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恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ  作者: トモサン


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恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 76

私が、そんなことを、ボンヤリと考えていると、案の定と言うか、隣の席の内山さんが、


 「…甘いですね…」


 と、ずばり、感想を漏らした。


 「…甘い?…」


 私は、内山さんの言葉に、思わず、突っ込んだ…


 「…今回は、買収が見送りになっただけですよ…大昭和の隠れ負債が思ったよりも、大きいから…でも、大した負債じゃないから、水野から援助を受ければ、すぐに、買収を再開させるかもしれませんよ…」



 内山さんが、喝破(かっぱ)する。


 たしかに、内山さんの言う通り…


 大昭和に隠れ負債が発覚したが、その額は、数百億円に過ぎない…


 数百億といえば、一般庶民にとっては、想像もできない大金だが、大昭和が潰れる金額でもない…


 むしろ、大昭和が、本当に、金崎実業を吸収合併したいと思えば、内山さんが言うように、水野から金を借りればいい…


 すでに、大昭和は水野グループ…


 社長の水野良太は、水野透(とおる)の父、良平の弟だ…


 私はそれを思い出した。


 しかしながら、この内山さんという女性には、舌を巻かざるを得ない…


 わずか23歳で、大学を卒業して、まだ二年目なのに、いちいち、こちらが、驚くことを、口にする。


 それは、実父が、金崎実業の重役ということだけでは、あるまい…


 この内山さんという女性自体が優れているのだ…


 人間は年齢ではないということを、つくづく考えさせられる。


 もっといえば、年齢でも学歴でもない…


 東大を出ていても、使えない人間は、なにをやっても、使えないし、偏差値40の工業高校を出ていても、使える人間は、使える。


 もちろん、偏差値40の工業高校を出た人間に、大企業の社長ができるわけでは、当然ない…


 ただ、使える人間というものは、瞬時に、周囲の状況を見極める力を持っているということだ…


 これが、基本だろう…


 わかりやすい事例で言えば、いわゆるブラック企業で、仮に百人採用しても、何人残るかの企業に就職した場合でも、それが、すぐにブラック企業だとわかる人間…


 そういう人間は、すぐに辞めずとも、機会を見て、そこから、逃げ出すことができる…


 それが、できない人間は、仮にブラック企業でもない普通の会社で、周囲の環境が、良い場合はいいが、それが、急速に悪くなっても、その環境の変化に気付かない場合が大半だ…


 昨今でいえば、やはりリストラが、その好例だろう…


 誰が見ても、真っ先にリストラされるであろう人間が、まったくその自覚がない…


 つまり、自分自身が、周囲にどう見られてるか、まったくわからない…


 そして、それを教えてくれる人間もいない…


 要するに好かれてない…


 しかしながら、その事実にすら、気付かない…


 少なくとも、周辺が、表面上は、普通に接しているからだ…


 ゆえに本人に嫌われてる自覚がまったくないからだ…


 私は、考える。


 しかしながら、この内山さんは、真逆…


 しかも、しかも、だ…


 外見が、ロリっぽいと言っては、失礼だが、妙に子供っぽい…


 だから、その落差が凄いというか、驚かされる。


 そのロリっぽい外観で、周囲から軽く見られて損をすることもあれば、真逆に、そのロリっぽい外観から、その優れた能力を見破られることなく、情報を得ることが可能だ…


 つまり、そのロリっぽい外見を隠れ蓑にして、ひとを騙すというか…


 そのロリっぽい容姿ゆえに、他人が、内山さんを侮るからだ…


 私は考える。


 「…それで、内山さんは、この買収が続くと思うの?…」


 私は内山さんの意見を聞くべく、尋ねた。


 「…それは、わかりませんよ…」


 内山さんが、子供のように、口を尖らせて、答える。


 「…でも、うちが、狙われてることは、確かです…大昭和に限らず、どこかの企業が、うちを買収しようと、虎視眈々としてますよ…」


 「…虎視眈々…」


 「…弱いというか、中途半端だからですよ…」


 「…中途半端?…」


 「…この金崎実業にも、いいところは当然ありますよ…儲かってる部署も当然多い…でも、足を引っ張る部門もあります…それを切れば、企業として、再生できます…でも、自分の力で、それをすることは、不可能です…」


