恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 84
水野透と、米倉好子の結婚…
たしかに、ネットを検索すれば、それが今世間の話題になっていることは、すぐにわかった…
だが、言い訳するわけではないが、私は知らなかった…
どうしてだろう?
少し考えたが、心理学ではないが、無意識に、水野透と、米倉好子の結婚に関する話題を、私が避けていた可能性がある…
新聞のテレビ欄や、週刊誌の広告を見れば、容易にわかることを、米倉や水野の名前を見ると、無条件で、それをスルーしていたというのが、真相だろう…
ゆえに、自分自身のことを、冷静に考えると、やはり、私はまだ水野透に惚れている…
少なくとも、なんのわだかまりもなく、その名前を、誰かと話題にするのが、嫌だったのだろう…
いや、
嫌だったのではない…
現に、水野と中村君と、あの米倉平造の元の妻であり、澄子と正造の母親に、水野系列の老人介護施設を訪れたが、なんのわだかまりもなかった…
変に意識することは、まったくなかった…
しかしながら、そこに、米倉好子さんが絡めば、また違ってきたのではないか?
ただ、水野透の隣に、好子さんが、いたとしても、あるいは、なんのわだかまりも、意識もなかったかもしれない…
だが、やはり、結婚となると、話が変わる…
現実に、水野透と、米倉好子が結婚となると、無意識に、その話題を避けたということだろう…
つまり、まだ、私、高見ちづるは、水野透に惚れている…
たき火ではないが、水をかけて、消火したつもりでも、表面上は、収まっても、中身はまだプスプスと燃えているということだろう…
私は、そう考えて、なんとなく自分の心のありようがわかった…
そして、考えた。
今さらながらというか、私と好子さんが、似たようなルックスだという事実に、だ…
共に、二人とも、女優の常盤貴子を小柄にした印象…
そもそも、死んだ溝口が、私を米倉平造に紹介した経緯にしろ、私が、好子さんに似ていたからだ…
平造が溺愛する好子さんに、私が似ているから、正造の婚約者として、容易に、あの米倉の豪邸に入れる=つまり、平造に気に入られると思ったからだ…
また、私が、好子さんに似ているから、正造も私を気に入り、水野もまた、私を意識したに違いない…
だから、私はある意味、米倉好子の代替品…
私、高見ちづるがあって、米倉好子が存在するのではなく、米倉好子があって、私、高見ちづるが存在する。
つまりは、米倉好子と、私が似ていなければ、そもそも、私は必要ない…
溝口が、私を米倉正造に、紹介することもなかっただろう…
だから、最初から、私が、米倉や水野と関わることは、なかったに違いない…
いや、違いないではない…
まちがいなく、なかった…
それが、あったのは、何度も言うように、私が米倉好子と、似たようなルックスだから…
二人が並べば、顔の造作は微妙に、異なるが、見るものに、同じような印象を与える。
姉妹と言っても、おかしくはない…
と、ここまで、考えて、ふと、米倉正造を思った。
正造と、好子さんは、血の繋がってない兄妹…
当初は、正造と好子さんは、母親が違う、いわゆる腹違いの兄妹と考えられていた…
事実、周囲は、そう信じ込み、好子さんの弟の新造さんもまた、そう信じていた。
しかしながら、いつしか、好子さんは、正造と血が繋がってない事実に気付いた。
好子さんにとって、正造は、十歳年上のイケメン…
その爽やかなルックスは、誰が見ても、一目で信頼できる…
好子さんが、憧れるのは、わかる…
それゆえ、いつの頃から、好子さんが、正造と血が繋がってない事実に気付いたか、どうかわからないが、正造は、米倉を継ぐには、好子さんと結婚するのが、一番の近道と考えたはずだ…
と、ここまで、考えて、思った。
正造と澄子は、最初から、好子さんと新造さんと、血が繋がってない事実に気付いていたはずだ…
澄子さんは、ともかく、正造は、好子さんを好きなのではなかったのか?
十歳上の正造は、幼い頃から好子さんを知ってるはずだ…
幼稚園にも通っていない、幼児の頃からの好子さんを、知ってるはずだ…
だから、本当は好きなのではなかったのか?
それは、いわゆる男女の愛情ではない…
それは、むしろ、兄妹の愛情…
幼い頃から、自分を慕っていた米倉好子さんを、心の底では、好きではなかったのか?
