↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ  作者: トモサン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
93/100

恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 93

…水野透(とおる)が自殺した?…


 その一報を聞いたのは、意外にも、金崎実業の職場で、だった…


 職場の女のコが、昼休みの休憩中にスマホを見て、騒ぎ出したのだ…


 「…エッ? ウソッ!…」


 一人の女のコが、大声で、叫んだ…


 昼休みの職場にいた同僚の全員の視線が、その女のコに集中した。


 「…あの水野が自殺したって!…」


 大声で、叫んだ…


 「…自殺って…」


 思わず、私自身、そんな言葉を繰り返した。


 同時に、すぐに、水野を思った…


 あの水野透(とおる)の弱さを思った。


 思えば、あの水野は、いつもへらへらとおちゃらけていた…


 私は、そんな水野透(とおる)が好きだったが、よくよく考えてみると、あのおちゃらけた行動こそ、水野透(とおる)の弱さの証明だったのでは、ないか?


 見ず知らずの人間が、周囲に馴染むには、おちゃらけて、ピエロの役割を果たすのが、一番…


 馴染みやすい…


 しかしながら、自分に自信があるのならば、もっと堂々として、自分の力をアピールすれば良いとも、思う…


 だが、それをする自信がないから、ピエロに徹する…


 あるいは、自分に実力がないと、考えてるから、正々堂々と、他人に接することができない…


 つまりは、弱さ…


 あの水野透(とおる)の弱さに、結び付く。


 そんな、弱い水野透(とおる)には、水野財閥の後継者の地位が重かったのではないか?


 それが、今回、米倉好子さんとの決定で、露見したともいえる…


 なにより、水野自身が、本当は、好子さんとの結婚が嫌だったのではないだろうか?


 「…好子はオレを下に見ている…」


 水野が口にした言葉がすべてだ…


 本当は、嫌な相手と結婚せざるを得ない…


 そして、それを突っぱねるというか、拒否する強さも、また、持ち合わせていない…


 その結果、自分自身が追い込まれ、最終的には、死を選んだ…


 残念ながら、私はそう思った。


 水野透(とおる)の死の一報を聞いて、私は、そう総括した。


 そして、偶然、私の目に、内山さんの顔が見えた…


 内山さんは、蒼白だった…


 明らかに、水野の死に動揺していた。


 ロリ顔だが、中身は、真逆に、しっかりとした内山さんの表情とは思えなかった…


 こんなに動揺した、内山さんの顔を見たことがなかった…


 「…逃げた…」


 内山さんが、小さな声で、ポツリと呟いた。


 「…逃げた?…」


 内山さんの隣の席の私は、内山さんの言葉を反芻した。


 「…なにから?…」


 つい、口を開いて、訊いてしまった…


 内山さんは、私を振り向いて、


 「…現実から…です…」


 と、強い口調で言った。


 「…現実から…」


 しかし、その後、内山さんが、私の質問に、答えることはなかった…


 だが、これを契機に、当然のことながら、私は、内山さんを疑い出した…


 …なにか、ある?…


 当たり前のことだった…


 内山さんの父親は、金崎実業の社長…


 父親の命令で、水野透(とおる)と、なんらかの関係があったとしても、おかしくはない…


 そして、この場合の関係とは、当然のことながら、男女の関係ではない…


 仮に、内山さんと、水野が男女の関係だったとしても、それは枝葉末節…


 肝心の部分ではない…


 普通に考えれば、米倉奉公会のメンバーである、内山さんの父親が、娘を通じて、水野と通じていたのでは? と、思う…


 今のところ、なんの証拠もないが、その可能性が高い…


 いや、


 そう考えると、色々見えてくるものがある…


 なぜ、水野透(とおる)が、この金崎実業の営業所に顔を見せたか、をだ…


 要するに、水野透(とおる)は、内山さんが、この営業所に勤務しているから、この営業所を選んだのではないか?


