↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ  作者: トモサン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
52/100

恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 52

昨夜、米倉新造から電話があって、一夜が明けた。


 私も好子さんの見舞いに駆け付けようとも、思ったが、仕事がある。


 休日にならなければ、好子さんのいる病院を訪ねることはできなかった…


 また、好子さんは、意識不明…


 急いで駆け付けたところで、肝心の見舞いの相手が、意識がなければ、行ったところで、好子さんと話すことはできない…


 せいぜいが、病室に駆け付けたと、周囲にアピールするだけだ…


 実際のところ、そのようにアピールする人間は多いに違いない…


 米倉好子はお金持ちのお嬢様…


 すると、そのお金に魅せられてというか、その権力というか、影響力に魅せられて、周囲にひとが集まる。


 具体的に言えば、トヨタ社長の豊田章男氏が入院すれば、真っ先に駆けつけて、忠誠心を見せるわけだ(笑)…


 それと同じことが起こる…


 あるいは、それがわかっているから、本当は、自殺未遂のところを、あえて、自殺と報道したのかとも、思った。


 勘ぐった…


 邪推した。


 私のような一般人が、お金持ちの思考というか、行動形態を捉えることはできない…


 想像するだけだ…


 だから、邪推になる(笑)


 しかしながら、好子さんの自殺報道を見る限り、自殺が誤りとわかっても、すぐに訂正する必要はないと考えたのではないか?


 生きていて、どこそこの病院に入院して、ということが、マスコミに知れ渡れば、ひとが殺到する。


 それならば、内々にでも、親しい人間だけに、自殺報道が誤りであることを、告げればいいのではないか?


 そう思ったのではないか?


 私は考えた。


 だが、今度の報道で、米倉と水野との合併に水を差すことになったことに、間違いはない…


 好子さんは、水野との結婚に消極的だった…


 まさか、水野との婚約が、好子さんの自殺を誘発したとは、考えにくいが、その可能性はないともいえない…


 ずばり、ある…


 だが、そうだとしたら、この後、水野と米倉の合併はどうなるのだろう…


 私は思った。


 そして、思いながらも、いつものように出社した。


 会社=金崎実業は、いつもの通りだった…


 大昭和との吸収合併の件が、報じられたが、あれ以来、目立った動きがない…


 あのときは、私を大昭和の部長である溝口の元へ、派遣して、実情を探ろうと、てんやわんやだった…


 しかし、大山鳴動して鼠一匹というか、結局のところ、合併は、保留になってしまった…


 要するに、米倉に代わって、大昭和の大株主になった水野の了承が取れず、保留になった…


 その件で、溝口もまた出世の道が、閉ざされ、その会社員生命は風前の灯火(ともしび)だった…


 溝口は、金崎実業を合併する、いわば、先兵として、動いたが、溝口に、その役割を命じた上官というか、取締役が、水野の逆鱗に触れたわけだ…


 溝口が言うには、近々、臨時の取締役会議が開かれ、溝口に金崎実業の合併を命じた取締役は更迭されると言っていた…


 そして、自分の直属の上司が更迭されることで、溝口の会社員生命も風前の灯火になった…


 出世の道は完全に閉ざされた…


 これは、誰のも目にも明らか…


 しかし、あれ以来、溝口に会っていないので、その後の経過はわからない…


 あるいは、溝口の甥である、新入社員の中村君に訊けば、いいのかもしれないが、正直、訊きづらい(笑)…


 なにより、今週は、中村君は、新人研修で、職場にいなかった…


 だから、今は、訊きようがない…


 私は、考える。


 そして、一時よりも、職場に落ち着いた空気が戻った…


 金崎実業と大昭和の合併が、テレビや新聞で報じられたときは、職場の誰もが、浮足立ったが、今は、それはなくなった…


 あるいは、極秘というか、隠密裏に、転職の道を探している、職場の同僚もいるに違いないが、それは、公然の秘密というか、仮に、知っていても、それを話題にする人間はいなかった…


 少なくとも、職場の雰囲気は平穏に戻った…


 私は、いつものように、平凡な日々を送ることになる。


 そう考えていた。


 だから、仕事の合間に、週末には、新造さんに訊いて、好子さんのいる病院に見舞いに行くかどうか、考えた。


 好子さんは、意識不明…


 行ったところで、好子さんに会えるわけではない…


 だが、やはり、それを知って、見舞いに行かないのもどうかとも思った…


 しかし、私が行くことで、好子さんというか、米倉に迷惑がかかるのは、困る。


 行くべきか?


 行かないべきか?


