恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 78
恋かもしれない…
違うかもしれない…
私は考える。
では、恋とは一体なんなのだろう?
要するに、人を好きになることだ…
自分以外の他人を好きになることだ…
だとすれば、これを米倉の騒動に当てはめれば、おのずと答えは出るのではないか?
私は、その事実に、ふと気付いた…
今、米倉正造は、入院中の、好子さんに代わって、メディアの取材を受けている。
もちろん、それは、好子さんが、水野透と、結婚するか、否かの話ではない…
正造が、水野グループの関連会社の社長に就任するか否かの話題だった…
しかしながら、どういう経緯であれ、米倉正造が、メディアに登場することによって、入院中の好子さんの話題がなくなるのは、当然…
メディアの矛先が、好子さんから、正造に代わる。
これは、一体なにを意味するのだろうか?
私は考える。
結果的に、正造は、好子さんを救うことになるのではないか?
私は気付いた。
理由はどうあれ、正造が、メディアに頻繁に登場することによって、メディアの矛先が、好子さんから外れることになる。
そして、その間に好子さんは?
私は思った。
そして、その予感は当たった…
好子さんが、いつのまにか、入院中の病院から、いなくなっていた…
正式には、意識が回復して、入院の必要がなくなったのだ…
しかし、それを発表するメディアもあまりなかった…
すでに、話題の焦点が、好子さんから、正造に移っていたこともあるが、やはり、その陰には、平造の力があった…
没落したとはいえ、大日産業社長、米倉平造の力があった…
いや、
平造だけではない、
当然、水野の尽力もあった…
要するに、平造と、水野が力を合わせて、好子さんの報道を、無理やり、正造の報道に変えたのだ…
そこには、当然、正造も一枚噛んでいる…
つまりは、皆が力を合わせて、好子さんを守ろうとしている…
私はその事実に気付いた…
ということは?
ということは、どうなのだろうか?
皆が米倉好子を守ろうとしている…
これは、一体なにを意味するのか?
その意味するものは、なんだ?
考える。
米倉好子とは、一体何者なのか? という事実に、だ…
私は、家にいても、会社に出社していても、常にそのことを考えていた。
一方、会社では、あの水野透のことが、話題になっていた…
当たり前だ…
以前、短い間とはいえ、この金崎実業の営業所に、出入りしていた業者が、実は、水野財閥の御曹司だった…
それは、驚天動地の驚きだった…
最初は、あのおちゃらけた水野が、いかにテレビで、米倉好子とのことが話題になっても、同一人物=本人とは、思わなかった…
水野財閥、後継者、水野透…
テレビやネットに出た写真を見れば、この金崎実業の営業所に出入りしていた、あの水野と姿形は、そっくりだということはわかる…
しかしながら、今、日本中で、話題の、水野財閥後継者本人とは思わなかった…
だが、しかし、女子社員の一人が、
「…そういえば、あの水野は、戦前、日本の二十大財閥の水野財閥後継者と、自分で名乗ったわ…」
と、言った。
それで、会社の営業所の全員が、やはり、テレビで話題のあの水野透と、同一人物だとわかった…
あのとき、水野は、まるで水戸黄門が印籠を見せて、正体を明かすが如く、
「…我こそは、戦前、日本二十大財閥といわれた水野財閥後継者、者ども控えおろう…」
と、大見えを切った…
無論、わざと大見えを切ることによって、笑いを取ろうとしたのだ…
それを思い出した。
同時に、水野の正体を喝破した、私にも、女子社員から、疑惑の目が向けられた。
最初に、
「…水野さんは、お金持ちですからね…」
と、話の矛先を向けた=水野の正体を暴露したのは、私だったからだ…
その点に気付いた、女子社員が、私に、
「…どうして、高見さんは、水野がお金持ちだったと知ってたんですか?…」
と、訊いた。
当たり前のことだ…
私は、意外にも、私に話の矛先が向かってきたことで、焦ったが、とっさに、
「…実は、私の友人に、水野さんを知っている人がいて、偶然…」
と、答えた。
友人とは、米倉正造であり、米倉好子のことであるが、さすがにその名前は出せない…
二人とも、今、日本中で話題になっているからだ…
「…なんだ…そうだったんですか?…」
即座に一人の女子社員が言った。
その女子社員の一言で、他の女子社員全員が、納得した。
そして、その女子社員とは、内山さんだった…
「…なんだ…そうだったんですか?…」
と、一言、言ったことで、営業所の社員全員を納得させた…
私は、内山さんの鋭さに舌を巻いた…
いや、
鋭さ=行動に、だ…
わざと、最初に、声を上げることで、周囲を納得させようとしたのだろう…
一体、この内山さんは?
私は考える。
しかし、いつまでも、内山さんのことを考える余裕は、私にはなかった…
ほどなく、あの米倉好子本人から、私に電話があったからだ…
夜、自宅にいるときに、私のスマホに着信があった…
私は、誰だか、わからずに、とりあえず、電話に出た。
見知らぬ番号だが、非通知ではない…
だが、自分から名乗るのは、止めた…
自分から、名乗ることで、この番号の持ち主が、誰だか、わかるのは、困るからだ…
だから、無言で、
「…」
と、スマホを握ったままにした。
まもなく、
「…高見さん?…」
と、スマホの奥から、声が流れてきた。
「…ハイ…」
私は答える。
「…米倉です…米倉好子です…」
スマホから、声がした。
私は驚いた。
まさか、好子さんから、電話があるとは、思わなかったからだ…
「…お久しぶり…」
「…ご無沙汰しています…」
とっさに返した。
まさか、米倉好子さんから、電話があるとは思わなかった…
一体、なぜ、好子さんが私に電話を…
私は考える。
そんな私の心の内を見透かすように、
「…驚いた?…」
と、声がした。
「…ハイ…」
私は答える。
「…でしょうね?…」
ケラケラと楽しそうな声がした。
これが、あの米倉好子なのか?
