恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 80
米倉好子…
私は依然として、好子のことを、考えた。
米倉好子は、父親の溺愛する娘…
ゆえに、平造が、好子のために、米倉の資産を残したいと思っても、不思議ではない…
が、一方、好子は、どうだ?
「…これから、ショーが始まるわ…面白いショーが…」
と、平造の逮捕を揶揄するが、ごときに言った…
普通に考えれば、これは、父親の平造を毛嫌いしている証拠…
だが、だとすれば、父親が溺愛しているにも、かかわらず、好子は平造を嫌っていたのだろうか?
いや、
そもそも、
「…これから、ショーが始まるわ…面白いショーが…」
と、いった言葉の意味するショーが、平造の逮捕のことを言っているわけでは、ないのかもしれない…
そうとも、考えられる。
あるいは、
米倉好子が、まるで、彗星が如く、鮮やかに、世間に登場したことを指して、
「…これから、ショーが始まるわ…面白いショーが…」
と、言った可能性もある。
つまりは、自分自身を茶化している可能性もある…
また別の見方もある…
そもそも、米倉好子は強いのか否かということだ…
米倉好子は、腹違いの姉と思われた、澄子にイジメられていた…
それゆえ、おとなしい澄子の夫、直一にきつく当たっていた…
直一は、養子ゆえに、頭にきても、好子に逆らえないからだ…
つまり、なにが言いたいかと言えば、好子はそれほど強くない…
が、強くないから、自分を主張できないのかと問われれば、それは違う…
例えば、アイドルになりたい男や女が、皆、気が強いかと言われれば、違うのと同じだ…
スポットライトを浴びたい人間が、必ずしも、強い人間である必要がないからだ…
だから、好子があれこれ、画策して、米倉の家を自分のものにしようと考えていても、不思議ではない…
私は思った。
同時に、考えた。
だったら、新造さんは、どうなのだろう?
新造さんは、これを知っているのだろうか?
澄子さんと、その夫の直一さんは正造同様、あの米倉の豪邸を出て行ったと聞いた…
また仮に、あの豪邸に残っていたとしても、私は、澄子さんと直一さんとは、ろくに話したことがない…
いや、直一さんとは、話したことがあった…
しかし、澄子さんとは、二人っきりで、話したことがない…
そもそも、私は澄子さんと直一さんの連絡先を知らない…
その点、新造さんとは、それなりに話したことがある。
なにより、好子さんが、入院する前に、
「…なにか、あったら、高見さんに相談しなさい…」
と、新造さんに言っていたと、新造さんは、以前、私に言った…
なぜ、知り合ってまもない私に、好子さんは、そんなことを言うのか、当初は謎だった…
しかし、好子さんが、外見が似ている私に親近感を抱いていると、聞かされて、納得した。
米倉好子と、私、高見ちづるは、同じように、小柄で、ルックスもまた、女優の常盤貴子を小柄にした印象…
顔の造作は、微妙に異なるが、全体の印象は同じなので、他人が感じる印象は同じ…
要するに、男にモテモテで、苦労したことを言っても、わかってもらえるし、それが、自慢に聞こえない…
お互いがお互いの苦労をわかっている感じ…
美人ゆえに、妬まれやすい苦労を語ることができる、数少ない同士と思った…
それゆえ、好子さんは、私を信頼していると思った…
だが、今、テレビや雑誌、ネットで見る、米倉好子さんは、違って見える…
私が知っている米倉好子さんとは、違って見える…
これは一体、どうしてだろう?
