恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 54
「…それで、私に用事というのは?…」
私は核心をつく。
わざわざ、水野の父親が、私を待ち伏せていたわけを、知りたかった。
「…好子ちゃんです…」
「…好子さん?…」
…どういうことだろう?…
私は考える。
「…好子ちゃんが、透との結婚を、どう思うのか、知りたいのです…」
眼前の水野の父親が言う。
私は、一瞬、考えた。
…たしか、以前、好子さんに、水野との婚約について、訊いたことがある…
…そのとき、好子さんは、
「…ないわ…」
と、あっさり否定した。
私はそれを思い出した。
だが、それを眼前の水野の父に言っていいものかどうか?
悩む。
私が、どうしようか、躊躇していると、水野の父が、
「…高見さん…なにか、知っていることがあったら、教えて下さい…」
と、私に頭を下げた。
その真摯な態度に、私の心がほぐれたというか…
思っていることを話すことにした。
「…好子さんは、水野さんとの婚約報道の真偽を尋ねると、ないわ、と、即座に否定しました…」
私は言った。
私の言葉に、水野の父はうなだれた…
「…そうですか?…」
落ち込んで、言う。
しかし、次に水野の父から漏れた言葉は、意外なものだった…
「…やはり、そうでしたか?…」
「…やはり…ですか?…」
私は訊く。
水野の父は、苦笑した。
「…透と、好子ちゃんは、水と油とまでは、言わないが、昔から気が合わなかった…」
水野の父は、告白する。
私はその言葉を聞いて、
「…でも、これも、なかなかうまくいかないものです…」
という、さっきの言葉を思い出した。
あの言葉は、水野と好子さんの結婚がうまくいかないと、最初から思っての言葉ではないのか?
私は考える。
「…水野と米倉の合併の象徴として、あの二人が結婚することが、最善だと、思って、平造も私も根回しというか、動きました…好子ちゃんが、正造君の排除に動いて、透に、相談を持ち掛けたと訊いたから、てっきり、うまくいくと思っていたんだが…」
水野の父親が告白する。
「…ということは、やはり…あの好子さんの密会を不倫だと、マスコミに流したのは、正造さんですか?…」
「…そうだと思います…」
水野の父が断言する。
「…正造君は、当然のことながら、水野と米倉の合併に反対でしょう…なぜなら、合併すれば、彼の居場所はなくなることは、明白ですから…」
「…」
「…だから、マスコミを使って、好子ちゃんと透との密会を不倫と偽って、流した…米倉と水野のイメージダウンを狙ったんです…そうすることで、米倉と水野の合併を潰そうとした…」
「…証拠は…証拠はあるんですか?…」
「…ありますよ…私も平造も、マスコミに知り合いはいます…その線から、情報が流れてくる…」
あっさりと、水野の父は言った。
「…そのことは、正造さんは?…」
「…当然、気付いているでしょう…彼もバカじゃない…」
「…だから、私も平造も、好子ちゃんと透の密会が不倫と流れた直後に、米倉と水野の合併を発表して、その後、好子ちゃんと透の婚約報道を流した…そうすれば、不倫のイメージを払拭できるし、なにより、米倉と水野の合併のために、二人が密会したと、世間にアピールできる…」
「…でも、その婚約報道を好子さんと水野さんには、知らせなかった…」
「…ハイ…その通りです…」
そう言って、水野の父親はうなだれた。
…それで、好子さんは、即座に、婚約を否定したわけだ…
私は思った。
だが、だとしたら、どうなのだろう?
好子さんは、即座に、水野との婚約を否定した…
ならば、水野はどうだ?
好子さんが、嫌いではないのではないか?
私は閃いた。
さっき、好子さんと水野は、水と油と、眼前の水野の父親は言ったが、お互いが、そんなに嫌いならば、両家の父親が、二人を婚約させようとしないのではないか?