 私はハムレットのように悩んだ…


 すると、隣の席の内山さんが、


 「…高見さん…」


 と、声をかけた。


 「…なに? 内山さん…」


 「…悩んでますね?…」


 私を見て、ニヤッと意味ありげに笑った。


 私は内山さんのその笑いを見て、


 …なんのことだろう?…


 と、内心、思った。


 「…高見さん…とぼけちゃって…」


 内山さんが、笑う。


 「…とぼける? …なんのこと?…」


 「…水野ですよ…水野…」


 「…水野さん…」


 すっかり、忘れていた。


 米倉好子の自殺騒動で、私の脳裏からスッカリ抜け落ちたといえば、ウソになるが、少なくとも、今、この瞬間は、水野のことは、丸っきり頭の隅にもなかった…


 「…高見ちづる…失恋の痛手から、ようやく、立ち直りつつありますね…」


 「…そんな失恋なんて…」


 言いながら、しかし、それが、事実だと思った…


 事実、内山さんの言う通り、失恋だった。


 高見ちづる、33歳にして、初めて、男のひとを好きになって、振られた…


 それは、事実…


 否定しようのない事実だった…


 だが、それを内山さんに、言われるとは、思わなかった…


 しかし、同時に、内山さんに言われても、全然嫌じゃなかった…


 内山さんの人徳というか、普通ならば、嫌みに聞こえることも、内山さんが、言うと、全然嫌みに聞こえない…


 つくづく得な人間というか…


 恵まれた才能を持つ人間だと思う。


 嫌みが嫌みに聞こえない…


 稀有な人間だ…


 私は、思った。


 と、同時に、やはり米倉好子の自殺報道で、水野のことが、頭の中から、すっぽり抜けたことが大きい…


 まさか、自分の知った人間が、自殺したショックは大きかった…


 正確には、自殺未遂だが、ショックが大きいのは、変わらない…


 それと、なにより、米倉好子が、大金持ちのお嬢様で、その自殺報道が、テレビや新聞、そして、ネットで、報道された事実が大きかった…


 ある意味、有名人…


 普通は、知り合う機会のない人間だ…


 そんな有名人と、私が知り合い、その有名人が自殺未遂を起こして、テレビや新聞で、報道される…


 ありえない事態だった…


 だから、そのショックが、私の脳裏の大半を占め、水野のことは、忘れたとまではいわないが、小さくなった…


 私の中で、小さくなった…


 おそらく、もう二度と、水野と再会することは、ないだろう…


 あのとき、水野は、


 「…グッバイ…美人の当たり屋さん…」


 と、言った。


 あれが、今生の別れといえば、大げさだが、二度と会うことのない永遠の別れだと思った。


 少なくとも、水野は、そう考えたはずだ…


 そして、それは、私も同じだった…


 もう二度と再会することは、ないだろう…


 少なくとも、水野が、この職場にやって来ることは、ないに違いない…


 水野自身、目的は、済んだと言っていた。


 その目的とは、ずばり、金崎実業の職場の雰囲気を探ること…


 米倉から、米倉奉公会の株を、水野が買い取った…


 米倉奉公会は、大昭和の大株主…


 その大昭和は、金崎実業の買収を画策している…


 ならば、その金崎実業とは、どんな会社なのか、実際に、接して、知ろうとしたのが、水野が、私の職場にやって来た理由…


 そして、おそらくは、米倉正造から、私のことを聞いていたに違いない…


 それで、私を直(じか)に見ることと、金崎実業の職場の雰囲気を知るために、この営業所にやって来た…


 それが、事実…


 そして、その目的を果たした…


 だから、もう二度と会うことはない…


 そういうことだ…


 私は反芻する。


 「…しかし、水野さんも罪作りな男ですね…」


 内山さんが、言ったことで、私は、考えを中断した。


 「…罪作りって?…」


 「…だって、高見さんのような美人に好かれてるのに、顔を見せないなんて…」


 「…きっと、水野さんは、私よりも、もっと美人で、お金持ちのお嬢様と結婚するのよ…」


 思わず、そんな言葉が、私の口を突いて、出た。


 米倉好子のことが、脳裏に思い浮かんだのだ…


 事実、水野は、米倉好子と婚約する手筈になってるはず…


 が、好子は自殺未遂を起こした。


 もしかしたら、好子の自殺未遂は、水野との婚約が、原因の可能性がある。


 なぜなら、好子は、水野との結婚を嫌っていた…


 だから、自殺未遂の原因と特定はできないが、いくつかの原因の一つとなっている可能性は高い…


 誰もが、自殺未遂にまで追い込まれる原因は、一つではなく、いくつかの原因が、混じりあってるものだからだ…


 そして、決め手というか、ダメ押しが、水野との婚約だった可能性が高い…


 私は思った。


 しかし、それを、今、内山さんに言っても仕方がない…


 なにより、内山さんは、米倉を知らない…


 水野は知っているが、水野が水野財閥の後継者であることは知らない…


 それらを内山さんに話すことはできないし、話したところで、信じてもらえるかどうかも怪しいところだ…


 「…高見さん…夢でも見ているのでは?…」


 と、言い返させられでもしたら、反論できない…


 だから、なにも言わないに限る。


 「…高見さん…そこまで言わなくても…」


 内山さんが言った。


 「…どういうこと?…」


 「…だって、自分がフラれたからって、そんな皮肉…」


 私は、内山さんの言葉に唖然とした。


 私は事実を口にしたのだが、事情を知らない内山さんは、それを皮肉と受け取った…


 まさか…


 そんな…


 私は、考える。


 同時に言葉の恐ろしさを思った。


 内山さんが言うように、事情をなにも知らなければ、私が、水野さんのことを皮肉ったと捉えてもおかしくはない…


 つくづく、なにをどう言えばいいのか、難しい…


 自分が、言ったことを、他人がどう受け取るか、わからない…


 私は水野との婚約を噂される美人の米倉好子を脳裏に浮かべて、

 

