恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 85
米倉正造…
今さらながら、正造の行動原理について、考えた。
あくまで、結果だが、米倉正造の行動は、すべて、好子さんと、水野透を結婚させるべく、動いている…
仮に、
仮に、だ…
好子さんが、水野透と結婚することで、正造は、満足なのだろうか?
自分が愛していた好子さんが、自分以外の男と結婚することで、満足なのだろうか?
それは、やはり、血が繋がってないが、兄妹として、育てられたから、満足なのだろうか?
男と女ではなく、兄妹として、育てられたから、自分が好きだった女が、自分以外の男と結婚することが、満足なのだろうか?
わからない…
仮に、私に兄弟がいて、それが、私以外の誰か別の女のひとと結婚するのは、当たり前…
だが、その兄弟が、私と血が繋がってないとすれば、話は別…
血が繋がってなければ、結婚できる…
法律上は、どうだか、わからないが、結婚できる…
法律上、どうだか、わからないと言ったのは、以前、読んだが、例えば、母親がバツイチで、再婚して、その母親に娘がいたとする。
その娘は、当然、新しい父親と血縁関係がないが、仮に、母親が、その再婚相手と死別したりしても、親子関係は変わらない…
だから、法律上、新しい父親と、娘は結婚できない…
しかしながら、生物学上、血縁関係はない…
それゆえ、新しい父親と娘が結婚したとしても、戸籍上、結婚できないだけで、事実上の夫婦として、いるのに、なんの問題もない…
そう弁護士は、言っていた…
その読んだ実例は、たしか、十歳ぐらい年下の男性と、バツイチの女性が結婚したが、数年後、その女性が死亡…
その女性には、すでに独立して、働いている娘がいて、その娘が、母親がその男性と結婚しているときは、あまり家に来なかったが、母親が死んでから、ときどき、家に来るようになり、男性とあれこれ話をするうちに、愛情が芽生え、男女の関係になったと、書いてあった…
事実、今の時代、そういう実例は、あるだろう…
あながち荒唐無稽の話とは思えない…
話はいかさか脱線したが、要するに、正造が、好子さんを、どう思っているかだ…
愛情はあるのは、わかっている…
それが、兄ゆえの愛情なのか、男としての愛情なのか、わからないだけだ…
ただ、少なくとも、正造本人は否定するかもしれないが、結果的に好子さんをサポートしている事実は、明らか…
否定しようのない事実だ…
これを、米倉正造に伝えたら?
一体、どういう反応を見せるのだろうか?
実に興味深い…
否定するのか?
肯定するのか?
実に、興味深い(笑)…
意地悪な物言いだが、ぜひ正造に聞きたい。
問い詰めたい。
私は、思った。
思いながら、今度は、あの水野を思った。
水野透ではない、父親の水野良平の方だ…
父親の水野良平は、以前、私が金崎実業からの帰り道に、私を待ち伏せ、私に、なぜ、透との結婚を好子さんが、拒んでいるのか、新造さんに、聞いてもらいたいと、私に頼んだ…
しかしながら、その後の連絡はない…
だから、普通に考えれば、新造さんに、会いに米倉の豪邸を訪れたとき、平造が、私を待っていて、私と話した…
そのときに、平造は、私に、水野透のことは、諦めろと、遠回しに忠告した。
つまりは、水野良平と、米倉平造が、組んで、私を、あの米倉の豪邸を訪れさせ、水野透との結婚を諦めさせるべく仕組んだお芝居に過ぎなかったということだ…
あのときも、その事実に気付いたが、今に至っても、水野良平から、なんの連絡もない事実を考えると、やはり、私の思っていた通りだということだ…
ただし、あの時点で、水野良平と、米倉平造が結託していたということは、あくまで、あの時点では、水野良平は、米倉平造の裏切りに気付いていなかったということだ…
なぜなら、あの時点では、互いに、自分の息子と娘を結婚させようと、奔走している…
まさか、米倉の存続に黄信号が灯っているのに、気付いていて、自分の息子を、好子さんと結婚させようとは、しまい…
誰もが普通は、そう考える。
そして、その考えに間違いはあるまい…
ただ、不可解というか、面白いのは、それに、正造が、一枚噛んでいるのか否か?
これが、わからない…
正造の行動を考えると、平造と結託して、行動しているようには、見えない…
二人の考えるゴール=水野透と、米倉好子の結婚は、一致するが、平造と正造が、力を合わせて、二人を結婚させようとしているようには、思えない…
あくまで、平造は、平造…
正造は、正造で、動いているように、思える。
ゴールは同じでも、二人が、協力しているようには、見えない…
そして、肝心の米倉好子と、水野透…
この二人は、自分たちの結婚をどう思っているのだろう?
以前、新造さんは、好子さんが、水野透を、嫌いなのは、透がおちゃらけてるから、と、私に言った…
これは、間違いではあるまい…
誰もが、好みというものがある…
どんな美男美女が結婚相手でも、嫌なものは嫌だからだ…
一目見て、なんとなく虫が好かない人間というものは、存在するものだ…
ただ、それだけでなく、好子さんが、水野透を好かないのは、やはり、透の出自にあるのではないか?
新造さんは、言わなかったが、透が愛人の子であることに、不快というか、納得できないのではないか?
生粋のお嬢様である、米倉好子には、納得できないのでは、ないだろうか?
透は、それを好子さんから、敏感に感じて、あの女は、オレを下に見ているから、嫌いだと、言ったのでないか?
