ+シェミィの魔力量ってことだよな?
「ってことは、万が一テイムに必要な魔力が足りなくても、シェミィから魔力を供給してもらったら発動可能ってことだよね!? やったぁぁ!」
大喜びするカエデを見て、俺もつい笑みが溢れる。
「コウガ様、嬉しいのは分かるのだけど、集中しましょう?」
「そ、そうだな。すまん」
一度身体を伸ばそうと思い伸びをすると、翼にも力が入りバサッ!っと翼が広がった。
「ん? おお! 翼が広がったぞ!」
「やったわね! 今の感覚、分かったかしら?」
「あぁ、今ので分かったぞ! こうだな」
先程感じた背中の感覚を思い出しつつ動かすと、自分の思うように翼が動くようになった。
試しに翼を広げつつ羽ばたくと、身体がフワッと浮かび上がる。
「おお! 身体が浮いたぞ!」
「ご主人様凄い! 飛んでる!」
カエデも俺が飛んだのに気付き、拍手してくれた。
「コウガ様やったわね! 私が手を引いてあげるから、前に進む感覚を覚えましょ!」
メイランに俺の手をゆっくり引いてもらい、前に進む推進力の感覚を身体に染み込ませていく。
移動しながらも1時間程練習したら、ある程度自由に飛べるようになっていた。
「これが空を飛ぶ感覚か! 凄いな!」
「でしょう? これを早く感じて欲しかったのよ。それじゃあ、少しスピードUPしましょうか!」
それからの道中は、俺とメイランが低空飛行、カエデはシェミィに乗ってスピードUPする。
出発して3時間は経った頃には、俺が空を飛べるようになったおかげで南平原までもう少しの地点にまで来ることが出来たのだった。
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