恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 6
…探偵ごっこか?…
私は自宅に戻り、一人でお風呂に入って、湯船に浸かりながら、考えた。
…思わぬ展開になった…
私は考える。
…まさかお見合いに行ったつもりが、こんな展開になるとは、思わなかった…
今回の見合いは、両親にも、内緒だった…
33にもなった娘が、お見合いをすると、告白すると、両親がどういう対応をするか、目に見えてるからだ…
歓迎はすると思うが、それが強制に代わるのは、困る。
下手をすれば、なにがなんでも、結婚しなさいと言われでもしたら、困る。
そう考えたから、両親にも内緒だった。
実は、溝口に、高見さん一人で、来てくれと言われたのは、好都合だった…
見合いとなれば、両親も同席する…
実のところ、両親も見合いの経験はなく、初めてのことだから、同席するのは、嫌がるに決まっている。
まして、そこまでして、今回の米倉のように、イケメンの御曹司が見合い相手として、やって来たりしたら、即結婚を進めるのは、目に見えてる…
あまりにも、条件が良すぎるからだ…
中小企業の御曹司で、イケメン…
断る理由が見つからない(笑)…
だが、見合いをした、私、高見ちづるとしては、もう少し、様子を見てみたい…
それが偽らざる本音だった…
もっとも、今回は、お見合いは隠れ蓑…
米倉の会社の不正をした人間が誰か突き止める探偵ごっこ…
それが、わかった時点で、肩の力がスーッと抜けた(笑)…
…要するに、これはお見合いではない!…
…探偵ごっこ…
米倉の恋人のフリをして、米倉の実家に入り込むに過ぎない…
本当ならば、こんな推理小説じみた真似をするのは、嫌だったが、米倉の、
「…いっしょに、遊びませんか?…」
と、いう言葉に惹かれた…
同時に、米倉が、
「…日常生活が、退屈だ…」
と、言った言葉にも、共感した。
これは、私自身が、日々感じていること…
月並みなセリフだが、もっと日常生活に刺激が欲しかった…
それが、この探偵ごっこで、些か、日常生活に刺激が感じる…
そう思った。
それが、今回、探偵ごっこを受け入れた理由…
私は考える。
恋をしたいと、最近、思い出したのも、それが原因だろう…
毎日が退屈なのだ…
33にもなった、もうすぐ中年になろうとする女が、こんなことを言うのは、おかしいが、毎日に張り合いが欲しくなった…
それが、恋愛や結婚ということだろう…
それまでとは、違う人生を送りたくなった…
結婚し、子供を産み、育てる…
これまでとは、違う毎日を過ごすことは、明らかだ…
そう思いながら、自分の肌を見た。
若い頃から、比べると、だいぶ、肌の張りがなくなったことに、気付く。
私、高見ちづるは、155㎝と小柄で、痩せているので、胸も大きくなく、ふんわりと盛り上がった程度…
だから、33になった今も、胸が垂れるという心配はない…
しかしながら、それでも二十歳の頃に比べて、だいぶ、歳をとったことは、お風呂で、裸になった自分のカラダを見れば、わかる…
私のカラダは、変な言い方だが、少年のようだ…
小柄で、胸もあまりないからだ…
学生時代、仲の良かった友人が、長身で、胸もお尻も大きく、まさにビキニが似合う女だった…
またカラダだけでなく、ルックスも性格も、頭も良かった…
私が男ならば、彼女のような女と結婚したいとつくづく思ったものだ…
ところが、その彼女は、私に憧れていたらしい…
要するに、私、高見ちづるは小柄で、女らしいからと言っていた…
これには、唖然とした。
私としては、今、この場で、水着コンテストを開催しても、優勝できる実力の持ち主である、彼女が羨ましかった…
やはり、女に生まれたのだから、ビキニの似合う女になりたいと、思った年頃でもあった…
まさか、その彼女が私みたいになりたいとは…
つくづくないものねだりだと思った。
誰もが、自分にないものを欲しがる。
小柄な私は、長身のビキニの似合うカラダを…
長身のビキニの似合う彼女は、小柄で、かわいらしい私のカラダを欲したのだ…
これは、笑える…
それを知ったとき、真っ先に、そう思った…
だが、だとしたら?
私はなぜ、米倉に惹かれるのか?
私は考える。
米倉がイケメンだからか?