 内山さんが、断言する。


 私は、内山さんが、言わんとすることが、よくわかった…


 どんな企業も、黒字の部門と、赤字の部門がある。


 ならば、誰もが、赤字の部門を真っ先に切れば、良いと考えるが、ことは、そう単純ではない…


 赤字の部門の出身者もまた、会社の重役等、お偉いさんになっている…


 すると、例えば、その赤字の部門を切れば、その赤字の部門の出身者のお偉いさんの社内での影響力がなくなると、考えて、赤字部門を切ることに反対する。


 今は赤字だが、数年後には、黒字になるとでも、言い続ける。


 また、事実、赤字部門で働く者たちも、同じ部門の出身者のお偉いさんに頼る…


 そうしなければ、真っ先に自分たちが切られる=失業するからだ…


 つまり、会社の中で、いくつもの派閥が生まれ、その駆け引きが始まる…


 人間が集まれば、派閥が生まれるのは、論を待たない…


 学校や職場を見れば、わかるが、人間が集まれば、当然、誰もが仲の良いもの同士集まる…


 それが、派閥だからだ…


 そこまで、考えて、ふと、今、内山さんの言った言葉が気になった…


 引っかかったというべきか?

 

 「…この金崎実業にも、いいところは当然ありますよ…儲かってる部署も当然多い…でも、足を引っ張る部門もあります…それを切れば、企業として、再生できます…でも、自分の力で、それをすることは、不可能です…」


 と、今、内山さんは、言った。


 ここで、問題なのは、


 「…でも、自分の力で、それをすることは、不可能です…」


 という最後の言葉だ…


 自分の力で、それをすることは不可能…


 別の言い方をすれば、誰かの力を借りれば、いいことだ…


 この場合は、水野の…大昭和の力…


 大昭和に吸収合併されることで、赤字部門を切ることができる…


 あるいは、


 外に敵と言うか、今回、大昭和に合併されかけた危機を教訓に、うちもまた、赤字部門を切り、企業として、筋肉質の会社を作ろうとでも、言い出して、赤字部門を切り捨てる口実を作ることができる…


 いずれにしろ、もし、内山さんの父親が、それを目指しているとすれば、これ以上の好機はない…


 私が考えていると、内山さんが、


 「…高見さん…どうしたんですか?…」


 と、訊いた。


 私は、とっさに、


 「…なんでもない…なんでもないわ…」


 と、口にした。


 そんな私を見て、内山さんが、


 「…高見さんは、ウソが下手ですね…」


 と、喝破(かっぱ)した。


 「…ウソが下手?…」

 