 そう考えれば、納得する。


 辻褄が合う…


 水野にとって、金崎実業の会社の雰囲気を探るために、営業所を訪れるとしても、どこの営業所を訪れるか、考えなければならない…


 そして、この営業所を選んだのには、当然、理由がある…


 それが、内山さんの存在だ…


 私は、ようやく、その事実に気付いた…


 後日というか、その数日後…


 水野は、自殺を図ったが、まだ死んではいないことを、続報として、テレビや新聞、そしてネット等のメディアで知った…


 私は、ホッと胸をなでおろした。


 やはり、自分の見知った人間が、自殺したという事実を聞くのは、気持ちのいいものではないからだ…


 率直に言って、もはや水野に恋心はない…


 言葉は悪いが、微塵もなかった…


 一時は、好きになった水野透(とおる)だが、そういう意味では、なんの未練もなかった…


 と、同時に、気付いた…


 やはり、私は冷たい女…


 人を好きになることができない、冷たい人間なのだと、あらためて、実感した。


 自分が一時でも、好きになった男が、自殺未遂を図っても、落ち込むこともなかったからだ…


 だが、コレ=水野透(とおる)の自殺未遂=を契機に、米倉と水野の合併計画が大きく狂ったことは、明らかだった…


 米倉と水野の合併協議会のメンバーであり、事実上の最高責任者である、水野透(とおる)の自殺未遂は、米倉と水野の合併の障害になりかねない…


 なにより、水野財閥の後継者が、死ねば、一体誰が、次の水野財閥を率いるのか?


