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恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ  作者: トモサン


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恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 69

片恋…


 ふいに、そんなフレーズが、私の脳類に浮かんだ…


 片方だけの恋…


 平たく言えば、片思いだ…


 私が、米倉正造と、水野透(とおる)に抱いている思いは、まさに片思いそのもの…


 33歳にもなって、片思いとは、今さらながら、呆れかえるし、私らしいといえば、私らしいと言える…


 これまで、恋らしい恋をしたことが、一度もない…


 学生時代から、男にさんざコクられたが、自分から、好きになった男は一人もいなかった…


 それを考えれば、少しは、私は、恋が上達したのかもしれない…


 ひとを好きになれることができたのかもしれない…


 私は一人、そんなことを考えながら、帰途に着いた。


 今日も無事、一日が終わった…


 達成感というものは、当然ない(笑)…


 ただ漠然と毎日が過ぎてゆく(笑)…


 それが、以前の私の日常だった…


 33歳にもなり、この先、結婚はどうするのだろう?


 子供はどうするのだろう?


 そんな思いが、漠然と、心の奥にあった…


 しかし、出会いがない…


 会社を通じて知り合って、これと思う男の人はいなかった…


 これは、私の理想が高いだけではあるまい(笑)…


 要するに、簡単にひとを好きになることができないのだ…


 恋をすることができない人間なのだ…


 だから、この歳まで、なんとなくきてしまった…


 それが、33歳にもなって、少しだが、焦り出した…


 結婚は?


 子供は?