新造さんに訊きたい…
新造さんに、その謎を聞きたい…
その謎を解き明かしてもらいたい…
私は思った。
私は、しばし、悩んだが、スマホで、新造さんに、電話を掛けることにした。
新造さんの電話番号は、以前、新造さんから、私に電話があったことで、スマホに登録してある。
私は、しばし迷ったが、やはり、好奇心が、勝った…
それほど親しい間柄でもないのに、電話をかけるのは、失礼かと思ったが、新造さんに、電話をかけた。
…プルルルルルル…
少し待つと、相手が電話に出た…
「…ハイ…」
電話の向こうから、声が聞こえた。
私はその声を聞いて、
「…新造さん…高見…高見ちづるです…ご無沙汰しています…」
と、声をかけた。
「…高見さん?…」
電話の向こうから、新造さんの驚いたような声がした。
まさか、私から電話があるとは、考えもしなかったんだろう…
当たり前だ…
私は、
「…突然、電話をお掛けして申し訳ありません…」
と、詫びた。
それから、
「…テレビを見ると、好子さんが、無事退院して、マスコミの前で、挨拶されているのを見て、どうしても、電話を掛けたくなって…」
と、新造さんに言った。
新造さんの反応は、
「…」
と、なかった…
だから、一瞬、悩んだが、
「…ご迷惑だったら、申し訳ありません…」
と、新造さんに詫びた。
すると、電話口から、ひと呼吸置いて、
「…そんな迷惑なんて…」
という、新造さんの声がした。
「…でも、高見さんには、申し訳ないけど、色々忙しくて…」
新造さんが、すまなそうに言う…
当たり前だ…
実父の米倉平造は、有価証券取締法違反で逮捕され、平造の経営する大日産業は、倒産寸前…
そんな状況にあって、今、好子さんが、意識不明の状態から、目が覚めて、マスコミの前に姿を現した…
平造は逮捕されたにもかかわらず、米倉と水野の合併が協議中…
しかも、共同で立ち上げた合併協議会には、追放された米倉正造と、同じく追放された正造の姉、澄子の夫である直一も入っている…
しかも、
しかも、だ…
その先には、好子と水野透との結婚も控えている…
合併も結婚もどうなるかは、わからないが、今が、米倉にとって、大変なときであることは、誰の目にもわかる…
やはり、そんな大変なときに、新造さんに電話をかけたのは、まずかった…
我ながら、不謹慎だった…
あらためて、自分の愚かさを思った。
が、新造さんは優しかった。
「…高見さん…色々迷惑をかけてすまない…」
「…そんな迷惑なんて…」
私は呟く。
私は、言いながら、ふと、なにが迷惑なんだろうと思った。
迷惑をかけたのは、私であって、新造さんではないからだ…
それが、一体なぜ?
私は思った。
「…好子も正造も、透も、みんな自分のことばかり考えていて…」
新造さんが、愚痴る…
…好子も正造も、透もなんて、一体どういう意味だろう?
私は、考える。
「…高見さん…」
「…ハイ…」
「…好子には、気を付けてください…」
「…好子さんに気を付けるって…」
「…好子は、高見さんを恨んでます…」
私を恨む?
「…それは一体どういう?…」
私が訊き返すと、新造さんが忙しそうに、
「…とにかく、高見さんは、これ以上、米倉の騒動に口を突っ込まない方が、いい…高見さんのためです…」
と、言って、一方的に、電話を切った…
私は唖然とした。
そして、考えた。
…高見さんのためって、一体?…
まるで、私、高見ちづるが、米倉の家に、利害関係があるかのような言い分だ…
そんなことがあるわけがない…
私は、平凡な家庭の出身だ…
両親も平凡なサラリーマンで、米倉のような大金持ちと縁もゆかりもない…
それが、一体なんで、そんなことを言うのだろう…
私は不思議だった…
一方、私がその疑問を解くこともできない間にも、当然のことながら、世の中は…いや、米倉と水野は、動いていた…
テレビや新聞のメディアで、合併の協議会を発表して、まもなく、今度は、正式に、水野透と、米倉好子の結婚について、語られていた…
米倉と水野の合併に際し、二人の結婚は避けては、通れない話だからだ…
しかし、それはあくまで、マスコミが騒ぐだけ…
今回、好子さんが、マスコミの前に顔を出し、好子さんの美しさから、メディアは、それ以前に、正造がマスコミの前に顔を出したとき以上に、熱狂したが、肝心の米倉好子が、水野透と、いっしょに、メディアの前に姿を現すことはなかった…
これは一体どうしたことか?
普通に考えれば、やはり、お互いが、結婚に前向きではないのではないか?
私は考える。
米倉と、水野の合併に際し、米倉と水野を代表する、好子さんと透が結婚するのが、誰の目にも、一番、いいのが、わかるが、それでも、やはり、肝心の当人たちが結婚に前向きではないのではないか?
