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恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ  作者: トモサン


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恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 60

「…私は凡人だ…」


 米倉平造が告白する。


 「…誰もが、若い時分に人生がうまくゆくと、調子に乗り、自分が天才とまでは、思わずとも、自分が、世間で、突出して、優れた人間だと、誤解してしまう…いわゆる、芸能人にありがちな話だ…」


 「…」


 「…自分は生まれながらのスターだと、勘違いしてしまう…昨今は、昔と違って、さすがにそれはないと思うが…いずれにしろ、私は、自分の立ち位置が、わかっていたつもりだった…そして、お嬢様は、そんな私をかってくれたというか…評価してくれた…」


 「…」


 「…だが、それは、経営者としての評価…あるいは、人間的な評価だった…私とお嬢様は、男と女としては、どうしてもダメだった…ウマが合わないというか…」


 「…」


 「…しかし、米倉の家を潰すわけには、いかない…お嬢様にとって、大切なのは、自分ではなく、米倉だった…戦前から続く、名門の米倉家だった…その米倉の家を守るために、自分は身を引いた…米倉を私に託して…」


 「…」


 「…お嬢様は、それで、満足だった…私も、悩みに悩んだが、それは、仕方のない選択だった…だが、澄子と正造にとっては、そうではなかった…」


 「…」


 「…お嬢様は、私に米倉の家を託して、自分から身を引いたが、あの澄子と正造の目には、そうは映らなかったのだろう…私が、米倉の家を乗っ取ったのと、思ったのだろう…澄子は、そうではなかったが、正造の目には、明らかにそう映ったに違いない…」


 「…」


 「…私はできれば、正造に、米倉の家を継がせたかった…」


 「…正造さんに?…」


 「…それが、ウソ偽りのない本音だった…私が、米倉の家を守り、発展させる…そして、しかるべき時期に、正造に継がせようと考えた…そして、正造のサポート役に、直一君がいて、正造を支えてくれるのが、ベストだと考えた…」


 「…」


 「…だが、正造はダメだった…外見は、見るからに爽やかな好青年で、若い頃から、女にモテモテだった…それが、原因なのか、それとも、本人が持って生まれた資質なのか、どうかはわからないが、若い頃から、だらしのない生活を送っていた…私が再三注意をしてもダメだった…きっと、正造の根底には、私が、自分の母親を追い出した人物にしか思えなかったのだろう…」


 「…」


 「…結局、私は、いつのまにか、正造を、後継者の選択肢から、外さざるを得なかった…」


 「…」


 「…だが、それを知って、正造は焦った…

自分が、当然、米倉を継ぐと思っていたのかもしれないが、大分雲行きというか、その目論見が怪しくなってきたことに、気付いた…その結果、自分が、改心したことを、証明するために、高見さんを、花嫁候補として、この家に連れてきた…」


 「…私を花嫁候補?…」


 「…大昭和の溝口に相談して、私好みの高見さんを連れてくることで、私の機嫌を取ろうとしたのだろう…高見さんは、好子に似ている…」


 「…」


 「…私が溺愛する好子に似た高見さんを連れてくることで、自分の改心をアピールしたかったのだろう…正造が、それまで、付き合ってきた女は、皆派手で、水商売が似合う女ばかりだ…それと、真逆な真面目でおとなしいタイプの高見さんを連れてくることで、私の気持ちを変えられると思ったのだろう…」


 「…一つ、お聞きしていいでしょうか?…」


 「…なんですか?…」


 「…米倉さんは、どうして、そこまで詳しく、正造さんの行動を読めたのですか?…」


 「…溝口だよ…」


 「…溝口?…」


 「…あの男は、コウモリのような男だ…」


 「…コウモリ?…」


 「…得体の知れないというか? …あの堂々とした態度が、あの男の武器だ…人は誰もが、あの態度に騙される…」


 「…」


 「…正造は、溝口に相談し、好子によく似た高見さんを紹介してもらった…同時に、溝口は、私に正造の行動を逐一報告していた…あの男は、私と正造を天秤にかけていたというか…どっちに、転んでもいいように、誰にも、パイプを作っていた…」