 という、具合だ…


 しかしながら、頭の隅にあるだけで、行動は起こせなかった…


 我ながら、歯がゆいというか、じれったいというか(笑)…


 なんとかしなければ、いけない…


 頭の隅に常にその思いがありながら、行動を起こすことができなかった…


 それが、一転したのは、溝口の紹介で、米倉正造に出会ってからだ…


 米倉正造うんぬんというだけでなく、私の世界が変わった…


 それまでの私の知る世界とは、一転した、違う世界の住民…


 ときめいた(笑)…


 なにより、生活に刺激ができた…


 漠然と、毎日会社に出社する日々…


 別にキャリウーマンを目指しているわけでもなんでもない(笑)…


 ただ生活のために働いているに過ぎない…


 しかし、毎日に刺激がない…


 やはり、生きてゆく上で、刺激が欲しいし、毎日が張り合いのある、充実した日々を過ごしたい…


 それが、あの米倉の一族と接したことで、変わった…


 それが、一番嬉しかった…


 生活に張り合いができた…


 自分が、米倉正造や、水野透(とおる)と、結婚できなくてもいい…


 だが、もしかしたら…できるかもしれない…


 そう思うだけで、なんだか、楽しかった…


 考えてみれば、こんな思いは、中学生や高校生がするものだ…


 十代のティーンエイジャーがするものだ…


 それが、33歳にもなって…


 ある意味、遅れてきた青春だ(笑)…


 私、高見ちづるにも、33歳になって、遅れてきた青春がやって来たともいえる(笑)…


 私は、そんなことを考えながら、帰途についていると、


 「…高見さん…」


 と、誰かがいきなり私の名前を呼んだ…


 私は驚いて、声のする方向を見た。


 そこには、長身の二十代前半の青年が立っていた。


 しかし、誰だかは、すぐにはわからなかった…


 「…高見さん…ボクです…中村です…」


 長身の青年が言う。


 私は当惑した。


 たしかに、よく見ると、中村君なのだが、会社で見る中村君は、いつもスーツ姿…


 それが、一転して私服…


 それも、まるで、ロックをやる人間がするように、革ジャンにチェーンをつけた私服だ(笑)…


 会社で見る中村君のイメージと真逆な姿だったから、見てもすぐに中村君と気付かなかった…


 そして、ようやく中村君と、気付くと、


 「…エーッ? 中村君?…」


 と、自分でも驚くくらい素っ頓狂な声を上げた。


 私の声に、


 「…高見さん…そんな大声を出さないで…」


 中村君が、焦る。


 中村君は、思わず振り返って、周囲の反応を見た…


 「…だって、その恰好…会社での姿と全然…」


 私は、言うと、


 「…これが、普段のボクです…」


 と、中村君が言った。


 「…普段のボクって?…」


 私は驚く。


 「…いや…普段のボクっていうと、大げさだけど、少なくとも、会社での姿とは違いますよ…」


 中村君が照れたように、言った。


 私は、


 「…中村君…会社は…」


 と、つい口に出した。


 本当は、


 「…会社はどうしたの? …辞めるの?…」


 と、言いたかったが、さすがに、それを口にするのは、憚(はばか)れた…


 33歳にもなって、十歳も歳の離れた男のコに対して、口にするセリフではなかった…


 「…会社ですか?…」


 中村君が、私の質問に、楽しそうに笑って、答える。


 「…よくわからないです…」


 「…よくわからない?…」


 「…高見さんも、知ってるように、溝口の叔父さんも、ああなっちゃったし…」


 中村君が、笑いながら言う。


 私は、中村君に、どう答えていいか、わからなかったので、


 「…」


 と、黙った。


 「…だから、オレ、逃げちゃったんです…」


 中村君が告白する。


 「…逃げた?…」


 「…ハイ…とりあえず、雲隠れというか…」


 照れた表情で、中村君が言う。


 私は中村君の気持ちが痛いほど、よくわかった…


 叔父の溝口は、あの通りだ…


 私と中村君が、勤務する、金崎実業の取引先であり、金崎実業の数倍の規模の会社である、大昭和の出世頭と目された、溝口は、今や左遷され、関連会社の倉庫係に飛ばされ、自分から、会社を辞めるのを待たれている状態だ…


 こんな状況を目の当たりにして、甥の中村君が、この先の会社員人生を悩むのは、よくわかる…


 まだ入社して、まもないし、始まったばかりの、中村君の会社員人生だが、悩むのは、わかる…


 だから、私は、なにも言わなかった…


 いや、言えなかったというのが、真相だった…


 「…やだな…高見さん…そんな深刻な顔をして…」


 中村君が、わざと明るく言った。


 私の表情が、険しく見えたのかもしれない…


 「…オレだって、ただ逃げてるわけじゃないですよ…」


 「…逃げてるわけじゃない?…」


 「…会社はちょっとご無沙汰していますが…」


 そこで、いったん、ひと呼吸を置いて、


 「…オレ…私生活がロックというと、大げさだけど…地下アイドルとか、そういう会場で、女のコとか、見るのが好きで…」


 私は、中村君が、なにを言い出すのか、わからないので、


 「…」


 と、黙った。


 「…そこで、ある人物と知り合ったんです…」


 「…人物?…」


 中村君が、懐から、スマホを取り出した。


 中村君がスマホを操作して、ある人物が映った画像を私に見せる。


 その姿は、米倉…


 まぎれもなく、米倉正造の姿だった…


 私は驚いた。


 …米倉正造!…


 あの米倉を追放された米倉正造だった…


 だが、どうして、中村君は、米倉正造を知っているのか?


 謎がある。


 私は、黙って、中村君をジッと見上げた。


 中村君は、長身…


 叔父の溝口同様、180㎝はある。


 対する私、高見ちづるは、155㎝…


 だから、どうしても、中村君を見上げる形になる。


 「…誰から、その人物を紹介されたの? いえ、その人物が誰だか知っているの?…」


 私は、中村君を問い詰める。


 同時に、中村君が、私に米倉正造の画像を見せるということは、当然、中村君は、米倉正造が、どんな人間だか知っているということになる。


 そして、私、高見ちづるが、米倉正造を知っている事実を知っているということになる…


 となれば、その事実を知っている人物は、限られてくる。


 私が、真っ先に思いつくのは、溝口…


 米倉正造を、私に紹介したのは、溝口だからだ…


 それになにより、溝口は、中村君の叔父さん…


 だが、溝口が、中村君に、米倉正造を紹介するとは、思えない…


 普通に考えれば、溝口は、大昭和に復職することを願っている…


 それゆえ、米倉平造のみならず、米倉を追放された米倉正造を使って、大昭和に復職する手段を、あれこれ講じるとも考えられる。


 しかし、いかに溝口とて、甥の中村君をその手段に使うとは思えない…


 自分の復職に、甥の中村君を使うほど、溝口があこぎというか、手段を選ばないとも思えない…


 一方、正造は、米倉を追放されたが、溝口のようにサラリーマンではない…


 だから、米倉を追放されても、溝口のように、地位とか財力がまったくなるわけではないだろう…


 それなりに、人脈もあるに違いない…


 現に、正造は、水野を知っていた…


 入院中の米倉好子の婚約者となるべき、水野透(とおる)を知っていた…


 …水野透(とおる)!…


 私はふいに気付いた。


 あの水野のことは、金崎実業の取引先の人間として、この中村君も知っている…


 ということは?


 ということは、もしかして?


