恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 97
…米倉好子…
私に似たルックスの女性…
身長、155㎝と私と同じ身長で、外見も女優の常盤貴子さんを小柄にした印象…
ただ、全体の印象は、私と好子さんは、似ているが、顔は違う…
似ているのは、あくまで、身長と、外見の印象だけ…
顔の造作は、ひとつひとつは、当然、異なる…
ただ、全体の印象が、同じため、姉妹といっても、誰も驚かない…
それほど、私と好子さんは、似ている。
だから、さっきの電話で、好子さんの兄の正造が、
「…ですから、好子と似た、高見さんと結婚して、好子の代わりに、一生過ごす…それが、狙いです…」
と、言った言葉は、文字通り、誰が聞いてもウソというか、眉唾物だが、正造を知らない人間が、その言葉だけ、聞くと、あながちウソとは思えないというか、信じ込んでしまう…
ただ、好子さんは、正造の血の繋がった妹…
いかに、正造が、妹を好きでも、普通、それはない…
妹が、結婚して、自分は、妹と会えなくなるから、妹そっくりの女と結婚して、妹の代わりに愛するなんて言う兄が、どこの世界にいるものか?
それを考えると、思わず吹き出してしまう…
いや、考えるのは、そこではない…
米倉好子さんは、水野透と、結婚するか、否か、だ…
好子さんは、透を嫌っている…
透もまた、好子さんを嫌っているようなフリをしていたが、実は好きだった…
憧れていた…
これは、文字通り驚きだったが、好子さんは、美人なので、そう言われれば、驚きはなかった…
問題は、好子さんが、透の求婚を受け入れるか、否か、だ…
好子さんは、米倉の正統後継者…
それを考えれば、当然、受け入れるだろう…
しかしながら、好子さんは、私の接した印象では、あまり米倉を背負っている印象はなかった…
正造にも、平造にも、そして、透にも、米倉や水野を背負っている印象はあった…
つまりは、自分が、その家に産まれ、その家を継ぎ、自分の子孫たちに、それを受け継がせる…
日本では、天皇陛下が、その代表例だが、いわゆる、名家や名門に生まれた人間には、その意識が強い…
当たり前だ…
あくまで、自分は、リレーでいえば、今、バトンを持って走っているだけ…
次の者に受け継がせなければ、ならない…
しかし、米倉好子さんには、不思議とそれを感じなかった…
金持ちの家に産まれ、金持ちとして、振る舞っているのは、わかるが、次世代に自分の家系を残そうと言う意識を、あまり、感じなかった…
あるいは、これは、私がそう感じただけだろうか?
いや、
現実に、次の世代に自分の子孫を残そうと考えた場合は、誰もが、結婚を意識する。
それが、好子さんには、なかった…
正造が、好子さんを疑似恋人として扱ったからだろうか?
私は考える。
縁談は振る星の如く…
という言葉があるが、文字通り、好子さんも同じだったろう…
私は、言葉は違うが、好子さんに、学生時代モテてモテて、困ったことを、直接打ち明けられた…
それは、ウソではないだろう…
好子さんは、私には、その事実を打ち明けてくれた…
それは、私が、好子さんに似たタイプの美人だから…
美人には、美人の悩みがある。
ある意味、ぜいたくな悩みだが、好子さんが、私にそれを打ち明けてくれたのは、私が同じような体験をしていると、思ったから…
だから、安心して、打ち明けた。
これが、平凡なルックスの女ならば、なにをお高くとまって、とか、罵声というか、悪口を言われる可能性が高い…
私が、同じタイプの美人だから、安心して、打ち明けた…
だが、そのときにも結婚の話は出なかった…
なぜだろうか?
やはり、兄の正造が、米倉を継ぐのであって、自分は関係がないと思っていたのだろうか?
私は思った。
事実、米倉好子さんは、テレビのインタビューで、米倉と水野との提携を聞かれ、
「…あくまで、それは、米倉の経営する大日産業と、水野との提携であり、私の結婚とは、直接関係は…」
と、言葉を濁した。
それは、別の言い方をすれば、会社と、自分の結婚は、関係ないとでもいいたげだった…
しかしながら、意地の悪い味方をすれば、自分と、透との結婚を完全に否定はしていない…
つまりは、結婚するかもしれないという含みを残している…
普通に考えれば、透との結婚は、気が進まないが、米倉の家のことを考えれば、透と結婚するしかない…
だが、いざ、結婚となると、どうしても、躊躇いが出る…
それが、うやむやな態度に出たのだろうと、思った…
同時に考えた。
女の幸せ…
あるいは、
好子さんの幸せについてだ…
女は望まれて、結婚するのが一番という言葉が、昔からある…
要するに、自分が、どれほど、相手=男を好きでなくても、相手=男が、自分を好きでいてくれるのならば、結婚するのが、一番いいという考え方だ…
これは、わかる…
相手=男が自分を好きでいてくれれば、結婚しても、当然、自分を大事にしてくれる…
こう思えるからだ…
だから、望まれて、結婚するのが、一番幸せだと思える…
ただ、誰もが、この男はどうしても嫌だ…
生理的に受け付けないということもある…
これは、理屈では、ない(笑)…
好子さんにとって、透が、そういった類の人間に当てはまるのならば、結婚は無理だろう…
そうも、思える…
いずれにしろ、好子さんが、透との結婚をどう思っているのかは、好子さんにしか、わからない…
私を含め、他人は、すべて、好子さんが、実際なにを考えているのかは、わからないからだ…
当たり前だ…
私が、そんなことを考えていると、数日後、家にいるときに、新造さんから電話があった…
