↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ  作者: トモサン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
98/100

恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 98

私には、なにがなんだか、わからなかった…


 事実、好子さんは、水野透(とおる)との結婚を嫌がっていたはずだ…


 それが、一体なぜ?


 私は考えた。


 「…好子さん…一体どうして?…」


 私が好子さんに話しかける間もなく、好子さんが、私の腕を引っ張って、自分の部屋に私を招いた。


 「…高見さん…アナタのお陰よ…」


 「…私のお陰?…」


 …それは、一体どういう意味?…


 …どうして、私のお陰なのだろうか?…


 「…アナタが、透(とおる)を相手にしないから…」


 好子さんが、嬉しそうに言った。


 「…アナタが、透(とおる)と、結婚すれば、私の出番がなかった…」


 私は、好子さんの言葉に文字通り、


 「…」


 と、絶句した。


 言葉を失った…


 しばし、間を置いて、心を落ち着かせた。


 それから、


 「…どういうことですか? …好子さん…説明して下さい…」


 と、言った。


 すると、好子さんは、


 「…高見さん…とりあえず座って…」


 と、私を、部屋のソファに座ることを勧めた…


 私は、好子さんに言われるままに、ソファに座った…


 すると、好子さんは、私が、ソファに座るのを待って、


 「…高見さん…恋をしたことがある?…」


 と、直球に訊いた。


 そして、私が答える間もなく、


 「…私はないわ…」


 と、断言した。


 「…私はない…一度も…」


 まるで、自分の言った言葉を噛み締めるように、繰り返した。


 「…以前、高見さんに、話したことがあるわね…学生時代、男にモテモテで、困ったこと…」


 私は好子さんの言葉に、どう答えていいか、わからなかったので、


 「…」


 と、黙っていた。


 なにが、目的で、いきなり、そんな話を始めるのか、わからなかったからだ…


 「…私、ひとを好きになれない人間なのよ…」


 いきなり、私に言った。


 「…高見さんと同じ…」


 …私と同じ?…


 …一体、どういう意味だろう?…


 「…高見さんが、初めて、正造に連れられて、この家にやって来た時、言ったわね…これまで、男のひとと付き合ったことがないと…」


 「…」


 「…これは、私も同じ…そして、私、高見さんを見て、ピンときたの?…」


 「…なにが、ピンときたんですか?…」


 「…高見さんも、私も、ひとを好きになれない人間だって…」


 「…ひとを好きになれない…」


 文字通り、絶句した。


 言葉もなかった…


 自分では、自分のことを、これまで、何度もそう思ってきた…


 心の中で、何度も、反芻した。


 自分は他人を好きになれない人間だと…


 しかし、それを他人に言われるとは、思わなかった…


 しかも、


 しかも、それを、私そっくりの外観の好子さんに言われるとは?


 考えてもみないことだった…


 「…私も高見さんも、自分でいうのもなんだけど、美人に生まれた…だから、子供の頃から、男のコにモテモテだった…でも、そんな環境でいながら、一度も満足に男と付き合ったこともない…要するに、心が動かないから…」


 「…」


 「…ひとを好きになれないからよ…」


 「…」


 「…そして、そんな人間は、恋をすることができない…キスやセックスをすることはできるわよ…子供だって、産むことができる…でも、恋をすることができない…」


 「…」


 「…でも、私は米倉の正統後継者…いずれは、誰か、男のひとと結婚しなければならない…結婚して、子供を産み、米倉の血を引き継がせなければならない…だから、好きでもない男と、いずれ、結婚し、その男の子供を産まなければならない…」


 「…」


 「…そして、好きでもない男と結婚するには、なにか別の条件がなければならない…」


 「…別の条件?…」


 「…例えば、誰にでもわかりやすい条件は、イケメンだったり、お金持ちだったり、あるいは、誰よりも、私に優しかったり…」


 「…」


 「…そして、今回は、米倉の危機…これを回避できる能力を持つ男…その中で、もっとも身近な男は、あの水野透(とおる)だった…」


 「…水野さん?…」


 「…そう…あのおちゃらけた透(とおる)…正直、好きでもなんでもないわ…」


 「…好きでもなんでもない?…」


 「…嫌いではないわよ…でも、好きでもない…」


 「…」


 「…でも、今回の米倉の危機を救うのは、あの透(とおる)が一番だった…」


 「…」


 「…水野以上のお金持ちは、世の中にいるし、あるいは、そういうお金持ちと結婚して、米倉を救うことができるかもしれない…でも、透(とおる)のことは、昔から、知っている…正直、好きではないわ…でも、安心感がある…」


 「…安心感?…」


 「…誰でもそうでしょ? 昨日今日知り合った人間よりも、中学や高校時代に知り合った人間の方が、安心できる…それと同じ…透(とおる)は、好きではないわ…でも、嫌いではない…透(とおる)が、昔から、私を好きだったことは、気付いていた…だから…」