 「…」


 「…そうとは、知らずに、正造もつくづくバカな男だ…」


 平造が、呆れた口調で言う。


 しかし、驚いたのが、ここで、溝口の名前が、平造の口から出たことだ…


 溝口は、当初から、正造の相談に乗り、正造が、米倉の家を継げるように、好子さんに似た、私、高見ちづるを、正造に紹介した…


 正造とすれば、平造が溺愛する好子さんに似た外見の、私、高見ちづるを交際相手として、平造に紹介することで、自分が、今までの行動を改めて、改心したことをアピールする狙いだったのだろう…


 なにより、好子さんに似た外観の私なら、平造に気に入られるに違いない…


 そう読んだ…


 そして、驚くべきは、その正造の行動を、溝口は逐一、平造に報告していたという事実だ…


 これは、呆れると同時に、平造に言わせれば、バカな男…


 正造は、溝口という人物が、そんなことをする人間だということも見抜けないバカな男ということを、証明したということだ…


 これでは、到底米倉を継ぐことはできない…


 平造が、正造を見限ったことが、よくわかる…


 同時に、平造の言葉から、溝口の将来が見えた…


 平造が、仲の良い水野の父、水野良平に、溝口のことを告げていないはずはない…


 だとすれば、当然、溝口が、会社を追放されるだろう…


 平造の溝口に対する辛口の評価を聞けば、わかる…


 私はそれを悟った…


 「…溝口さんは…」


 私は敢えて、口にした。


 「…あの人は、今後どうなるのでしょう?…」


 「…それは、私の関知するところじゃない…」


 平造の言葉は、短かった…


 「…米倉の持つ、大昭和の株は、水野に売ってしまった…だから、私が、今後、大昭和の人事に口を挟むことはあり得ない…ただ…」


 「…ただ、なんでしょうか?…」


 「…米倉と水野が合併する、しないに関わらず、水野は私の友人だ…聞かれれば、当然、大昭和の人間に対する、私の評価を話すつもりだ…」


 これが、平造の、溝口に対する、最終回答だった…


 溝口が、会社に残ることはあり得ない…


 それを、私に伝えたということだ…


 「…高見さんは、溝口を通じて、正造に紹介されるぐらいだから、溝口を知っていたのだろう…」


 「…ハイ…」


 「…どういう人物だと思った?…」


 私は、米倉平造の質問に、しばし、悩んだが、


 「…油断のできない男だと思いました…」


 と、正直に言った。


 「…油断のできない男…どうして、そう思ったんですか?…」


 「…私の勤務する金崎実業のみならず、大昭和でも、さまざまなところに人脈を持っていて、情報を掴もうとしている…普通に考えれば、会社で、そこまですることはないでしょう?…」


 私の言葉に、平造は、しばし、絶句した。


 「…たしかに、高見さんの言う通りだ…」


 私は、平造の言葉に、黙って、頭を下げた。


 「…高見さんが、正造と結婚してくれれば、よかった…しかし、正造では、高見さんに、もったいない…」


 「…ありがとうございます…」


 私は再び、頭を下げた。


 「…好子は…」


 「…好子さんは?…」


 私は、繰り返す。


 「…高見さんを信頼していた…」


 「…私を信頼…ですか?…」


 思ってもいない言葉だった…


 「…最初は、あの溝口からの紹介だったので、高見さんを警戒してみていた…率直に言って、高見さんが、溝口の遠縁の娘とか、失礼ながら、愛人とか、そういう可能性もあると思った…溝口の権力欲の犠牲というか、手先というか…溝口の息のかかった人間だと思っていた…」


