32話 シェミィの人助け
次の日、朝市に向かった俺とメイラン。
カエデは別行動で、テイムに関する資料を探しに書物を閲覧出来る場所へと向かった。シェミィもお供に付けている。
目的の資料が見つかるか、お昼頃までには宿へ戻るように言ってある。
「さすが朝市、昨日来た時より何倍も人が多いな」
「ほんとね、テキパキしなきゃ売り切れて買えないとかもありそうね」
人混みを避けながら1店舗ずつ流し目で品揃えを見ていく。
基本的に欲しいのは食材だが、少なげながら装飾店や屋台もあるみたいだから見れそうなら見ていきたいところだ。
「お、これは……!」
とあるオイル屋に目が留まる。
油を売る店のようで、食用油やメンテナンス用の油といった幅広い油物が売られているのだが、その内の1つの油に心が惹かれた。
そう……それば、尻尾の手入れ用オイルだ!!
髪で言うトリートメントみたいな品で、保湿されて艶々になる代物だ。
「すみません、この尻尾用オイルください」
「ん? これは獣人用だぞ? お客さん獣人じゃないし、お隣さんもドラゴン族、使い道はないと思うのだが良いのかい?」
「もう1人の連れが狼人族でして、更には猫の従魔も居るので、手入れしてやりたくて」
「なるほどな、それならば良いだろう。銀貨2枚だ」
「ありがとうございます」
尻尾用オイルを購入し、移動しようとした時。
「ん……? あっ、お客さん! 1つ聞きたい事が」
「はい、何でしょう?」
「猫の従魔と言ったな? テイムされたストームキャットって、もしやお客さんの所のか?」
「え、えぇ。他にストームキャットをテイムした人が居ないのであれば、ですが」
そう分かった瞬間、店員が俺の手を握ってきた。
「おお! そうだったか! 妻と娘から聞いたんだが、帽子が飛ばされて高い所に引っかかって困ってた所、お客さんの従魔が取ってくれたと聞いていてな。お礼を言いたかったんだ」
「そんな事があったんですか!」
俺達が知らないって事は、シェミィが単独行動していた時か……恐らく、昨日の俺達を迎えに来てくれた時の道中の話だろう。
シェミィが人助けをしていたとは思わなかったな、帰ったら褒めてあげよう。
「その帽子は、俺が娘の誕生日の時にプレゼントして本人もかなり気に入ってる帽子でな。本当にありがとう!」
「いえいえ、シェミィは優しい子ですから、当たり前の事をしたまでだと思います。帰ったらめいいっぱい褒めようと思います」
「そうしてやってくれ、そのお礼にもう1本オイルをサービスだ。このオイルで綺麗にしてやって欲しい」
「ありがとうございます!」
厚意を有難く受け取る事にして、オイル1本をサービスしてもらった。
帰ったら褒めてから手入れしてあげよう!
「シェミィが人助けしてるとは思わなかったな」
「そうね、今日の晩御飯はシェミィの分のお肉増やしましょ」
「そうだな」
俺達はオイル屋を離れ、他の店舗を見て回る。
昨日とは違う八百屋で前世に似た新鮮な野菜達を各種購入した、内容は多くなるので省く事にする。
やはり採れたてなだけあって、どれも色や艶がとても良く美味しそうだった。
隣の店舗にはハーブ店があり、レッドハーブ、サフラン、カモミール等の薬草や香辛料がずらっと並んでいた、調味料も少なからず置いてあった。
ここでも使えそうないくつかの香辛料と調味料を買い揃えストレージに入れる。
「料理に必要な物が揃ってきたわね」
「そうだな。ただ、この世界にはやっぱりアレがないんだな……」
「アレって?」
「俺の世界では米って言ってな、稲から取れる穀物でこれを水に浸してから火で炊きあげる食べ物だ」
「んー……聞いた事ないわね、その米も稲も穀物っていうのも。でも、もしかしたら名前が違うだけで存在している可能性もあるわね」
「だな、もし見つかったら前世料理に幅が広がるんだ」
「……! それは是非とも手に入れたいわね!」
メイランの目がメラメラと燃えている、昨日のハンバーグの件からメイランは料理を頑張ろうとしているようだ。
俺としても料理出来る人が増えるのは負担が減って嬉しい。
更に歩き続け他の八百屋や肉屋を見ても、前世とほとんど変わらない食材のようだ。
異世界特有の食材もあるが、それはこれから学んでいこうと思う。
お昼ご飯はクエストもしくは修行中に食べる事になるので、屋台で角ウサギと言われるウサギ系魔物の肉を使った手羽先のような食べ物を買っておいた。
「買い物はこれくらいでいいか、まだ2時間経ってないがそろそろ戻るとしようか」
「そうね、この街に居れば朝市にはいつでも行けるから、続きは今度かしらね」
「だな」
ーーーカエデsideーーー
「よし、行こっかシェミィ!」
「にゃう!」
私達はテイムに関する知識を手に入れる為、資料を探しに書物庫に来た。
ギルドの中に書物庫があるのは知っていたので、受付に書物庫利用許可を貰ってから書物庫に入った。
ちなみに書物は借りる事が出来るみたい。ご主人様からお金貰ってきてるから、ここで読むよりは借りて来た方がいいかも。
「んーと、テイムに関する本は何処だろう?」
見渡しても本、本、本! 何処に何の本があるのか全然分かんない。
受付に聞いておけば良かったな、今から聞いてこようかな?