私は思った。
「…でも、私の勘ですが、水野さんは、好子さんが、嫌いではないのでしょ?…」
私は訊いた。
私の言葉に、水野の父親が驚いた様子だった…
「…高見さん…どうして、そう思うんですか?…」
「…だって、お互いが、心底嫌っていれば、どちらの親も、二人を結婚させようとは、思わないでしょう…好子さんが、水野さんを嫌っていても、水野さんは、好子さんを嫌ってないんじゃないでしょうか?…」
「…高見さんの言う通りです…」
水野の父親が言った。
「…透は、好子ちゃんのことを、それほど嫌っているわけではありませんが、好子ちゃんが…」
そう言うと、後は言葉を飲み込んだ…
それで、米倉と水野の双方が、好子さんと、水野を結婚させようとしているわけがわかった…
まったく、二人に、脈がなければ、いかに、米倉と水野がオーナーを務める会社が合併しようと、双方の子供たちを結婚させようとは、思わないに違いない…
別の言い方をすれば、ずばり脈はあると、判断したということだ。
「…たしかに、透と、好子ちゃんは、お世辞にも仲が良いとはいえなかった…しかし、仲が良くないというのは、別の見方をすれば、互いが意識している証拠…心底、お互いが、毛嫌いしていれば、顔を見るのも嫌なはずです…そして、なにより、今回、好子ちゃんが、透に相談を持ち掛けたことで、二人の間が、昔より縮まってる…そう思った…正造君が、二人の密会を、不倫と偽って、世間に流したことで、米倉と水野の合併のイメージダウンになる…だから、急いで、二人の婚約報道を流した…正造君のウソを逆手に取ったんです…」
水野の父親が、熱く語った。
私はそれを訊きながら、失礼ながら、それは、水野の父親と米倉平造の思い過ごしでは? と、考えた。
穿った見方だが、単純に好子さんが、水野の力を借りようとしている。
あるいは、利用しようとしているに、過ぎないのではないか?
私は、そう思った。
女は男より、現実的というか、打算的な場合が多い…
水野は、米倉よりも、遥かに長い歴史が、あり、規模も大きな名門だと、好子さんは、以前、私に説明した。
だから、その力を借りて、米倉正造を排除しようとしたに過ぎないのではないか?
私は、そう言いたかった…
が、それも口にするのは、はばかれる。
水野も米倉も、双方の父親が、自分に都合のいいように解釈しているに、過ぎないのではないか?
そう言いたかった。
しかし、さすがに、それを口に出すことはできない…
代わりに、
「…どうして、好子さんは、正造さんをあそこまで、嫌うようになったんでしょうか?…」
と、口にした。
実は、それが、疑問だった…
いくら、自分の父親から、実は、正造さんは、好子さんとは、血が繋がってないと、告白されても、急に掌を返すように、あの豪邸から追い出すような真似は、普通できない…
なにより、好子さんは、正造さんを慕っていたはずだ…
「…それは、わかりません…」
水野の父は、首を横に振った。
「…ベクトルは変換したが、絶対値は変わらなかった…」
突然、水野の父が呟く。
「…どういう意味でしょうか?…」
「…要するに、正造君に対する愛情が、憎しみに変わった…だけど、その愛情というか、憎しみというか、その感情の大きさは変わらない…好きが嫌いになった…ただ、その好きが大きすぎるあまり、嫌いもまたただ嫌いというわけじゃなく、絶対嫌いというか…」
たしかに、うまい説明だが、どうして、好子さんが、正造をそこまで、嫌うようになったのかの説明にはなってない…
母親が違えど、兄妹と思っていたが、実は血が繋がってなかった…
それが、突然、わかったとしても、普通そこまで嫌うだろうか?
謎がある。
私は考える。
「…高見さんに、一つ、お願いがあるのですが?…」
「…なんでしょうか?…」
「…好子ちゃんが、なぜ、透を嫌うのか、聞いてもらえないでしょうか?…」
「…私が…ですか?…」
あまりに、突然の要望だった。
「…ですが、好子さんは、今意識不明で…」
「…それは、わかってます…だから、意識が回復してからでいいんです…いや、意識を回復するまでは、新造君に訊いてもらいたい…」
「…新造さんに?…」
「…好子ちゃんと新造君は、昔から仲がいい…新造君ならば、なにか知ってるかもしれない…それに…」
「…なんでしょうか?…」
「…平造から訊いたんですが、新造君は、高見さんが好きらしい…その高見さんになら、話してくれるかもしれない…」
水野の父が言う。
私は唖然とした。
まさか、そうくるとは、思わなかった…
「…高見さん…この通り…お願いします…頼まれてくれませんか?…」
水野の父は私に頭を下げる。
まさか、私の父親と同世代の人間に頭を下げられて、嫌とはいえなかった…
しかも、水野は、名門…
名家だ…
そんな、上級国民に頭を下げられては、断ることはできなかった…
「…わかりました…頭を上げて下さい…」
私は言った。
「…できるだけ、ご期待に沿うよう、頑張ってみます…」
いつのまにか、会社の上司に言うように、答える自分が、いた(笑)…
おかしな話になったものだ(笑)…
自分でも、自分を見て、笑えてくる。