 私は平造の言葉に、


 「…」


 と、文字通り絶句した。


 まさか、米倉平造が、そんなふうに、私を見ているとは思わなかった…


 要するに、平造は、最初から、溝口を警戒していたのだ…


 それゆえ、溝口の紹介する、私を色眼鏡で、見ていたということだ…


 平造は、溝口を警戒し、正造は、警戒しなかった…


 平造と正造の差は、そこだった…


 人間を見る目だった…


 おそらく、正造は、溝口を使っている=利用しているつもりだったのだろう…


 また溝口自身も、正造を利用しているつもりだったに違いない…


 大昭和の大株主である、米倉家の一族に、恩を売っておけば、間違いはないと、思ったに違いない…


 しかしながら、この平造は、そんな溝口を忌避するというか、受け入れられなかったのだろう…


 一言で言って、人間的に信用できないと、思ったに違いない…


 事業を行う上で、一番大切なものは、なにかと問われれば、その人間が、信用できる人間か否か見極めることだ…


 平造は、それが大事だと考え、正造は、気にも留めなかったというのが、真相だろう…


 価値観の違いといってしまえばそれまでだが、やはり、それは大きい…


 価値観が、違う人間に、会社は任せられないと、思ったに違いない…


 「…好子は、正造が好きだった…それは、高見さんも知ってるね?…」


 「…ハイ…承知してます…」


 「…だが、ただ好きではなかった…」


 「…どういう意味でしょうか?…」


 「…好子は、正造を一人の男として好きだったということだ…」


 平造は苦虫を噛み潰した表情で言った。


 「…一人の男として?…」


 「…つまり、いつの頃からか、自分と正造は血が繋がってないことに気付いていたということだ…」


 衝撃の言葉だった…


 私は、しばし、混乱した。


 しかし、冷静に考えれば、そう考えれば、好子さんの行動が納得できる…


 米倉正造を兄ではなく、恋人として、見ているのならば、これまでの、好子さんの行動が納得できる…


 米倉好子にとって、米倉正造は、理想の兄ではなく、理想の恋人だと思っていたが、そうではなかった…


 理想ではなく、現実的な恋人だった…


 結婚できる、血が繋がってない男だった…


 そう見ていたということだ…


 私は、驚いて、目の前の平造を見た。


 それから、平造の隣の、新造さんの母親…そして、新造さんを見た。


 誰もが、苦虫を潰すような表情だった…


 まさか、父親だけとはいえ、血が繋がった兄妹と思っていた、正造と、好子さんが、実は、赤の他人で、しかも、当人同士が、それに気付いていたとは?


 ありえない展開というか、現実だった…


 しかし、何度も言うが、そう考えれば、好子さんの行動はわかりやすい…


 米倉好子は、現実の恋人として、兄の正造を慕っていた…


 しかし、おそらくは、正造に、捨てられたのだろう…


 だから、好子さんは、激怒して、正造と澄子さんを、この家から追い出そうとした…


 これが、真相だろう…


 私は、思った。


 思いながら、平造に質問した。


 「…いつからですか?…」


 「…いつというと?…」


 「…好子さんと、正造さんが、血が繋がってない事実に、お互いが、気付いた時期です…」


 「…それは、私にもわからない…」


 平造が落胆した表情で、告げた。


 「…当人たちに、訊いても、正直には答えないだろう…あるいは、好子は、答えるかもしれないが、正造は、答えないに違いない…」


 苦渋の表情で、私に告げた。


 私は、その告白に、ふと考えた。


 だとしたら?


 だとしたら、今回、好子さんが、自殺未遂を起こした遠因というか、理由の一つに、米倉正造との関係があるのではないか?