 「…きっと、水野さんは、私よりも、もっと美人で、お金持ちのお嬢様と結婚するのよ…」


 と、言ったが、当然、内山さんは、好子さんを知らない…


 だから、一般論を私が言ったと思ったに違いない…


 そして、この場合は一般論=皮肉を言ったに違いないと思ったのだろう…


 私は考える。


 しかし、同時に気付いた。


 なぜ、内山さんは、私が水野にフラれたのを知っているのだろうということだ…


 私は確かに水野にフラれた。


 これは、間違いない…


 だが、それを、内山さんが知るはずがない…


 単純に、私の様子から見て、フラれたと判断したのか、それとも、内山さんが、まさか、水野と繋がってるのか?


 まさか…


 そんなことはないと思うが…


 私は思った。


 「…どうしました? 高見さん…急に黙っちゃって…」


 私は、悩んだが、


 「…内山さん、私がどうして、失恋したのを知ってるの?…」


 と、直球で、訊いた。


 「…そんな…簡単ですよ…」


 「…簡単?…」


 「…高見さんの態度を見れば、一目瞭然ですよ…すごく悩んで見えますよ…だから…」


 …そうか!…


 …そういうことか!…


 私が、好子さんの自殺未遂の件で、悩んでいることを、内山さんは、失恋と見たということか?


 確かに、辻褄は合う…


 「…それに、もう水野さんは、全然、この営業所にやって来ないし…」


 ダメ出しだった…


 「…だから、もう二度と会えないと思って、高見さんは、落ち込んでいるわけでしょ?…」


 内山さんが、私に念を押すというか、確認する。


 「…ええ…そうね…」


 私は、頷いた。


 そう答えた方が、好都合だった…


 無理に、本当のことは、言わない方がいい…


 相手が、どう思おうと、それに任せた方がいい…


 そう判断した。


 「…しかし、惜しいですね…」


 「…なにが、惜しいの?…」


 「…実を言うと、私も水野さんを嫌いじゃなかったんですよ…」


 「…内山さんも?…」


 私は驚いた。


 「…いえ、別に、男として、どうかとか、そういう話じゃないですよ…ただ、水野さんが来ると、楽しいでしょ?…その水野さんが、やって来なくなっちゃったから、この営業所の女たちの落ち込みぶりは、見るも悲惨ですよ…」


 確かに、内山さんの言う通り、営業所の女のコ全員が、元気がなかった…


 「…あの水野さんは、エネルギーの源ですよ…」


 内山さんが、力を込めて、断言する。


 「…エネルギーの源なんて、随分大げさな表現ね…」


 「…それは、そうですけど…誰もが、いっしょにいて、楽しい人間なんて、滅多にいませんよ…あの水野さんが、この営業所にやって来ると、パッとその場が明るくなるような感じがあったでしょ?…」


 内山さんが、断言する。


 それは、間違いではなかった…


 誤りではなかった…


 水野は、エネルギーの源といえば、大げさだが、周りを明るくする力があったことは、確かだ…


 そこまで、考えて、ふと思った。


 その周りを明るくする力を持つ、水野と婚約を噂された、好子さんは、自殺未遂を起こした。


 そして、なにより、好子さんは、水野との結婚を嫌っていた…


 なぜ、そこまで、好子さんが、水野を毛嫌いするのか、わからない…


 もしかしたら、水野には、私が知らない裏の顔があるのかもしれない…


 現に、水野は、父親の愛人の子だと、好子さんは、言った。


 本当ならば、父親に認知されるか、どうかも微妙だったと…


 それが、本妻に、子供がいないから、急遽、認知され、養子縁組したと…


 それを考えれば、水野に裏の顔があるのは、よくわかる…


 誰もが、いつも、ひょうきんで、おちゃらけていられるわけがない…


 当然、別の顔がある。


 そして、そこまで、考えると、米倉正造と水野は、似ていることに気付いた。


 どちらも、出生の秘密といえば、大げさだが、そのイケメンな外観と、苦労したに違いない半生が似ている。


 最初から、金持ちだったわけではない点が似ている…


 いっしょだ…


 私は思った…


 同時に、


 …食わせ者…


 という言葉が脳裏に浮かんだ。


 米倉平造が、米倉正造を評して、言った言葉…


 おそらくは、その言葉は、文字通り、あの水野にも、当てはまる…


 だが、惹かれる…


 食わせ者とわかっていても、惹かれる…


 これもまた、米倉正造と同じ…


 人は、誰もが聖人君子に惹かれるわけではない…


 聖人君子に惹かれるならば、映画のゴッドファーザーは世界的にヒットしなかった…


 つまり、そういうことだ…


 米倉正造も、水野もマフィアではないが、魅力があった…


 男女を問わず、ひとを惹きつける魅力があった…


 明らかに、善人ではないにもかかわらず、女を夢中にさせる、なにかがあった(笑)…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。