 「…中村君に、その画像の人物を紹介したのは、ひょっとして、水野さんじゃないの?…」


 私は、中村君に訊いた。


 中村君は、一瞬驚いたフリをしたが、


 「…さすがですね…」


 と、一言いった…


 「…さすがって?…」


 私は、中村君の言葉に当惑する。


 「…高見さんならば、このスマホの画像を見せれば、どうして、ボクが、この画像の人間と知り合うことができたか、たぶん、わかるって…」


 「…そう…水野さんが言ったの?…」


 中村君の言葉を最後まで待たずに、私は言った。


 中村君は、私の問いに、無言で、首を縦に振って、頷いた。


 「…そう…」


 私もまた小さく頷いた。


 やはり、水野は策士…


 策士だ…


 中村君に、米倉正造の画像を見せて、私が、どう反応するか、試したに違いない…


 「…それで…」


 私は中村君に訊いた。


 「…それでって?…」


 中村君が、私の言葉に当惑する。


 「…水野さんは、私が、その画像の人間をどうして、知ったか、中村君に尋ねてみろ…とでも言ったからには、当てた場合もどうするか、教えたんでしょ?…」


 私の言葉に、


 「…」


 と、中村君は、絶句する。


 そして、少し間を置いて、


 「…そこまで…」


 と、驚いた。


 「…そこまで、わかるんですか?…」


 私は、中村君の言葉に、


 「…」


 と、無言だった…


 「…それで、水野さんは、中村君に、どう言ったの?…」


 「…わかれば、連れて来い…わからなければ、そのまま、やり過ごすというか…」


 「…つまり、私が、中村君と、偶然会って、立ち話をして、別れるということね…」


 「…その通りです…」


 私は、黙って、中村君を見上げた。


 水野がまさか、この中村君に食指を伸ばすとは?


 おそらく、水野透(とおる)は、この中村君が、あの大昭和の溝口の甥だということを、事前に掴んでいたに違いない…


 だから、中村君に接触した。


 利用価値があると、踏んだに違いない…


 おそらくは、中村君に、協力すれば、叔父の溝口の復職を考えてやるとでも、言われたか?


 いや、


 さすがに、そこまでは、言わないか?


 私は考えた。


 「…中村君?…」


 「…ハイ…」


 「…水野さんの正体を知ってるの?…」


 私は直球で、質問した。


 「…正体?…」


 「…あの水野さんは、あなたの叔父の溝口部長のいた、大昭和の新社長の一族よ…」


 私は告げる。


 中村君は、私の言葉に、


 「…大昭和の新社長の一族…」


 と、絶句する。


 「…中村君…あなた、もしかして、水野さんに、協力すれば、叔父の溝口部長を、大昭和に戻してやるとでも、言われたんじゃないでしょうね?…」


 私は念を押す。


 本当は、こんなことを言うのは、嫌だが、さすがに、あの水野を相手にするには、中村君では、頼りなさ過ぎた。


 「…いえ、そこまでは…」


 中村君が見るも憐れに、動揺する。


 その姿を見て、中村君は、明らかに、水野に、脅されているとまでは、言わないが、なにか、うまくいい含められて、利用されてると、思った。


 

 …食えない男…


 とっさに、そんな言葉が脳裏に浮かんだ…


 あの水野を象徴する言葉だ…


 と、同時に、あの水野が、私を称して、


 「…食えない女…」


 と、呼んだことを思い出した。


 さらに、いえば、その食えない女である私になにか頼みたいというか、させたいのでは? と、思いついた。


 眼前のこの中村君を通じて、させたいのではないか、と、気付いた。


 おそらくは、水野は、私を警戒している…


 あるいは、嫌っている…


 しかし、それがわかっていながら、私の力を借りたいというか、利用したいのだろう…


 そして、私の能力を探るために、わざと、中村君に米倉正造の画像が写ったスマホの画面を見せたのだろう…


 いわゆるテストだ…


 そして、それに合格すれば、なにかを頼みたいのだろう…


 食えない男…


 したたかな策士…


 しかし、そんなことがわかっていながら、私は、あの水野に惹かれた…


 これは、あの米倉正造のときといっしょ…


 共に、二人に共通するのは、ある種のうさん臭さというか、どこか危険な匂いのする男だというのが、特徴…


 いわゆる、ヤンキーややくざとは、違う、どこか、知的な匂いを持つ、うさん臭さ…


 同時に、それに惹かれる、私、高見ちづるもまた、彼らと同じ種類の人間なのかも、と気付いた…


 類は友を呼ぶ…


 同じ匂いをする人間だから、惹かれるのだ…


 ということは、私もまた食わせ者?…


 一筋縄ではいかない、ひねくれもの?…


 私は、自分自身をそう総括した…


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