それもある…
男女に限らず、結婚相手はルックスがいいに限る。
しかし、当然、それだけではない…
やはり、さっきも言ったように、
「…日常生活に退屈している…」
と、いう言葉に惹かれたし、共感したというのが、大きい…
三十を過ぎた女と、四十を過ぎた男が、見合いをして、初めての出会いで、小学生や中学生のように、出来もしない夢物語を真顔で、語られでもしたら、困る(笑)…
それをすれば、頭がおかしいとしか思えない(笑)…
そんな男は、こちらから願い下げだ…
米倉と再会したのは、週末の土曜日だった…
私が探偵ごっこを受ける電話をした翌日に、米倉から電話があった…
「…週末に、ボクの家に来てください…」
開口一番、米倉は電話の向こうから、そう言った…
「…今週末ですか? …随分早いんですね?…」
私は答える。
「…ええ…高見さんが探偵ごっこを受けてくれるのならば、早いに越したことはないと思いまして…」
「…そうですか…」
私は言いながら、随分早い展開だなと思った。
それが、わかったのだろう…
「…やっぱり、早過ぎますか?…」
と、小さく笑いながら、米倉が言う。
私は、
「…たしかに、早過ぎますね…」
と、答えると、
米倉は、
「…」
と、黙った。
「…ですが、どうせ始めるならば、早いに越したことはないでしょう…」
と、続けた。
すると、
「…ありがとうございます…」
という米倉の弾んだ声が聞こえてきた。
私は、その声を聞きながら、この声は、米倉の武器だと、直感した。
米倉の爽やかなルックスと、声の落差=つまり、嬉しいときと、落ち込んだときの、落差が激しい…
最初に、落ち込んだ声を聞かせ、次に嬉しい声を聞かせる…
その声の落差があまりにも大きいので、声だけで、相手を喜ばせることができる…
ある意味芝居がかっているが、それを感じさせない…
要するにあざとく見せないのだ…
私は、考える。
「…どこで、お会いしますか?…」
「…高見さんの会社の近くで会いましょう…」
米倉が提案する。
「…私の会社の近くですか?…」
私が、些か怪訝な感じで言った。
なぜ、会社の近くなのか、考えたのだ…
私の気持ちが、わかったのだろう…
「…高見さんの住所を聞いて、迎えに行くことは簡単です…」
米倉が言う。
「…ですが、それでは、ご両親に気づかれてしまうかもしれません…それでいいなら…」
私は、米倉の提案に、しばし、考え込んだ…
要するに、私の家に迎えに行くことは、私に男が出来たと、両親に知られる心配がある…
それでいいなら、と米倉は言っているのだ…
33にもなった女が、男と付き合うとなると、両親は手放しで喜ぶ可能性は大…
このまま結婚に一直線と考えるし、両親もそれを望む…
それがプレッシャーにならないのかと心配しているのだ…
「…ご心配をおかけして、申し訳ありません…」
私は言った。
言いながら、これは皮肉だなとも思った。
それがわかったのだろう…
「…皮肉に聞こえたのならば、申し訳ありません…」
と、米倉が詫びた。
「…いえ、色々心配して頂き、ありがとうございます…」
私はなおも皮肉を言った。
自分でも気づかないうちに、口に出た。
…これだから、この歳まで、結婚できなかったのかもしれない…
とっさに、私は思った。
「…米倉さんのおっしゃるようにします…」
私は続ける。
従順な女を演じていると、我ながら、思った(笑)…
土曜日に、私が会社の近くで、待っていると、米倉がクルマに乗ってやって来た。
私の姿を見つけ、クラクションを鳴らしたのだ…
私はその米倉のクルマを見て、驚いた。
クラシックカーというか、見たことのないクルマだった…
真っ黒なレトロっぽいクルマ…
米倉が窓を開け、
「…高見さん、迎えに来ました…」
と、声をかけた。
私は唖然としながら、
「…米倉さん…このクルマは一体?…」
「…面白いクルマでしょ?…」
米倉が、自慢げに言う。
その表情は、子供のように、楽しそうだ…
「…光岡という会社のクルマです…」
「…ミツオカ? …ですか?…」
「…ハイ…恋愛は非日常…それに対して、クルマに乗るのは日常ですが、ボクは、それを恋愛のように、非日常に変えたいんです…だから、他人が乗らないような、一風変わったクルマに乗ってます…」
米倉が説明する。
「…かといって、金はかけたくない…会社に行って、従業員から、やっぱり、アイツは苦労知らずのボンボンだからと陰口を叩かれるのは、困る…だから、実は、このクルマは、そんなに高くないんです…でも、やはり非日常を演じたい…それが、このミツオカです…」
私は、米倉の説明を、
「…」
と、黙って聞いていた。
どう返答していいか、わからなかったからだ…