 言いながら、好子さんの表情が、徐々に泣き笑いのような顔になった…


 決して、泣いているのではない…


 ただ、その言葉とは、裏腹に、やはり、自分の結婚が、外的環境というか…米倉を救うために、透(とおる)と結婚することが、納得できないというか…


 いや、無理にでも、自分自身を納得させなければ、ならないというか、そんな感じだった…


 そして、私は、好子さんの言葉の意味を考えた。


 好子さんは、私同様、他人を好きになれない女…


 恋をすることができない女…


 それが、自分でわかっている。


 無理もない…


 30歳を過ぎても、まともに、男と付き合ったことがないと、私に告白している…


 それは、なぜかといえば、単純に、心が動かないから…


 心が動かない=他人を好きになることができない…


 だから、これほどの美人であるにもかかわらず、男と付き合ったことがない…


 そんな好子さんが、結婚するのは、やはり、外的要因というか、今回のように、米倉が存続の危機を迎えたときの方が、遥かに自分自身を納得させることができる…


 米倉を救うために、水野透(とおる)と、結婚する…


 そう、自分自身を納得させることができる…


 「…兄も…正造も、今回は、下手を打ったというか、高見さんを連れてきたのが、失敗だったというか…」


 好子さんが、泣き笑いのような表情で、言った…


 涙は、一滴も流していないが、すでに泣いたような表情だった…


 しかし、一方で、さばさばというか、あっけらかんとした表情だった…


 すでに、勝負はついたというか、物語の決着はついたというべきか…


 「…どうして、私を連れてきたのが、失敗だったんですか?…」


 「…透(とおる)が、アナタに惹かれたのよ…」


 「…透(とおる)さんが私に?…」


 思ってもみない、言葉だった…


 「…高見ちづる…それほどの美貌の持ち主にもかかわらず、金持ちの透(とおる)を誘惑することもない…つまり、ありていにいえば、美人を武器に、男を誘惑したりすることが、できるにもかかわらず、淡々としているというか…お金持ちと知り合っても、その男をどうこうしようと思わない…なんというか、誰にでもある上昇志向がない…」


 「…上昇志向がない?…」


 「…どんな人間もお金持ちになりたいとか、女なら玉の輿に乗りたいとか、あるはずよ…でも、高見さんには、それがない…」


 「…」


 「…透(とおる)は、そんな高見さんに惹かれたのよ…」


 たしかに、以前、米倉正造の母親に会いに、水野系列の運営する老人介護施設を訪れた際に、水野から同様のセリフを投げられたことがあった…


 「…高見ちづる…アンタ…変わってるよ…」


 「…どうして、変わってるの?…」


 「…それほどの美貌を持ちながら、男を誘惑することもない…アンタは変わってるよ…」


 たしか、こんなやりとりをした。


 しかし、それは、透(とおる)の一方的な意見に過ぎない…


 私は自分をわかっている…


 たしかに、美人に生まれたが、それだけに過ぎない…


 学歴も家庭も平凡で、十人並み…


 そして、美人には生まれたが、その美貌を生かして、芸能人やなにかになれたわけではない…


 また身長も155㎝と小柄…


 170㎝と長身で、美人で有名な佐々木希さんが、目の前に現れれば、一気に霞んでしまう…


 その程度の美人に過ぎない(苦笑)…


 なにより、私によく似た美人の叔母もまた平凡な人生を歩んでいる…


 それを考えれば、高望みなどできるはずがなかった…


 「…もう少しで、透(とおる)をアナタに獲られるところだった…」


 好子さんが、泣き笑いのような表情で、続けた。


 私は、なんて言っていいか、わからなかった…


 だから、


 「…」


 と、なにも言わず、黙っていた。


 ただ、私にも、好子さんに訊きたいことがいくつかあった…


 「…好子さん…いくつか、お聞きしたいことがありますが、いいでしょうか?…」


 「…いいわよ…なに?…」


 「…好子さんは、米倉の危機に気付いていたんですか?…」


 「…なんとなく、ね…」


 「…なんとなく…ですか?…」


 「…私と新造は、会社に関わっていない…でも、父の平造や、兄の正造や、澄子の夫の直一さんは、なんとなく家でピリピリしていた…だから、なんとなく、会社になにかあったのは、わかっていた…」


 「…」


 「…でも、ここまで、深刻な状況とは、思わなかった…」


 「…好子さんは、これで、満足なんですか?…」


 私の直球の質問に、目を見開いて、


 「…わからない…」


 と、首を振った。


 「…ただ、結婚を決める契機だと思った…私は子供を産まなければ、ならない…米倉の血を受け継ぐ子供を…そのためには、早く結婚を決めなければ、ならない…もう30歳を過ぎている…このまま待っても、好きになる男は、たぶん一生現れないと思う…子供を産むためには、これ以上グズグズしているわけには…」


