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恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ  作者: トモサン


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恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 92

…米倉正造…


 私は、あらためて、正造について、考えた。


 米倉正造は、女好き…


 だが、決して、好子さんと同じタイプの女とは、付き合わなかった…


 付き合うのは、いつも、派手好きな女…


 水商売風の女…


 つまりは、清楚で、清純な印象の好子さんと、被らない、真逆のタイプの女…


 そして、それは、正造の女の好みと思っていた…


 しかし、今、好子さんと正造が、血の繋がった実の兄妹だとわかった以上、見方が変わった…


 正造は、自身を、好子さんの疑似の恋人と設定した…


 恋人である以上、浮気はできない…


 だが、実際は、正造は、浮気三昧(ざんまい)…


 ただし、好子さんとタイプが被る女と、遊んだことはない…


 これは、好子さんに、


 「…遊び…」


 と、言い訳するためではなかったのか?


 好子さんと、真逆のタイプの女と関係を繰り返していても、遊びと、言い訳することができる…


 しかしながら、その一方で、好子さんと、タイプが被る、清楚なイメージの女を連れてくることはできない…


 好子さんに、遊びと言い訳することができないからだ…


 そして、米倉平造…


 平造が狙っている好子さんと、同じタイプの女を家に連れてゆくことで、平造が、その女に手を出す危険もある…


 その女を平造が、手を出しても、おそらく、正造は構わないだろうが、その余勢というか、勢いで、好子さんまで、平造に狙われたら、堪ったものではないと考えたのではないか?


 物事は慎重に考えれば、考えるほど、その行動が狭められる…


 あらゆる場面を想定して、一番危険性のない行動を取るのが、一番…


 そのためには、好子さんと真逆のタイプの女と付き合うのが、一番と考えたのではないか?


 私は思った。


 つまり、正造にとって、平造は、好子さんの一番身近な、そして、もっとも厄介な敵ということになる…


 その敵から、好子さんを守るために、考えたのが、自分が、好子さんの恋人になることだったのだろう…


 だが、どうだ?


 米倉は今、存亡の危機…


 その存亡の危機を避けるために、米倉本家の血を引く、好子さんを、水野と結婚させるべく仕組んだのだろうか?


 わからない…


 正直、わからない…


 水野は、悪い男ではない…


 しかしながら、全幅の信頼が置ける男でもない…


 正造が、そこまでして、守ろうとした好子さんを託す相手には、思えない…


 正直、謎がある。


 「…水野さんは…」


 私は言った。


 「…好子さんが、お好きですか?…」


 「…好子が好き?…」


 私の直球の質問に、水野が、面食らった表情になった。


 そして、しばらく置いてから、


 「…正直、嫌いではないよ…」


 と、ポツリと漏らした。


 「…嫌いではない? …随分、もって回った言い方をなさるんですね…」


 「…いや、もって回った言い方じゃない…」

 

 水野が力を込めた。


 「…好きか、嫌いかと問われれば、好きだと答えるだけだ…正直、好子は、あの通りの美人だからね…ただ…」


 「…ただ?…」


 「…好子は、以前、高見さんに言ったかもしれないが、オレを下に見ているから、好きにはなれない…でも、水野の今後のことを考えれば、好子と結婚するのが、最善の策かなとも、考える…」


 私は、水野の答えに、


 「…」


 と、なんとも、言葉がなかった…


 自分の伴侶を決めると言う、人生最大の選択の一つにも、常に水野が…家が…関わっている…


 自分が、好きだから、この女と結婚する…


 そんな単純な方法が選べない…


 水野の立場を考えれば、当たり前と言われれば、当たり前だが、なんだか、三十を過ぎた男が口にする言葉かどうかとも思った…


 いや、


 三十を過ぎた男だから、余計に周囲のことを、気にかける必要があるのだろう…


 と、そこまで、考えたとき、ふいに、米倉正造の目論見が見えた気がした。


 正造は、好子さんを試しているのでは、ないだろうか?