 元々が、水野財閥を率いる米倉平造の盟友である、水野良平が、正妻との間に実子がいないがゆえに、愛人の子との間に生まれた透(とおる)を、養子に迎えた経緯がある…


 仮に、その透(とおる)に、今回の自殺未遂で、身体に障害でも残った場合は、今後、経営者として、水野を率いていけるかの問題が残る…


 私は、ついそんなことまで、考えた。


 しかしながら、本当は、そんなことは、私には、なんの関係もなかった…


 私自身は、偶然、米倉正造の交際相手として、選ばれて、米倉家の面々と知り合った…


 私が選ばれたのは、偶然…


 偶然、あの米倉の一族である、米倉好子さんと、ルックスが似ていたからに、他ならない…


 死んだ、溝口が、私が、米倉好子さんと、似ていたから、米倉正造に紹介したに過ぎない…


 だから、これ以上は、米倉と水野の騒動について、考えないようにしようと、誓った…


 ちょうど、私が、米倉や水野について、考えるのは、小学校や中学校時代に、クラスメートだった男のコや女のコが、芸能人かなにかになり、社会で有名になったのと同じ…


 仮に、その有名人と、中学や高校で、親しかったとしても、今はなんの関係もない…


 だから、その有名人が、なにをしようと、自分とは、なんの関係もない…


 ゆえに、その有名人のことを考えても仕方がない…


 それと似ている…


 昔の知り合いであっても、現在は音信不通…


 なんの関係もない…


 だが、相手が有名人になったから、どうしても、自分は相手の動静が気になる…


 しかしながら、その有名人は、もはや、私のことなど、覚えていない可能性すらある(苦笑)…


 そんな関係に似ている。


 私は思った。


 だから、自殺未遂がわかった報道の直後に、会社帰りの私に、


 「…高見さん…」


 と、突然、声をかけられたのには、驚いた。


 私は、自分に声をかけた人物を見た。


 六十代の長身の男…


 私は、その人物に見覚えがあった…


 その人物の名前は、水野…水野良平…


 自殺未遂を図った水野透(とおる)の父親であり、水野財閥総帥だった…


 「…ご無沙汰しています…」


 どう言おうか、こちらが、返答する前に、水野良平は、丁寧に腰を折って、私に挨拶した…


 長身の水野良平が、私に頭を下げると、なんだか、滑稽と言うか…


 155㎝の私に180㎝はある、良平が、頭を下げると、まるで、子供に頭を下げてるような違和感を感じる。


 私は前回、この水野良平と会ったときのことを、思い出した。


 あのときは、この水野良平は、私をお嬢さんと、呼び、それゆえ、最初、自分が呼ばれたことにすら、気付かなかった…


 33歳のお嬢さんはいない(笑)…


 自分でも、まさか、この歳になって、お嬢さんと呼ばれるとは、思ってもみなかったからだ(苦笑)…


 さらに、あのときは、私に米倉好子が、息子の透(とおる)を嫌う理由を聞いてもらいたいと、頼み込み、私は、渋々それを引き受けた…


 しかしながら、それは、罠というか、ウソだった…


 なぜ、ウソかといえば、その後、どうなりましたか?という連絡が、最後まで、私になかったからだ…


 代わりにあったのは、米倉平造の姿…


 私が、なぜ、好子さんが、水野透(とおる)を嫌うのか、聞くために、米倉の豪邸に、新造さんを訪ねた。


 新造さんならば、好子さんが、水野透(とおる)を嫌う理由を知っていると、思ったからだ…


 私が、駅で、新造さんの迎えを受けて、米倉の豪邸に辿り着くと、待っていたのは、意外にも、平造だった…


 そして、平造は、私に、水野透(とおる)との結婚を諦めるように、諭した…


 私は、仰天した…


 なぜ、米倉平造が、いきなり、そんな話をするのか、悩んだ…


 しかしながら、考えてみると、米倉平造は、盟友の水野良平から、頼まれた公算が高い…


 おそらくは、良平が、息子の透(とおる)から、私の存在を聞き、それゆえ、私に透(とおる)との結婚を断念させるために、平造に頼んだということだ…


 平造にしても、好子さんが、透(とおる)と、結婚しないのは、困るのだろう…


 それゆえ、良平と、共同で、私に罠を仕掛けた=呼び出した…


 あのときは、そう思った。


 だが、好子さんは、平造の娘ではなかった…


 そして、透(とおる)が言うには、平造は好子さんを狙っているという…


 果たして、なにが、本当なのか?


 わからない…


 私は、水野良平の大柄なカラダを見ながら、そんなことを考えた。


 「…こちらこそ、ご無沙汰しています…」


 私は、水野良平に、これまた丁寧に腰を折って、返す。


 そうしながらも、頭の中は、めまぐるしく回転した。


 そして、今現在、水野良平は、盟友の米倉平造の会社を食おうとしている…


 乗っ取ろうとしている…


 油断のできない男…


 盟友と呼んだ、男の会社すら、自らの支配下に置こうとしている、したたかな男だ…


 「…先日は、失礼しました…」


 良平が言った。


 私は、


 「…」


 と、無言だった…


 正直、どう答えていいか、わからなかった…


 まさか、アレは、


「…私を米倉平造に会わせて、ご子息の透(とおる)さんとの結婚を諦めさせるためだったのですね?…」


とは、大げさにいえば、口が裂けても言えない(苦笑)…


だから、


「…」


と、黙った。


無言だった…


私が無言だったことで、私が怒っているとでも、思ったのだろうか?