「…高見さん…米倉…米倉新造です…」
と、ちょっと男にしては、舌足らずというか、甘ったるい言い方というか、声だった…
しかしながら、それが、新造さんだった(笑)…
背は175㎝と、155㎝の私よりも、20㎝は高いのだが、どうにも頼りがいがない…
だが、善人というか、信頼できる人間であることは、一目でわかる…
それが、新造さんだった…
なんというか、新造さんと話すと、なにより、私はホッとする…
なんとなく安らぐというか…
この競争社会で癒されるというか…
私が、内心、そんなことを考えていると、
「…突然、電話して、迷惑でしょうか?…」
と、新造さんが、その舌足らずな声で、訊いてきた…
「…そんな…迷惑だなんて…」
事実、迷惑でもなんでもなかった…
何度もいうが、新造さんと、話をすると、ホッとする…
「…そうですか…それを聞いて、安心しました…」
新造さんも、私の言葉にホッとしたようだ…
「…今日は一体…」
私が言うと、
「…好子のことです…」
と、新造さんが、即答した…
「…好子さんのこと?…」
「…透との結婚が、世間を賑わせているのは、高見さんも、ご存知でしょ?…」
新造さんが、直球で、返す。
私は、
「…」
と、言葉もなかった。
どう返答していいか、わからなかったからだ…
「…好子も、どうしていいか、わからない様子で…」
これも直球だった…
この言葉にウソはあるまい…
たしかに、自分が、好子さんの立場ならば、どうしていいか、わからない…
だが、次の言葉に、私は驚愕した。
「…だから、好子は、高見さんに相談したいと…」
…相談?…
…私に?…
…なぜ?…
…どうして、そんな重要なことを、私に?…
訊かずには、いられなかった…
「…どうして、私に?…」
「…それはオレにもわからない…」
新造さんが、告白する。
事実、その通りだろう…
私は思った。
いかに、姉弟であっても、好子さんが、なにを考えているか、わかるわけがない…
しかも、正確には、新造さんと好子さんは、血が繋がってないことが、わかった…
これも、また、冷静に考えてみれば、当たり前だった…
正造と好子さんは、顔の造作は、違うが、同じように、洗練されて、周囲の人目を惹く…
ありていに言えば、誰が見ても、二人とも、良家のお坊ちゃま、お嬢様…
二人とも、顔は違うが、雰囲気はそっくり…
新造さんは、あの二人とは、明らかに違う…
一目見て、雰囲気が違う…
異質なのだ…
冷静に考えれば、血の繋がりを感じさせない…
私は、それを考えた。
「…できれば、ウチに来て、好子の話を聞いてもらえないでしょうか?…」
新造さんが、丁寧に懇願した。
「…ハイ…私でよければ…」
私は、即答した。
事実、断る理由もなかった…
いや、
それどころか、むしろ、自分を指名してくれたのが、嬉しかった…
なぜか、この騒動の始まりというか、最初から、私が関わっていた気がする。
そして、この騒動が、今、終結に向かっているのは、誰の目にもわかる…
明らかだ…
その騒動の最後に自分が、立ち会えるのは、ある意味、光栄だった…
一体、どんな結末を迎えるのだろう?
そんなことを考えた。
「…では、週末に、米倉のおうちにお伺いします…」
そう言って、私は電話を切った。
そして、週末…
私は、また、米倉の豪邸を訪れた。
今回は、私ひとり…
これまでは、正造さんにクルマで、迎えに来てもらったり、新造さんに、近くの駅まで、迎えに来てもらっていた…
だが、今回は、初めて、自分ひとりで、この米倉の豪邸にやって来た…
同時に、これが、私が、この豪邸を訪れる最後の機会になるで、あろう予感がした…
どういう会話になるか、わからないが、これが、米倉好子さんと会う最後の機会になるで、あろう予感がした。
そもそも、平凡な一般市民である、私と米倉のような大金持ちと接点はなにもない…
偶然、私が、米倉好子さんと似ているから、正造さんと知り合い、この豪邸に招かれることになった…
それだけだった…
それだけの付き合いに過ぎなかった…
私が、米倉の豪邸を訪れ、巨大な門にあるチャイムを鳴らすと、
「…どなた様ですか?…」
というインターホンの声が聞こえ、
「…高見です…高見ちづるです…」
と、名乗ると、
まもなく、門から離れた玄関のドアが開き、新造さんが、姿を見せた。
私は、その姿を見て、なんだか、ホッとした。
なぜだかわからないが、新造さんの姿を見ると、私は、ついホッとする。
「…高見さん…今日は、わざわざすいません…」
新造さんが、丁寧に、頭を下げた。
「…とんでもありません…」
私は、答える。
その後、二、三のやりとりをして、私は、新造さんと共に米倉の豪邸に上がり、好子さんの部屋を訪れた。
部屋の前に立ち、
「…ご無沙汰しています…高見です…好子さんは、いらっしゃいますか?…」
声をかけた。
「…高見さん?…」
部屋の中から、声がした。
それは、弾んだような嬉しい声だった…
まるで、ずっと前から、私を待っていたような感じだった…
「…ハイ…高見です…」
私が返答すると、好子さんが、部屋の扉を開けた。
そこには、喜色満面の好子さんが、いた…
「…来てくれたのね…」
「…ハイ…」
答えながらも、私は戸惑わざるを得なかった…
どうして、好子さんは、こんなに嬉しそうなのだろう?
考えた。
「…うまくいったわ…すべて思い通りよ…」
…うまくいった?…
…すべて思い通りよ…
どういうことだ?
私は唖然として、好子さんを見た。
「…これで、米倉は救われる…」
好子さんは、嬉しそうに言った。