 今、まさに、好子さんは、自由…


 平造の毒牙にかかる危険性もなくなった…


 たしかに、米倉の経営する大日産業は、経営危機にあるが、それと、米倉家の財産は別…


 いわゆる資本と経営の分離で、米倉家の財産は、蓄えたままだ…


 だから、ある意味、自由…


 好子さんは、自由に恋愛できる…


 だから、目の前の水野と結婚してもいいし、しなくてもいい…


 たしかに、米倉と水野が合併するかしないかに、好子さんの結婚は、大きく影響するだろう…


 しかしながら、平造が失脚した今、以前から比べれば、好子さんは、自由…


 自由だ…


 平造が、仮に今、拘置所から出てきても、すでに以前ほどの力は、大日産業ではないに違いない…


 それがわかるのは、テレビで見た、米倉と水野の合併協議会のメンバー…


 眼前の水野透(とおる)と、米倉正造と、直一が入っている…


 つまり、明らかに世代交代が起きている…


 あくまで、主役は、この水野透(とおる)を中心とした、合併協議会のメンバーだ…


 と、ここまで、考えて、気付いた。


 そもそも、平造は、好子さんと、新造さんを、最初から、大日産業の経営に携えなかった…


 経営に携えるのは、正造と、正造の姉の澄子の夫の直一のみ…


 しかも、正造も、澄子も、平造とは、血が繋がっていない…


 これは、以前にも考えたが、自分の血の繋がった好子さんと新造さんには、大日産業の経営に携えなかったのは、平造の親心…


 会社の経営は、辛く、苦しいものだ…

 

 だから、自分の血の繋がった娘や息子には、経営に携えたくなかったに違いない…


 私は、そう考えた。


 そして、米倉本家の血を継ぐ、平造の妻だった女性の言葉…


 正造に、米倉の家を継がせるという約束を守るためと、考えた…


 しかし、今、好子さんもまた、実は、正造と血の繋がった兄妹だと知った…


 ならば、平造の息子は、新造さんのみ…


 平造の実の息子は、新造さんのみだ…


 と、ここまで、考えて、気付いた…


 なぜ、正造と新造さんが、仲が悪いか、気付いたのだ…


 要するに、新造のみ、平造の子供だから、正造は新造を嫌っていたのだ…


 もちろん、最初から、両者の折り合いが悪いこともある…


 性格的に、どうしても、相手を受け入れることができない場合も多々ある…


 しかしながら、最初から、新造さんのみ、平造の息子と知っていれば、どうだ?


 正造が単純に嫌っていても、おかしくはない…


 澄子、正造、好子と、三人が、血が繋がった兄妹…


 新造一人が、血が繋がっていない、赤の他人だ…


 毛嫌いするのも、わからない話じゃない…


 と、なると、どうだ?


 あの米倉家…


 あの豪邸の当主は、米倉平造だが、実質的には、平造の妻だった、あの老婆…米倉本家の血を継ぐ者たちが、あの豪邸を支配していたことになる…


 いや、


 支配ではない…


 が、


 あの豪邸に住む者は、7人…


 赤の他人は、直一のみ…


 その直一は、澄子の夫…


 つまり、米倉本家の側の人間…


 平造の真の味方は、平造の妻と、新造さんのみとなる…


 すると、どうだ?


 平造が、もし、正造が言うように、好子さんを狙っていたとする…


 血が繋がっていない以上、男女の関係になっても、おかしくはない…


 しかし、話は、そう単純なのだろうか?