なにより、本当は、この眼前の水野の息子に私が、恋していた。
実は、私が今もっとも気になるのは、水野…
あの水野だ…
背の高い、おちゃらけたピエロのような男…
だが、その実、したたかな食わせ者…
あの米倉正造と同じく、謎があるというか、闇が深いというか…
とにかく、気になる男であることは、間違いない…
私はそれを思った。
そんな私の態度に気付いたのかもしれない…
「…高見さんは、好子ちゃんに似ている…」
いきなり、水野の父親が言った。
私は、
「…」
と、無言で、水野の父を見た。
「…いや、顔立ちは、違うが、小柄で、清楚な雰囲気といい、よく似ている…なにより、美人だ…」
「…ありがとうございます…」
私は礼を言った。
が、この水野の父の評価は、私自身気付いている…
っていうか、誰が見ても、同じことを言うに違いない(笑)…
私、高見ちづると米倉好子は、顔立ちは、違うが、全体のイメージがそっくり…
何度も言うように、女優の常盤貴子を小柄にしたイメージだ…
ただ、顔を見ると、私と好子さんは、似ているわけではない…
一つ一つの造作というか、作りは違う…
ただし、全体のイメージは同じ…
要するに、自分で言うのもなんだが、小柄で、清楚でおとなしい美人の女…
男女とも誰もが、好感を持つに違いない外見だ…
ただし、これも何度も言うが、外見だけ…
中身は違う(笑)…
私も好子さんも、中身は違う(笑)…
好子さんは、少し接しただけだが、そのおとなしそうな外見とは違って、気が強かった…
鼻っ柱というか、少々どころか、かなり気が強い…
美人で、しかもお金持ちのお嬢様だから、ある意味、当然…
当たり前だ(笑)…
私もそう…
私、高見ちづるも、かなり気が強い(笑)…
好子さんと違って、お金持ちではないが、美人に生まれたからかもしれない…
っていうか、なまじ美人に生まれると、他人様よりも、風当たりが強い場面に遭遇することが多い…
要するに、嫉妬だ…
同性の妬みだ…
また異性からのセクハラというか、学生時代に限って言えば、私を狙ってくる男は多かった…
危険な目に遭ったのも、一度や二度ではない…
いかに、恨みつらみというか、遺恨を残さず、男からのアプローチをやり過ごすか?
これが、最大の課題だった(笑)…
ルックスの平凡な人間にとっては、自慢に聞こえるかもしれないが、実情は、大変の一言だった…
そんなことに、揉まれることで、私は気が強くなった…
気が強くならなければ、生きてゆけなかった…
男は強くなければ、生きれない…
やさしくなければ、生きる資格がない…
という言葉があるが、美人に限っていえば、気が強くなければ、美人はやってられないということだ(笑)…
私レベルで、これなのだから、お金持ちの米倉好子さんの苦労は如何ばかりかと…
好子さんが、気が強くなるのは、わかる…
さらに言えば、あの佐々木希を思う…
あの長身で、あの美貌…
私など、足元にも及ばない…
だから、佐々木希がヤンキーであることは、わかる(笑)…
おとなしくしていれば、真っ先にイジメに遭う…
同性が嫉妬する美貌の持ち主だからだ…
実際は、佐々木希が美人だから、ヤンキーになったとまではいえないが、おとなしくしていれば、同性に嫉妬されるのは、誰の目にも、明らかな美貌の主だった…
まあ、ヤンキーになったのは、元々の性格が大きいだろう(笑)…
私は、そんなことを考えていると、眼前の水野の父親が、ジッと私を見つめていることに気付いた。
「…どうしました? …私の顔になにか付いてますか?…」
「…いえ、息子が…透が、高見さんに惹かれるのは、わかると…」
「…私に惹かれる?…」
あまりに意外な言葉だった…
「…さっきも言いましたが、透は、好子ちゃんが、好きだと思います…だから、こう言っては、失礼ですが、好子ちゃんに似た、高見さんを、透が嫌いなわけはない…」
私は、水野の父の言い分に愕然とする。
…言われてみれば、その通り…
…まさに、その通りだった…
おそらくは、水野は、単純に、好子さんを好きなのかもしれない…
長身の水野が、小柄な好子さんを好きなのは、わかる…
自分にないものを、持っているからだ…
だとすれば、米倉好子さんと同じタイプの私、高見ちづるを、水野が嫌いなワケはない…
私は今さらながら、その事実に気付いた…
なにより、さっきも言ったが、水野と好子さんが、お互いが嫌いあっていれば、双方の父親が、結婚させようとは思うまい…
少なくとも、一方は、好いている…
だから、もう一方も相手を好きになれば、良い…
そう考えたに違いない…
私は考える。
「…高見さんは、好子ちゃんと似ている…だから、新造君も、高見さんを好きなのかもしれない…新造君にとって、高見さんは、好子ちゃんを見ているように、安心できる存在なのかもしれない…新造君と好子ちゃんは仲がいいから…」
水野の父が言った。
その言葉で、私は気付いた…
それでは、まるで、私は、好子さんの代わり…
私、高見ちづるは、米倉好子の代わりではないか?
水野も新造も、私が米倉好子に似ているから、好いている…
私はその事実に気付いたというか、気付かされた…
あまりに、残酷な現実だった(涙)…