 そんな考えが、ふと脳裏をよぎった。


 そして、それは、同時に、この場にいる、平造、平造の妻、新造さんの頭にあるに違いない…


 私は、思った。


 「…お父様は…」


 私は訊いた。


 「…好子さんと、水野さんの婚約をどう考えていらっしゃるんですか?…」


 私のストレートな質問に、平造は、


 「…」


 と、沈黙した。


 「…以前、好子さんは、私に、水野さんと、密会したのは、お父様に勧められてだとおっしゃいました…そこで正造さんを追放しようと相談したと言いました…」


 私の告白に、


 「…」


 と、平造は絶句した。


 「…つまり、水野さんと会ったのは、米倉正造を、この家から追放するのに、力を貸して欲しいと…」


 私の告白に、平造のみならず、平造の妻も、新造も、絶句した。


 言葉もなかった…


 最初に、口を開いたのは、新造さんだった…


 「…女は恐ろしい…」


 苦笑いを浮かべながら、言った。


 「…姉貴は、あれほど、正造を慕っていて、それが、捨てられたとなると、いきなり、態度が百八十度変わって、この家から、追い出そうとするとは?…」


 たしかに、新造さんの言う通りだった…


 これは、傍から見ると、苦笑してもおかしくはない…


 怒るのではなく、笑いに変えてもおかしくはない…


 しかし、当人にとっては、とても笑える話ではない…


 米倉好子にとっては、笑える話ではなかったに違いない…


 「…好子は、正造の切り札だったに違いない…」


 平造が、言った。


 「…切り札?…」


 「…私が、正造を後継者に据えないとわかったときに、好子を妻にするという…そうすれば、私が文句を言えないと思ったのだろう…」


 平造は、苦々しげに、言った。


 いや、苦々しげどころではなかった。


 平造の唇は、怒りで、震えていた…


 顔色もそうだ…


 怒りで、青白くなっていた…


 溺愛する娘を人質に取ろうとする、正造の卑劣さが、許せないに違いない…


 「…あの男を、私の後継者に断じてさせないと決意したのは、それからだ…」


 平造は、怒りで、震えながら、言った。


 「…そんな愚劣極まる卑怯なやり方をする人間に、断じて、米倉の家を継がせるわけにはいかない…」


 平造は、ぶちまける。


 私は、平造の怒りを目の当たりにして、なぜ、平造が、米倉と水野の合併を急いだのか、わかった気がした。


 失礼ながら、今、現在、私の隣に座る新造さんに、米倉を継がせることはできない…


 となると、好子さんに継がせるしかなくなる…


 好子さんに継がせるとなると、好子さんの婿選びが、重要になってくる…


 誰が、米倉好子の婿になり、米倉を継ぐのかという問題だ…


 その中で、平造は、あの水野を選んだということだろう…


 あのおちゃらけた水野透(とおる)を選んだということだろう…


 なにより、水野には、金がある…


 米倉以上の、お金持ちだ…


 仮に、水野透(とおる)が、一般人ならば、好子さんの婿には選ばないに違いない…


 まだ三十半ばの若造に、経営者としての才能があるのかどうかはわからないからだ…


 米倉を継ぐ能力があるかどうか、わからないからだ…


 しかし、水野が、お金を持っていると考えれば、違ってくる…


 お金持ちならば、当然、違ってくる…


 当たり前のことだ…


 少なくとも、米倉は水野といっしょになることで、これまでの2倍は優に財産が増えるだろう…


 米倉と水野が、存続できるか否かは、ともかく、普通に考えれば、米倉単独よりも、この先、企業が生き残る可能性は大きいし、米倉家も存続できる可能性が高い…


 そう判断したに違いない…


 賢明な判断だ…


 しかし、肝心の好子さんが、水野を嫌っているとしたら、問題だ…


 人間はモノではない…


 感情がある…


 現に、この米倉平造自身が、米倉の遠縁の身ながら、本家の米倉家のお嬢様と結婚したが、ウマが合わずに離婚したと、今、告白した…


 平造自身が、身をもって、それを体験しているということだ…


 いかに、条件が合致しようと、当人同士がその気がなければ、結婚させることはできない…


 仮に、結婚したとしても、自分のように、離婚するのは、時間の問題だ…


 平造は、それがわかっている…


 にも、かかわらず、自分の娘を、水野に嫁がせようとしている…


 これは、平造のわがままなのか?


 それとも、自分以上のお金持ちと結婚させることで、自分の娘の将来を考えた上での、親心なのか?


 わからない…


 ただ、米倉と水野双方にとって、最良の選択であることは、明らかだ…


 そして、その選択に間違いはない…


 ただ、当人同士が、その気がなければ、結婚がうまくゆくはずがない…


 私は、米倉平造の話を訊きながら、考えた…



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