コンプレックスがある人間は、そのコンプレックスを容易に刺激される…
学歴が低い人間は、陰で、学歴が高い人間が、自分をバカにしていることに、容易に気付く…
透の場合は、好子さんが、自分が愛人の子だから、バカにしていると、容易に気付いたのではないか?
では、なぜ、新造さんは気付かなかったのか?
少し考えたが、これは、男と女の違いではないか?
透は、男…
そして、好子さんは、女…
当然、好子さんは、女の立場から、透を見る。
片や、新造さんは、男…
同じ男の立場から、透を見る…
この点が、決定的に異なる…
もちろん、人間誰でも好みはあるから、男と女といえど、皆一様に同じ反応を示すわけでは、当然ない…
だが、とにかく、好子さんが、透を好かなかったのは、間違いあるまい…
そして、私…
私、高見ちづる…
あの水野良平が、米倉平造と結託して、わざわざ、透との結婚を諦めろと遠回しに忠告したのは、透が、私を好きだから?
単純に考えれば、その可能性が高い…
そして、なによりは、少しでも、透と、好子さんとの結婚の邪魔になるものを排除しようとした結果だろう…
私は、考える。
だが、だとしたら、今はどうか?
今もやはり、水野良平は、私が透と結婚したいと言ったら、反対するだろうか?
それとも…
が、現実に、水野透が、私と結婚するはずがない…
片や、大金持ちの御曹司…
片や、庶民…
いかに私だって、それぐらいは、わかっている…
身分の違いはわかっている…
世の中、いくら努力しても、どうにもならないことは、あるものだ…
これも、また、その一つだろう…
だから、諦めるしかない…
事実、諦めた…
心の底では、水野透に対する残り火は、あるが、諦めた。
同時に、気付いた…
やはり、私は冷たい女…
恋もできない冷たい女という事実に、だ…
条件に合わなければ、簡単に諦める…
その程度にしか、ひとを好きになれない事実をあらためて、思い知らされた…
恋愛偏差値ゼロ…
この言葉が、私にふさわしい(涙)…
実にふさわしい…
他人を好きになることのできない、冷たい女…
そもそも、他人を好きになるスキル=技術がまるでない…
そんな女が、この先、結婚できるわけがない…
そんな女が、もし仮に結婚したとしても、夫との関係に苦慮するのは、目に見えてる…
夫は、私が、ただの同居人程度にしか、見ていない現実に、遅かれ早かれ、気付く…
すると、どうだろう?
外に女を作るか、離婚するかの、どっちかだろう…
ありふれた結末だ…
他人を好きになることのできない、冷たい女…
と、ここまで、考えて、突如、米倉正造を思った…
米倉正造は、他人である、米倉好子のために、自分を犠牲にして、動いている。
正造は、否定するかも、しれないが、それが、事実…
なぜなら、正造の行動は、結果的に、すべて、好子さんをサポートしているからだ…
会いたい…
ふと、思った。
そこまで、好子さんのために、動く、米倉正造は、果たして、私、高見ちづるを見て、一体どう思ったのだろう?
何度も言うように、私と好子さんは、ルックスが似ている…
同じようなルックスを持つ、私と、好子さんを比べて、正造は、どう思ったのだろう…
やはり、私を冷たい女だと思ったのだろうか?
私を冷たい女だと、感じたのだろうか?
そして、考えた。
私が、なぜ、これまで、米倉正造と、付き合ってきたかを、だ…
私自身、これまで、気付かなかったが、それは、正造の優しさに、気付いていたからではないか?
無意識に、気付いていたからではないか?
米倉正造は、ハンサム…
まがうことなき、イケメンだ…
身長こそ、170㎝と決して高くはないが、色白で、爽やか…
誰が見ても、良家のお坊ちゃま…
女好きで、派手な女が好きという、平造や新造さんの言葉にウソはあるまい…
しかしながら、どんな女も、魅力がない男に夢中になることは、ありえない…
その意味で、正造には、魅力があるということだ…
そして、その魅力の根底には、大抵が、優しさが、存在する…
どんな人間も、優しさがない人間を好きになることは、ないからだ…
つまるところ、正造には、人間的な優しさがあり、それが、好子さんをサポートしていたのではないか?
女好きだが、それは、必ずしも、欠点ではない…
あっちの女、こっちの女と、女の間を渡り歩いているのは、ある意味失笑もので、世間の眉をひそめさせるものだが、犯罪ではない…
人間は、矛盾の生き物…
米倉正造は、おそらく、生来の女好きで、女の間を行き来するのを、楽しむ一方で、血の繋がってない好子さんを、好きだったのではないか?
女としではなく、妹として、好きだったのではないか?
それが、今回の一連の行動のすべての源泉ではないのか?
私は、思った。
と、そのとき、私のスマホが鳴った…
誰からか、見る…
米倉正造だった!
来るべきものが、来た!
私は思った。
いずれは、連絡が来るものと、思っていた。
それが、今…
私は、スーッと大きく、息を吸い込んだ…
心を落ち着かせるためだ…
そして、通話のスイッチを入れた…
「…ハイ…高見です…」
「…米倉…米倉正造です…ご無沙汰しています…」
スマホから、まぎれもない、米倉正造の声が聞こえてきた…
私の心臓が高鳴った…
ドキドキと、高鳴った…
一体、これから、正造はなにを言うのだろう?
そう考えると、ドキドキした…
まるで、喉から、心臓が飛び出るかと思うくらい、緊張した…
そのときだった…
「…どこまで、気付きました?…」
いきなり、正造が言った。
「…高見ちづる…金崎実業のスパイ…」
いきなり、そう言った。