私の沈黙を、米倉が、どう受け取ったか、わからない…
「…要するに、天邪鬼なんですよ…」
米倉が、笑って告白した。
「…金はかけたくないが、他人とは違ったクルマに乗りたい…ぶっちゃけ、それが本音です…要するに目立ちたいんですよ…」
と言って、笑った…
「…だって、誰もが、他人と同じでは嫌でしょ?…」
米倉が笑いながら、私に語りかける。
私は、
「…それは、ときと場合によるのでは…」
と、答えた。
「…ときと場合?…」
「…そうです…例えば、大学生の就職活動では、黒のリクルートスーツを着るのが、お約束です…それをしない大学生はいない…でも、私生活は別です…他人にアレコレ指図されない…だから…」
私が言うと、
「…高見さんのおっしゃることはわかります…」
と、答える。
些か不機嫌そうだった…
「…乗って下さい…」
助手席のドアを開けた。
私はクルマに乗った。
同時に、この米倉という男が、以外にも、少々のことで不機嫌になる人物であることが、わかった…
…おそらくは、生まれつきのお坊ちゃまなのだろう…
私に反論されて、それが面白くないのだ…
そして、それが、クルマに関してのことだからかもしれない…
米倉はおそらくクルマ好き…
その好きなクルマに関して、イチャモンをつけられたから、腹が立っているのだ…
誰もが、自分の好きなことに、イチャモンをつけられでもしたら、いい気はしない…
そういうことだろう…
いずれにしろ、この前は、気付かなかった…
やはり、一度会っただけでは、相手のことはわからない…
「…では、今日はよろしくお願いします…」
米倉が言って、クルマを走らせた。
私は、クルマのシートにカラダをもたせながら、考えた。
…やはり、この依頼は受けるべきではなかったのかもしれない…
そんなことを考えた。
…この先、お坊ちゃまの機嫌を取るのは、大変だと気付いたのだ…
米倉の家に着くまでは、とりとめのないおしゃべりを時々したが、前回、初めて会ったときのようには、盛り上がらなかった…
やはり、一回や二回会っただけでは、中身はわからない…
つくづく思った…
米倉もまた、そう感じたのだろう…
どこかしら、不機嫌だった…
はっきり言えば、同じクルマに乗る、私と米倉の間に流れる空気が微妙だったのだ…
なんとなく重たかった…
米倉が、
「…着きました…」
と、言ったとき、私はホッとした…
米倉と二人だけでは、いたたまれなかったのだ…
だが、私がクルマから、降りたとき、そんな気持ちも吹き飛んだ…
私が、クルマから降りると、そこは、まさに豪邸だった…
お屋敷という言葉がふさわしい家だった…
大きな広い庭に、大きな木が幾本もあり、さながら小さな森のようだ…
家もまた、お屋敷と呼べるような、立派な家だった…
「…凄い家ですね…」
私は感嘆しながら、言った。
まさに、溜め息をつくような豪邸…
一体、どんな人間が、こんなお屋敷に住んでいるのかと、考える。
誰が見ても、成功者の家…
私はそのお屋敷の大きさに圧倒されながらも、ふと溝口を思い出した。
溝口が、米倉のことを、名前を避けながらも、お金持ちであることを、匂わせた。
ある意味、私もまた、それに惹かれて、見合いをした事実がある。
つまり、溝口がウソを言う訳がないのだ…
ウソを言っても、すぐにバレる。
なにより、私にウソを言えば、いずれ、私が、溝口に騙されたと、会社の同僚にこぼすのは目に見えている。
それでは、溝口の信用が落ちる。
だから、ウソを言う訳はないのだ…
私は今さらながら、考えた。
「…凄い家でしょう?…」
私が米倉の家の大きさに、圧倒されているのに気付いて、からかうように言った。
「…ハイ…」
私は素直に頷いた。
「…維持費が大変です…税金もそうですし、相続税のことを考えると、今から気が重いです…」
米倉が漏らす。
「…随分、現実的なんですね…」
私は言った。
「…シンデレラはお城に招かれて、お城の大きさに圧倒されますが、お城に住む人間は、お城の維持費とか、お城の人間関係に悩まされてます…それが現実です…」
「…シンデレラ?…」
危うく、声を上げそうになった…
私のことをシンデレラに例えたのだろうか?
いや、違う…
この家にやって来て、この家を見て、この家に圧倒された人間、すべてを言っているのだろう…
いや、これも違う。
おそらくは、この家に私同様、米倉と結婚を夢見る女に対しての、米倉の辛辣な皮肉かもしれない…
要するに、一般人は金持ちに憧れるが、金持ちは金持ちで、悩みがあるのだと言いたいのだろう…
私は考えた。
「…さあ、中に入りましょう…家族に紹介します…」
米倉は私の手を取って、玄関に向かった。