「にゃ!」
「ん? どうしたのシェミィ?」
シェミィに呼ばれたので行ってみると、書物庫内マップが壁に貼られており、そこには何の書物があるか大雑把に書かれていた。
「あっ、これで分かりそう! シェミィありがとう!」
「にゃにゃ!」
シェミィの頭を撫でるとドヤ顔した、可愛くてほんと頼りになる。
戦闘も勿論強いし、私を主って認めてくれて嬉しいね。
「んーっと、テイムについての書物はっと。テイマーとは書いてないけど魔物に関する事だし、この辺かな?」
書物庫内マップには魔物に関する書物が纏められてる区域があった。
「うわぁ、本が多くて骨が折れそう……仕方ない、探そう」
タイトルを流し目に次々と見てテイムに関する書物を探す。
しかし、30分程探してみても見つからない。魔物区域じゃないのかなぁ。
「そこのお嬢さん」
「えっ?」
振り向くと、少し歳を取った女性が立っていた。
「貴方は?」
「私はこの書物庫の管理者ゼラよ、何を探しているの?」
「えっと、テイムに関する書物を探してるのですが……」
「なるほど、もしやそこに居るストームキャットは貴方が?」
「はい、あの子はシェミィって言います。訳あって忠順テイムは知人に教えてもらったのですが、通常のテイムを教えてもらう時間がなかったんです。忠順テイムに関する知識もあまり無いので、しっかりと調べたいなと」
「なるほどね。テイマーに関する書物はこっちじゃないわ、付いて来なさい」
連れて行かれたのは、様々な契約に関する書物が集まる区画だった。
「ほら、ここだよ」
「契約……そっか、確かにテイムも一種の契約とも取れますね」
「そう、主と魔物の契約がテイムさ。詳しい事はこの書物が詳しく書いてある、借りていくかい?」
ゼラさんが1冊の本を手に取って表紙を見せてくれた。
「はい! ありがとうございます!」
ゼラさんの助けもあって、何とかテイマーの書物を借りることが出来た。
そろそろ帰ろうとギルドの出入口辺りまで来たところで、後方から声を掛けられた。
「あの、すみません!」
「ん?」
振り向くと、女性と7歳くらいの女の子がこちらに駆け寄ってきた。
「あの、こちらの従魔さんの主さんですか?」
「え? あっ、はい。そうですけど」
「昨日、こちらの従魔さんに助けていただきまして……お礼を言いたかったんです!」
「助けられた? えっと、何があったんですか?」
詳しく話を聞くと、この子供の帽子が飛んで取れない所に引っ掛かったのを取ってあげたみたいだね。
この帽子は大事な物だったらしい。
「そうだったんですか! 偉いよシェミィ!」
「にゃう!」
撫でられて嬉しそうなシェミィ、ほんと優しい子で良かった。
「本当にありがとうございました」
「いえいえ! 良かったね、帽子が無事で」
「うん! ありがと! おねーちゃんと猫さん!」
子供が駆け寄ってきてペコりとしてきた、私だけじゃなくちゃんとシェミィにも。
シェミィが子供がこちらに来て手を伸ばしていたのに気付いた、シェミィは伏せの状態になるように身体を低くした。
「猫さんスベスベ!」
子供がシェミィを撫でて大喜びしている。
「すみません、助けてもらった時からずっと触りたい触りたいと……」
「シェミィも嫌がってないようなので大丈夫ですよ。テイムしてると分かってたとは思いますが、怖くなかったんですか?」
「たまたま隣を歩いてて少し怖いなと最初は思いましたが、テイムの証があるので襲われはしないだろうとは思ってました。帽子が飛んだ時はどうしようと思いましたが、隣を歩いてたシェミィさんが帽子を咥えて持ってきてくれた時から恐怖心は一切無くなりました。きっと優しいテイム主さんなんだろうなって」
「いえいえ、シェミィが優しい子だからですよ」
優しいテイム主さんと言われて少し照れてしまった。
「本当にありがとうございました!」
「またね! 猫さんとおねーちゃん!」
2人はこちらへ手を振ってギルドから出ていく。
ギルドの中で話していたので、一部始終を見ていた周りの冒険者達がこちらを見て話をしていた。
「あのストームキャットが女の子を助けたんだって!」
「凄いね。知人のテイマーが言ってたけど、指示した事しかやらないらしいから、あの女の子が指示して助けたって事?」
「いや、最初あの女の子が主かって確認してたし、あの女の子は何があったのか最初分かってなかっただろ。あのストームキャットの独断って事だろ」
「ストームキャット自身が子供を助けたの!? 凄くない!?」
「そんな知性がある魔物をテイムしたあの女の子……もしかして、凄い子なのかも!?」
注目浴びて恥ずかしくなってきたから退散しよ。うん、そうしよう!
「シェミィ! 行くよ!」
「にゃう!」
急いでギルドから脱出し、シェミィの背に飛び乗って宿へ目指して駆け出した。
後ろの方でカッコいいやら可愛いとか言われてる気がするけど、気にしない! 恥ずかしい!
そう言えば、出掛けてからまだ1時間半くらいしか経ってないけど、ご主人様は帰ってきてるかな?
今日あった事を早くみんなに話して、シェミィをいっぱい褒めてあげたいよね!
シェミィの今日のご飯、ちょっと贅沢させてあけてほしいってお願いしてみようかな。
「ふんふんふーん♪」
シェミィが人助けをして良い気分になった私は、ルンルンと上機嫌で鼻歌まで歌ってしまうのだった。
ご覧頂きありがとうございます。