 そう言って、好子さんは、口をつぐんだ…


 私は好子さんの気持ちが痛いほど、わかった…


 男と女の違い…


 それは、子供を産むことができるか否かだ…


 男は、50歳でも60歳でも、子供を作ることができるが、女は違う…


 今の時代、40歳を過ぎても、出産する女性は多いが、普通に考えれば、せいぜい30代前半には、最初の子供を産みたい…


 昔は、20代のうちに、子供を産み上げる=子供をすべて、産んでしまうべきと、言われたものだ…


 それを考えれば、一刻も早く、結婚を急ぐのが、一番だ…


 「…透(とおる)は、悪い男ではないわ…気が弱いから、いつもおちゃらけて、ピエロに徹してるけど、決して、悪い男ではない…」


 好子さんは、自らに言い聞かせるように、言った。


 「…だから、透(とおる)と、結婚して、透(とおる)との子供を産む…これは、悪い選択じゃないわ…」


 好子さんは、繰り返した。


 「…悪い選択じゃない…」


 何度も、自分自身に言い聞かせるように、繰り返した。


 もはや、自分自身が、それに納得していないのは、明白だった…


 「…好子さん…」


 私は言った。


 「…好子さんは、一体なにをなさりたいんですか?…」


 「…わからない…」


 即答した。


 「…自分でも、わからない…」


 好子さんは、苦しそうな表情で、首を横に振った。


 「…結婚はしなければならない…子供は、産まなければならない…でも、今、それを透(とおる)との間で、しなければ、ならないというのは、納得できないわけではないけど、困るというか…でも、これが、5年後でも10年後でも、自分自身が、同じ言葉を口にすることが、わかっているというか…」


 好子さんが、苦悶の表情で、続ける。


 「…要するに、なにをするにしても、困るとか…気に入らないとか…それを一生、自分自身が、口にすることが、わかっている…でも、わかっているけど、結婚も、出産も、避けては通れないこともわかっている…」


 「…」


 「…高見さんなら、この気持ちがわかってくれるでしょ?…」


 私は、好子さんの言葉に、


 「…」


 と、黙った。


 好子さんの言うことは、わかる…


 事実、私も、好子さんと似たようなものだ…


 ただし、好子さんと、私は立場が違う…


 私は、平凡な一般家庭…


 好子さんは、お金持ち…


 だから、立場が違う…


 三十歳を過ぎても、結婚もせず、そして、もしかしたら、一生、このまま、結婚しないでいても、私自身は、正直困らない…


 独女でいるだけだ…


 しかし、好子さんに、その選択肢はない…


 米倉の血を受け継ぐ子供を作らなければ、ならない…


 「…ねっ? …そうでしょ?…」


 「…お気持ちはわかりますが、私と、好子さんとは、立場が違います…好子さんは、米倉を継ぐ者…私は、一般人です…」


 私は冷静に告げた。


 私の言葉に、好子さんの表情が、固まった…


 「…ひとには、誰でも、持って生まれた運命というものがあります…天皇家の長男に生まれれば、天皇にならなければなりません…他に選択肢はありません…誰もが、自らの運命を受け入れるだけです…」


 「…運命を受け入れるだけ?…」


 「…好子さんは、お金持ちの家に生まれました…私は、一般家庭…ルックスは、似ていますが、それだけです…周囲の環境が違います…」


 「…」


 「…好子さんのお気持ちはわかります…ですが、だからといって、どうこうできるわけでは…」


 私は言った。


 好子さんの気持ちはわかる…


 共感はできる…


 だが、それだけ…


 それだけだ…


 他人は、好子さんの悩みを、贅沢な悩みと揶揄するかもしれない…


 事実、私から見ても、一歩引いてみれば、実に贅沢な悩みだ…


 破産しかけた米倉を、金持ちのボンボンが、自分との結婚を条件に、お金を融資してくれる…


 これの一体、どこが不満なのか?


 一歩間違えば、好子さんもまた、この豪邸を失い、私たちと同じ一般家庭に落ちぶれるかもしれない…


 だが、果たして、そんな生活に好子さんが、耐えることができるのだろうか?


 自殺未遂を起こした米倉好子…


 別の見方をすれば、思いのほか、気が弱い…


 そんな気の弱い好子さんに、平民に落ちぶれることができるのだろうか?


 それを回避するべく、白馬の王子が、やって来た…


 これの一体、どこが不満なのか?


 そう、頭にくる人間がいても、おかしくはない…


 好子さんにとっては、大きな悩みで、人生を賭けた一大勝負になることは、わかっている…


 しかし、それでも、傍から見れば、なんと贅沢なお金持ちの悩みにしか、思えない…


 金持ちから、平民に落ちぶれるかもしれないのに、白馬の王子が現れて、救ってくれるのだ…


 これの一体、どこが不満なのか?


 「…だったら、高見さんは…高見さんが、私なら、透(とおる)と、結婚できる?…」


 いきなり、言った。


 私は、


 「…」


 と、絶句した。


 そんなこと、考えたこともないことだからだ…


 「…それは、わかりません…考えたこともないことですから…」


 私は、答えた。


 さすがに、私が、好子さんの立場ならば、結婚するとは、言えなかった…


 それでは、無責任極まりない…


 他人事だから、そんな無責任なことを言うに決まってるからだ…


 「…だったら、考えて…」


 好子さんが、言った。


 「…考えてって…だって、私は、好子さんじゃ…」


 「…いえ、アナタが好子よ…」


 突然、好子さんが言った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。