私は一瞬、考え込んだ。
私が知っている米倉好子とは、違った…
いや、
違って見えた…
いや、
違って聞こえた…
それが、偽りのない本音だった…
「…好子さん…カラダは?…」
「…もう全然、大丈夫…」
即座に、電話口で、好子さんが、返した。
「…兄の…正造のおかげで…マスコミの目を避けられたわ…」
好子さんが言う。
私の思っていた通りのことを、口にした…
「…正造さんのおかげで…」
「…あの男も、少しは役に立つこともあるわ…」
…あの男?…
スマホから流れる、好子さんの言い草に唖然とした。
それでは、まるで、好子さんが、主人で、正造が、家来…下僕のような言い方だからだ…
いや、好子さんは、女だから、姫様と、下僕といったところか?
私は考える。
「…まもなく、ショーが始まるわ…素敵なショーが…」
好子さんが、意味深に言う。
「…ショーって、一体?…」
「…今にわかるわ…」
それだけ、言って、プツンといきなり、スマホの電話を切った…
私は、驚いた。
一方的に、電話をかけてきて、一方的に、電話を切る…
まさに、お嬢様…
生粋の…生まれつきのお嬢様にしか、できない芸当だ…
自分勝手に行動し、他人の思惑は一切考えない…
これが、米倉好子の本性なのだろうか?
本当の姿なんだろうか?
悩む。
考える。
そして、なにより、ショーとは一体?
その謎は、まもなく解けた。
ショーとは、米倉平造の逮捕だった…
あの米倉平造が、粉飾決算の疑いで、逮捕されたのだ…
逮捕容疑は、有価証券取引法違反の疑い…
私は驚いたが、考えてみれば、当たり前のことだった…
東証一部上場企業が、粉飾決算を行っている…
粉飾決算=会社の業績を偽っていることだ…
いやしくも、会社を上場すれば、株を市場に公開することになる…
そして、株主は、その企業の業績を見て、株に投資する…
すなわち、株に投資する前提の企業情報を偽ったのだから、罪に問われるのは、当然だ…
当たり前のことだ…
そして、その罪の名目が有価証券取引法違反…ひらたく言えば、有価証券にウソの記載をしていたことで、罰せられるということだ…
ここまで、考えて、平造は、それを予期しなかったのだろうか?
私はふと考えた。
それはありえない…
当然、予期したはずだ…
にも、かかわらず、平造は、手を打っていなかったのだろうか?
いや、
それはありえない…
米倉平造は、優秀な経営者…
当然、自分が逮捕された後のことを考えていたはずだ…
だとしたら、一体?
その謎は、まもなく解けた。
テレビの前に、あの米倉好子が出たのだ…
小柄だが、清楚で、美しい姿で、テレビカメラの前に立ち、深々とお辞儀をして、
「…今回は、色々ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした…」
と、詫びた。
その姿は、まるで、女優のようだった…
小柄だが、その美しさは、誰の目にも、明らかだった…
当然、マスコミは、好子さんの美しさに、驚愕し、その結果、視聴率はうなぎ登り…
テレビや雑誌で、米倉好子の特集が組まれるほどだった…
だが、私は、米倉好子のその姿を見て、妙な違和感を覚えた…
まるで、満を持した状態で、好子さんが、マスコミの前に姿を見せた…
言葉は悪いが、最高のタイミングで、世間に姿を見せた。
これは、偶然だろうか?
それとも…
恋かもしれない…
違うかもしれない…
私は考える。
米倉正造は、好子さんが、マスコミに登場するのと交代する形で、テレビの前から去った…
雑誌にも、以後、姿を見せなかった…
完全に、正造から、好子さんに、話題がとって変わった…
これは、偶然だろうか?
それとも…
恋かもしれない…
違うかもしれない…
私は考える。
では、恋とは一体なんなのだろう?
要するに、人を好きになることだ…
自分以外の他人を好きになることだ…
米倉正造は、米倉好子を本当は、好きだったのでは、ないだろうか?
だから、身代わりと言うか、わざと、好子さんが、不在のときに、マスコミの前に現れて、スポットライトを浴びた…
米倉好子を愛するがゆえに、あえて、マスコミの前に現れて、自分を犠牲にしたのではないか?
そんな考えが浮かんだ…
そして、そんな正造を好子さんは、利用しているのでは?
私は思った。
だが、
だとすると、どうだ?
そもそも、米倉好子は、腹違いの兄と思われた、正造を慕っていた…
十歳上の、イケメンの正造を、理想の恋人のように、慕っていた…
しかし、違った…
なにが、違ったのかといえば、腹違いの兄ではなく、正造は血の繋がらない、まったくの他人だった…
それゆえ、正造は、好子さんとの結婚を餌に、米倉を手に入れるつもりだった…
正造こそ、米倉創業者の血を受け継ぐ、正当な後継者だったからだ…
しかし、それを知った、好子の父、平造が、激怒して、正造を追放した…
溺愛する娘の好子さんを、人身御供のような形で、正造が好子さんを結婚して、米倉を継ぐことが許せなかったからだ…
私は、そう思っていた…
しかし、違うのかもしれない…
なにかが、間違ってる…
いや、
誰かが、ウソを言ってるのでは?
私は思った。