再び、その大きなカラダを曲げて、


「…この前は、大変、失礼をしました…」


と、詫びた。


私は、それを無視するつもりだったが、いつのまにか、周囲の視線が、私たち二人に集まっていることが、肌でわかった…


当然だ…


180㎝を超える大男が、155㎝の小柄な女に、丁寧に腰を折って、頭を下げている。


それだけでも、周囲の視線を浴びる条件が整っているのに、中には、


「…あの人…テレビで見た、水野財閥の水野良平じゃないの?…」


という声が聞こえてきた。


「…あの…水野と米倉の合併で、話題になった…たしか、息子さんが…」


とかいう、周囲のヒソヒソ声が、私と、水野良平の耳に届いた。


とてもじゃないが、堪ったものではない…


一刻も早く、この場から、逃げ出すしかない…


私は、早速歩き出そうとしたが、まさか、私に向かって丁寧に腰を折って、詫びている水野良平を、そのままにしては、しておけない…


「…水野さん…頭を上げて下さい…」


私は、本当は、こんなことは言いたくないが、言うしかなかった…


「…周囲の通行人の方たちが、何事かと、私たちを見ています…」


私の言葉で、水野良平は、腰を曲げたまま、頭だけ上げて、キョロキョロと、周囲を見回した…


その良平の視界に、何事かと、自分たちを見ている、周囲の視線が、入ったのだろう…


「…確かに…」


と、短く答えると、スーッと、頭を上げた。


「…わかりました…」


そう言って、普通に背筋をピンとして立つと、やはり、今さらながら、大男であることが、わかった…


これ以上の大男は、私の身近には、あの、死んだ溝口しかいなかったなと、ふと、考えた。


もちろん、今の二十代、三十代で、溝口や、眼前の水野良平以上の大男はいるし、私の周囲にも、溝口の甥の中村君がいる…


しかしながら、死んだ溝口のように、五十代半ばや、眼前の水野良平のように、六十代後半で、180㎝を超える大男はいなかったということだ…


そんな大男が、三十代の、自分の娘のような年齢の、155㎝と小柄な女に、頭を下げる。


これでは、誰もが、何事かと、注目するのは、必然…


当たり前のことだ…


「…どこか、場所を探して、お話ししましょう…」


仕方なく、私は言った。


本当は、今さらながら、水野良平と話すことなどなかった…


いや、


話したくなかった…


大金持ちの水野良平に、庶民の私が、こんなことを口にするのは、不遜だが、それが偽

らざる気持ちだった…


これ以上、水野と米倉の争いに関わるのは、御免だった…


私の、脳裏に、ふと、数日前の、内山さんの顔が浮かんだ…


おそらくは、内山さんもまた、水野と米倉の騒動に関わっているのだろう…


そう思うと、これ以上は、もう限界だった…


…勘弁して欲しかった…


…元の平穏な生活に戻りたかった…


…退屈だが、平凡な生活に戻りたかった…


心の底から、そう思った…


それまでは…この騒動に巻き込まれるまでは、33歳にもなり、付き合っている恋人もなく、このまま会社に留まるというか、居続けることもできない、先の見えない人生…


我ながら、どうしていいか、わからない人生だった…


そこへ、大金持ちの米倉正造と知り合い、もしや、私にもチャンスがやって来たとも、思った…


しかし、それは、チャンスではなく、単に、米倉の裏切りものを探してくれと言う、探偵のような依頼…


正直、わけのわからない話だった…


しかし、私は、それを受けた。


わけのわからない話だが、米倉のような大金持ちと付き合う絶好のチャンスだと思った…


率直に言って、米倉家の人間と、付き合ううちに、自分が、米倉正造と結婚することはありえないと、最初の短い期間で、わかった…


だが、打算といえば、それまでだが、自分から、米倉のような大金持ちと縁を切ることはできなかった…


…おそらくは、私の人生において、二度とない機会というか、奇跡だった…


だが、その奇跡の時間も、振り返ると、米倉と水野の金持ちに振り回されるだけの時間だった…


別に、男女の関係を迫られたわけでもなく、世間一般で、想像されるセクハラもパワハラもなかった…


ただ、この騒動が、嫌だった…


人間の業を見るというと、大げさだが、米倉や水野の人間を見るにつけ、知るにつけ、つくづく、それを感じた…


お金のあるなしでなく、誰もが同じだった…


平凡な私も、米倉も、水野も、また同じような悩みを抱えて生きていて、しかも、お金があるゆえに、その悩みは、私よりも、遥かに深かった…


そんな深い業を感じさせる人間との付き合いは、もう十二分に私を疲弊させた…


限界だった…


米倉と水野のとの付き合いは、それがわかった時間でもあった…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。