私は考える。
条件としては最高でも、嫌なものは嫌だ…
それが、人間だ…
肝心の当人たちを含め、誰の目にも、米倉と水野の合併に際し、好子さんと透が結婚するのが、一番だとわかっていても、嫌なものは、嫌だからだ…
しかし、
そこまで、考えて、ふと気付いた…
今、それまで、入院中だった、米倉好子さんが、退院して、メディアの前に姿を現した。
何度も言うが、好子さんが、メディアの前に姿を現したのは、最高のタイミング…
それ以前にイケメンの米倉正造が、メディアに姿を見せて、場を盛り上げた中で、好子さんが、登場した…
すると、どうだ?
やはり、その流れの中で、今度は、好子さんが、透と、いっしょに、メディアの前に姿を現し、婚約を発表するのが、筋というか、流れではないのか?
そのとき、米倉好子は、悲劇のヒロインとうか…凋落した米倉が、それを救うべき現れた、白馬の王子とも思われる水野透と、結婚する…
それが、最高の舞台…
舞台が一番盛り上がる場面ではないのか?
私は、考える。
すると、どうだ?
もしも、
もしも、だ?
それが、好子さんの想い描いた筋書きだとすれば、それが、できないのは、困る…
いや、できないのは、困るというだけでなく、どうして、できないのか、その原因を考える。
その原因が、もしかしたら、私ではないのか?
私、高見ちづるではないのか?
さっき、新造さんに電話をしたときに、
「…とにかく、高見さんは、これ以上、米倉の騒動に口を突っ込まない方が、いい…高見さんのためです…」
と、新造さんは、私に言った…
私自身、米倉の騒動に、口を突っ込んでいるつもりは、これっぽっちもないが、私がいることで、なにかしら、好子さんの計算が狂った?
それが、
「…好子には、気を付けてください…」
という新造さんの言葉ではないのか?
私は思った。
そして、もし、そうならば、原因は、私ではなく、水野透にあるはずだ…
もしも、米倉好子さんが、水野透との結婚を、舞台のフィナーレに考えるならば、当然、好子さんは、水野との結婚を望んでいる…
だが、その結婚はできないとなると、それは、好子さんではなく、水野が拒否していると考えるのが、自然…
しかし、もし水野が、好子さんとの結婚を拒否したとしても、その原因が、私であるわけがない…
まさか、水野透が、私、高見ちづるに惚れたから、好子さんとの結婚を嫌がったなどと、子供のようなことは、言わないだろう…
あの水野透は、策士…
惚れた晴れたで、動く人間ではないはずだからだ…
たかだか、好きか嫌いかだけで、判断する人間ではないからだ…
…好きか嫌いかだけで、判断する?…
いや、だとしたら、どうだ?
水野は、
「…好子は、オレを下に見ているから、嫌いだ…」
と、以前、私に言った。
もし、あれが本当ならば、水野は、それほど計算高い人間ではないのかもしれない…
私は、考える。
まさか、私は水野透の人間性を見誤った?
考えた。
お調子者の水野透…
まるで、柳沢慎吾のように、軽い、お調子者を演じることで、すばやく周囲に溶け込んだ…
しかし、それが、透の天性の性格ではなく、生まれ=環境によるものと、知った…
水野透は、父親の愛人の子…
正妻との間に実子がない、父親の水野良平が、認知し、正式に息子とした。
それゆえ、透には、水野は居心地が悪い…
だから、うまく周囲になじむために、柳沢慎吾のように、軽いお調子者を演じていた…
その方が、周囲に溶け込みやすいからだ…
だが、それはあくまで、演技…
本来の性格ではない…
それがよくわかったのは、あの丘の上の水野系列の老人介護施設を訪れて、米倉正造の母親と会った時…
それまでとは一転して、お茶らけた印象は鳴りを潜めていた…
まったくの普通の人だった…
おそらく、あれが、水野透の本当のキャラなのだろう…
そこまで、考えて、ふと気付いた…
水野は、それほど計算高くないのかもしれないことを、だ…
むしろ、凡人と言うか、自分の感情に正直な男…
だが、だとしたら、一番計算高いのは、誰なのか?
私は考えた。