 「…ハイ…高見さんは、買収がなくなったことで、ホッとしてるでしょ?…」


 「…それは、当然…」


 言いながら、内山さんが、私の考えていたことと、全然違うことを言って、内心、ホッとした…


 「…でも、この営業所だって、どうなるかはわかりませんよ…」


 「…どうなるか、わからないって?…」


 私は内山さんのあまりの言い草に絶句する。


 「…それは、もしかして、内山さんの予言?…」


 私はわざと、大げさに言った。


 「…予言って、そんな大げさなものじゃないですよ…ただ…」


 「…ただ…」


 そこまで言ったとき、所長の亀山が、私と内山さんのお喋りを見ていることに気付いた。


 「…止めましょう…内山さん…亀山さんが、こっちを見ているわ…」


 私の指摘に、内山さんも、また亀山所長を見た。


 そして、亀山が珍しく、険しい表情で、私たちを睨んでいることを見て、驚いた。


 「…マズい…亀山さん、怒ってる!…」


 内山さんが、小声で、呟いて、私たち二人は、それから、無言で、仕事にかかった…


 それが、一週間前…


 米倉の凋落は、相変わらず、新聞やテレビを筆頭としたメディアの話題だった…


 なにより、話題になった原因の一つは、あの米倉正造と、米倉好子のルックスにあった…


 いわゆる、美男美女…


 誰もが、正造と好子を見ると、ハッと振り向く。


 皇室の秋篠宮家の次女、佳子様の例を見れば、わかるが、美人であることは、格好の話題作りになる…


 いわゆる、ルックスがいいことが、最大の武器になり、それが、世間の評判になる…


 米倉の凋落によって、最初は、100年以上ある、米倉の歴史が話題になったが、いつのまにか、その話題の中心は、正造と好子のルックスに移っていた(笑)…


 信じられないことだが、なぜか、そうなっていた(笑)…


 男もそうだが、とりわけ女は、ルックスが話題になる…


 例えば、本来ルックスは関係のないはずの作家でも、ルックスが良ければ、すぐに美人作家ともてはやされる。


 これは、男性作家の比ではない…


 男も、ハンサムな場合は、話題になるが、女ほどではない…


 だから、メディアでは、やはり、正造よりも、好子さんの方を話題にした…


 要するに、正造よりも好子さんに焦点を当てた方が、視聴率を取れるということだ(笑)…


 なにより、その米倉好子が、現在入院中という事態もまた、格好のメディアの注目を集めた。


 米倉が、水野と婚約中というか、以前、婚約と流れた報道もその一因だった…


 結局のところ、水野は、米倉を救済するのか、どうか、だからだ…


 以前は、米倉と水野が、合併することが、焦点だったが、米倉は、内情は火の車…


 とても、単独では生き残れないので、それを隠して、水野に合併を申し込んだことが、世間にバレた…


 ならば、それでも米倉と水野は合併するのか?


 そして、米倉好子は、水野透(とおる)と、結婚するのか?


 それが、世間の注目の的になった…


 米倉は、傾きかけているが、水野が合併するのか?


 それをすれば、救済合併になり、文字通り、米倉は水野に飲み込まれる。


 しかし、米倉の負債が大きすぎれば、合併すれば、水野もまた共倒れになる…


 本来ならば、世間で、一部の人間の間でしか、話題にならない話だが、渦中の、米倉好子が、美人だから、世間で、話題になった(笑)…


 好子さんが、米倉を救うために、水野透(とおる)と結婚するのか?


 それとも、結婚しないのか?


 そんなことが、テレビや雑誌で、話題になり、ネットもまた炎上した…


 まるで、現代の人身御供のような話だからだ…


 美貌の米倉好子が、米倉家を救うために、水野透(とおる)と結婚する…


 これほど、世間で、話題になる話はない…


 テレビやネットでは、好子さんが、水野と結婚するのか、否か、討論が行われていた…


 著名な芸能人が、それぞれ、結婚するべきか、否か、持論を述べる…


 ネットも、同様だった…


 好子さんが、水野と結婚するべきか、否か、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を行っていた…


 私は、それを見て、ただ驚いた。


 私が身近に見ていた、米倉と水野のことが、世間で、話題になり、しかも、その是非について、みんなが、それぞれの自説を述べている…


 ありえない光景だった…


 入院中の米倉好子さんは、これをどう思うだろう?


 好子さんは、水野が、言ったように、その精緻な日本人形のような美しい外観同様、元来、繊細で臆病な性格…


 それゆえ、酒に逃げた…


 そんな気の弱い好子さんが、世間での反応を知れば、どう思うだろう?


 心配になった…


 また、あの水野は、この騒動をどう思ってるのだろう…


 あの水野にとっても、この展開は、想定外のはずだ…


 まさか、自分と好子さんの結婚が、これほど、世間の話題になるとは、本人も想定外の出来事だろう…


 金持ちだが、一般人の二人が突如、世間の注目を浴びる…


 とてもじゃないが、まともな神経の持ち主ならば、耐えられる事態ではない…


 私が、好子さんや水野のような当事者ならば、誰も知らない場所にでも逃げて、世間のほとぼりが冷めるまで、外には出ない…


 いや、私だけではない…


 誰もが、同じだろう…


 私は、考える。


 しかしながら、物事というものは、思いがけない方向に動くものだ…


 水野と米倉の合併話がいつのまにか、水野透(とおる)と、米倉好子の話になり、さらには、好子さんの美貌に話は集中した…


 これは、好子さんを知っている、身近な人間…父の平造や、母、そして、弟の新造さんにとっても、ありえない展開だろう…


 米倉好子さんの学生時代の友人やクラスメートに好子さんの人となりを聞き、なにより、そのモテ伝説が、注目を浴びた…


 いかに、学生時代、米倉好子がモテたか、米倉好子のモテ伝説だ…


 世間では、好子さんのモテ伝説に注目した。


 金持ちで、美貌のお嬢様…


 いかに、学生時代、モテたか、それを、大げさに、テレビや雑誌、ネットに至るまで、紹介した。


 学生時代、何十人…


いや、


何百人の男に告白されたか?


 その数が、いかに多いか?


 まるで、学校の女王様のような扱いだ…


 それは、米倉好子さんのモテ伝説を検証するかのよう番組だった…


 私は唖然とした。


 物事が、どう転がるか、わからない典型だった…


 そして、そんな好子さんの美貌が、世間の耳目を集めている間に、密かに別の出来事が起こっていた…



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