それゆえ、今、米倉好子が、世間の注目を浴びると、自分は身を隠した。
そのハンサムなルックスゆえに、一目で周囲の耳目を引く能力があるにもかかわらず、身を隠した。
正造が、姿を現したのは、米倉と水野の合併協議会のみ…
それまで、メディアに出ていたのを、好子さんが、意識を回復して、メディアに出ると、パッタリと姿を見せなくなった…
まるで、米倉好子さんに主役の座を譲るが如く、姿を消した。
自分が、メディアに注目を浴びることで、好子さんが、注目を浴びるのを邪魔することになると、配慮したのだろう…
つまりは、正造は、好子さんを好いている…
だが、だとしたら、どうだ?
好子さんは、本当に、正造を好いているのか?
米倉正造が、自分のために、パッタリとメディアに姿を見せなくなった理由に、気付いているはずだ…
それを知って、好子さんは、どう思うのだろうか?
自分のために、身を引いた正造を、どう考えるのだろうか?
新造さんは、
「…正造も、好子も透も自分のことばかり、考えて…」
と、言っていた…
あれは、一体どういう意味なんだろうか?
少なくとも、正造は、好子さんのことを考えて、身を引いたと思う。
派手な女が好きな米倉正造…
しかし、身近な、血の繋がってない妹の好子さんには、いわゆる男女の愛情とは違う、兄妹の愛情で、好子さんを好いていたはずだ…
それに、好子さんも、気付いていたはずだ…
いや、たとえ、気付いていなかったとしても、今回、正造が、自分にバトンタッチする形で、メディアから姿を消したことで、正造の自分に対する愛情に気付いたはずだ…
だが、それを、好子さんは、どう思ったか?
わからない…
以前、会った時は、明らかに正造を慕っていた…
しかし、今、メディアで見る、米倉好子は、まるで、女優のような扱い…
その堂々とした振る舞いは、天性の女優のようだ…
その美貌と爽やかなルックスで、世間の話題になっている…
好子さんが、水野透と、結婚するのか、否か?
話題になることで、一層、好子さんの注目度が上がる。
おそらく、好子さんの人生で、これほど世間の注目を浴びたことはないことは、明らか…
それゆえ、自分に酔ったのだろうか?
いや、注目を浴びることで、人間が変わったのだろうか?
誰もが、性格は変わる…
長く生きていれば、性格は変わる…
しかし、その根幹は変わらないものだ…
つまり、なにが言いたいかと言えば、その根幹=子供時代の性格は、容易に変わらない…
なぜなら、子供時代の性格こそ、その人間の本性というか、本質だからだ…
変わるのは、環境が変わるから…
例えば、貧乏だった子供が金持ちになれば、金の使い方が変わる…
ある意味、当たり前…
環境が変わることで、金銭感覚が変わる…
これまで、使えなかった金額のお金が使えるようになるからだ…
だが、おそらく、その根幹は変わらない…
人間の人格を形成するのは、小学校を卒業するまでだ…
小学校を卒業するまでには、大抵の人間の人格が形成される。
あとは、人間で言えば、例えば、服を着るようなもの…
どんな服を着るかで、その人間が、派手な人間か、あるは、地味な人間か、わかるに過ぎない…
そして、その服は、環境によって変わる…
文字通り、お金があったり、なかったり、することで、着る服が変わるように、性格が変わる…
だが、何度も言うように、中身は変わらない…
だから、好子さんも、今、メディアの注目を浴び、堂々と振る舞っているが、私が、米倉の豪邸で会った、米倉好子と中身は変わらないはずだ…
そして、もし、あのときの好子さんと違っていたら?
それは、あのとき、私を騙すべく、演じていただけだ…
私は考える。
私は、考えながら、今度は、水野を思った…
水野透を思った。
水野透は、かつて、私に、
「…あの女は嫌いだ…オレを下に見ている…」
と、米倉好子のことを評した…
米倉好子と、水野透は、幼馴染というか、双方の父親である、米倉平造と、水野良平が、親友であったがゆえに、あの米倉の豪邸で、顔を会わせた…
知り合った…
水野透は、父親の水野良平に連れられて、行って、顔を会わせた…
その結果、水野透は、米倉好子を嫌悪することになった…
おそらくは、水野透が、愛人の子であるがゆえに、好子さんが、透を下に見たのではないか?
真相は案外そんなところではないか?