 そもそも、あの米倉家は、二つに分かれていた…


 米倉本家の血を継ぐ者たちと、平造の一家に、だ…


 となると、平造もまた、なにか、考えていたとしても、おかしくはない…


 あの豪邸に住む人間は7人だが、実質、4人対3人に分かれている…


 そして、平造の方が劣勢だ…


 これを平造が挽回したいと思ってもおかしくはない…


 私は思った。


 「…どうした?…」


 「…いえ、正造さんと、好子さんが、血の繋がった実の兄妹ならば、あの米倉の家族は、実質的には、米倉本家の血を引く、澄子さん、正造さん、好子さんと、澄子さんの夫の直一氏…彼らの方が、平造氏の本当の家族、平造氏の奥様と新造さんよりも、人数が多いなと思って…」


 「…それは、そうだ…米倉平造は、元々、米倉の分家の出身だ…その分家の出身の平造が、社長を務めていたに過ぎない…だから、形の上では、あの米倉家のトップだが、実際は、米倉本家の人間が、多数派だ…」


 水野さんが言う。


 「…だが、だからと言って、平造氏に力がないわけじゃない…米倉をあそこまで大きくしたのは、平造氏の功績だ…少なくとも、平造氏の実績を、オレは、過少評価はしていない…」


 私は、水野の言葉に考え込んだ…


 「…それに、米倉奉公会…奉公会の会長は、平造氏だ…」


 水野が、さりげなく言った。


 米倉奉公会…その名の通り、米倉に奉公する団体…


 そして、米倉の力の源泉は、米倉奉公会…奉公会の団結力というか、人脈だと聞いた…


 それを、平造は手放していない…


 おそらく、正造や直一では、米倉奉公会は動かないだろう…


 と、そこまで、考えたとき、


 「…とりあえず、オレは、好子と結婚するつもりだ…」


 水野が、断言した。


 「…好子がなにを考えてるか、わからないが、オレは、好子と結婚するつもりだ…」


 水野が、まるで、自分自身に言い聞かせるように、言った…


 私は、水野の言葉を黙って聞いた…


 率直に言って、もはや、ショックはなかった…


 しかしながら、まるで、自分自身を無理やり納得させるような、言い方で、好子さんとの結婚を口にする水野の姿からは、とても、幸せな結婚を想像することができなかった…


 米倉と水野の合併という会社同士の合併同様…いや、会社同士の合併よりも、最初から、不幸と言うか、うまくいかない様子がありありと、わかった…


 だが、さすがに、それを口にすることはできない…


 「…水野さん…幸せな結婚をお祈りしています…好子さんを幸せにして下さい…」


 私の言葉に、水野は、苦笑するばかりだった…


 私は、皮肉を言ったわけではないし、水野もそれは、わかってるはずだ…


 しかしながら、水野自身、好子さんとの結婚で、自分自身が、幸せになる自信が、なかったに違いない…


 水野透(とおる)にとって、米倉好子との結婚は、避けては通れない道…


 自分自身、選ぶことは、できない、決められた運命のようなものだったのかもしれない…


 思えば、この水野透(とおる)は、可哀そうな男だった…


 実父である、水野良平の愛人の子供として産まれ、正妻との間に子供のいない、良平が、引き取り、自分の後継者とした…


 平凡な家庭から、大金持ちの子息になり、人並み以上の苦労をしたに違いない…


 そして、今、自分自身で、自分の伴侶も選べず、周囲の思惑通りに、米倉好子と結婚する…


 そう考えれば、一体、水野透(とおる)の人生とは、なんなのだろうと、他人事ながら、考える。


 なにひとつ、自分の意志で決められない人生…


 すべて、周囲の思惑を考慮して、生きてきた人生…


 そう思えば、米倉と水野に関連する人物の中で、一番、可哀そうな男だったのかもしれない…


 おそらく、米倉と水野の中にあって、いずれは、一番の権力者になるべき人物…


 しかし、その実像は、周囲の思惑に翻弄される、最も、不幸な男だった…


 それゆえ、後日、水野が、自殺を図ったと聞いたときは、一瞬、驚いたが、さもありなんとも、思った…


 同時に、すべては、振り出しに戻った…


 そんな気がした…


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