私は、考えた。
生粋のお嬢様である、米倉好子は、愛人の子である、水野透を下に見た=馬鹿にした可能性がある…
これは、別段、驚くべきことでも、なんでもあるまい…
とりわけ、男よりも女の方が、こういうことに厳しいものだ(笑)…
それゆえ、透は、好子さんを、嫌いになった…
そうはいうものの、以前、好子さんは、正造にフラれて頭にきて、水野透に、正造を、米倉家から、追放すべく、ホテルで相談した…
それを、週刊誌にスクープされて、深窓のご令嬢の不倫密会と騒がれた…
しかし、その直後、水野透と、好子さんの結婚をスクープされることで、密会が、帳消しになった…
つまり、あのとき、好子さんの密会をスクープしたのを、記者に協力したのは、米倉正造で、それに気付いた平造が、それを帳消しにすべく、二人の結婚を、マスコミに流した…
二人が、結婚すれば、密会は、当然のことになるからだ…
結婚する男女が、ホテルで密会していても、何の問題もないからだ…
それ以前の報道では、水野が既婚者だと、報じた…
これも、正造の策略…
水野透が、独身者では、スクープのインパクトがない…
既婚者ゆえに、インパクト=価値がある…
週刊誌の記者に、水野透は、既婚者とウソを教えたのだろう…
と、ここまで、考えて、ふと、気付いた…
人間=正造は、矛盾しているということを、だ…
あのとき、正造は、好子さんのイメージを落とすべく、透との密会をスクープすることに、協力した…
にもかかわらず、今回、最初は、自分がマスコミの注目を浴びたにもかかわらず、好子さんが、意識不明の状態から回復すると、まるで、席を譲るが如く、マスコミの前から姿を消した…
おそらく、二つとも正造の行動だが、やっていることは、真逆…
正反対だ…
一方では、好子さんを、傷付け、もう一方では、好子さんに花を持たせている…
これは、一体どういうことか?
考える。
そして、気付いた。
最初のスクープ…つまり、好子さんと、透の密会は、つまるところ、好子さんになんの傷もつかないということに、だ…
米倉好子は、むしろ、あの一件で、世間に深窓のご令嬢をいう名前で、世間に知られた…
それまで、無名だった、美貌の米倉好子…
しかしながら、いかに、お金持ちのお嬢様でも、世間的には無名…
あの密会スキャンダル=不倫スキャンダルで世間に知られた…
有名になった…
そして、その直後、水野透との婚約がスクープされた…
これは、一体どういうことだ?
冷静に考えると、最初から、正造は、好子さんをサポートしている…
米倉好子さんの結婚をサポートしている…
落ちぶれかけた、米倉家…
その米倉家を救うためには、金持ちと結婚するのが一番…
その金持ちは、水野財閥の御曹司…
米倉好子が結婚する相手として、これ以上の相手はない…
そして、米倉の凋落が世間で知られるにつけ、今度は水野が窮地に立たされた…
水野にとって、米倉のお嬢様と結婚することに、メリットはなにもない…
むしろ、マイナス…
落ちぶれかけた米倉の借金でも背負わされたのならば、とんでもない災厄だからだ…
しかし、好子さんと、水野の結婚が、スクープされたことで、水野が悪者になった…
落ちぶれた米倉を見捨てるのかという流れが、世間でできた…
一方の、好子さんは、悲劇のヒロイン…
自分の身を犠牲にして、米倉家を救う、悲劇のヒロインだ…
その好子さんと、結婚しないとなると、今度は、水野は悪役になる…
つまりは、結婚しないことで、世間に非難される立場になった…
要するに、好子さんが有利…
米倉好子ありきで、話が進んでいる…
恋かもしれない…
違うかもしれない…
これこそ、米倉正造の好子さんに対する言動ではないのか?
米倉正造のすべての言動は、好子さんをサポートすべく動いている…
正造が、平造に、好子さんとの結婚をほのめかして、断られ、その一部始終を、好子さんに暴露して、米倉家から去った=追放された…
好子さんは、激怒して、水野透に接近…
本来は、嫌っていた水野透だが、頼りになるのは、彼ぐらいしかいなかったに違いない…
そして、その行動を正造は読んでいる…
好子さんの交友関係を、あらかじめ、知っているからだ…
米倉好子の行動をあらかじめ、予想したうえで、正造が行動していたとしたら?
恋かもしれない…
違うかもしれない…
恋ではないかもしれないが、正造は、好子さんを愛しているのではないか?
米倉正造のすべての行動は、米倉好子を水野透と、結婚させるべく、動いていたのではないか?
自分を犠牲にして、動いていたのでないか?
今さらながら、その事実に気付いた…
気付いたのだ…
だが、だとしたら、米倉正造は今?
一体、どこで、なにを思っているのだろう…
正造が、好子さんを愛しているとして、その好子さんが、水野と結婚することに対して、どう思っているのだろう?
いわゆる、男と女という関係でなく、血が繋がってないが、兄妹として、過ごしてきたから、好子さんが、水野と結婚することに、心から祝福するのだろうか?
それとも?
恋かもしれない…
違うかもしれない…
米倉正造の、好子さんに対する行動こそ、恋ではないのか?
愛ではないのか?
私は思った…




